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見つけたい9

side:Nihani(ニィ兄)


治療の報告の為に、NYにわざわざ足を運んでくれたカウンセリングセンターの院長から、受けた報告を聴いて俺は驚かされた。
ヨシキも治療を始めたことは光樹君から聞いていたんで、そこでは驚かなかったが、その経過が・・・。

二人とも亡くした父親を忘れられないでいたということだった。

それはそうだと、納得できるが・・
その想いはあまりにも大きすぎている。
俺だって父を亡くしているのは同じだ。
だけど・・・まさかそのために二人が生きて行こうという気持ちが強いということが話を聞いてわかった。

更に・・・
ミツは・・
”二人のお父さんを殺したのは僕自身だ”と言っているといい、
ヨシキは、
”トシにお父さんたちを会わせるんだ”と・・言っているという。

ミツが二人を殺したろいうのは・・実はあの事故以来ずっと言い続けていることで・・。
ヨシキを一人にしてしまったと・・・悔やんでいたのもあの頃からだった。
その溝は埋められなかった。
俺たち家族では・・・。
ただ・・ミツはそれをいつからか何も言わなくなり、家族の中心で笑うようになっていた。
それでも・・・まだまだあいつは自分のせいだと思い続けていたみたいで・・事故があったあの場所で、あの道をジッと見つめる姿を俺は何度も目撃している。
学校へ行く前や、帰り道の途中で、必ずお墓参りをしているのも知っていた。

心にできた大きな傷を俺も一緒に背負ってやることは・・できていなかったんだろう。
それだけミツの感受性の豊かさを俺は、兄弟でありながら持ち備えてはいなかったらしい。
だからこそ寄り添っていられたんだと思うけど・・俺が外国で仕事を始めたんで、ミツとの距離は大きくなった。
俺も・・逃げてたのかもしれない。
ミツの・・あの強さと・・そして同じくらいのか弱さに・・ついていけなかったのかもしれない。

そのことを知っているのかどうなのか・・
ヨシキは・・”トシにお父さんたちを会わせる”と・・・。
俺も最初に聞いて何を言っているのかわからなかった。

『どういう意味ですか?・・それは・・』
『”ボクが産むから”と・・後で言ってました。ヨシキは、トシの子供が自分のお父さんたちの生まれ変わりだと・・そう信じているんでしょうね。』

あの治療を受けたからその考えを持ったのか・・それとも本当にその気持ちがあったのを、この治療を受けることで思い出したのか・・。
それは俺にはわからないが・・
ヨシキは、ミツに”子供を産んであげる”と・・家に飛び込んできてミツの顔を見るなり言い放って出て行ったことがある。
その時実は俺も、母さんもその場にいて・・それを聞いていた。
まだ中学生になる段階のころの話だった・・・。

あれには度肝を抜かれた。
高校最後の一年を迎えようとしてた俺でもさすがに、驚かされてミツに”大丈夫か?”と思わず声をかけたんだから。
だが・・・恐ろしいことに・・ミツは鈍感としか言いようがなく・・・
”今のは・・何の報告だったんだろう”って・・
ヨシキの勇気もむなしく伝わっていなかったのを、母さんが・・
”よっちゃん・・女の子としても体が機能するようになたのね”と・・。
誰がどうとらえるかは自由ですけど・・・
ヨシキは・・恐らく精一杯の告白をしてきたんではないだろうかと、俺はそう思ってたんだよ。
二人には気が付かれてなかったみたいですが。

それが・・月日が過ぎて・・どういうわけか音楽という繋がりで二人は凄く外が多くなり・・当然ライバルになっていく。
夢中になりすぎた二人の間には・・自然とあの時の感情は薄れ、音楽に対して情熱は注がれた。

今になって・・その感情をヨシキが取り戻したというなら、それがあの二人にとってのあるべき姿なのかもしれない。

俺にはどうすることもできなかったミツのあの感情・・今も渦巻いているあのどす黒い過去の記憶・・
それを補いたかったのかもしれない。
自分の身体で償いたかったのかもしれない。
何をしても償いきれない傷を今でも抱えているミツの気持ちを・・
ヨシキは・・癒す方法を持っている唯一の存在な気がする。

ミツの身に起きたことは、本当に残酷でこれからもミツの生き方に闇をともすだけでしかないものだが、それが少しでも照らされることがあるなら・・
ヨシキ・・お前の気持だけかもしれないんだ。

