
見つけたい4
「ヒデです!今日は・・智!のお話だね。どう?こうやってお話の主人公なるの。初めてじゃないの?」
「・・初めて・・って事でいいの?・・前に・・”まもりたい”とか色々・・やったことはあったんだけど。」
「そうだね・・・って・・・”愛しています”でもやってたわ。思い出した。別のところでも、やってんだよね?」
「そうそう・・実はね。」
「智ちゃんとは、最近何にも話してないね。」
「・・おめぇが逃げんだろうが。」
「なんで俺が逃げるのさ?絡んでこないのは智なのにぃ~!!」
「・・話すことねぇんだろうな・・うん・・うん。」
「納得してんじゃねぇよ!!」
「で・・今日は・・そういう話になるの?」
「違うでしょ・・・あなたがトシ君と出会ったときの話。」
「あ~~・・あれはねぇ・・」
「本題で話せ。」
「あ~・・はいはい・・」
side:Tomo(PATA)
「なぁ・・自分の親が激落ち込んでるのを見たことあるの?智は。」
「ああ?」
ヨーロッパツアの3日目を終わらせたホテルで、シャワーを終わらせて寝転んでいると、同室になったヒロが声を掛けてきた。
一体なんだってんだ?
落ち込んだ親の姿かぁ・・・・
疑問には思いながら、素直にその時のことを思い出した。
思い出そうとしなくても、すぐに浮かんできた、あの時の事。
俺が中学のころ、うちの父が亡くなった。
普段からちゃんと健康には気を付けて、病院通いをしては検診を受けていた父だった。
なのに、突然体調が悪くなり、病院を変えて検査してもらうと・・
出た結果が末期の膵臓癌・・・余命数か月という結果だった。
その結果を父は、一人で抱えて誰にも言わずにいた。
本格的に悪くなってきて、入院を余儀なくされてから医師から母が聞いた。
父が入院している間は、泣きまくって過ごしていた母が、父のお葬式以降、気持ちを入れ替えて、物凄く明るくなった。
元々明るい母だった。
ちょっと間が悪いこともあったりするけど、それを父が笑ってみているような平凡な家庭だったんだ。
それが急に一変して家中に暗闇が。
父の葬式もやはり母は動けずにいたのを俺たち兄弟が手伝った。
この家で俺一人が男なんで何とか頑張ろうとは思うものの、なんせまだ14歳。
経験がなさ過ぎて、しきたりも何もかもわからなかった。
それを親せきが手を貸してくれて動いていた。
親族との関係もこういう時にしか会わない。
盆と正月でも見ないような親戚が現れた時は、誰なの?って事だけだった。
ただ・・その方々に引っ張ってもらって、葬儀も済ませられたんだからありがたかった。
葬儀も終わらせて片付けをしている間も手伝いをしていたら、動けなくなている母に、その遠い親戚が、話しかけていた。
「あんたね・・気持ちは分かるから今はそうしてていいのよ。私たちがいある間は。でもね・・そのあとは、ちゃんと笑って生きてて頂戴ね。弟が旅立ったのは、あんたが残っているからなんだから。」
・・・父の姉でしたか・・・
この時ようやく知った。
誰が誰なのかを聞くこともできない程に忙しかったんで、分からないまま言われるがまま動いてるの精一杯になっていた俺は、この時に漸くそれを知った。
「まだ三人もいるじゃないの?あなたの家族が。その子たちのためにも、何よりあなた自身の為にも、笑っててほしいのよ。」
まだどこにどうやっていいのかさえ分からないやるせない気持ちを抱えている母に、伯母の言葉が通じるかどうか・・
その頃の俺には、分からなかった。
父を亡くすなんて思ってもいなかったのは、俺だって同じだった。
生きていいるものは必ず死が訪れる
頭では分かっていても、受け入れることができずにいた俺。
母を励ますこともできずに、遠目で伯母の言葉を聴きながら、仏壇の前の掃除をしていた。
飾ってあるのは、父の遺影。
実感が持てないが、ここにいないのは分かる。
虚空間ってこういうものなんだってのを、なんとなく感じるだけで生きている心地がしないのも確かだった。
この状況を心配した親戚の伯母は、近くのホテルに泊まり、一週間だけこの地に滞在してくれた。
その間に母が少しづつ変わっていくのが俺にもわかった。
全く話をしなかった母が、話すようになり、食事も少しづつしてくれるようになった。
どういうわけだか・・ゴミの仕分けとゴミ出しをし始めるようになった。
そうだ・・・料理を作るのがあまり好きじゃないんだった。
好きじゃないというのではないかもしれない・・どちらかと言えば要領の悪さで、苦手っていうのが正しいのかもしれない。
それでも、ゴミの仕分けは、要領が悪くとも、それなりにちゃんと分別している。
それも毎日するようになった。
少しづつ調子を取り戻して行って、伯母が帰るのを見送りに行けるほどにまで回復した。
俺たちはその頃、平日だったんで、学校へ行っていた。
学校から帰ってくると、玄関に外灯が付いていたのが驚いた。
二人の姉がいる俺は、俺が一番早く帰ってくるからだ。
それでも外灯が付いているということは・・おふくろ?!
