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日々の徒然

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父の介護のこと、亡くなってからのこと、わたしのこと。末期がんの父を自宅で介護していた日々を綴っています。
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#在宅医療

柿の実のなる頃に【介護回顧録】

高級フルーツ店の柿は
思っていたよりも美味しくなかった。





去年の今頃、わたしは父の介護に奮闘していた。
奮闘といっても
食欲旺盛な末期がんの父に食事を作るのが
主な役割だった。




投薬のせいか、父の味覚は鈍化しているようだった。

手の込んだ料理を作っても
「まぁまぁ」と言う。
旬のものを食べさせても
「おいしくない」と言う。


そしてついに出会った。
赤々と熟れた

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父と食べた寿司の味。一人で食べる寿司の味。【介護回顧録】

父と食べた寿司の味。一人で食べる寿司の味。【介護回顧録】

生前、父とはよく寿司を食べた。味にうるさい父のこと。高級店とまではいかなくとも、足を運ぶのはいつもそこそこの高級店だった。注釈をつけるなら、”回転ずしに行ったこともあったが、手を付けるのはビールと茶碗蒸しだけ”であった。一緒に行ったこちらの身にもなってほしいものだ。





父が亡くなって5カ月。わたしは寿司を食べた。あぁ、もう5か月かという思いと、まだ半年も経っていないんだという不思議な

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位牌を忘れた話

位牌を忘れた話

いよいよ待ちに待ったゴールデンウィークだ!
明日の持ち物は、位牌、遺骨、納骨許可書、お墓の使用許可書。
子供の頃のようにリュックにおやつを詰め込んで…とは、いかない。





父が亡くなってから、なんとなく姉とはぎくしゃくしていた。ぎくしゃくしている…と感じているのは、こちらの勝手かもしれない。けど…。

介護の疲れもあったし、父が亡くなってからの手続きの大半をわたしがやっていたから、気づ

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これでいいのだ、我が家のご仏前スタイル

これでいいのだ、我が家のご仏前スタイル

チーーンして、

ナムナムして、

ちぃーーーッス。

これが我が家のご仏前スタイルだ。

早いもので父の介護生活の卒業を迎えてから2ヶ月が経った。コロナ禍のおり、葬儀の日程はスムーズに取り決めることができず、約10日程の時間を置いて父は荼毘に伏された。

だから、まだ何となく2ヶ月という月日が経ったようには思えない。それでもリビングに鎮座するお骨は、まるで昔からあったようにそこに馴染んでいる。左

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役所では教えてくれない話。【死んだ後の手続き】

役所では教えてくれない話。【死んだ後の手続き】

役所は聞いたことには答えてくれるけれど、先回りして教えてくれたりは…あんまりしない。あんまり、ね。

死後の手続き…遺品整理やら、登記やらで、このところのわたしはあっぷあっぷしている。必要な情報を問合わせなくても、役所の方から「ささ、どーぞどーぞ」と差し出してくれたら、どんなに良いか…とため息をつく日々だ。

昨日の投稿で高額医療費の還付(高額療養費支給申請)について書いたが、その申請を出すまでに

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毎日投稿70日を達成して、いま欲求を吐き出す。

70日の連続投稿(昨日の投稿が確か70日目でした)ができた記念に、文章を書く人の立場で、今日の記事を書いてみたいと思います。

文章を書いていると、使ってみたいフレーズに出会うことがある。

わたしの前職は調査関係の報告書を作成するお仕事でした。ねちっこく、こと細かく事実が綴られた文章は、報告書として現場に届けられ、接客業の人材教育用の資料として活用されていました。

教材として使われるものだから

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生まれるより死ぬ方が大変と思った話。

生まれるより死ぬ方が大変と思った話。

結婚より離婚が大変、生まれるより死ぬ方が大変…そんなことを考えていた。いや、離婚したことはないけど「離婚の方が大変よ~」なんて聞くもんですから、つい。

それから生まれるより死ぬ方が大変、と思ったのは書類関係の話。

子供が生まれたとき、病院の手続きやなんかはあったかもしれないけれど、出生届を出せば役所に行くことなんてなかった。(子供を産んだのが数十年前になるので記憶は曖昧😅)

