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まもりたい2-9

side:Toshl

これは、またド派手にしてくれたな、ヨシキ…
この大惨事、ファンが見たらドン引きされるよ、これ…

ヨシキのお風呂上がりの状態が、とても酷い。
どうして脱いだものをあちこちに散らかすんだろう。
まぁいいんだけど、僕は慣れたから。
下手に全部洗濯機の突っ込まれた方が後で面倒だし。
「はぁ~…」
受け入れるだけ受け入れたつもりでも、深いため息が出てしまう。

入浴が終わったヨシキは、今電話中。
ずっと話し込んでいる。
食事の後始末を済まして、僕もお風呂の準備をしに来たら、この状態だった。

こうなった理由を探るのが、僕のちょっとした楽しみになている。
理由① 突然キレたて暴れた。
ヨシキの性格からして、今のこの状況はキレてるなんて当然だろうから、全然不思議はない。
理由② 躓いた。
電話の音が急になったから、そのことしか考えられなくなり、足元だろうが、自分の状況だろうが見えてなかった。
たまに手に持っているのも忘れて電話を取るのに水が入ったグラスを落としていることもある。
この場合、手首の不調が原因かと心配になったことだって、実際に何度もあるから、軽く見過ごせない。
理由③二匹のワンコたち。
扉開けっ放しになってたし、二匹のワンコの玩具にヨシキの衣服が使われたのだとしたら、ヨシキも被害者だ。

どれか正解があるかな?確かめに行こう。
電話終わったかな?

そんなことを考えながら片づけを済ませて、自分のお風呂の準備も済ませた。
ヨシキは寝室で電話をしていたから、様子を見に行くことにした。

「ヨシキィ~?」
寝室の前で取り敢えず呼んでみた。
電話中なら返事がないはず。
「なに?」
扉を開けて返事を返されて、驚いた。
「あ!…電話終わったの?」
「うん、さっき済ませた。」
ヨシキを見て何か違和感を感じた。
何だろう…
「日本で仕事が決まった。もうあと5日間、こっちにいられる。」
「はい?」
違和感てのは、そっちじゃないけど、違う意味で驚いた。
「まだいるの?」
驚きすぎて、言葉を間違えてしまった。
”まだいられるの?って言いたかったのに。
「うん。ここから通うから。」
「そうなんだ…」
細かいことは気にしない性格だな、ほんと。
言うだけ言って、僕を通り越して、テクテクと歩いて行く。
行く先は…
「あれ?トシィ~、俺の着替えとタオル、ここに置いていたの、知らない?」
「洗濯機に入れたり、クリーニング袋に入れたりして片づけたよ。」
「ええ~?まだ、俺風呂に入ってないのに。」
それだ!髪が濡れてない。
この人ドライヤー嫌いで、髪を乾かすはずがないのに。
まだ入ってすらいなかったから、乾いてるんだ。
「じゃ、何で、脱ぎ捨てて散らかしてんの?籠も倒れてるし、大惨事だったんだよ。」
「知らないよ、俺。」
答えは③だったか。

姿が見えないワンコ二匹は、逃げたな。

「トシが入るつもりだったの?」
「うん、でもヨシキ入りなよ。タオル、これ使って。下着の用意はいまするから。」
「じゃ、一緒に入る。」
ん?また日本語間違えてるよ、この人。
「一緒に入ろうとは誘ってないよ。」
「俺が誘ってるの。」
分かってはいましたよ。軽く断るつもりで言ったんです。
通じなかったみたいですね。
「ほらほら。」
と、腕を引っ張ってい聞かれてだ脱水場へ連れ込まれて扉を締められた。
「…」
「何してんの?早く脱ぎなよ。」
何でこの人ってこうなんだろう。
もう慣れてもいいころなのに、何で、僕ってこうなんだろう。
ヨシキが何も動かない僕の服に手をかけてきたので、慌てて止めた。
「分かりました、自分でできるから!でもその前にタオルの用意する。ヨシキ、先入っててよ。」
「早く来てよ。」
もう60にもなろうってのに、この状況で照れてる僕が変なのか、未だに一緒にお風呂に入ろうというヨシキさんが変なのか…
そう思いながらタオルをもう一組用意して服を脱いでいた。