『・・・ミツの過去には・・大きな罪悪感があるんです・・先生?それを背負っている人間が・・・乗り切れるだけのことがこの治療でできますか?』
『あなたは・・ご自身の弟さんの強さを信じられませんか?』
信じたい気持ちはある・・だけど・・遠すぎるんだ・・。
俺には抱えきれるものじゃない力をあいつが持ってるって・・分かったから。
ミツが持っている力も俺には大きすぎるが、その身に降りかかった運命はもっと大きいような気がして・・
『乗り切れる気持ちがあるから、彼は治療を受けていますし、素直すぎるんですね・・。あまりにも純粋すぎて、はかどるのが早いんです。それだけ前向きになろうという気持ちが強いからです。はっきり言うと・・私はヨシキの方が・・心配でした。治療中に心を壊してしまわないかと。ですが・・トシの話をあなたから聞いてその話をしたときに・・”トシにもう一度お父さんたちを会わせるんだ”と・・そう言ったんです。それまでは・・やはり暴れたり大声上げたりしてたんです。トシに理解されていない苦しみとか辛さ・・そして守り切れなかったという想い・・すべて吐き出して。』
・・・そんな危険にさらされながら受けていた治療だったのか・・
それが・・俺の話で・・・。
ヨシキに聞かせても、ヨシキの知らない話だっただろうが・・・もしかしたら、知りたかったのかもしれないな・・ミツがどういう気持ちでこれまで歩んできたのか・・何を見て、何を感じていたのか・・
少しでも知りたかったのかもしれない。

そういう話ができる距離に居ながら、心が離れてたことで、できなかった話だろうから。

この二人なら・・守ってやれるかもしれない。
ミツだけでは、はっきり言って俺一人では何もできなかった。
でも・・ヨシキが加わることで、光樹君も力になってくれるだろう。
だったら・・できるかも知れない。

今こう言う形で、気が付くことができたんだ。
俺自身にも、もう一度やり直せるチャンスがあるということだ。

ミツ・・・家族を失わせたという気持ちにもう捉われるな。
まだみんな残ってるんだから。
きっと・・父さんもお前のその強さを信じてるからな。

『先生、ありがとうございます。俺・・弟と向き合ってみることにします。』
『ええ・・ぜひそうしてください。』

週末に一度はミツに連絡をするように心がけた。
だけど・・さすが売れっ子になったもんで・・週末こそ忙しいらしいミツとはなかなか連絡が付かなかった。
平日の夜に折り返してくるのはいいが、今度は俺が延長して仕事してることが多い・・・当たり前の残業。
どうしていつもいつも・・こう・・金額が合わないのか・・・
なにかがずれてるというのは日常茶飯事で、会うまで帰れないというサドンデス。
酷い時は、午前様になったこともあり、そのまま次の日の仕事になったりする・・。
お陰でロッカーには、予備でスーツが3着ある、この状況。
昇格したからって、手は抜いてられない。
下が困ってたら率先して買って出るのが俺たちの役目だったりする。
なので・・深夜遅くまで残っているのは、俺たちだったりもするわけ。

そんなことしてたら、おみつからの連絡を取るどころか、例え業務回線が鳴ったとしても、出ないで数字とにらめっこするのが最優先事項なんで。

漸く連絡が付いたなぁってことで話をすると、久々に聞く三つの声が・・これまた超癒し系で。
【ごめんね、兄貴。連絡くれてるのに、なかなか時間を合わせられなくて。今大丈夫?】
ラジオで聞こえてくるような感じの声とは違うから、別人のようにも思えるのがやはりプロの技術だよな。
落ち着くしあったかいし、何よりも穏やかにしてくれるんだよな。
声も、言葉も。
精神的にも肉体的にも、ひっ迫しすぎて疲労困憊していたところを、染み渡らせていくこの治癒力!
本当に癒し系だって・・・みっちゃん。
「ああ・・いいよ。元気そうでよかった。」
【うん。元気にしてる。それなりに仕事もできてるし・・増える一方で・・覚えられないんだけど、スケジュール・・。】
・・・そこまで増え続けてたの・・それはまた大変なことで。
「お前自覚症状が薄いんだから、根詰めすぎるなよ?よくわかってなくても休めよ?」
【うん!ありがと。】
流石三男坊・・・家族の中心で癒してるだけのことはあるわ。

