【遺品整理】美人画と固形燃料とアイスペール
上弦の月がきれいだったあの日。わざわざ遠方から姉に来てもらっておいて、部屋の片付けは大して進まなかった。
父の洋服を捨て、タンスを空にして粗大ごみにする。押し入れから出てきた骨董は”売れるかもゾーン”へ移動する。書棚の上から出てきた古いウィスキーは姉の”欲しいものゾーン”へ移動する。
──この時点で片付かない予感がする。
代々絵描き一家なので、数々のアートにも遭遇した。絵にはシミが浮き出てしまっているから額だけでも、と再び”売れるかもゾーン”に物が増える。
そのうち、手紙やら孫の写真やら、招き猫やら、はたまた両親の結婚式の引き出物まで出てきてしまった。両親は離婚しているから、結婚式関連グッズはレア物だ。
箱を開ける。出てきたのは欧州製のフライヤー。50年近く前、さぞかしトレンディだったに違いない。これも姉の”欲しいものゾーン”へと運ばれた。小さい子供が3人いる姉の家では、50年の時を経て大活躍するだろう。
上弦の月が浮かぶ頃、わたしの”欲しいものゾーン”には
実家に昔から飾ってあった美人画とレトロな固形燃料、そして木製のアイスペール。審美眼のある姉に比べて、わたしの欲しいものの貧相なこと。それでも、文字にするとなぜか素敵に聞こえるのが不思議だ。