体を洗っているヨシキの後ろで、湯船からお湯を汲み僕は軽く体を流してお風呂に浸かった。
身体を流し終えたヨシキが入ってきた。
「ね、ヨシキ?」
「ん?」
「お母さん体調よろしくないの?」
「なんで?」
ヨシキのことだ、日本で仕事するなんて言い出したら、仕事はいくらでも来るのは、分かる。だからこそLAでだってヨシキを待っている仕事があるはずなのに、こんなに長く滞在させるってことは、やはり理由はこれだろうと思ったんだけど。
「日本にこんなに滞在してたら、LAの事務所スタッフだって、困るだろうし、ヨシキの仕事、滞ってない?」
「う~ん…」
緊張感のない声…大丈夫なの?この人。
「今度いつ来れるか分からないから、居られるならいられるだけいたいんだよね。」
「そうなんだ…」
「あー!!また変な思い込みしてんだろ?」
「してませんよ!」
ヨシキさんが言う”変な思い込み”が一体何なのかしらりませんが。
「ただ、今はお母さんが元気なら会える時にに会っておきたいって言う気持ちはよくわかるよ。」
「…トシになんだけど。」
……どうしてそう、どストレートに言えるの?この人。
そこはお母さんってことにしておいてくれればいいのに。
充分わかってますから。
どう答えていいのか…
日本語が分からない。
”そりゃどうも”なんて言い方したら、拗ねるのは分かるし…
拗ねたら何をしでかすやら、分かっているから拗ねさせたくない。
こうなったら…
「じゃぁ、夕飯はヨシキのおごりだね!!」
どっぷり甘えるしかない。
「ん?」
「だって、朝ごはんと昼ご飯は、僕が用意するんだから夜ご飯くらいお世話してよ。」
「そういうことね。分かった。いいよ。」
「ありがと。」
何とかうまくごまかせたな。
長年、ヨシキの鬼のしごきに耐えたお陰で声色を使いこなすのもお手の物になった。
あの頃のことを思い出すと、もう二度と戻りたくないけど、あの時の僕自身に感謝だわ。よく頑張ったな、俺。
「じゃ、次僕が体洗ってくる。」
「うん。」
湯船から出て、シャワーを出して体を洗っていると、何かくすぐったいぞ…?
「!!」
「…」
「何してんの?」
「背中洗うの手伝いたくて。」
「ありがと。じゃ、やって。」
素直に好意は受け取ることにしている。
そうできなかった時もあった。ヨシキが直ぐに別の行為に走ってしまっていた時は。でも今はそう言うことがなくなった。
その理由は…
「じゃ、トシも俺の背中洗ってよ?」
「いいよ。」
ま、年齢的なものもあるし、他の理由もあったりするんだけど。
それは、考えないでおこう。
「トシ、何緊張してんの?今更。」
「!してません!!」
ついムキになてしまった。
「え~?嘘つかない方がいいよ。すぐにばれるんだから。トシを知らない人でもトシの嘘は見抜けると思う。」
どんな人間だよ、僕って…
そう思いながらも、黙っていると、ヨシキの額が肩に乗っかかってきた。
「…ヨシキ?具合でも悪いの?」
眩暈でもしたんだろうか?
振り向きたいけど、下手に動かない方がいい気もするし。
「立っていられる?声出せる?」
できる限り刺激しないように静かに話しかけているんだけど、耳が良すぎるヨシキの耳には、この距離だと僕の声は、響くだろうな。
「…トシ…ひどい…」
え?なに?何て言ったの?シャワーの音で、ヨシキの声が聞き取れなかった。
シャワーを止めてもう一度聞いた。
「何て言ったの?今。」
「…ひどい、トシ…。」
どういうこと?
「背中、洗いたくなかったんなら、別に…」
「バカ、鈍感!」
ヨシキさん、悪口言うにしてももっとわかりやすく言って。
全然意味が分からないから、どうすることもできませんって。
「どうしたの?」
「……」
ちょっとの間があったと思ったら、ヨシキが僕に体中を押し付けて来て…
「!!」
あ!今分かった。
…ヨシキが反応してた。
……
……
「ヨシキ?」
「…トシは俺に触りたいってもう思わないの?」
こう聞かれて、ショックだった。ヨシキにはこう思われていたということがわかって。
決して思ってないわけじゃない。
本当は触れたいよ。でも…
「ごめん。自信ない…」
男としての機能がなくなったわけじゃない。そういう意味じゃないけど…事情がある。
「何で?」
その事情を作り出した元凶は、あなたなんですって。
「…僕、ヨシキみたくできなくて…」
そうなんです。