「それでな・・ミツ・・」
【なぁに?】
「お前・・LAでの仕事がひと段落付いたら・・金沢で仕事しろ。」
【え?!】
驚くのも無理はないな・・
まさかそこへ行くことになろうとは思いもしなかっただろうから。
「実は・・俺の大学以来の友人が俺がいない間社長になってくれる。場所が・・金沢なんだよ。そこに個人事務所を立ち上げてて・・今建設中だ。」
【!!?そうなの??】
「何も相談しなくて悪いが・・完全立て直しってんじゃないんだ・・改築の状態でな・・・。ミツの話もちゃんとしていて、理解ある人だし、信頼置ける人物だから安心しろ。本当は直接会わせてやりたいんだが・・」
【焦んないでいいよ。まだ・・こっちも落ち着かないし、兄貴だって仕事の段取り付かないでしょ?有給全部使って俺に時間割いてくれてたってそう聞いてる。】
・・聞いてるだけか・・・覚えちゃないのか・・。
都合いいよな・・・これまで放っておいた癖して。
【兄貴の時間ができたらまた教えて?その人・・来米してくれるんだったらあってみたい。】
「ああ・・そうしような。」
【じゃ・・また・・連絡して・・いい?】
・・・遠慮がち・・・か・・。
「いいよ。いつでも。また行違うだろうけどな。」
【タイミング合うまでかけるから。ありがとね。じゃぁね。】
「ああ。お休み。」

・・・優しいよな・・あんな事あったのに。
もっと早く・・動いてれば・・ってそれくらいのこと言ってもいいってのに・・何も言わなくて。
どこまで覚えていて、どこから失った記憶かは俺にはわからない。
それでも・・・もっと言いたいことあるんじゃないのか・・ミツ。

俺が頼った俺の友人・・実は元弁護士だ。
この件について、しっかり話をしたのちに、社長になってくれることを承諾してくれた。
何故弁護士を辞めたのかは・・分からないが・・
それで、金沢で改築中という、事務所になるあの建物も土地も、その友人の御実家のもの。
ミツには俺が話したことを、話さないようにと伝えている。
今カウンセリングを受けている話もしている。
ミツを守りキレる準備は進めているから、安心できるが・・まだ・・分からないということも聞いてはいる。
できることが少しでもあるなら、とにかく案を出していくくらいしか俺には今のところ方法がないな。

電話を終わらせて、このことを頭でまとめたところで・・気になった・・事が一つ・・。
あいつ・・ミツ・・俺を”ニィ兄”とは呼んでいなかった。
これまで・・俺の事・・・”ニィ兄”って呼んでたのに。

side:Yoshiki

仕事の都合でNYに行くことになり、時間的に余裕ができたんでトシの兄貴とと会うことにした。
トシからも、都合が合えばあってきてよって‥そういわれてたから。
何が都合が合えば・・だよ・・。
しっかりプレゼントまで渡されてさ・・これは半ば強制じゃないの。
そういう想いはあったものの、トシにとってはこの兄貴は信頼に値する存在だろうな・・。
都合が合わなきゃ、トシ兄の職場のフロントに渡すだけにしようと思ったんだけど、都合が付けられて会うことになったんで、直接渡せた。

