tipToe.楽曲解説Vol.8 – ナイトウォーク
概要
・タイトル ナイトウォーク
・ヨミ ナイトウォーク
・楽曲番号 10
・作詞 本間翔太
・作曲 鈴木貴之
・編曲 瀬名航
・振付 YUKO
・制作時期 2年生1学期編「thirdShoes.」
コンセプト
リリース作品単位で綿密に設計して作った夜にまつわる4つの物語「thirdShoes.」のうちの1作。
「thirdShoes.」全体のテーマは
・夜にまつわる物語であること
・前作「magic hour」より一歩踏み込んだ表現に挑むこと
である。
本編の主人公には4人の同級生の友人がいる。学校ではみんなで楽しく過ごしているのだが、家に帰って独りになると思い出したかのように憂鬱な気持ちが湧いてくる。その時は深刻で悲しいのに学校で友人に会えば忘れてしまう程度に脆い。学校ではまさか友人がそんな気持ちなっているなんて気付きもしない。
「thirdShoes.」はその4人の友人を1曲ずつ主人公に据えて、とある同じ一夜に起こった4つの出来事を描いたオムニバス作品となっている。
静かに夜道を歩くような慎ましく素朴で優しい曲を作りたかった。thirdShoes.は収録曲全てのイメージをある程度固めてから各作家さんに割り振っていったのだが、最初に作家陣に共有したthirdShoes.の全体図を書いたメモ書きを見直してみると「ナイトウォーク」のところに「本間がただやりたい枠」と書いてあった。そうだったっけ…。忘れてしまった。
前作「magic hour」収録の「ハートビート」と同時期に制作していた曲で、thirdShoes.はこの曲が始まりだったりする。
tipToe.では初めて「後ノリ※1」を意識していて、ボーカルも後ノリで歌うように指導している。(ちゃんとやろうとするとちょっと難しい)
この曲は今までtipToe.に関わってきた4人で作っていて全員の作家性が良い具合にブレンドされている。
作詞:本間(P、特別じゃない私の物語、ハートビートなど)
作曲:鈴木貴之(僕たちは息をする、The Curtain Rises)
編曲:瀬名航(夢日和、星降る夜、君とダンスをなど)
歌唱指導:aoi kanata(クリームソーダのゆううつ、blue moon.など)
※1 狙って演奏をモッタりさせること。ファンクやR&Bなどでよくある。その逆は「前ノリ」で突っ込むイメージ。
楽曲
曲構成が極めてシンプルで2サビ後から後半に繋ぐBメロを除けばひたすらAメロとサビを行き来するだけで、アレンジで展開を表現している。コード進行もとても簡単。
「僕たちは息をする」の作曲者であり本間が前にディレクターをやっていたバンドbutter butterのソングライター鈴木さんに作曲を依頼。今回のテーマを説明した上で作ってもらった1回目のデモを聴いて「鈴木さんならもっといい曲書ける」と完全リテイクをお願いし、2回目のデモでいきなり今の2サビまでほぼ構成が完成した状態であがってきた。さすが。
個人的にはとても好きだったのだがあまりにも曲に抑揚がないのでアイドルが歌う曲として大丈夫なのかという不安があり、2サビ後の展開について「同じサビメロでアレンジをとにかく盛り上げてそれで抑揚を出すのはどうか」と提案をしたところ、鈴木さんも全く同じことを考えていて今の構成に至る。
メロとコードと展開をざっくり作った鈴木デモを瀬名君に託して、瀬名君が編曲を担当した。イントロのピアノは鈴木デモの時点で今の長さだったが、瀬名君アレンジで少し伸ばし、最後の最後でやっぱり今の長さに戻した。
