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ゴミ屋敷からのSOS #1 高齢者の独居

入院してから、退院までが1カ月。入院している側にとっては長いと思うが、退院の準備を進める側としては短すぎる日程だった。だって、父が帰って来るはずの家はゴミ屋敷だったから。

「具合が悪いから病院に連れて行ってほしい」と父から電話があったのは9月のとある夜こと。出先で電話を受けたわたしは、車で実家に向かった。栄養ドリンク、ゼリー、父が好きなカレーパンを買って。

実家に着いたわたしを迎えてくれたのは、父。というか、ほんの1カ月前に一緒にお酒を飲んだ父ではなく、亡霊のような姿の老人だった。そう感じさせたのは、テレビの薄明りのせい…?

とにかく、父から「具合が悪い」という電話をもらったのが初めてで、わたしはパニックになっていた。テレビの薄明りを頼りにキッチンの食器を片付ける。やつれて見えたが、栄養ドリンクを勢いよく飲む父を見て、少しホッとした。

ひとまず、夜が明けたら朝一で病院に行くことを約束して、その日は帰路に着いた。


明くる日。実家で迎えてくれたのは、やはり亡霊のような姿の老人だった。太陽の光に照らされて、消えてしまいそうなほどにやつれている。昨日は”部屋が暗いせい?”と思っていたが、相当にやつれている。


そして、実家の異常に気付く。

部屋が汚い!!!!!

足の踏み場こそあるが、積み重なった洋服は何年もそこから移動されていないらしく、床と同化してしまっている。昨日片づけたはずのキッチンには虫が湧き、同じ場所に寄り掛かるせいで、壁は人型に汚れている。布団なんて厚みがなくなって、床と同じ高さになっていた。

イヤな予感がする。
恐る恐る、トイレの扉を開ける。

わたしは、この時の荒れ様を書き表す言葉を持たない。強いて言うなら、そこはスラム街の公衆便所か事故物件のようだった。

かろうじて水は流れるが、汚すぎて入れないのだ。

自宅から小一時間掛けて実家へ辿り着いたのに、トイレを使えないのはイチ大事。「なんでこんなことになってるの!!」と激怒するしかなかった。今となっては病気で部屋を片付ける体力などなかったのだろうとわかる。しかし、この時点では知る由もなかった。


食欲がなく、お腹のハリがあるという父の症状を聞いて、消化器内科に行くことにした。幸い、口コミの評価が高い専門病院が実家の近くにある。歩いて数分だ。

いつもならわたしよりも早歩きの健脚自慢の父だが、今日はタクシーで行くと言う。何なら、立ち上がれないから病院に行くのを待ってほしいと言う。

「午前の診療に間に合わなくなっちまうよ」

トイレに行きたい気持ちが、わたしにそう言わせるのだった。


つづく。

編集後記:いつもは介護や父が亡くなってからの日常を綴っていますが、今回はそれ以前の”エピソード0”みたいな話です。

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