「はい・・これ、トシからのプレゼント。中身は知らない。」
「そうか・・ありがとう。俺は何も・・」
「別にいいんじゃないの?」
トシ兄が予約してくれたという店で食事をしながらゆっくり話すことができた。
「・・調子はどうだ?ヨシキ。」
「なんの?」
「まぁ・・体とか・・気持ちとか・・」
カウンセリング受けてるのを光樹が話したのか・・それで。
「悪くないよ。寧ろ調子いいと思う。別に薬を飲んでるわけでもないし。でもやっぱり・・アレのせいもあるんだよね・・月一で貧血。」
「まぁそれは仕方ないな・・。」
「そうなると1週間丸々ダウンするんだよ。それまではブチぎれてて終わってたのに。」
「ははは・・・キレてるだけの方が・・周囲の方が恐ろしいだろうって。ア住んでた方がいいだろうな。」
「ああいう時に限って、なんでしょぼいミスをするんだろうね・・。ただでさえ機嫌悪いってのに。」
「怒りって・・なんとなしでも気が付くんだろうな・・お陰で不要な緊張が回り全体に走るから、普段以上に動きにくいんだよ。」
意味もなく怒ってるわけじゃない。
本当に怒らせて来る奴らがいるんだって。
そのことを・・トシ兄は理解してくれた気がする。
「・・言いにくいんだがな・・」
・・どうしたんだろう・・・
食事の手を止めたトシ兄。
「トシの様子・・変わったところ・・ないか・・?」
・・・変わったところ・・ねぇ・・・
何そんな深刻な変化なわけ?
対して変わったところなんて・・・
アレのせいで1週間も寝込んでた時は・・トシは献身的に俺を看病しながら自分の仕事を熟してた。
・・気になったところと言えば・・
「あ~~・・トシ兄・・なかなか連絡つかなかったでしょ?それでちょっと落ち込んだりはしてたんだ。心配してたよ。連絡来たことは嬉しかったのに、折り返しの連絡が付かないから・・困らせてないかって。」
「・・!!!」
「嬉しかったんだって・・俺も聞いてて凄く感じた。さすがに俺と光樹はそこまでの・・なんていうか・・感じじゃないんだよね。もっとあっさりしてて・・仕事の話でしか連絡しないもん。」
精神的にも頼れる兄貴が傍に居るって・・凄いよな。
それがまた身内なんだから。
「・・そっか・・。仕事のし過ぎになってないかって・・そういうことでは心配したんだが・・元気そうだったんで安心した。」
「そう?こっちでの仕事が増えてきてるのは確かだけど、トシは・・たぶん日本で仕事したいんだと思うんだよね。だから、あまり増やすなってはいってるよ?光樹に。頭抱えてたけど。」
「・・光樹が?」
「そう。頼んでないのに・・依頼が来るんだって。断れるものとそうでないものとがあるから・・増やすなと言われても増えるんだよって。」
会社的にどうしてもつなげておきたいパイプはある。
それを断るわけにはいかないのは、分かってるからその分だけにしてと俺もお願いした。
ただ・・これが・・どこまでに絞るかの問題になってきて、線引きが難しくなっているらしい。
そこは光樹の目分量の問題になるな。
知らないうちに、人気を集めているトシくん。
一体どういう仕事ぶりをしてたらそうなるのよ・・。
「新しいところから始めるんだって?日本での仕事。」
「ああ・・金沢だ。」
「そうなんだ。気持ちの入れ替えにもちょうどいいのかもしれないね。トシの家ももう・・決まってるの?」
「それは‥アイツにも物件を見せて検討させたい。事務所の建築デザインに対しては、あいつの意見を取り入れてないからな。」
「そう‥それどころじゃなかったからね・・俺もトシも。俺も遭いに行けるといいけど。」
「・・待て待て・・お前が行くと騒ぎになるからやめとけ。」
「ちょっとぉ~・・なんていいこと言うの?俺はただの人なの。化け物みたいに言わないで。」
「化け物とは言わんが、珍獣だろうが。お前があの街歩くだけで一瞬にして騒ぎになるぞ。」
・・・こういわれて喜ぶ人はいないって!
「何も向こうにずっと座りっぱなしってわけでもないんだ。都内での仕事もすることになる。その時に会えるだろうが。」
「・・そうかな・・・」
地方の方が会いやすいんじゃないかって・・俺はそう感じてたんだけどな。
だから・・金沢に個人事務所ができるって光樹から聞いた時は本当に嬉しかったんだ。
「・・・かわったな・・ヨシキ・・。いや・・戻ってきたんだな・・。」
「??何が?」
急に何を出だしたの?
戻ってきたって・・どういうこと?
「覚えてるか?中学入る前に・・突然俺の家に押しかけてきて・・ミツに爆弾宣言して飛び出して行ったこと。」
!!?
何てこと思い出してんだ?この兄貴は!!
忘れられねぇこと言いだして。
でも・・忘れる気なんてさらさらないんだよ。
あのときのことは。
「覚えてるよ・・たださ・・今言わなくてもよくない?それ・・。」
「わるい・・。あの時・・ミツは・・意味も分かって無くてな・・素直に母さんに”あれ・・どういう意味?”って聞いててさ・・母さんも母さんで”女性としての機能もあったって言ってるのよ”・・って・・その奥のことは何も考えようとしてなくてさ・・。ミツは”ふ~ん”って‥それで終わらせてたんだよな。ヨシキはかなり勇気が必要なことだったんだろうに気づかれてなかったって・・うちの家族・・物事を深く受け取らないのかもしれないぞ?」
・・・単純だってのは・・トシを見てて知ってた。
でも・・単純な捉え方が、俺には心地よかったりもしたんだよな。
ただ・・それが・・色んなことが交わってきて・・単純って知ってるからこそトシは慎重になりすぎてた。
アイツが慎重になればなるほど・・俺は・・ますます敏感になって行って・・必死になってたんだ。
「単純でよかったんだ。深い意味に捉えられてなくてよかったんだよ。これからも・・それでいいって思ってる。」
「ヨシキ。」
「音楽のことに対して思慮深さが残ってるんだから、それでいいの。俺のことに対してまで深く考えすぎてたらそれこそ迷走しまくることになるって。」
「そうだな。」
トシ兄が・・気が付いてくれてたんだから。
トシには、素直な捉えからされてたら・・それでいいよ。
いつか・・きっと俺は、また伝えることできると思うから。

