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Amazonより便利な薬局さんとオプソとの出会い【末期がん】


末期がんと診断された父は、その時点での衰弱具合とがんの進行状況を鑑み、自宅での緩和ケアを始めることになった。痛みを緩和して、余生を過ごすという方針だから、主に処方されていたのは痛み止めだった。その中の一つに、オプソというものがあった。

Amazonよりお世話になった薬局さん

自宅での緩和ケア生活が始まると、往診の先生や看護師さんの負担を軽減するためだろう、日常の往診で必要になる点滴や注射針が自宅に届けられた。痛み止めのオプソ内服液(※文中ではオプソと略しています)も、置き薬のように15本ほどが我が家で保管されることになった。

それらは薬局さんが自宅まで届けてくれた。一人暮らしの高齢者の自宅での緩和ケアというのは、徹底的に家族の負担が軽減されるような仕組みになっている。少なくとも、わたしはそう感じた。介護保険ってこうやって還元されるのね…と恩恵を目の当たりにする日々だった。

往診で必要になる点滴などの他、朝・昼・晩・寝る前の1日に4回ある服薬を約2週間分、これらの大量の薬も薬局さんが用意してくれた。高齢者に処方される薬を見たことがある方はお分かりかもしれないが、薬の総量はかなりのものだ。

これを、配達と同じタイミングで”朝・昼・晩・寝る前”と書き込まれたシートにそれぞれ必要数をセットして行ってくれる。飲み間違いが防げるし、本人も介護する側も、「朝の薬はこれとこれと…」と用意する手間が省けるので、とても助かっていた。(薬局さんありがとうございます!)

オプソとかわいいメッセージ

他の常備薬と違うのは、オプソは常に父が手の届くところに置かれていたことだ。看護師さんの日誌やオプソが入った小袋には、丸文字で”痛みがあったら無理せず飲んでくださいね”と書かれていた。その一言だけ見れば、可愛らしい女性がお見舞いに来てくれたんだろうか…とでも思ってしまいそうだ。

だから…というわけではないが、緩和ケア生活が始まった当初、わたしはオプソという薬は”軽めの痛み止め”という認識だった。だって、手の届くところにいつも置いてあるし、(きっと可愛いに違いない)看護師さんも”無理せず飲んで…”と言ってくれているではないか。

それから数日経って、緩和ケア生活に慣れてきた頃。父が一向にめまいが取れないことを訴え始めた。本人の話では、入院していたときよりもめまいがひどいのだと言う。

そこで、往診に来てくれたタイミングで看護師さんに相談してみた。すると、返ってきた答えは「オプソ試されましたか?」だった。

──オプソにはめまいを止める効果もあるのか…?

と不思議に思ったわたしは、ようやくここでオプソについて検索することにした。


オプソの正体

それまでオプソを”軽めの痛み止め”と解釈をしていたわたしが、一番ドキッとしたのは

麻薬

と書かれていたことだった。

薬効分類:オピオイド鎮痛薬(麻薬)
鎮痛作用などに関与するオピオイド受容体に作用することでより強い鎮痛作用をあらわす薬

処方薬事典 データ協力:株式会社メドレー

オプソ内服液は一般名をモルヒネ塩酸塩水和物液というそうだ。末期がんにおけるオプソに期待される効果としては、強い痛みに対する鎮痛効果である。

その一般名であるモルヒネと聞いて思い出されるのは、第一次世界大戦以降、疼鎮痛薬として利用され、負傷兵の多くにモルヒネ中毒者を出したということ。戦後の日本でも、モルヒネは薬局で簡単に手に入ったと聞いたことがある。戦争が多くのモルヒネ中毒者を生み出し、そして、その黒い歴史を葬り去るがごとく規制された…と。

その中毒性がある麻薬が、普通に父の目の前に置かれていたのだ。”無理せず飲んで…”という健気なメッセージを添えて。

オプソとの出会いは、父が末期がんと宣告されてから1カ月も経たないときのことだった。腹の座っていないわたしは、父がそのような強い薬を処方される状態にあるということに、強い衝撃を受けずにはいられなかった。

素人なりにオプソについて調べた結果、この日から、わたしはオプソを父の目の前から遠ざけた。

しかし、看護師さんは沢山の患者さんを見てきて、末期がん患者が強い痛みを訴えることを知っているからだろう。わたしがオプソを遠ざけても、”オプソを試してみてくださいね””まずは2本から試してみましょう”と親和させるメッセージを添えて、父の目の前に置くのだった。

幸い、強い痛みを訴えることのなかった父は、1日に4回処方されているカロナール(子供にも処方される痛み止め)で事なきを得ていた。

オプソはガン患者の痛みを和らげてくれるものであると同時に、強い副作用があることも忘れてはいけない。副作用に列挙された薬物依存、錯乱、呼吸異常といった数々の文言に、不安を駆り立てられることとなった。


編集後記:今日の記事は薬品や末期がんといったセンシティブな内容です。治療方針や薬品に対する考え方は色々あると思いますので、一つの考えとして捉えて下さると幸いです😌わたしの父が1度だけオプソを服用したのは、亡くなる数日前のことでした。その際の記事はまたいつか書きたいと思います。ここまで読んでくれてありがとうございました。


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