熊田曜子不倫騒動で思い出した復讐劇
熊田曜子の不倫騒動の録音を聴いて、昔のトラウマを思い出した。
そんなもん別に聴かなきゃいいのに、吸い込まれるようにリンクを開いてた。
不倫の状況証拠を、友だちと笑いながら話す熊田曜子。元カノもそんなかわいそうな女だった。
いや、自分は単に、数あるセフレの一人に過ぎなかったのかもしれない。彼女の友だちが、独身と付き合うなんて珍しいと驚いてたらしいし。
自分にとって浮気や不倫は、それをしてしまうと、相手と向き合えなくなるから、自分とは別世界の出来事だった。
ただ、「相手の子どもの立場に立ったら、不倫は愛情の横取りなんだよ」と話すと、彼女は「やさしいのね…」とさびしそうにつぶやいたのを憶えている。
でも、そんな親心みたいな青臭い正義は、すぐに根底から否定されることになった。
1日と置かずそばに居てほしい、家に来てと懇願する彼女に、「独りでいる強さも身に付けるのが大事だよ」と突き放したその晩に、男を連れ込まれたのだ。もちろん、お茶を飲むためではない。
そして、後で彼女にそのことを告げられた瞬間から、立場は逆転した。
彼女は謝罪し、別れを切り出した。でも、別れはしないだろうという打算もあったに違いない。同じことを繰り返していたことすら考えられる。
そりゃ、すぐに別れた方が正解だったと今では思う。
でも、彼女に未練があった自分は、石ころをそのまま飲み下すような苦しみで、それを受け入れた。
が、もうそれは平和で対等な恋愛関係などではなく、彼女がまた男と逢っているのではないかという恐怖と、その反動から、ひたすら彼女をむさぼるようなセックスの繰り返しに過ぎなかった。
そして、きっと彼女に蔑まれていたに違いない。偉そうなことをいくら言ったって、男は性欲に支配された生き物だと。
そして、結局は熊田曜子のパターンと一緒で、今度は上司と不倫されることとなった。
それを知ったのは、これもよくある最低なパターンだが、寝入ってしまった彼女のケータイを見てしまったことによる。
その時は熊田曜子の旦那さんみたいに、嫉妬で狂っていたと思う。相手は、彼女の直属の上司で、同じ会社で働く自分にとっても言わば上司だったので、怒りは深く痛切だった。
しかも以前、彼女の口から、その上司ミヤハラ(仮名)は職場で不倫を多数繰り返していることを聞いていた。
これを聞くと、ミヤハラを魅力的な人物と想像するかもしれないが、見た目は美空ひばりの息子を、更にエグくした感じで、他人を支配して操るのが巧みなだけの、ヒルやヘビといったイメージの男に過ぎない。
ただ、仕事は出来た。だからか社長のお古の高級外車は、どういう経緯か毎回ミヤハラのものとなっていた。
彼女のケータイからは、ミヤハラとのやり取り他にも出るわでるわで、知らなかった驚愕の不倫まで目にすることとなった。
フラフラになりながらケータイを手に家に帰り、すべての連絡先とそれっぽいやり取りを記録に残した。
そして、懇願する彼女にケータイは返し、彼女を泳がせることにした。
もうこの時には、事実上別れてはいたものの、ミヤハラはどうしても許せなかったのだ。
うまいことやって、他人を見下して生きているヤツに、地獄を味あわせてやると誓った。
まず行動パターンを分析するため、数ヶ月間に渡って内偵した。バレないようにお袋の車を借りてまで尾行したこともある。真冬にエンジンを切った車の中で凍えながら、ミヤハラと彼女との動向を探った。
ミヤハラは美人の奥さん(同じ会社)と四人の子どもがいながら、同じ住宅地のわずか数百メートルしか離れていない団地の、彼女の部屋で不倫を繰り返していた。
信じれないかもしれないが、その部屋は、ミヤハラのかつての新婚の家でもあった。
まあ、自分のやっていたことは、どう贔屓目に見ても、ストーカーと選ぶところはない。
しかし、ストーカーと違う点があるとすれば、彼女とヨリを戻そうという思いはもう一切なかったことだ。嫉妬と復讐のみが自分を駆り立てた。
客観視すれば、キモいとしか言えない。一種の病気とでも言えるかもしれない。
ただ、この時、謎の使命感にでも突き動かされでもしていたように、不思議な疾走感と充実感があったのを思い出す。
まるでマッチ売りの少女が、マッチに火を灯した瞬間だけ多幸感に包まれるような。
そして実際、探偵のように、集まったピースからパズルを組み立てていくのに、復讐心から湧き起こる、暗い情熱があった。
このアホな二人は、すべてを自分に把握されていることも知らず、のんきに不倫を続けておる。
さて、どう復讐するのが一番キクだろうか?会社中に一斉にメールしようか。
ケータイを見て、一番驚愕の事実だったのが、ミヤハラ以外に、会社No.2の本部長とも彼女はかつて不倫をしていたことだった。
それをこのマヌケ面のミヤハラは知っているのだろうか?
