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バーチャルアイドル・夢乃ほのか💎のはじまり【第0回 運営会議報告】
私、アイドルになりたいんだ。
それは突然だった。
若き頃からの友人だったほのかが
静かに過ごす昼休みが大好きだったほのかが
まさか「アイドルになる」と、
自分を主語に語る日が来るとは思いもしなかった。
それでも私は、君との夢を叶えるために
ここにいるんだ。
ほのか、アオヤマ、13歳。
中学時代のほのかは、休み時間も自分の机から離れず本を読んだり、校庭で展開されるあそびのスポーツをぼーっと眺めているような人だった。
今の言葉で言う「スクールカースト下の上」というのに、当てはまっていたと思う。(私も人のことは言えない立場ではあるが)
それでも友だちは数人いて、ほのかの周りには不思議と人がチラホラと集まっていた。
理由はわからないけれど、ほのかの周りにいる人は、やわらかく笑う人が多かったように思う。
今思えば、ほのかが自然とそうさせていたのかもしれない。
ほのちゃん、ほのちゃん、と人が彼女の名前を呼ぶのを、私は自分の席からみていた。
偶然、漫画やアニメがすきなことで意気投合した私たちが親友になるまで、そう時間はかからなかった。
教師に隠れてこっそり漫画交換をしたり、読んだ漫画の感想をイラスト付きでだらだらと書き連らねた手紙を交換しあったり、2人で運営するホームページなんかもつくった。
時には一緒に架空のキャラクターを作って、そのオリキャラが登場するアニメの脚本を書いたりして、キャッキャと笑い合った。
今思えば、彼女はその頃からアイドルのような女性をよく登場させていた。
彼女のオリキャラが、周りの人間を勇気づけ、世界が少しだけ良い方向に変わっていく。そんな話はいくつかあったと思う。
彼女との思い出はすべて、私の青春時代そのものだった。
別れと再会。
私たちは別の高校に進学し、それぞれの生活を過ごした。
物理的な距離が、心の距離も生んだ。
高校に入ってからは、ほのかと連絡を取ることはなかった。
友達と呼べる人はほのかしかいなかったし、中学の同窓会にいく理由はどこにもみつからなくて欠席した。
今更ほのかに連絡を取るのもなんだか恥ずかしくなって、送信ボタンが押せなかったことは何度もあった。
私は大学卒業後デザイン制作会社で仕事をはじめ、デザイナーになった。
業界は進展が早く、多忙ではあるが、毎日それなりに楽しく過ごせている。
仕事にも慣れてきたころ、不明な差出人からメールが来た。
アオちゃん。
すぐにわかった。
忘れるはずはなかった。
私のこのメールアドレスを知っている人。
私をアオちゃんと呼ぶ人。
すぐさま返事をし、私たちは次の休日にカフェで待ち合わせた。
きみの夢、2人の夢。
「アオちゃん!」
彼女はあの頃と変わらない声で私を呼んだ。
大人になった彼女は、すごく美しく、まぶしくみえた。
私たちは駅前のカフェでココアとカフェオレを頼み、席につく前から、これまで会わなかった時間を埋めるように話し続けた。
高校のころにハマったアニメのこと、大学でバイトに明け暮れたこと、ほのかも同窓会にはいかなかったこと、大学卒業後は保育士になっていたこと。
私のことは何を話したかあまり覚えていないが、私の知らないほのかを知るのはわくわくして、ちょっぴり寂しかった。
待ち合わせの次に腕時計をみたときには、会って2時間が経つころだった。
「私、アイドルになる。
あの頃の夢、叶えたいんだ。」
突然だった。
しかし「夢」ということばが、あの時のアニメの脚本を指していることはすぐにわかった。
驚いたが、意外ではなかった。
「アオちゃん、マネージャーになってくれないかな。」
断る理由なんてあるのかしら。
私は俯いて、たまった涙が落ちるのを確認してから
何かを振り切るように顔をあげる。
彼女のそのまっすぐな目を見つめ返した。
応援するに決まってるじゃない。
どこまでも連れていくから覚悟しなさいよ。
私たちの夢を、一緒に叶えよう。
記・アオヤマ