[本のおはなしvol.16] 「おやすみなさいおつきさま」
本のおはなしも16回目。雨のお話が続いたので、今回はちょっと趣向を変えて、アメリカで生まれ、世界で長く読み継がれてきたマーガレット・ワイズ・ブラウン著、クレメント・ハード絵『おやすみなさいおつきさま』のお話を。選書は扇谷一穂です。
マインドフルな絵本?!
『おやすみなさいおつきさま』の舞台は、緑の壁紙が印象的な子供部屋。
この絵本が長く愛されてきたアメリカでは、幼少期に読み聞かせてもらった記憶とともに、この緑の部屋を懐かしい原風景と捉える人も多いと言います。
そこでどんな奇想天外な物語が展開されるのか。と思いきや、ここで表されているのは、ひたすら静かな時間。
「おやすみ とけいさん」
「おやすみ くつした」
「おやすみ くしとブラシ」
この絵本は、この緑の部屋の中にあるものひとつひとつにひたすら「おやすみなさい」を言っていく本なのです。
あかいふうせん、いす、絵の中のくま、人形の家。
ちいさい声で「しずかにおし」と言っているおばあさん。
そこに存在するものを一つ一つ認識し、そこに意識を向けてきます。
だんだん、意識は星や夜空に向かって行き、最終的には
おやすみ そこここできこえるおとたちも
と、音にも「おやすみ」を言って、この本は終わります。
きっとこのシーンでは目を閉じているんだね。
と、松尾由佳さんの指摘で気がつきました。(←由佳さんありがとう!「本のおはなし」では、自分の好きな絵本の自分では捉えていなかった部分を松尾由佳さんに教えてもらう。といううれしいことが度々起こります。)
自分を取り囲んでいるものひとつひとつに意識を向けて、その存在を、視覚や聴覚を含む自分の感覚で認識し、その存在に挨拶をする。
この本で、描かれていることはまさにマインドフルネス(マインドフルネスの定義は諸説ありますが、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」という解釈が一般的な様です。)なのでは!と感じていた中で、『おやすみなさいおつきさま』の世界をより深く知るために読んだ『「おやすみなさいおつきさま」ができるまで』という本の中に、その回答がありました。
” Here and Now いま ここで ” の考えのもとに
この絵本が出来た背景には、作者マーガレット・ワイズ・ブラウンが通ったニューヨークにあるバンク・ストリート教育大学の設立者であるルーシー・ミッチェルの「子どもたちは、自分の家庭環境と自分の鋭敏な語感によって明らかにされる現実の世界にどっぷり使って人生をはじめる。それゆえに毎日の経験に根ざしている ”いま ここで”の新しい文学が子どもたちには必要だ。」という考えがありました。
その考えは、さまざまな芸術家に影響を与え、当時最先端のファッション紙ハーパス・バザーや、ヴォーグで活躍していたエドワード・スタイケンは、子どものための初めての写真集と言われる「First and Second Picture Books」を発表しています。
↑こちらのサイトでその一部が紹介されています。
くしとブラシや、テディベア、時計、パンとミルク。
子どもの生活のごく短かにあるものがモノクロでひたすら写されている様子は、シンプルで潔く、かっこいい感じを受けるとともに、ここでの視点は、「おやすみなさいおつきさま」に貫かれている眼差しと同じものを感じます。
現実世界の中にあるワンダーランド
幼少期の子供たちは、お母さんのお腹というこの世界とは全然違う場所から出てきて間もない人たち。
光、風、音、香りや、食べ物などあらゆるものへの体験は、きっととても鮮やかで眩しく、探求し甲斐のあるもので、その現実世界にどっぷりと浸かったからこそ、空想の世界へ思いを馳せる事ができるのかもしれません。
一般的に、子ども向けとして作られたものはファンシーだったり、現実離れしているものも多いですが、おままごとや、運転手さんごっこも、現実の世界で大人がやっていること。子どもたちはこの現実世界に大冒険や、ワンダーランド 的なものを感じているのかもしれません。
保育園でゲストティーチャーとして子どもたちと過ごしていると、「昨日、今日、明日」の区別や時間感覚が4歳児くらいだとあまりまだない。という話も聞いたり。様々な時間の制約なく、子どもたちはまさに「いま、ここ」の世界を生きているのだなと感じます。
大人が想像するよりも、子どもの世界は現実的なのかもしれない。
そして、幼い頃に、現実世界にワンダーランドを感じられていた時期があったのなら、大人になってからも、日常をいま一度わくわくと鮮やかに過ごすことができるのかもしれない。
そんなことを思った 「本のおはなしvol.16」
「おやすみなさいおつきさま」
が自分の中でますます大切な本になりました。
本日の子守唄は、『おやすみなさいおつきさま』に因んで、大好きな子守唄を。
中学生の頃、眠る前には矢野顕子さんの80年代にリリースされたアルバム「Welcome back」か、Nat King Coleのベストアルバムを交互にかけて聴きながら寝る。ということを習慣としていました。
今思えば、何かとままなならぬ中学校生活。
夢見る時間が必要だったのだろうなと思います。
眠る前に再生ボタンを押して、そのまま眠っていたので、このアルバムに収録されている曲は私にとって全て子守唄。はじめの方に収録されている曲はなんだか鮮明に覚えているけれど、後半は夢の中。
「Stardust」は、Nat King Coleのアルバムの1曲めに収録されていた曲です。
このイントロは、私にとって「夢の世界の入り口」なのです。
Stardust
Lyrics / Mitchell Parish
Song / Hoagy Carmichael
And now the purple dusk of twilight time
Steals across the meadows of my heart
High up in the sky the little stars climb
Always reminding me that we're apart
You wander down the lane and far away
Leaving me a song that will not die
Love is now the stardust of yesterday
The music of the years gone by
Sometimes I wonder why I spend
The lonely night dreaming of a song
The melody haunts my reverie
And I am once again with you
When our love was new
And each kiss an inspiration
But that was long ago
Now my consolation
Is in the stardust of a song
Beside a garden wall
When stars are bright
You are in my arms
The nightingale tells his fairy tale
A paradise where roses bloom
Though I dream in vain
In my heart it will remain
My stardust melody
The memory of love's refrain
次回は「のりもの絵本②」
「あかくんシリーズ」についてのお話です!