百年の恋とかやり取りしていながら、不治の病でおそらく勃たなくなって、本部長は事実上、アッサリ捨てられていた。皆が知れば、会社がひっくり返るような騒ぎになるだろう。
そこには、決めるのはいずれにせよ自分だという、歪んだ愉悦があった。
そして泳がせること数ヶ月、読み通り二人は不倫旅行か不倫ドライブへと出掛けた。
それを察知できた理由は今では分からない。
ただ、必ず遠出するという確信はあった。わざわざ独りで彼女の実家の写真を撮りに遠出した、ミヤハラの写真付きのメールを見ていたというのもある。
メールの記録では、脳内お花畑の二人は、温泉に行きたがっていた。
しかし、泊まりかどうかまでは分からない。
が、その日遅くに彼女の部屋のあった団地の横を通り過ぎると、部屋に明かりが点いていた。そしてミヤハラのいつもの駐車場所には、奴の車があった。
離れた場所に車を止め、歩いて彼女の部屋へ向かう。
さあ、今日が勝負だと思うと、いよいよアドレナリンが沸き立ち、それが生きている実感をくれた。寝取られた屈辱感が、尋常ではない闘争心に代わっていた。
古い団地の踊り場に身を潜め、ドア前で気配を探る。
しかし、思わぬ生活音に、心を打ち砕かれることとなった。
それは、シャワーを浴びる音だった。それまで、プロフェッショナルな探偵気取りだった自負が、未練などないと斜に構えていた自我が、まとめて崩れ去っていく。
まるで母親がレイプでもされているような、真っ黒い絶望感と嫌悪感だった。
闇の中での音という、想像するしかない、原初的な脳の旧皮質を刺激してくるそれは、むき出しの悪意そのものだった。己の存在を揺るがせる“悪”、に他ならなかったのだ。
嗚咽を出さず独り泣いた。彼女のために泣いてくれる人がいれば、彼女は幸せになれるだろう。
が、かなしいことに、その涙は私怨でしかなく、彼女のために流しているものでもなかった。
それでも、マイナスな感情こそが、その悪意へと向き合わせる原動力となった。
奴はかつての己の愛の巣で不倫を繰り返すヒトデナシだ。問答無用。狂え、と。
すぐだったか、それともずっと後だったか。ドアが開いた瞬間、ドアノブを思い切り引いて突入した。写真を撮り、証拠を確保。呆然とする二人を残し、すぐさま撤収した。
翌日、彼女から会いたいとメールが来る。会いに行って車の中で話す。
すると程なく、強引にかぶせるように車が急停止する。ミヤハラの車だ。
瞬時にスパークする怒り。こういう時、後手に回ってはダメだ。奴がドアを開けるよりも速く飛び出し、車から引きずり出す。
最初は上司面して強気で来たが、知るか。お前は直接の上司でもなく、尊敬したこともない。
何より自分には失うものがもう何もなかった。腹に腰に、膝蹴りを浴びせ続けた。執拗に、かつ絶妙に手加減しながら。
気が済むと、また二人を残してさっさと帰宅した。
ミヤハラは結局、警察に被害届は出さなかった。が、しばらく入院していた。狙い通り、腰を破壊できた模様。
蛇のような性格の奴のことだから、きっと何らかの形で埋め合わせようとすることだろう。
その対象はおそらく彼女だろうが、せいぜいただれた関係のまま仲良くするがいいと思った。
積み重ねた業は、必ず清算される。それは自分も同じ。いつかロクでもない死に方でもすることだろう。それは甘んじて受け入れる。
しかし結局、それ以上の復讐というか八つ当たりは、何故かしなかった。
ただ、今回の騒動は、自分に非があるということに上の方でなったようで、東京に転勤させられた。
東京に転勤になってから一度、No.2の本部長と話す機会があった。本当のことを全部言ってやろうかと思ったが、あくまで自由恋愛がこじれただけ的な認識を吐露する浅さに、話しても平行線だろうと黙っておいた。
彼女と本部長との不倫のことを、気づかれてないと思っているらしいのだ。
ほう、自由恋愛ね。不倫は文化だとか抜かした、通人ぶったノータリンと根っこは一緒じゃねーか。揃いも揃って、お手本のように不倫ばっかしてやがる上司どもめ。いつか上っ面だけで上手に生きているお前らの真相を暴いてやると思った。
結局それから東京で二年働き、辞めてから学生の時から念願だったニュージーランドへ行くこととなった。ニュージーランドでは丸9年住んだ。
人づてに、彼女が年下と結婚したと聞いたのは、ずっと後のことになる。
ミヤハラは今も社長のお古の外車を下賜してもらいながら、上手くやっているらしい。
本部長はしぶとく生きたらしいが、ついに死んだ。
今回、熊田曜子騒動で、十年以上昔のことを思い出した。もう痛みもないし、血も出ないけれど、自分の中で不可逆的な変化が起こった出来事でもあった。
介護の仕事は、ストレスの多さからか、上司がもれなくお手本のように不倫をしていたが、不倫はやはり良くない。
本人たちはこの際どうでもいい。来世にでも報いは受けるだろう。
ただ、熊田曜子の三人の娘たちについても、嫌が応にも業を背負って生きていくことにはなるだろう。
どれだけの重さになるのか、他人では想像もつかないが、軽くないことは確かだ。
#復讐劇 #小説
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