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日々の徒然

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父の介護のこと、亡くなってからのこと、わたしのこと。末期がんの父を自宅で介護していた日々を綴っています。
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#親子

夢は支離滅裂だけど、死んだ父に会えた。

夢は支離滅裂だけど、死んだ父に会えた。

年明けに父がなくなって1ヶ月経った。陽は延びたけれど、駅に着く頃にはもう月が出ていた。

──いい加減片づけをしないと

そう思い立って、月命日の翌日に部屋の片づけをすることにした。

片づけないと…という気持ちが毎日毎日積み重なって

1カ月過ぎたら、父が夢に出てきた。

夢の話は支離滅裂で、

なぜか白い段ボールでできたソファに父は座っていた。

鍵を忘れて家を出たわたしに、『何やってンだ』と

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味覚ブルース

味覚ブルース

味が落ちたのか
俺の舌が落ちたのか──

うなぎを食べて、そう呟く父の背中には哀愁が漂っていた。

今日はただそれだけの話。

あおがく優勝だってよ!

あおがく優勝だってよ!

父と箱根駅伝を見に行くのは、ここ数年、正月の恒例行事になっていた。

わたしはスポーツはあまり興味がないし、得意な方でもない。だから、父と野球の中継を見たり、サッカーの話題をするのはいつも姉の役割だった。

それでも、駅伝だけは違った。

駅伝のコースの近くに住んでいるから──

そんな理由ではあるが、唯一、箱根駅伝がわたしのスポーツとの接点であり、一緒に見に行くのが親孝行になって(少なくともわた

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【末期がん】残された時間、家族は

【末期がん】残された時間、家族は

昼ごはんに合わせて実家へ行って、昼ごはん、夜ごはん、次の日の朝ごはんを用意する。

父が退院してからのわたしの生活はそんな感じだった。

しかし、退院して2ヶ月になる頃、急激に食欲が落ちて、果物をときどき食べるくらいになった。

目を覚ますことも少なくなってしまった。

洗濯が終わると、特にすることはない。できることと言ったらときどき父の体の向きを変えて、床ずれができないようにするだけ。

──こ

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ガン末期の症状

ガン末期の症状

これまで痛みも吐き気もなく過ごし、父が末期ガンであることなど忘れかけていたある日。

──ここへ来る前、札幌の病院に入院していた

と父が突然言い出した。

私の知らない間に入院していたのか?と考えたが、父は毎日うちの近所の飲み屋に通っていて札幌に行っていた形跡はない。

病院に行くのも高校生の頃の盲腸以来…と自慢げに話していた。

意味がわからず問い詰めると、病院の場所やどういう経緯で入院したか

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介護してみてわかること。

介護してみてわかること。

周りの友人には介護が始まる前になんとなく事情を伝えてあった。

だから、ときどき『疲れてなぁい?』『変わりはなぁい?』というメッセージをくれる。
頻繁に、というわけでも
放っておかれるでもない絶妙のタイミング。

介護をしていると、一生元の生活に戻れないんじゃないか…と悲観するときがある。身体もほとほと疲れている。
だから、わたしのことを気に掛けてもらえるだけで本当にありがたかった。

もし身近に

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子供のとき以来、60年も病院に行っていなかった父のはなし

子供のとき以来、60年も病院に行っていなかった父のはなし

『病院に連れて行って』と連絡が来たときには、父はかなり弱っていた。家から数分の病院に行くのもタクシーで行くほどに──。

父の症状を見て、わたしは実家から数分の消化器内科に連れて行くことにした。Google先生によると、人気の消化器内科らしい。病院に着くと、看護師さんは父の容体を見るなり、大きなソファへと案内してくれた。衰弱した父に代わって、問診表を書き進める。

こうも衰弱していると、”お酒やた

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おはようおはぎ

おはようおはぎ

『おは…』

扉を開けると、声にならない声が聞こえてきた。

日に日に父の体力は消耗している。めまいも一向に良くならない。

『おは…………』

”おはよう”の一言も言えなくなってしまったのか。

数カ月前に電話で告げられた”余命3ヶ月”という言葉が頭をよぎる。

泣きたい気持ちをこらえて、「なぁに?」と聞き返すと

『おは……ぎ…』

どうやら朝ドラでおはぎを見て食べたい気持ちが日ごとに募ってい

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ちょっと見てきてよ、の後

ちょっと見てきてよ、の後

ちょっと見てきてよ、の後のこと。

駅の向こうのスーパーではなく、信号も踏切も渡らずに行けるコンビニで手を打つことにした。

玄関で靴を履きながら「アイスだけで良い?」と聞くと、『いいんでないかい』と父。

ベッドから聞こえてくる北海道訛りは、幼い頃に亡くなった祖父と重なった。

アイスの残り

部屋の奥まで夕日が射しこんで
あぁ、もう冬なんだなぁと感じる。

ずっと陽が入るものだから
部屋は温かい。

買い物に行く予定もなく
暖かな夕暮れを向かえたある日、
父が『アイスの残りは?』と言い出した。

アイスを控える、と宣言した翌日のことだった。

アイスを控えていれば減っているはずもない。

なぜ冷凍庫の中のアイスの在庫を問うのか。

まさか…
やっぱりね…と
入り交じる感情で冷凍庫を開け

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タコ焼きの温め方

タコ焼きの温め方

少し前まで自力でトイレに行き、履くタイプの紙オムツ(紙パンツ)で事済んでいた。そんな父だったが、ほんの数日でトイレに行くことも着替えることもできなくなってしまった。

そこで登場したのがテープ式の紙オムツである。

赤ちゃんが産まれて、一番初めに身に纏うものといっても過言ではない。

しかし、赤ちゃんのそれとは違う。
子育て経験があっても大人のオムツ交換はワケが違うのだ。

まずサイズがデカイ。内

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まるで遺言

まるで遺言

明日は2週間ぶりに姉が来る。自宅から実家への、いわば通勤介護を続けている私にとっては久しぶりの休みだ。

朝から友人と出かけて、夜は後回しにしていた水道工事の予定がある。

それなのに
『明日はカレーにしよう』と父は言う。

じゃあ、姉に任せて…と提案すると、なんと『俺が作る』と言うのだ。

──父のカレーはうまかった。

しかし起きているのもやっとの状態で料理などできるものか。

『食べに来てよ

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テーブルは見ている

テーブルは見ている

父のベッドの前には一人で使うには不釣り合いな大きなテーブルが置かれている。

両親が離婚する前、ダイニングテーブルとして使っていたものだ。

今は、今となっては

朝食は何が良いとか、トイレの回数は…といったふせんを貼っておく場所であり、時にヘルパーさんとの文通の場でもあった。

ある日、”朝は来られないので朝食の配膳をお願いします”と書き置いたときのこと。

昼前に実家に着き、日課になっているふ

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りんごはなし

退院してからというもの
父はやたらと甘いものを欲しがるようになり

──お酒に替わる糖分を求めている
という仮説をわたしは導きだした。

仮説というか、本説だろうと思う。

前述のとおりあずきバー始め、
数々のアイスで日々の糖分不足を補っている。

そして果物もしかり。

とりわけ、柿は大のお気に入りだが
柿だけでは飽きるだろうと
みかん、バナナ、キウイ、メロン、マンゴー……と思いつく限りのフルー

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