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野良猫とうつろな目のねこ【ニャンニャンニャンの日】

去年の今頃…そう、父親の病気がわかる数カ月前のこと。わたしには一つの日課があった。それは、近くのペットショップのねこに会いに行くことだった。

親の介護が始まるまでのわたしは、まるで野良猫のように暮らしていた。フリーの仕事が舞い込めば猛進して働くこともあったし、今日は編み物がしたい気分…なんて宣言して、河原で編み物に没頭する日もあるという、行き当たりばったりの毎日だった。

そんなある日、家の近くのペットショップでうつろな目のねこに出会った。鉢割れというのだろうか、ㇵの字の淡いクリーム色の模様は、少し情けない顔にも見えた。特徴的だったのは、目の色が左右違うこと。右目は薄いブルー、左目は金色に見えた。

その瞳のせいか、ねこはどこか遠くを見つめているようで、いつもうつろな表情だった。決して美形ではないが、わたしのことなんてまるで視界に入っていないような素振りに、どうしようもなく心惹かれた。そして、わたしは足しげくペットショップに通うことになった。

面倒くさがりのわたしは、今までペットを飼うなんて考えたこともなかった。それなのに、うつろな目のねこの登場で毎日は一変した。買い物の予定がある…なんて理由を付けては、ペットショップの前を通る。ウィンドウ越しにねこと戯れて、買い物へと向かう。帰り道も、もちろんウィンドウの前で足を止める。


しかし、別れは突然訪れた。


去年の今日、2が3つも並ぶニャンニャンニャンの日。

いつものようにペットショップへと向かった。うつろな目のねこがいるはずのウィンドウは空のようだった。いや、視力が良いわたしには遠くからでもウィンドウにねこがいないことは明らかだった。それに加え、ウィンドウの隅にシールが貼られているのが見えた。”売約済み”のシール。それは、ねこが売り物だったことをわたしに知らしめた。

それから数日間はねこが売れてしまったことを受け入れられなかった。しかし、数日経つといつものウィンドウは別のねこの住居となり、一度も触れることのないままねことお別れすることになった。

わたしはその足でワインを買いに行き、珍しくひとりでお酒を飲んだ。

ウィンドウ越しに撮った1枚の写真を見るたびに思い出す、うつろな目のねこ。もし、どこかで野良猫になっていたら、きっと連れて帰ってしまうだろう。

編集後記:今日は2が6個も並ぶ、空前のニャンニャンニャンの日らしいので、ニャンニャンニャンの日にいなくなってしまったうつろな目のねこの思い出を書きました。父親の介護を終えて、再びわたしは野良猫のように暮らしています。ねこはどうしているかなぁ…(=^・^=)

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