沢木耕太郎『深夜特急』シルクロード編で思い出したアジアの「値段交渉」文化
バックパッカーたち(バックパックで長期の旅をする人)のバイブル、沢木さんの『深夜特急』の第4分冊をオーディブルで聴き直しました。今回は「シルクロード」編です。インドのデリーを出発して陸路でパキスタン、アフガニスタン、イランまでの行程です。春先に日本を出た沢木さんですが、季節が秋に入り、だんだんと冬の到来を意識して、沢木さんの気分が引き締まってくる様子が全体に漂っています。
第3分冊の最後の場面は、インドで高熱とだるさの症状が出て、ホテルの部屋で寝ていると、鍵を閉めたはずなのに、ホテルの従業員が部屋に入ってきていて、沢木さんに薬を飲ませる場面でした。窃盗か? 毒殺されてしまうのか? という恐怖とともに第3分冊は終わっていました。
第4分冊の最初のところでは、この従業員はとても具合が悪そうな沢木さんに善意で薬を飲まそうと部屋に入ってきて、その薬がとても良く効いて沢木さんが回復するというところから始まります。決して、物取りや毒殺をするために入ってきたのではなかったことが分かってほっとできる場面でした。
デリーからのシルクロードの旅、沢木さんの行動で印象的だったのは、パキスタン、アフガニスタン、イランの店に入って品物の値段交渉をする場面です。特にイランのバザール(市場)にある骨董店で中古の懐中時計を気に入った沢木さんが店の主人と値段交渉をして、交渉決裂を何日も繰り返して、結局は店側が最初に提示した値段の半額以下で買うという場面が印象的でした。
なぜ印象的だったのかというと、私が値段交渉をあまり得意としていないからです。特に旅の最中に現地で値段交渉をしないといけない場面に出くわすと本当に「煩わしい」と感じてしまいます。まず、相手に気を使うので、精神エネルギーが消耗します。そして、時間が奪われている感覚がします。これまでの経験では、ずいぶん前タイやマレーシアを旅した時、値段交渉が本当に嫌になりました。
日本に住んでいると、あまり値段交渉の場面はないように思います。スーパーやコンビニは値札に書かれた金額、つまり定価ですんなり買います。
以前は家電量販店で値下げの交渉をしていたこともありますが、頻度はそれほど多くなかったですし、今では、同じ製品のネットでの値段と比べて、どちらか安いほうを買うようになりました。
値下げをして買うと、何か「申し訳ない」という気すらしてきます。
最近、メルカリで未使用品を売ったのですが、その時、何度か値下げ交渉の申し出がありましたが、やはり苦手だと感じました。
さて、沢木さんの『深夜特急』ですが、タクシー・人力車、ホテルの部屋代、品物、長距離バス代に至るまで、アジアでは値段交渉の連続だと気づきます。沢木さんが、この旅をしたのは1970年代ということのようですが、今でも、こういう値段交渉の文化が現地にあるのでしょうか。沢木さんは、値段交渉を現地の人とのコミュニケーションとして楽しんでいるようにも感じます。こういうのが長い旅を楽しむ秘訣かもしれないとも思いました。