ヨシキが何故だか知らないけど、僕の体の痣が全部消えてから、ヨシキが言い出した。
”ポジションを変えたい。命令するのもうやめた”って。
その意味が分からないまま、ヨシキは、誘ってくるけど、所謂”受け”になり、僕が”攻め”る方になった。
最初のうちは、それでもヨシキのやり方そのままを、体が覚えていたからできていたが、会えない日が多くなり、時がたつにつれ、やり方がわからなくなっていって、自信がなくなり、そういう行為をできるだけ避けてきたんだけど…
ヨシキだって誘ってこなくなったから、そういう感覚が薄れて行ったんだとばかり思っていたのに。
…そうじゃなかったんだ…
「…やっぱりトシ、ヒドイ…バカ。」
言葉のレパートリーが少なすぎて、何が酷くて、何がバカのか全く分からない。
「ごめんバカで。でも分からないからもう少し説明してくれる?」
「トシに抱かれたいって言ってんだから、俺みたいにすることないってんの。」
ヨシキの開けっ広げた言い方じゃないとさすがに分からなかったと思う。
聞いてて恥ずかしいし、言われてめちゃくちゃ照れくさいけど、こういう言い方は、あなたにしかできないでしょうね。
そしてあなたのその言い方しか僕には伝わらなったでしょうよ。
だからと言って、ここでするのはさすがにヤダ。
「…じゃ、部屋でしようよ。」
「ここでもいい、俺…」
うん。限界来てるのはよくわかりますが。
「俺は、やだよ。」
「トシぃ~…」
「俺のやり方で抱かれたいんでしょ?だったら、我慢してよ…ね?」
「…ん…」
しぶしぶ離れた。
ヨシキの体洗ってあげるって言うのも、このままの状態だと焼け石に水を差しそうなので、僕は一人先に上がることにして、着替えをして待っていた。
待っていたって言っても、髪を乾かしたり、スキンケアしたりしていたらヨシキが出てきたってだけのことなんだけど。
ヨシキは、体も拭かずにガウンだけ羽織って、僕のところまできた。
「ドライヤーして。…首と手首が痛くなるから…」
もう、いじけた子供みたいになっている。
「え?そうなの?初めて聞いた。」
「…初めて言ったもん。」
そうですか。
音が嫌いなんじゃなかったのか。
それじゃ、確かにやりたくないよな。
「もっと早く言ってくれれば、手伝ったのに。」
「…触られると困るときもあって…」
はいはい、男の事情ってやつね。
相変わらず、元気だな、この人。
だからこそ余計に気になる。
どうしてポジション替え何てしたんだろう…
体の負担がかかるのは、”受け”ている方だし、首の負荷だってかかるのに。
聞いていいのか悪いのか、全く判別付かないんだけど。
チラチラとヨシキの表情を窺う素振りをしているのは、自分でもよくわかるんだけど、気になることは徹底的に気になる性分なのは、ヨシキもよく知っている。
「トシ、納得いかないことをやれって言われてできるほど器用じゃないんだから、聞きたいことあるなら言えよ。」
鏡越しにばっちり目が合って、はっきり言われた。
確かにこのまま行為に走るのは簡単だけど、絶対僕が最後までできる気がしない。
「じゃ、聞くけどさ、何で?」
「…」
「何で、ヨシキはポジション替えをしようなんて言い出したの?」
きっとヨシキも分かってたんだ、僕がこのことにずっと引っかかっていたことを。
目を逸らすことなく、僕をまっすぐに見ていくれていた。
そして思いがけないことを口にした。
「トシが誤解しているだけだったから。」
どいうこと?
まだ続きがあると思って黙ってヨシキを見ていると、僕に向かってヨシキの方が首を傾げて見せた。
無いのか、続き…
「誤解って何でしょうか?ヨシキさん。」
「だって、俺がトシを支配しているって、思ってなかった?本当は逆なのに。」
「それの何が誤解なの?」
「…」
「エ?エ?ヨシキ?」
顔を両手で覆って、首を俯けてしまった。
「だから、ヒドイ、バカって言ったんだ。」
そこを言ってたの?
知らなかった。
風呂場で聞いたときに理解できたのは、鈍感だという意味にしか受け取られなった。
でも、鈍感なのはお互い様だろって、思い返すこともできたから、引きずらなったんだけど…
そう思っていたら髪が乾いていた。
「ヨシキ、この事についてちゃんと話そう。そうしないと僕、ヨシキとは、こういう意味で向き合えない。」
ヨシキは、両手を顔から離して、俯いたまま小さくうなずいてくれた後ゆっくり立ち上がって寝室へ向かって動いた。
