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日々の徒然

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父の介護のこと、亡くなってからのこと、わたしのこと。末期がんの父を自宅で介護していた日々を綴っています。
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#哀愁介護

ガン末期の症状

ガン末期の症状

これまで痛みも吐き気もなく過ごし、父が末期ガンであることなど忘れかけていたある日。

──ここへ来る前、札幌の病院に入院していた

と父が突然言い出した。

私の知らない間に入院していたのか?と考えたが、父は毎日うちの近所の飲み屋に通っていて札幌に行っていた形跡はない。

病院に行くのも高校生の頃の盲腸以来…と自慢げに話していた。

意味がわからず問い詰めると、病院の場所やどういう経緯で入院したか

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介護してみてわかること。

介護してみてわかること。

周りの友人には介護が始まる前になんとなく事情を伝えてあった。

だから、ときどき『疲れてなぁい?』『変わりはなぁい?』というメッセージをくれる。
頻繁に、というわけでも
放っておかれるでもない絶妙のタイミング。

介護をしていると、一生元の生活に戻れないんじゃないか…と悲観するときがある。身体もほとほと疲れている。
だから、わたしのことを気に掛けてもらえるだけで本当にありがたかった。

もし身近に

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子供のとき以来、60年も病院に行っていなかった父のはなし

子供のとき以来、60年も病院に行っていなかった父のはなし

『病院に連れて行って』と連絡が来たときには、父はかなり弱っていた。家から数分の病院に行くのもタクシーで行くほどに──。

父の症状を見て、わたしは実家から数分の消化器内科に連れて行くことにした。Google先生によると、人気の消化器内科らしい。病院に着くと、看護師さんは父の容体を見るなり、大きなソファへと案内してくれた。衰弱した父に代わって、問診表を書き進める。

こうも衰弱していると、”お酒やた

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おはようおはぎ

おはようおはぎ

『おは…』

扉を開けると、声にならない声が聞こえてきた。

日に日に父の体力は消耗している。めまいも一向に良くならない。

『おは…………』

”おはよう”の一言も言えなくなってしまったのか。

数カ月前に電話で告げられた”余命3ヶ月”という言葉が頭をよぎる。

泣きたい気持ちをこらえて、「なぁに?」と聞き返すと

『おは……ぎ…』

どうやら朝ドラでおはぎを見て食べたい気持ちが日ごとに募ってい

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ちょっと見てきてよ、の後

ちょっと見てきてよ、の後

ちょっと見てきてよ、の後のこと。

駅の向こうのスーパーではなく、信号も踏切も渡らずに行けるコンビニで手を打つことにした。

玄関で靴を履きながら「アイスだけで良い?」と聞くと、『いいんでないかい』と父。

ベッドから聞こえてくる北海道訛りは、幼い頃に亡くなった祖父と重なった。

アイスの残り

部屋の奥まで夕日が射しこんで
あぁ、もう冬なんだなぁと感じる。

ずっと陽が入るものだから
部屋は温かい。

買い物に行く予定もなく
暖かな夕暮れを向かえたある日、
父が『アイスの残りは?』と言い出した。

アイスを控える、と宣言した翌日のことだった。

アイスを控えていれば減っているはずもない。

なぜ冷凍庫の中のアイスの在庫を問うのか。

まさか…
やっぱりね…と
入り交じる感情で冷凍庫を開け

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