放っておくと、日が沈んでも、真っ暗になっても電気も付けずに部屋で座り込んでいたのを、伯母が”もう夜なのよ”と、言って母の部屋の電気を付けに来ていた始末だった。
それが発端で、ホテル住まいを辞めて、うちに泊まり込んでいた伯母。
幾らゴミ出しができるようになったとはいえ、これではさすがにと思ったのだろうな。
母は、父の遺影がある仏間で寝ているから、伯母が母の部屋で寝るようになった。
それくらいの状態から、急に脱したって・・・
にわかに信じられない気持ちで玄関に入った。
「・・ただいまぁ~・・・」
自分家なのに、変に緊張してまるで違う人の家に入ったみたいな気持ちでいた。
「あ・・お帰りぃ~。」
!!!出迎えるのかよ?!
見ると、今にも電気が付いていて、玄関にも。
一体どういう心境の変化があったのか・・・と、キツネにつままれたような気分で母を見ているしかなかった。
「・・何してるの・・入らないの?」
・・いつもの母だった・・・
「今日ねぇ・・八百屋さんにね・・・あ・・お姉さんをお見送りしに行ったのよ・・バスで!それで・・お菓子を・・あ・・喫茶店は行ってさぁ~?」
・・話が飛びますね・・相変わらず。
恐らく伯母をバスで駅まで見送りに行ったっ先で、食事をすることになったらしい。
それでデザートを食ったのか・・好きのが駅構内でも売ってたんだろう。
それで買ってきたのが、今、目の前に置いてある箱入りの何かだ。
それでまたバスで戻ってきてから八百屋へ寄ったと。
・・・それが頭に浮かぶものを次々言葉にするんで何がどう進んだのか進んでないのか・・話が一向に終わらなくなるという、いつものパターン。
・・本当に戻ってる・・・
こんなに人って変わるのか?
「お父さん好きなお菓子!あんたも好きなんじゃないの?!」
・・・こうなると・・本当は甘いものは・・って言いたくても、いえない気がするよね。
「食べてみようかな。」
「そう?!じゃ・・今お皿持ってくるわね。」
・・・用意はしていなかったのね・・・
「はい!フォーク。」
・・・?!
「皿は?」
「あ・・!!」
いって言ったよね・・なんで忘れたんだ?
言ってないフォークが出てきた。
珍しいんじゃないか?そういう人。
「これでいいわよね?」
「なんでも・・・って・・・でかくねぇか?」
「大きいと入るでしょ?」
箱をかけて見てたからわかる。
一人分は・・・そこまででかくない。
ショートケーキというんだろうか・・チョコのような色で・・イチゴが載っていた。
これが父が好きだったというケーキなのね。
「じゃ・・取りましょうね・・」
!!?
「まったぁ!」
「なに?食べるでしょ?」
「なんで・・包丁で刺す気でいるの?」
「じゃぁどうやって取るの?」
「・・・手で・・こうやって・・」
「あ~~そうやるのぉ~。」
・・・かなりとぼけてるな。
自分の母だけど・・・面白い。
ホールを取るんじゃないんだってことに何故気が付かないんだろうか。
サラと一緒に包丁持ってきた時点で可笑しいとはおもってたが、どういう使い方をするためのものなのか、分からなず黙って見てた。
でも・・こうして父の話ができるまでになったんだ。
良かったと思うことにした。
高校の姉は、塾の後帰ってくる。
短大に通う姉は、バイトの後に帰ってくる。
そのれまでの間、ケーキを食べてみんなで夕食にしようということをケーキを食ってる俺に言ったのだった。
ケーキを食べ終わった俺に母が言った。
「・・夕飯作らないと。」
・・作ってあった話じゃなかったようで・・今から作ると。
「・・何作るといいのかなぁ~・・」
冷蔵庫を開けて、冷蔵庫と相談。
答え出てこねぇんじゃねぇか?それ・・・
気に合って見に行ってみると・・!!?