僕は、タオル二枚を洗濯機の中へ入れて、洗濯機のスイッチを押してから寝室へ入った。
途中、リビングのワンコの寝床から二匹が顔をあげて僕を見送ってくれた。
寝室に入ると、ヨシキが、ベッドの上で上半身を起こして布団に入っていた。
僕も同じ体制をして、話の続きを聞くことにした。
「それで、ヨシキは僕に支配されているってことを知らないってことを、僕に言いたかったってことでいいの?」
この解釈で合っているかどうかは分からないから、確認した。
「…上手く言えない…」
どういうことだよ…話を振り出しに戻すな。
「支配されているって…感じたことないからわかんないけど、支配されたがっていると思っている…」
たどたどしい話し方で、あどけないけど、ちゃんと伝わった。
僕だってヨシキを支配できると思ったことさえない。
「それがヨシキの希望ってことね?」
「うん。」
そこははっきりと言い切るのね。
「前にさ…ずっと前に、トシが体中に痣と蕁麻疹ができていた頃、自分の身体を見るたびに、ずっとこの記憶しか残らないって苦しんでた。ようやく声が戻っても、また声を無くすんじゃないかって本当にそう思っていたんだ、俺…そんなことになって欲しくなくて…だったら一層のこと、俺のものにしてしまえって考えるようになった。俺がトシを傷つけて、壊しちゃえばこれまでと同じ、解散前の状態と同じになるって。」
ヨシキが言う解散前の状態…つまり僕の恐れの対象がヨシキになるということ。
それをヨシキは実行に移して、僕を抱くようになった。
この時は、ヨシキは僕に気持ちなんか一切伝えてこなかった。
「そのために、俺は自分の気持ちごと消すことにした。こんな風にトシを追い詰めて壊したのは俺だから、この気持ちは絶対に伝えないって決めたんだ。トシが…もしも…あの頃のトシが戻ってきたら伝えようってことだけは胸にあった。」
「あの頃の僕に戻るって希望があったの?」
「…」
ヨシキは何も言わず、ただ、じっと僕に視線を向けた。
「ちゃんとあの頃のトシだったよ。最初から。」
「ヨシキ…」
「根本的には変えられてしまっていたかもしれない。けれど本質は全然変わっていなかった。ステージに上がるのが怖いって気持ちがありながら、そのステージの中で精一杯楽しんでたり、まだ割り切れていない”過去”を必死に笑い飛ばそうってしているところとかも。誰が見ても痛々しくしか見えないことも、笑顔で平気そうにして周りの人を安心させるように努めていたりしてたのだって、ずっと昔から変わってないでしょ。」
「ヨシキはそういう風に見ててくれてたんだね。」
「そういう風にしか見えなかった。だから何も見ないでいいようにしたかった。トシ以外何も見えなくて何も知ることもないようにさせたかった。そしたら、トシが”そうしてよ”って言うもんだからさ、俺おかしくなったみたい。」
よく覚えてる…ヨシキだけになればいいと強く思っていた時のこと。
ヨシキといれば間違いなんて絶対にないって信じ切って、安心して傍に居た頃のこと。
ヨシキもそれを望んでくれているなら、そうしてよって、心からの叫びで。ヨシキにそう言っていた。
「どうおかしくなったの?」
「トシを見失っていた俺を見つけたの。」
「どういうこと?」
「本当のトシは、まだ戻ってきてなかった。ううん、本当のトシは俺があのままじゃ戻ってこないって気が付いたの。俺の中で知っているトシの姿って、何をしていても俺を支配していたってことに気が付いた。」
一瞬悔しそうに眉間にしわを寄せたけど、直ぐに穏やかな表情を浮かべてきれいに笑って見せながら話を続けた。
「曲作りはもちろんそうだけど、トシに歌の指導している時も。あの苦しみに挑み続けたレコーディングの時でさえ、俺はトシの声に支配されていたって気が付いた。トシが俺を支配させてた。完璧にできるって自信をくれてたって気になってた。勝手な思い込みなんだって気づいたときには、トシはもういなかった…」
ヨシキは膝を曲げてそこへ額をうずめた。
「その”支配する”ってやり方をもう一度したところで出てくる結果は同じだったんだよ。」
「だからヨシキは僕に支配されようって決めたの?」
「だから、そこが誤解なの。本当は俺がトシに支配されていたんだから。トシを支配するなんて最初からできなかったんだって。思い違いをいつからかしていたのは俺自身なんだけど、思い違いをさせたのは、トシなんだからな。」
