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世界的にも珍しい「妖精の森ガラス美術館」 緑色の光を放つウランガラスの神秘(岡山県鏡野町)

岡山県北部、豊かな自然に抱かれたかがみちょうにある妖精の森ガラス美術館は、世界でも類を見ないウランガラスの作品を展示しています。山あいの美術館に緑色の光を放つ神秘的なウランガラスがある理由ワケは? (ひととき2022年7月号特集岡山・倉敷 時を超えるガラスより)

 緑色の光を放ち、暗闇に浮かび上がる神秘的なガラスがあるのをご存じだろうか? その名を「ウランガラス」という。ガラスは着色剤として金属や鉱物を加えると、コバルトなら青、金なら赤というように、化学反応によってさまざまに発色する。同様にウランを用いると、美しい黄色や緑色のガラスが生まれるのだ。

 このウランガラスの最大の特徴は、紫外線を当てると緑色の蛍光がくっきりと現れること。19世紀のヨーロッパで製造が始まったものの、紫外線ライトが一般的になる1900年代中ごろまでは、はっきりとした蛍光色を見ることはなかなかできなかった。それでも夜明けから日没まで、刻一刻と紫外線量が変化する太陽光の下で、ひとびとは少しずつ色を変えるガラスを楽しんでいたのだろう。

 ウランはやがて核燃料として利用されるようになり、第二次世界大戦時には民間での使用が規制された。そのため、ウランガラスの製造はほぼ途絶えてしまった。それでも妖しい魅力を放つこのガラスの愛好者は少なくない。

 岡山県の深い山あいで、そんな神秘のウランガラスに出会うことができる。県北部、鏡野町にある「妖精の森ガラス美術館」は、ウランガラスの作品をコレクションする世界的にも珍しい美術館。19世紀に製造されたヨーロッパのミルクピッチャー、ゴブレット、花瓶などから、現代日本の作家作品まで、常時100点ほどが展示されている。

自然あふれる鏡野町にある妖精の森ガラス美術館
写真提供=妖精の森ガラス美術館

 さて、そんなウランガラスの美術館がここにできたのはなぜなのか。

 1955(昭和30)年、上齋原村かみさいばらそん(現鏡野町)から鳥取県へ向かう県境に位置するにんぎょう峠で、ウラン鉱床の露頭*が発見された。当時ウランを燃料とする原子力を利用した発電技術が確立し、この巨大な新エネルギーには、世界的に期待が寄せられていた。日本でも自国で資源を調達できないかと、各地でウランの探鉱が熱を帯びていたさなかのことだった。人形峠での発見は大きな話題を呼び、静かな山村は突然のブームに沸いた。鉱山の開発や調査研究が行われたが、結局採算がとれず、採掘は1987年に終了する。

*鉱床や岩石などが地表に露出している部分

 その後、鏡野町では観光開発や地域産業・文化の振興を目的として「妖精の森ガラス美術館」の建設を計画。2006(平成18)年にオープンするに至った。

19世紀のイギリスで制作されたコンポート

 学芸員の三浦ひとしさんは、「ウランは放射線を発するという印象が強いかもしれませんが、安全に管理してガラスの着色剤として使えば、こんなにきれいな作品になります」と語る。

 日本でウランガラスを作れるのは、もちろんここだけ。神秘的な光が創作意欲を掻き立てるのだろう。一度はウランガラスを使って作品制作をしたいという作家も多いそうだ。

ウランガラスは、女性の化粧品容器などに広く使用されていた。館内では婦人の化粧室を再現した展示も

 作家としても活動する三浦さんは、炉のなかで溶けて液状化したガラスには、「たとえようのないオーラがある」と教えてくれた。まさにウランガラスは、オーラをまとったマジカルなガラスだった。

──ひととき7月号特集では、ひとの息を吹き込んで生まれる吹きガラスを求めて倉敷へ。素朴な器を作り続ける名工、次世代の作家たちのもとを訪れます。美しい器写真の数々と共に、倉敷に根付いたガラス工芸の魅力をぜひお楽しみください。本号でご紹介している4名の作家が手掛けたガラス作品の読者プレゼントもあります(応募者多数の場合は抽選)!

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【目次】
[紀行]倉敷ガラス
[コラム]妖精の森ガラス美術館
 岡山のガラスの未来

文=瀬戸内みなみ 写真=阿部吉泰

妖精の森ガラス美術館
https://fairywood.jp/

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