なんでこんなに?!
そういえば・・さっき母の話冒頭で・・”今日八百屋さんで・・”
八百屋さんで何があってこんなに買い込んだんだよ?!
気になって仕方ないが、消費して行かないともったいない。
母さんに任せると一品で1時間はかかってしまう。
・・待ってられねぇ・・
「母さん、座って待ってて。俺が作るから。」
俺だって、得意ではない!でも・・時間はかけないって。好きでもないんだ。早く終わらせたい。
「できるの?怪我しないでね。」
そう言って居間へ戻って行った。
はぁ~~・・・
冷蔵庫に詰められた野菜のお陰で、冷蔵庫の明かりが隠れてしまってる状態。
野菜室に入れれば・・と開けて見れば・・こっちもかよ?!!
誰が運んだんだ?これ・・・
野菜炒めと、みそ汁、あとは・・何を作るか考えながら、具材を切ることにした。
明日の朝食と弁当も作っといた方がいいな。
母さんもた昼間の方が手間が省けるだろうし。
「・・そうそう・・智ちゃん・・」
話しかけに来た母。一人でいて詰まらなくなったのだろうか・・
居間のテレビを付けたまま、台所へやってきて話しかけに来た。
「なに?」
「明日ね・・あれ・・なんだっけ・・・」
・・まぁいいか・・
「あ・・そうそう・・明日!明日ね・・あれなのよ。私お仕事なの。」
!!?
「行くの?」
「明日から。」
「そう・・」
デイサービスで介護の仕事をしている母。
そうなると弁当が必要になった。
丁度いいわ。
「それで・・お友達のカヨちゃん・・あの子に誘われたの!市営体育館・・
あそこで・・誰か来るから一緒に行こうって。」
「いつ?」
へぇ~・・遊びに行くようにもなれたのか・・それ何より。
「あした・・よね?」
誰が分かるんだ?それ・・。
誰が来るかも知らないけど、友達に誘われて、いつなのかもわからないのに、その誘いに乗ったんだ・・・
大丈夫なのか?それ・・。
これまで激しく落ち込んでいた。
それで突然元気になったと思ったら、こうなった・・というなら心配になる。ただ・・これまでにもこういう人だったんだ・・心配していいかどうかが分からん。
「・・いいんじゃないの?元気になったんだから。」
帰ってきた下の姉に相談すると、こう返してきた。
トイレに行って戻ってくるときに、丁度玄関前の廊下を歩いていると、姉が帰ってきて、母さんの様子を聞いてきたんで、答えたんだが、特に心配するそぶりもなく、荷物を部屋へ置きに行った姉。
そういうものだろうなと、俺も納得して、居間に戻ることした。
上の姉が帰ってきてからが、大変だった。
「どうしてそう訳の分からない話し方するの?!ちゃんと筋を通してよ。」
・・分からんではないが・・頭の整理が付かないのはいつも通りだということを理解してやれよ。
「・・・」
黙ってしまった母。
これでまた自分世界に閉じこもらないかと気になるが。
「お母さんの話、別に分かりにくいものでもないよね?智。」
二番目の姉が、俺に訊いてきた。
沢庵好きな姉は、ほとんどを一人で食べている状態になってるのが、目を伏せていた俺には映った。
・・・小鉢皿一杯の沢庵・・もう5枚しか残ってない・・って。
「ああ・・なんとなく想像は付く言い方だと思うが。」
それよりも、あんたにとってのおかずはそれしか見えてないの?