それに比べて、

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父、夢枕に立つ。

父、夢枕に立つ。

亡くなった人が夢に出てくると、自称霊感があるわたしは”何か伝えたかったんじゃないか…”なんて思う。そもそも、霊感があるかもしれない…と思ったのは、祖母が亡くなったときまで遡る。

まだ実家で暮らしていた頃、電話の音で目が覚めた。わたしの枕元からはちょうど電話機が見える。ベルがなる電話機を見た瞬間、「祖母が亡くなった」と感じた。現に、その電話は祖母の訃報を知らせるもので、わたしの父(先月亡くなった)

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野良猫になった日【続・ニャンニャンニャンの日】

野良猫になった日【続・ニャンニャンニャンの日】

父が亡くなって2カ月足らず、まだまだ煩雑な手続きが必要だった。空前のねこの日だというのに、わたしの予定は役所巡り。ペットショップのねこと戯れたい気持ちは抑えて、近くの役所へ出向くことにした。

いつもはガラ空きの役所が、どういうわけだか混んでいる。行列に並んでいると、小さな子供のキャッキャという笑い声が聞こえてきた。混んでいても殺伐としていないのは子供の笑い声のせいだろう。近くにいる老人も、上手に

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野良猫とうつろな目のねこ【ニャンニャンニャンの日】

野良猫とうつろな目のねこ【ニャンニャンニャンの日】

去年の今頃…そう、父親の病気がわかる数カ月前のこと。わたしには一つの日課があった。それは、近くのペットショップのねこに会いに行くことだった。

親の介護が始まるまでのわたしは、まるで野良猫のように暮らしていた。フリーの仕事が舞い込めば猛進して働くこともあったし、今日は編み物がしたい気分…なんて宣言して、河原で編み物に没頭する日もあるという、行き当たりばったりの毎日だった。

そんなある日、家の近く

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紙おむつの失敗談【介護録】

紙おむつの失敗談【介護録】

泣きたかった。こうやってだんだん弱っていくのだろう。

普段から使っている紙おむつ用のパッドがうまく外せなかったようで、トイレの中には紙パッドの中身、ポリマーが散乱していた。

これがなかなか落ちないのだ。

拭いても拭いてもねりねりと広がっていく。おしっこを吸っているわけだから広がっては困るのだけど。

──泣きたかった。こうやってだんだん弱っていくのだろう。

紙パンツに貼ってあるマジックテー

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ニンニク喰わして父、何思ふ

ニンニク喰わして父、何思ふ

両親が離婚したあとの父との2人暮らし。夕飯は、飲食店のアルバイトでまかないを食べることがほとんどだった。とは言っても料理好きの父のこと。気が向けば料理を振る舞ってくれた。

ある日の晩。酒呑みの父はご機嫌でニンニクの素揚げを作り始めた。部屋に漂う香ばしい香りに、うら若きわたしはついつい誘われた。

素揚げしたニンニクは、まるでじゃがいものようにホクホクとして美味しい。甘辛い味噌を付けると、尚美味し

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夢は支離滅裂だけど、死んだ父に会えた。

夢は支離滅裂だけど、死んだ父に会えた。

年明けに父がなくなって1ヶ月経った。陽は延びたけれど、駅に着く頃にはもう月が出ていた。

──いい加減片づけをしないと

そう思い立って、月命日の翌日に部屋の片づけをすることにした。

片づけないと…という気持ちが毎日毎日積み重なって

1カ月過ぎたら、父が夢に出てきた。

夢の話は支離滅裂で、

なぜか白い段ボールでできたソファに父は座っていた。

鍵を忘れて家を出たわたしに、『何やってンだ』と

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味覚ブルース

味覚ブルース

味が落ちたのか
俺の舌が落ちたのか──

うなぎを食べて、そう呟く父の背中には哀愁が漂っていた。

今日はただそれだけの話。