…途中までは本当にヨシキの言葉に感動して聞いていた。
けれどさすがヨシキさん。
あなたが勘違いを起こす切っ掛けを与えたのは僕だと言い出してきた。
「リーダーに対して”俺が支配者だぞ!”って言える人いないって。相手ヨシキさんだし。」
「だから、俺が、トシに対して、そういう風に仕向ければいいと思ったわけ。」
「僕の意識改革を計るための戦略だったということなの?」
「そういうことになるかな。それに俺元々が”button”だもん。」
ここへきて初めて聞いた。
僕からじゃこんな話、絶対にしない。
「あ、誤解しないでよ。男との経験が最後まであるってわけじゃないんだから。」
… … なんか微妙な言い方をされたような気がした。
気になるけど、聞いていいのか、いけないのか…
「まぁた、そうやって気にしてないふりするし。いいよ。トシにだから話すんだからね!」
ちゃんと聞けよ!という感じで人差し指を立ててきた。
この場合は、仕方ない。辞めさせずに受け入れた。
「はい。」
「最後までした経験があるのは、女性だけ。でもそれを見ていて、俺、こっちの方かもしれないって感覚に変わっていったの。」
ヨシキの感覚って、どういう方面でも、常人の感覚を飛び越えてくる。
「それで、俺がもし、してもらう立場なら…て考えてしてたの。その相手がトシになっていることに気が付いたときには、トシとはもう会わないと自分で決めてた頃でさ、”何をいまさら気が付きやがって”って心底先が見えない心境になってた。」
ヨシキが言っているのは、解散した後のことだ。
hideを失って、新生X JAPANの希望が無くなったあと、プロデュース活動にだけ力を入れていくことになったことで、知り合う歌手やアイドル出身のアーティストは多かったらしい。
それは国内に限らず海外からの要望や要請があって、片っ端から受けていたってことは、ヨシキから聞いていて、その頃が一番心を無くしていたと言っていたのを思い出した。
「だからってさ、心の隙間ができたから、トシを恋しがったんじゃなくて、気が付いちゃったら心の隙間が溝とか崖になってしまったの。」
ヨシキは、誰かを抱いたことで、本当は自分がどうされたいかを知って、その相手が僕だったことも分かった。
そのころには解散していたし、僕とは全く関係はなかった。それによって、最初は心の小さな隙間だったものが、溝となり崖になっていったことで、自分の気持ちがわかったというのか・・・
ヨシキの恋愛相談をhideにしたけど、全然乗ってくれないって、”姫”時代に一度だけ僕に話したことあった。
一体、どいうことかと、hideに聞いたら、”よく分からない感覚だもん”って返ってきて何も返せなかったなぁ…
それが今、やっとわかった。
この人、たぶん行動と気持ちの順番が違うからhideさえも理解できる領域をぶっ飛んでいたんだ。
若気の至りってこともあったんだろうな、ヨシキだってそんな深い自分の心理には気づかなかったから、hideには説明できなかったってわけか…
「これで、このことに関しては全部話したよ。だから、今度は俺が言いたいことある。」
しっかり目を見てこられてまたもや、何を言うのかと身構えた。
するとすぐに目元が和らいで、
「トシが俺を女扱いした方がやりやすいならそうしなよ。そのためにこういうイメージに変えたんだから。」
!!
…っと、やっぱりヨシキさん、あなたって人は。
少しづつ雰囲気が変わっているのは、誰しも知っていることだった。僕は、それを人称えに聞いて知った・・だとしてもその理由がまさかソレなんて僕も知らない話だった。
「気が付かなかったの?初めてトシに抱かれてから変えてきたのにぃ~シクシク…」
このぉ~ウソ泣き男!!
でも、気が付かなかったのは本当です。だから…やっぱり謝ろ。
「ごめん。」
「じゃ、慰めて!」
顔近づけ過ぎってくらい近づけて、色っぽくにっこりされてしまった。
ここまで来たら、これまでのヨシキならキスしてくるのに、そこで止まって、僕を見つめてる…


俺から動けと言いたいのね…
こういう行為から敢えて避けていた上に、会えることそのものが少なかったため、本当に何年振りかのキス…を、僕からして、その日久々にヨシキのきれいな泣き顔と声に魅せられた夜を過ごした。

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