「それより、福神漬けないの、なんでよ?中華には福神漬けじゃないの。」
その感覚もよくわからん、二番目の姉の味覚。
「ねぇよ。」
「なんでないのに中華にしたの!?」
「中華じゃなくて、炒め物。」
「同じじゃないの。」
・・・何も言えねぇ・・・
二番目の姉の方が、母よりおかしなことを言うんだから。
「別にいいけど。」
それでも沢庵に手を付け乍ら、他のおかずも取って食べていた。
炒め物をするときには福神漬けですか・・・
覚えておくことにしましょ。
で・・先ほどの母の話を思い出しながら食事をしている俺。
どうやらお友達さんから、何かに誘われて出かけることになったっていう内容が分かったらしくその話をしている最中に、市役所の近くの市営体育館・・あそこまで話が出た。
それで思い出したのが、市役所の近くの大きな通りで・・大きな事故が遭ったのを聞いて思い出したという話だった。
車同士の大きな事故だったらしく、完全封鎖になったんだと。
それがいつなのかはわからないけど、そういう前に、お友達さんと行くというイベントの日付を、思い出して、”明日の夜は食事をして帰る”と・・。
確かに、あちこち話が動くけど、話が進んでないわけではない。
「それ・・あの人でしょ?トシさん。今はソロ活動期間中で・・なに?ここ来るの?」
二番目の姉も俺と同じで、恐らく母の話を頭の中でまとめてたんだろうか。
「そうそう・・来るのよ!地元なんだって。知らなかったけど。」
・・母はどうやら本当に、誘われたから行くだけのようだ。
詳しくは知らなかったのか。
「アンタ好きじゃない。一緒に行ったら?」
確かに興味はあるけど。
一瞬揺らいだのも確かだった。
けれど・・・噂によると・・としか言いようがないが、ソロでやっている音楽と、X JAPANでしている音楽とではえらい違いがあるのも聞いている。
これは、彼自身がラジオ番組で話していたからだ。
ただ・・興味がない訳でもない。
「まだチケットあるか・・・それ?」
「さぁ・・知らないけど、カヨちゃんのチケット、一枚で3人は入れるって言ってたの。もう一人誰かいるか聞いてみようかな。」
そう言ってすぐに立ち上がってスマホへ。
うちの母は、どういうわけか、固定電話と勘違いている節があり、常に充電器にスマホが繋がれている。
あれ・・消耗が激しくなるから辞めなさいって伝えているけど、固定電話感覚になっているんだろうな・・なかなかやめない。
電話を掛けたり受け取るときは、そこから外すのは、コードが邪魔をして伸びないからだ。
当然長電になる母。
今のところは二人行くことになっていたままだったという答えを貰っても、まだ話が続いていた。
どこまでも、変わらぬ母に俺も安心した。
翌日・・・
「今日は、夜に出かけるからね。」
と念を押されて、学校へ。
すると学校では・・それまでこんな話は出ていなかったが、市民体育館にTOSHLが来るという話で盛り上がっていた俺たちのグループ。
中には、そこへ行くというやつも数名いて。
話しがどんどん広がった。
このころ、交通事故が頻繁化していた千葉県。
関東一位の交通事故多発県として、注意を呼び掛けている。
TOSHLがこの運動に参加しているというらしいというのが飛び出した。
「それで来るんだよ。」
確かに、こういうことで来るのが珍しいとはなってない。
他にも芸能人が来て公演したり、アイドルが来てコンサートしたりしていたりしているから。
「前にさ・・連中試合あっただろ?埼玉の学校と。」
「ああ~・・何故かそれが横浜で・・ってやつでしょ?なんで行ったんだ?」
「交流会だって。それは言いとしてだよ!あの時、埼玉の連中が言ってたんだ。TOSHLさん、埼玉にも顔出してて、それでそういうコンサートしたんだって。なんかすごくよかったって。偶然行けたらしいんだよな・・親の仕事関係かなんかで。」
・・・
「チケットの前売りなんてしてないの?」
「今回のものだって、全然・・広告一切なかっただろうが。」
「じゃ・・なんでお前知ってんだ?」
「だから、俺も親の伝手で。」
・・・話を聞いていると、どうやら人伝えでしか話を回していないものらしいことが分かった。
あれだけ有名な人が、どうして大広げに公告しないのか・・全く分からない。
行くだけ行ってみようなんて連中も出てきて、待ち合わせることにした。
母には、現地集合ってことで話をして、俺が先に出ることにした。
スマホなんて持ってなかった俺は、うちに一旦帰って着替えてから、その報告をして出てきた。
時間より少し早いけど、到着すると、俺の友達何人かがもう来ていた。
「よう!智!!なんかさ、当日チケット買えるみたいなんだよな。」
そうだったのか。ついて行ってみると・・これまたびっくりするくらい安かった。
一人三千円。
これって・・破格じゃねぇか?
X JAPANが千葉ですることになった時は、みんなでチケット買おうって話になったものの、中学生の小遣いじゃ手が出せる金額じゃなく、諦めたことがあった。
それが・・これって・・
大丈夫かよ・・。
余りにも桁が違いすぎて驚いていると、友人たちはチケットを次々と購入していた。
・・?
俺の母の友人は、一万五千円支払ってるって事なのか?