「ヨシキ、ミツを頼むな。」
??なに?どういう事だろうか・・
ただ・・今は分からなくてもいいよね・・その意味。
食事を終わらせて、別れ際に、トシ兄が言った・・その一言がずっと頭のなかをぐるぐるめぐっていたけど、眠りにつくときには・・
いつか必ずその意味は見つけられるだろうってことで、終わらせた。

見つけたい・・・
トシに自分の気持ちを伝えられるチャンスも、トシ兄が言ってた言葉の意味も。

side:Toshi

「光ちゃん!!これ・・この仕事たち・・俺がしていい訳ないじゃないの?!」
仕事の内容の打ち合わせをしてて、驚いたんで、打ち合わせの後、社長室へ飛び込んだ。
後先考えず飛び込んだんで・・光ちゃんが電話中だったと知って、思わず飛びを閉めて出てきてしまった。
「・・トシ・・入って。電話終ったから。」
光ちゃんが扉を開けて中に入れてくれた。
全然待ってない・・つまり・・電話を終わらせたんだ。
「・・ごめん・・なさい・・」
「いや・・いいんだよ。話してたのは、ニィ兄だから。」
・・だれ?知り合いなのかな・・
「・・?!あ・・トシ兄ね・・」
「ああ・・そういうことか。」
「で・・なに?なんか問題があったの?」
「そう!!おおありだって。こんな大事な仕事・・ヨシキが行く所じゃないの?なんで俺?!言っても仮契約で入れてもらってるだけなんだから、こんな会社とのパイプが重要なポストの仕事なんて・・」
「トシ!!」
「はい。」
「仮契約じゃないの、期間限定の契約なの!金沢の個人事務所設立完了するまでの契約期間だって。その間は、この会社に所属する話だよね。」
「そうです。」
「だったら、この会社の仕事はしてもらう!」
「そうだけど・・・でも・・」
「でもも何もない!やるの。」
「・・だって・・その仕事したら・・何もかも俺は聞こえちゃうじゃないの。この会社の裏事情まで知ったら・・」
「それでいいんだよ。これまでトシは何も知らなさ過ぎてる。それを知ったうえで、自分とこの個人事務所を立ち上げて社長代理になる人とちゃんと話を進めて行ければ、絶対に維持していける。」
「・・・」
「利用できるものは何が何でも利用して進めていく必要がある。俺も兄貴も、それでいいって言ってんだから、トシが躊躇うことなんてないんだって。そのお陰で、ヨシキには他の場所での仕事もさせられるし、助かってんだよ。なんせ・・アイツこういう仕事を極端に嫌ってやらないんだから。」
「!!!?」
「トシがいるからやらせろと・・。全く誰の会社だってんだよな・・。まぁそういうわけで・・ヨシキが毛嫌いしている仕事をトシに任せるってのも悪い気がしてるのは本当だからこそ、つかめるヒントは掴んで来いよな。絶対にトシの今後の役には立つ仕事ではあるのは確かなんだから。」
「!!!はぁ~~!!この会社の役に立てるならやってくる!ありがとう。」
「・・・それならいいの・・じゃ・・いいけど・・。」
この会社の役に立てる仕事でもあるなら、絶対にやり切ってこよう。
非公開の仕事の方が実はとても大きな仕事だったりする。
今回の仕事のほとんどがそれ。
なので精神的な圧力はものすごいことになってるけど、この会社の為なら!
それに・・ここのスタッフさんたちともけこう仲良くなれて、信頼できる人達に囲まれてるから、相談もしやすくなった。
なにかあればすぐに相談しよう。

