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日々の徒然

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父の介護のこと、亡くなってからのこと、わたしのこと。末期がんの父を自宅で介護していた日々を綴っています。
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2021年12月の記事一覧

まぁまぁの料理

まぁまぁの料理

味に厳しい父親に料理を作るのは至難だった。

初めのうちは気張った料理を作ってみたりもしたが、退院して間もない胃腸はそれらを受け付けない様子で、ごく一般的な家庭料理が食卓に並ぶこととなった。というより、もともと料理に興味のないわたしのレパートリーはあっという間に尽きた。

そして、毎日の献立を記録したメモ帳には、父の好物である肉じゃが、すきやき、おでんが頻出することとなる。

味付けにはムラがある

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めんつゆの季節

めんつゆの季節

──美味しいめんつゆ買っといて

そんな一言で今日も介護生活が始まった。父がまだ元気だった時、高級スーパーで買ったというめんつゆ。てっきり父のお気に入りだと思って料理に使っていたのだが、どうやらお気に召さないようだった。

残っているのに、もったいない。しかしお気に召さないのなら致し方ない。買い物に行くとしよう。

どのメーカーが良いの?と問うと、『ニンベン』と一言。案外ふつうの答えが返ってきた。

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ゾウと出会う

ゾウと出会う

父と娘の介護において
下の世話は悩ましいトピックであった。

このところ、父はお腹の調子が良くないようで、お手洗いから出てくるなりケツを拭いてくれと言うのだ。

…意を決してケツと対峙する。

子供のそれとは違う。しわしわのケツだ。

『ゾウのお尻みたい!』
が初めて対峙する父のケツの感想であった。

──いや、ちょっと待ってくれ。

私の一番好きな動物はゾウなのだ。

コロナが終息したら
タイに

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味のわかないヤツ

薬の影響か、

父は香りや味を感じにくいようだった。

インスタントコーヒーを

ガブガブ飲んでいるわたしの背中に視線が刺さる。

──味のわからないヤツめ
とでも言われている気分だった。

この頃、時を同じくして

友人が自家焙煎の珈琲豆の販売を始めた。

──そういえば実家にはコーヒーミルがあったはず

翌朝、わたしは友人が焙煎した珈琲豆と

フレンチプレスを持って家を出た。

実家に着き食器

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生前整理

生前整理

余命3カ月と聞いて、わたしは悲観した。

──もう一緒に出掛けることはないのだ、と。

部屋の片付けを任されたわたしは
コートもズボンも、もろとも袋に詰め込んで捨てた。

初めのうちは、歳のわりにお洒落な父の洋服を捨てるのには躊躇いがあった。

ところが
少し片付いた部屋を見ては嬉しそうに
片付いたな…と呟くので
日ごとに潔さを増していった。

退院して数日経っても、父はどこか鬱々としていた。めま

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助六リベンジ

お昼ご飯出そうか?と聞くと

煙たそうな声で『昼飯なに?』と父。

──待ってました!

助六です、ピシャリと言ってやった。

昨日は
”助六寿司が食べたい”とメールがあり
デパ地下で買って行ったのだった。

希望に応えて買って行ったというのに

太巻きが入っていないことに

父は不服な様子だった。

そして今日

嫌味のつもりで二日連続の助六寿司にしたわけだが

”助六買ってきてってメールしよう

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自己紹介

自己紹介

はじめまして
【ほのじ介護録/余命3ヶ月の父とわたしの場合】の"わたし"です。

ある日突然、末期がんと診断された独り暮らしの父と、ある日突然、介護することになった娘の介護録です。1ヶ月の入院を経て、現在は自宅で緩和ケアをしながら生活しています。介護する側のわたしの視点で日々の暮らしを綴っています。

はじまりnoteを始めようとしたとき、父はまだ入院中でした。退院すれば一人暮らしの父を介護する生

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おでん

おでん

今日は娘と行くよ、とメールを打つと
『待ってます』といつになく早い返信があった。

父にとっては初孫である。
口数は少なくとも、かわいいはずだ。

娘と3人で一緒に食卓を囲めるのだから 
折角なら好物のおでんにしよう。
前日から仕込んだ大根を持って家を出た。

おでんが好物なのはわたしの娘だが
無論、酒飲みの父が嫌いなはずもない。

大急ぎでたまごを茹で、
おでんの詰め合わせと
買い足したすじ串を

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