という疑問が浮かんだ。
でもそれくらいだったんだ。
あのとき諦めたのは。
「全然違うからびっくりした。でも言えねぇだろうが。あの場では。」
一旦外に出るとすぐに、一人が思いっきり声を上げた。
「ほんとだよな。ほんとに来てるの?」
まぁ・・そうなるよ。
母とも合流して、中に入った。
自由席で、俺の友人も含めて横並びで座ることにした。
普通なら、入口に入ってすぐに、色々とグッズが並んでたり、ポスターが張られていたりしているものだけど、そういうものはなかった。
だから殺風景すぎていたのも不思議だった。
ただ・・どういうわけか、時間が経つにつれて、沢山の人が入ってきていて、気が付けば、満席に。
どこから湧いてきたんだって思わず目を丸めた。
「・・来てるねぇ・・・・」
「ほんとだ・・」
俺が後ろに目をやっていると、他の奴らもそちらに目をやって声をだした。
仕事場から直接きた人もいる様子で、スーツ姿の人たちも何十名も。
仕事関係者なのか?
side:Tomo
【皆さん、こんばんわ。】
「こんばんわ。」
と会場中から返しがあった。
【ありがとうございます。今回は・・ある協会の皆さんが呼んでくだいまして、ここにいます。】
という・・ラジオでの話し方そのままの言い回しを始めたトシさん。
【千葉県が、交通事故多発県として・・関東一位を更新中で・・関東二位の件と比べても、10位ほどの差を付けられてて・・と。まぁいい事ではないというんで、少しでも上位に上がれるようにしていこうってことで、ご協力をさせていただきます。たくさんの方が交通事故で悲しい思いとか、辛い思いをしている中で頑張って前を向いて歩いていらっしゃる日々を送っているわけですが、それでもどうしても悲しみとか辛さが沸き上がってきて負けてしまうこともありますが、この・・今日っていう想い出が一つの励みになりますように、このお時間を過ごして下さったら僕自身のこれからの励みにもなりますので、どうぞゆっくりと過ごして行ってください。】
本当は・・こうやって話すのか?
ラジオで聞くのと全然違う落ち着いた静かな声。
そして始まった、TOSHLの歌。
X JAPANの曲も入っていた。
ただ・・本来は・・激しいロックの曲調のものも、ギター一本でバラードっぽくなっていた。
本来はこういうメロディだったのかとはっきりとわかる一音一音大切にされた曲が、一文字一文字を大事に届けられてきて、はっきりとその言葉の意味が分かるように歌い上げていくTOSHLの姿に、誰もが黙っていた。
歌い終わると歓声が響くのが本来彼らのコンサート。
だけど、今回は誰もが静かに聞いていた。
【・・はい・・ええとぉ・・静か・・ですね・・】
はははは・・・・
そうさせたのはあなたですが。
【ソロ活動してて・・もう・・だいぶ経つんですよ。それでぇ~・・こういうのもなれていくはずなんですけど、まだ慣れてなくて。ただね・・あの・・メンバーでやってるとですね・・まぁ・・早いんですね。ご存じの方もいらっしゃると思うんですけど。早いんです!だから・・今みたいに言葉一つ一つを大事にして歌うっていうのができてなくて・・改めて一人でやってると、”あ~・・こういう歌詞だったのか”と・・気づかされたりするんですよね。だったらこれくらいのペースでよくない?って思うんですけど、そういうことを言わせてもらえる時間もね・・ない訳で。】
はははは・・・
誰も歓声は上げなくても、会場中に笑い声が広がった。
【あれだけ早い曲がかなり売れてて・・恐らく・・恐らくですよ?!本気にしちゃだめね。あのぉ~・・うちらの曲を聴いててそのために事故が起きてんじゃないかって・・そういう冗談が飛び交ったりもするのよ!メンバー間で。それ・・ヨシキのせいじゃないの?って・・それでまぁソロ活動になってるんですけど。】
・・どこまでが冗談なんだ?!