『トシ!!大丈夫ですか?急に駆け出していくから・・探しましたよ。』
そうだった・・・どこへ行くとは言ってないんだから・・探すよね。
『ごめんなさい。社長室へちょっと・・』
『それじゃ見つからなかったはずだわ・・玄関とかフロントとか・・そっちだもの・・探してたのは。』
・・出て行ったと思われてたのか・・・。
『この仕事衣装のことで・・・準備・・したいんだけど・・』
『そのことでしたら、すでにこちらで用意していますからご安心くださいね。』
『え?!』
『・・全く・・・ヨシキには驚かされるわ・・トシに全部丸投げしてその衣装は俺が面倒見るからって・・・だったら仕事そのもの面倒見てよって言いたくなるでしょ?』
・・・責任者に対してこの言いよう・・・
余程の不満をお持ちのようですことで・・。
『まぁしょうがないでしょ・・この仕事ずっと避けて通ってきてますから・・流石に今回は断れなかった社長の気持ちも分かりますって。』
・・・それでずっと・・・手を付けられないまま放置・・
やってることがX のと何も変わらないじゃないの・・ヨシキさん。
『それで今は、新しくメンバーに入る人と会ってるんでしょ?トシにこの仕事押し付けて。』
『・・トシはすでにそのメンバーを集めるために動いてたからね・・』
・・・そうだったかな・・・動いてたことあったかな・・
覚えてないんだけど。
『ちょっと!!!それは禁句・・』
禁句・・・?ヨシキがメンバーになりそうな人と会ってることが?
あ・・まさか日本に??
『別にいいよ・・・ヨシキがお払い箱した仕事俺が受け持つくらいいつものことだから。』
『・・・それもそれでどうなんです?』
本当にヨシキはヨシキなんだから。
厭なことはどういう手を使ってでもやらない!
それがここまでの地位を築き上げてるんだから、できることはどこまででもやり切ってる証拠なんだって。
だったら・・俺はできることを幅広くやっていければそれでいいよ。
『衣装の準備は・・もうデキてるの?それともこれから・・』
『もうできています。・・今日必要なのにこれからって・・あなたも暢気すぎですよ?』
呑気にもなりますよ・・・ヨシキを相手にしてるんだから。

今日から早速始まった第一発目が社交界・・
ここで、曲を披露するって事で呼ばれて交流も。
見るからに豪華な人たちの詰まりにめまいが・・・。
映画のワンシーンだって・・これ・・。

初めて見る光景・・こういうのヨシキ好きなんじゃないの?
なんで来なかったんだろう。

スタッフさんに連れられて、沢山の人を次々と紹介されて、挨拶して会話もさせてもらって。
覚えきれない・・・人の顔と名前・・・。
それでも・・
『あ~・・ヨシキの・・じゃぁ・・車にも君も詳しいの?』
『・・申し訳ないのですが・・そこまでは・・ただ好きですよ。』
『そうか・・じゃぁ・・』
英語がそこまで能力があるわけじゃないけど・・なんとなく話す単語一つ一つで、その人の人柄が見えてくるようにはなった。
俺に物凄く人たしく話してくれるこの人、余程ヨシキと仲がいいみたいで、ヨシキの子も見の車のことを熱心に語ってくれてる。
『・・トシ・・そろそろ別の方のところへもご挨拶に・・』
『・・そっか・・では・・そろそろ別の場所にもご挨拶へお伺いしてきます。また後程お話伺いに来ますね。』
『ああ・・楽しんできて。』
・・なにも腕を引っ張らなくてもいいのに。
そんなに焦っていろいろ回らないといけないの?
『あの人には気を付けてください!』
『え・・?なんでいい人だったよ。俺の英語、堪能じゃないの併せて話してくれたし。』
『トシ!!なんでも信じちゃダメ!危ないの!!それがアイツの手口なのよ。あれは完璧あなた狙いね。ヨシキをダシにしてあなたを引きつけるつもりだった。』
・・そんな人いるの?!
『ヨシキとも相当仲がいいんだね。』
『天敵です!』
『・・・え?!』
『参加するメンツはこちらで把握してたんですけど・・どうやら突然の参加だったようですね。こんなことなら連れてきちゃいけなかった。』
・・・何が起きてるんでしょうか?
『いい?絶対に一人にならないでください!トイレだって、男性スタッフと同行させて。分かりましたか?』
『はい。』
・・・もう・・大袈裟なんだから。
既に・・10人がおつきで・・・人に囲まれているのに。
それだけでもお初の事だんですよ・・俺にとっては。
それなのに・・これだけの膨大な人数の方たちとお会いして・・
疲れちゃうって!