この曲の編曲作業で(今となっては)面白かったのは瀬名君の「掛け算の美学」と本間の「引き算の美学」が思いっきり対立したことだった。前者はいろんな音を掛け合わせていくことで得られる美しさがあるから詰め詰めにアレンジをしていくべきという考えで、後者は無駄なものが一切ない最小構成で作る楽曲こそ美しいという考え。普段tipは割と前者のやり方が多い気がするのだが今回本間が暗黙的に目指していたものが後者で、自分の中でそれが絶対になっていた。どっちが正解ということもない話なので話し合っても結論は出ず、「相手の言ってる意味もわかる」的な譲り合いも難しかったので「すまんが今回は本間の言う通りにアレンジ頼む」という当初の「本間がただやりたい枠」通りになった。瀬名君のアレンジだともうちょっとだけコードとアレンジがトリッキーだった。この反動が「砂糖の夜に」に繋がっていくのだがそれは「砂糖の夜に」の解説を読んでいただきたい。
大サビの長いギターソロはレコーディングエンジニア兼ギタリストの平田君が考案。ボーカルを食うギリギリの存在感で、歌詞と歌メロに加えてギターソロがリンクして非常にエモい感じになっている。この時のギターの音量についてもかなり議論し、今よりもう少しだけ下げようかと考えていた本間に対して普段は本間の意見に合わせてくれる平田君が「このギターはもう一つのメロディだから絶対にボーカルに近いぐらいの存在感を出すべき」とどうしても譲らず、本間もそれが理解できたので今の音量になった。これで良かったと思ってる。
歌詞
夜、一人になると顔を出すネガティブでダメな自分。そんな自分を連れて「私」は静かな街を歩く。
本間が歌詞を書く時は普段苦しみながら1〜2週間かけて少しずつ書いていくのにこの曲は鈴木さんから夜中の1時頃にデモをもらって4時頃には書き終わっていた。なんであんなに早く書けたのか謎。メロから言葉が出てくるような不思議な感じだった。
メンバーに渡す歌割り表に曲の解説や歌い方を書く欄があって、この曲はこんなことを書いた。
『家族が寝静まった午前2時、私はこっそり外へ出る。誰に会うこともないので服は適当。持ち物はスマホとイヤホンと財布ぐらい。人のいない夜の住宅街は等間隔に並ぶ街灯と信号機、自動販売機、時々通り抜ける車のライトだけが明るい。天気は良く、空気は澄んでいて月がとても綺麗に見える。私はイヤホンで好きな音楽を聴きながらアテもなくフラフラと考え事をしながら歩く。』
誰もいない深夜の公園で月に向かってブランコを漕ぐ。街灯と月の光でくっきりと浮かび上がった離れてしまいたい自分の憂鬱な影は自分の体に合わせて一緒に揺れている。それでも地面を蹴る瞬間、自分の足とその影は一つに重なる。そうやって生きていく。
「thirdShoes.」のジャケ写はこの曲の深夜の公園のイメージ。あの場所は「特別じゃない私の物語」のMVで寧々が昼間メロンパンを食べてた公園の一角で、同じ場所でも時間帯や感情によって全く違うように見えます。昼と夜は繋がっているのです。
雑記
当時ライブアイドルでバラード曲はアリなのかわからず、自分たちは好きだけどやるにしてもそんなに頻繁にはやれないのかなと運営・メンバーで話していました。結局全然大丈夫でアイドルの懐の深さを感じました。
個人的に10年以上の付き合いがある鈴木さんと初めて正規の形で共作したのは改めて考えると熱い。
YUKO先生のtipToe.振り付けデビュー曲。振りが曲にぴったりでドラマチックでとても素敵なんです!
この曲はaoi kanataさん的な歌い方にしたくて歌のディレクションをaoi kanataさんにお願いしたところ、もともとボカロだった仮歌を自身で歌い直した音源とみっちり解説を書いた歌詞カード、ながーい解説ボイスメッセージなどで熱く指導していただきました。
この曲やる時のメンバー達の感情が篭った歌い方も表情もめっちゃ好き。
2018年12月15日、午前2時にMV公開。歌詞をもじって週末の午前2時。
tipToe.の映像は基本的にヴィジュアルPである長谷川圭佑が一貫して制作しているのですが、今作は頃安祐良監督にお願いして制作していただきました。その作風の違いから普段のtipToe.とは違う魅力が出た作品となっています。撮影にはGoProを利用し、なかなか観たことがない映像になっています。