【もう少しね・・速度を・・音楽もそうですけど!車の速度もね落として、行かないと危ない!ホントに。因みにですど・・これも知ってる人いると思うんですが・・ヨシキさん・・LAでね・・速度違反で捕まったの知ってます?】
そういえばあった。
俺がまだ・・小5~6のころだ。
【その時は・・子供のことで急いでて・・言い訳にならないんですけど。かなり急いでた・・まぁ危なかったんですよ!ホントに。ただ・・僕は見てなくて。それで・・あとからですね・・その報告が・・なんと週刊誌で知ったと。・・会社からの連絡が先じゃないの?っていう疑問も残りましたが!週刊誌・・でしたね。一体何したの?って聞いたら、つかまったと。それで自粛・・してたんですよ。今は復帰してますけど。あれよ!?機嫌悪いとね・・それとか、予想もしなかったことが急に起きると、もう頭が回らなくなるっていうそういう状態になりますから。それでも動かないといけないっていう気持ちが前に出ると、ホントにいいことないんで。常に気持ちの整理をするように心がけてた方がいいと思うんですね。】
そういうことを伝えるために、こういう活動をしてんのか・・・
【今更ですけど・・今日ここへきて・・調子狂った人います?】
・・どういうことでしょうね・・それ・・
いちいち頭の中で返してしまう、この問いかけの仕方。
【ねぇ・・だってあれでしょ?X JAPANのTOSHLが来た~って思ってた方もいらっしゃるんじゃないでしょうかねぇ?だから・・こういう感じで進めるのかよって・・イメージぶっ壊されたという人も中にはいるかもしれないんですけど・・出入り自由ってことにしてるんで。おかえりいただいても大丈夫です。払い戻しはできませんので、悪しからずってことですが。】
若干、弱気になった様子を見せたところで、ちらほら笑いが起きていた。
【でもね!こういう感じで残り何曲か進んでいきますね。】
「すっげぇーなぁ・・まるで曲の魔術師じゃん。これ・・本格的にロックなのに、ここまでしっとりとか激変させるってなかなかできたりしない。」
「それに・・たぶんだけど、音符一つ変えても抜いて見ないよな。」
静かに話す隣の二人。
バンドを中学に入ってから始めた俺たち。
このメンバー全員でってわけじゃないが、俺の隣に座っている二人は、そのメンバーだ。
本来こうやって弾けばいいのかと・・音符も攫えるくらいのスローテンポだった。
3曲終わらせてから、水を軽く飲んだTOSHLがまた、話し始めた。
【・・ここにもいますか?あのぉ~・・バンドしているって方。】
その問いかけに素直に手が上がった。
【結構いますね!僕、ラジオもしてるんですよ。それでぇ・・あ・・!おろしてくださいね、ありがとうございます。】
その前に俺は下ろしていたけど、隣の二人は上げっぱなしになっていた。
下ろすのも忘れるくらい引き込まれるんだよな・・この人の声って。
【そのラジオで・・バンドしてるんですと・・それで何とかコピーしたいけど、譜面がね・・出てないんですよ。出してない訳。だから、攻略法が分からないんで、スローペースで別バージョンのCDか何かを出してほしいと・・そういう内容のお便りをいただいたことがあって。まぁ・・リーダーにその話を持ちだしたの、僕が。そしたら・・お断りをされて・・一人でやりましょうってことで。こういうことしてるっていうのも一つの理由なんですよね。ただ・・うちには4人楽器隊がいるんですよ。一人の手では足りない!なので、いろんなところでやってるんで・・その場その場でパートを変えて演奏しているということなんですね。因みに・・聞き分けられました?先ほど、3曲まとめてやったんですけど、最初のが、GACKTのベースで、次が・・誰だ・・あ・・】
はははは・・・
【メンバーの名前が出てこない・・あ・・満の。ベースですね。で・・最後のは、hydeのギターと。こう分けてやってたの・・聞き取れたって人います?】
ギターには気が付いた。ベースは・・聞き分けられなかった。
【あ・・でもいらっしゃるんですね・・凄い!ありがとうございます。下ろしてください。ベースとボーカルだけってかなり味気なさ過ぎて、どうしても合ってないような感じがするんですよね?例えて言うなら・・緑茶とシロご飯みたいな・・ね?分かります?塩気ないし・・ほんと味気ないでしょ?ああいう感じね?伝わらないかもしれないんですけど。それを何とかカバーしたくて・・声で勝負掛けるしかなかったんですよ。頼りになるのは、もう声でしかないわけです。】
ははははは・・
【それで・・声に意識持ってかれたって人は・・まぁ・・ボクの目論見通りで、良かったということなんですけど。】
素直に言うのか・・それ・・
ホント素直に全部話してる。