ステージに上がってる時だけが唯一一人になれる時間だった。
ステージの上で披露した曲は、ヨシキが作った曲が二曲と・・俺自身のソロの曲が一曲。
Xの曲の間にソロ曲を挟んで披露した。

それが終わると、ステージ下りて・・また合流したお付き人の方々。
はぁ~~・・・一人に慣れる時間はここにはなかった。
それでも・・恐ろしいことに・・ステージが終わればいつも来る精神的な緊張が・・今回はなく・・・
ただ人が多すぎるというだけに見えた。
・・ステージ前の方が緊張してて・・終わったらこの人混みが・・平気になってる・・。
これまでになかった感覚に驚いた。

『やぁ・・トシさっきの演奏はすごくよかったよ!』
あ・・さっきお会いした・・!!?
『トシはこれからまだ挨拶があるのでこれで。』
・・・間に入って止められた。
一言お礼をって思っただけですけど・・それもダメ?
『そこまで警戒しなくても・・』
『甘いんです!あの人・・男を落とすのが上手いので。』
・・・
『それって・・・男の人が好きって事?』
『いえ・・恋愛感情なんてものはありません、あの人。』
スタスタと足早に歩くスタッフさんたちに付いて行きながら話を聞いてる。
『恋愛感情もないのに・・なんで・・』
『ライバルを陥れるのが好きなんです!』
『・・それって・・どういうこと?』
漸くたどり着いた、俺たちの席。
参加者全員決まった席がある。
そこで落ち着いた。
『いいですか?ヨシキが天敵だってさっき言いましたでしょ?そのヨシキの精神的ダメージをあの男が狙ってるんです。』
『・・なんでそんなことするの?』
『自分が優位に立つためです。』
でも・・それって・・・あの人はヨシキを認めてるってことだ・・。
あの人・・さっきスタッフさんがエクゼクティブって・・
『ヨシキその人の眼中に入ってるって事だよね?!それってすごいことだよね?!』
『・・トシ・・あなたって人は・・・』
『社長が・・この人から絶対目を離すなといった理由が分かるわ。童心すぎるのよ。』
『・・・手は焼けませんけど・・手がかかりますね・・』
すっげぇ~~・・ヨシキの立場ってこうなんだ・・。
そんな仕事を俺が代わりにするって・・できる気がしないって思ってたけど、絶対にやり遂げて少しでもこの会社の役に立たないと、ヨシキが大変な思いをすることになる。
大変だけど、その中で俺ができることを見つけて行こう!
『・・トシ・・何考えてるんでしょうかね・・』
『なんか知りませんけど・・目がキラキラしてますね・・』
『なんか楽しみになってきた!!』
『だめだ・・これ・・なんかスイッチ入ったわ。』

side:Kohki

ミツ兄・・言わなくていい事と言わないといけない事の区別をしてから話せよな・・・って報告で頭が痛くなったところだった。
ただ・・トシはこの仕事の意味をちゃんと理解したようで、がs全やる気を見せてきたことは、素直にうれしくなった。
兄貴じゃこの仕事そのものを嫌がるんだもん。

で・・・ミツ兄の報告受けてミツ兄は家に帰してすぐに呼び出した、おつきのスタッフ10人に怒鳴るしかなかった。
『なんでちゃんと確認しない訳?ほかにもいたんじゃないの?!少しでもおかしな奴がいたら参加させるなって言ったよな?!』
『そうですけど・・リストに上がってこなかったんです。』
ギリギリに参加する人数が・・5人もいたなんて。
その5人がすこぶる怪しい自分つばかりだったとは・・。
恐らくこちらのリストに気が付いたから入ったかもしれないって事か・・。
はぁ~~・・・まだまだ気が抜ける状況じゃないってことな。

少しでも穴を見つければ、そこを突いてくる。
はっきり言って・・この立場になると・・ジャンル関係なしになるんだだよ。
どこからでも目を付けられてしまう。
全く・・ミツ兄のあの純粋無垢過ぎる性格ゆえに狙われやすいのは確実。
なんであんなに人懐こいのよ。
誰でも骨抜きにさせる性格してんだから。
『護衛増やしますか?』
・・・今のところ・・SPを女性にして4名付けている。
こう言ってるこの人もその一人だ。
女性にしたのはその方が、ミツ兄の方が緊張しないで済ませられる気がしたから。
なにかあった時には・・・持ち運べるくらいの体格の人の方がいいんだけど、そうなれば・・確実におびえるのは分かり切ってる。
ヨシキにその人が3人付いた時には・・怯えてたからな・・
まだ・・治療中の身だからこそ・・今は避けておいた方がいいかもしれない。
『いや・・このままでも十分だろう。ただし目を離さないで。』
この時期、本当に多いよな・・
サミットだ、祝賀会だ・・と集会がさ。
ヨシキが自分でこの立場にまでなったんだから、ヨシキが本来は参加することだって思うけど、少しでも早くXメンバーを集めたいってんで今は奮闘中。
あっちもカウンセリングセラピストと、SPそしてスタッフ数名を連れて歩いてんだからこっちはこっちで強化しとかないと。

『あの・・・』
もう解散させたはずなのに・・まだ一人残ってたのか・・
『どうした・・?』
『・・これは・・仕事とは関係なことですけどいいですか?』
『ああ・・なに?』
『最近・・おかしいなって・・思うんですけど・・トシもBOSSも・・。』
まどろっこしい言い方するな・・まるで日本語のような・・。
『何がおかしいの?』
『トシには二人お兄さんがいます。ですが一人しかいないみたいな言い方なんです。』
!!!
『今日・・車の中で、”兄貴が”って・・”どっちのかわからなかったんですけど話を聞いてて、二番目のお兄さんだとわかりました。もしかしてトシは・・BOSSもなんですけど・・』
『ああ・・そういうことにしておいて。今は。俺もそれが引っ掛かったけど、そのことは今は何も言わないようにしてやって。』
『分かりました。ありがとうございます。』
・・パタン・・
ふぅ~~・・。
出ていくのを目だけで見送って、ため息がでた。

今は・・・イチ兄の存在を二人そろって消しているんだ。
・・・ニィ兄からもこの話を聞いた時、にわかに信じられなかったけど、ミツ兄の話からも・・”俺の兄貴”って言葉を直接聞いて、兄貴からは・・”トシ兄”って・・・はぁ・・今はきっとその時期なんだろうな。

いつか・・きっと・・見つけられるようになると思うよ。
今はこんなでも。
ミツ兄には・・二人兄貴がいるって‥必ず見つけられるから、イチ兄・・もう少し時間やって。

イチ兄を想うとやるせなくなる・・。
俺も・・兄貴に俺のこと忘れられたら・・苦しくなるじゃすまない感覚を覚えるっての。
それがニィ兄にもわかるから俺に連絡してきたんだ。
でも・・これをどうにかできるのは・・ミツ兄自身でしかない。
待ってるしかない。

ただ・・どういうわけか・・
兄貴も同じことに・・・なってた・・。
気が付いたのは‥前回・・帰国して戻ってきたときだ。
その時にはすでに、”トシ兄”ってしか言ってない。
ミツ兄は・・漸く連絡が取れたって報告をニィ兄にできたって喜んでたと・・俺は兄貴から聞いた時に、”トシ兄”ってこと言ってたんだ。
それで確認の為にニィ兄に連絡しようとしたら、ニィ兄から連絡が来て・・
俺の事しか記憶にないんじゃないかと・・ミツ兄のことを心配してたな・・ニィ兄。
・・・二人がこの話を合わせたようなタイミング・・悪いけど作ってない。
あのときはトシ自身も、泊りがけで仕事してもらってたから。
一人にさせたくなくて・・スタッフと同室になる様に仕向けた。
・・・あの二人・・・
繋がりが濃すぎやしないか・・・?
想いがいっしょって・・こと?!

・・・守るべきものがまた一つ増えてんじゃんか・・。
俺の手一つじゃ手に負えねぇって・・。
早くこっちの世界に来いよな・・ニィ兄。


 






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