【どうしてもうちらの曲をやりたいという人は、これ・・耳で覚えて帰ってくださいね。恐らく商品化する予定はないと思うんで。】
ははははは・・・・
【許可ないとできないんですよ。ソロ活動とはいえね?!そこは分かって?】
はははははは・・・
【はい・・それでは次ですね・・これ・・直接僕のところに・・会社にね‥届いたお手紙で、どうしてもあの・・今日ここでやって欲しいってことでリクエストがあったので。やりますけど・・かなり・・歌詞がきついんですね。やだなぁって感じたらですね・・外へ出るようにしてください。自分御身は自分で守っていただかないと誰も守り切れないのでね。は・・では‥やりますね。】
この言葉で、一気に会場中が緊張に包まれた。
弾き始めたこの曲は・・まだ出始めた頃の曲だった。
なかなか売れなかったというんで、データ化されずにいた曲だったのを、今のメンバーになってから商品化されたCDに入っていた。
その話をHydeさんが雑誌のインタビューで答えていた。
”たくさんあるんですよ・・実は。良いなぁ・・って思った曲が。なのに、あのメンバーに入っていなかったら全然知らずにいたものがわんさか出てきて。その中で商品化するっていう案を俺とGACKTで言ったことがあるんです。ヨシキさんはあたしい曲を作ろうと必死になる人で、トシさんはどちらかというと・・これまでの曲を大事にしようって考えで。それでもリーダーはヨシキさんなんですよね。ただ・・チャンスが訪れまして、トシさんに。ヨシキさんがお休みしている間、トシさんにリーダーをやれという話になったので、ここぞとばかりにトシさんがこれまでの曲をレコーディングする形にしたんです。皆で曲決めてアルバムにするっていうのをしてました。”
このことを思い出した。
TOSHLは自分で曲を書いたんでも、歌詞を書いたんでもなくて、まだ世に出ていなかったこれまでの曲をレコーディングして出していたことがあった。
曲調は、それまで知っている速度勝負の曲ではなかったものの、それなりのさを保った聞き取りやすい音楽に仕上がっていて、誰もがTOSHLの曲だって錯覚していた。
ただ、誤解しちゃいけないのは、歌詞カードには書いてんのよ・・
はっきりと”YOSHIKI”って。
なのにTOSHLの曲って思わせるような・・それくらい彼らしい曲になっていた。
幾らメンバーが作った曲と言っても、自分じゃない人の曲だ。
それをあそこまで、一音変えず、速度変化を落としただけで自分のものにするって・・相当なテクニックをこの人は持っていた。
派手さもなければ、正直言って地味でしかないこのステージに魅了されてしまうだけの力を持っているTOSHLという存在が、まさか目の前に現れるとは、全くこの時の俺は知りもしなかった。
【・・この曲・・だいぶ長いですよね・・体調不良の人いませんか?大丈夫?気が付いたら倒れかかるとか・・そういうのが心配ですけど。無理しないでくださいね。・・ええ・・と‥この曲は・・僕もなんですけど・・ヨシキも・・過去に・・父親を亡くしてまして。それで・・その心の傷からできたもので・・僕もこの曲に救われたんですよ。だからしてみようって話になってたんですが。。なかなか・・進まないんですね?完成しないんですよ。メンバーの入れ替えもあったりして。で・・結局二人だけになってしまいまして・・そんな中で、僕自身も・・音楽業界に入れるかどうかの瀬戸際にまで追い込まれてしまって・・冗談でですけど・・後々・・”あれ‥呪われてたんじゃないか”と・・よっちゃんが軽く言い始めたんだよね?そういうの恐いくせに。言わなくていいこと言うから具合が悪くなるんだってのにさ・・そういうこと言うわけ。で・・わかんないけど、辞めとこうって話になったの。でも・・それを・・今のメンバーとするようになって。”これいいじゃんって・・CDに入れようって・・”そういったのがhydeで。もちろんあの時、ヨシキが言ったことも伝えたんだけど、気持ちがそれだけ籠っているからそういうことも起きるだろうって言うんだよね。だったらそれ吐き出してしまおうって・・ことで・・レコーデングをしてみようと。それもヨシキ抜き時にですね。解散も何もなく終わりましたけど。気持ちって・・押さえておくと病気になるなぁってのは後で分かりました。良いことないんですよ。どんな言葉でも、どんな想いでもいいので、吐き出した方がいいです!ただ・・それを個人にぶつけるとね?角が立ってしまうから、大きな場所とか・・何かの作品にするとかして・・出せるところで出した方がいいですね。そういう場所を作るっていうのが大事です!共感を得るとか、そういうのを目的にせず、とにかく自分の為に!って気持ちで探し出せば見つかるし、そこで思いのたけを全部吐き出せば、前に進んでいける勇気になっていくんだな・・って、そう感じたのが、この曲を出したことで、僕が得られたことでした。】
悲しい気持ちも、苦しい気持ちも・・言葉を選ばずに吐き出せる場所をつくる・・か・・
コンサートが終わると、俺たちの友人も含めて母と母の友人の二人が食事に連れて行ってくれた。
俺たちは、どういうわけか盛り上がっているというよりも、頭の中でリフレインしているTOSHLの曲に酔い痴れていて、誰も何も話さずにいる。
そんな中で、
「どうして公表してなかったチケットを持ってたの?カヨちゃん。」
「瑤子ちゃん・・知らなかった?私、実は”遺族の会”っていうのに入ってるの。ひき逃げにあったお兄ちゃんがいてね・・昔。それで家族が入ってて・・私は引き続きそこに居るの。」
・・・そういうことがあったのか・・この方。
明るくいらっしゃるから、そんな過去があったなんて知らなかった。
「だから瑤子ちゃんの気持ちが分かるから、私何とかして外に出してあげたかったのよ。」
カヨさんのお兄さんが亡くなってから家族は途端に暗闇の中に静まり返ったという。なかなかそこから出ることはできず、家族の仲も次第にばらつき始めていたとか。
そのため、離婚もあったり、定時制の夜間高校で仕事をしながら勉強をしたりと、カヨさんも家族の為に努力をしていたが、結局はお母さんが心の病でそのまま・・・
そのあと親戚に引き取られて、この遺族会に入ったとか。
そうなってほしくない・・残された家族の気持が分かるから、力になれるようにと声を掛けてくれていたようだ。
side:Tomo
「今回は、交通事故遺族と病死者遺族の会の合同だったの。その共通した協力者がトシさんってことで。」
「え~?!」
「表立って言えることじゃないけど、支援してくれてるから協会入会費用はどこの会よりも安く済んでるの。だから続けていられるの。今回のチケット代金だって、その遺族の中でも障害を抱えた方々に対する支援金なのよ。」
・・本当に営利目的でしてんじゃないのか・・・
「それでトシさん・・だいじょうぶなの?」
「・・何が?」
「・・生活・・」
まぁそういう所に目が行くよな。
俺も思ったもん。
「表に立っている活動はしっかりしてるでしょ?これはいわば、裏の仕事じゃないの。」
その言い方もどうなのよ・・
「おかしなこと言わないで。しっかりした仕事よ。」
「そうだけど、カメラも入らなくて、唯々、チャリティー目的でしょ?裏の仕事よね?」
俺たちに相槌求めてきたこのカヨさん。
そうですよ。なんて言えるわけねぇよ。
ただ・・あれだけの大物になると・・・チャリティーコンサートがどうのって・・騒ぎになるのに、そうならないところで動いているって・・・
そういう人もいたのかよ。
それのなのにあれだけの人が集まるって・・。
「その境界に誘いに来たんじゃないわよね?」
「まさか・・このコンサートに誘ってみただけ。勧誘しに来たんじゃないって。」
「良かったぁ~。」
・・うちの母がそれから、どういうわけか、バンドをしている俺にいろいろ話を聞いてくるようになった。
それまでは、反対はしないものの、興味はないようで、全くそういう話を母とすることはなかったけど、X JAPANメンバーの名前から始まって、曲のタイトルとか・・今やってる俺の音楽の話も。
古い言い方になるが、ミーハーな感じになっていた。
だが、それが母にとって新たな生きがいなったようで、今月はこれを買うから、これだけの貯金をしようと・・仕事も張り切っていくようになって、そこでまた・・ご老人お相手にそういう話をするもんだから・・
そこでもまた人気が上がって・・恐ろしいことに、今度はTOSHLが老人ホーム巡りもするということにまでなっていくようになる。
「・・智?大丈夫?・・智ちゃん・・」
「あ・・あ?なんだ?!」
「だから・・智の親がね・・」
ああ‥その話だったんだって・・思い出した。
「あるよ。お前の親父さんが救ったわ。」
「はぁ?!」
うちの母が働いているデイケアサービスの社長さんがTOSHLにコンサートを依頼して、その系列施設全部が会場に集まるというのを敬老の日にちなんで開いたイベントがあった。
それを、母は、”言えばなるものね・・”なんて驚きながらルンルンで出かけて行ったという話がある。
ただ・・その時の母は、仕事の一環として行っただけに過ぎないが、楽しんだらしい。
何にしても、本当に知れば知るほど驚かされるよ・・あの人には。
それがまさか・・今目の前で、目を丸目ている奴がその親族で、その人たちの元で音楽しているなんてな。
「ねぇねぇ・・教えてよ!!どういうことなの?それは。教えてってばぁ~。」
・・嘘みたいだけど・・。