tipToe.楽曲解説Vol.11 – The Curtain Rises
概要
・タイトル The Curtain Rises
・ヨミ ザ・カーテン・ライゼズ
・楽曲番号 12
・作詞 本間翔太
・作曲 鈴木貴之
・編曲 瀬名航
・振付 YUKO
・制作時期 2年生2学期編「daydream」
コンセプト
「daydream」の時期に作った曲はジャンルはバラバラでも「心で歌う(歌に感情を込める)」が共通テーマとなっていて、この曲は感情を叩きつけるような攻撃的な楽曲として作った。
tipToe.第1期メンバーたち本人が辿り着いたもう一つの「かすみ草の花束を」。
tipToe.の楽曲の多くは地方都市に住む一人の女子高生に起きた様々な物語を描いていて、曲によってはメンバーたちにも重なるところがありつつも基本的にメンバーたちはその子の物語を体現するパフォーマーとして楽曲に向き合ってもらうようになっている。しかし、この曲はその子の歌というよりも第1期メンバーたちの曲というイメージが強い。
いつも"その子"の成長はメンバーよりも先を行っていた。「かすみ草の花束を」の頃、まだ「かすみ草の花束を」の心境に至れていなかったかもしれない。今考えるとあれは僕ら運営の願いに近かったように思える。「ハートビート」を出した辺りで少しずつメンバーとその子の心は重なっていったような気がしていて、夜編を経てやっともう一度「かすみ草の花束を」に辿り着いた。しかし、辿り着くまでの道筋は「かすみ草の花束を」程清廉で美しいものではなく、泥臭くて必死だった。
「特別じゃない私の物語」→「夢日和」→「ハートビート」に繋がる「かすみ草の花束を」の話をメンバー視点からもう一回書こうと思ったのが「The Curtain Rises」。
楽曲
作曲は「僕たちは息をする」「ナイトウォーク」といったギターロック曲でお馴染みの鈴木貴之。今回の本間の発注は「エモくて速いの」というざっくりしたもので、参考楽曲もなし。鈴木さんとは長い付き合いなのでそれである程度伝わる安心感がある。
メンバーが感情を込めやすいようにメロディに意図的に気持ちよく伸ばせる箇所(ロングトーン)を沢山仕込んでいるのがミソ。
曲の冒頭に入る「ジャッ」のキメは完全に本間の趣味。本間と似たようなギターロックを好きな方はこの部分でニヤッとしてくれると信じている。
イントロのピアノが難しかったりもするが、tipToe.にしては比較的構成がシンプルでただ速くて疲れるだけで演奏もなんとかなる範囲なのでコピバンお勧め。歌は息継ぎの関係で一人で歌おうとすると相当辛い。一人でも歌えるかは試したことがない。音源では3人で歌っているサビの「ぶつかって寂しくてもどかしくて~」の部分をライブでは「ぶつかって」と「寂しくて」と「もどかしくて」で分けて1人ずつ歌うなど工夫している。
瀬名君は編曲で鈴木さんの原曲の印象そのままに細かいところまで丁寧に仕上げてくれた。あまり余計なことをせずに原曲のエモさをできるだけそのまま残すように頑張ったと瀬名君が言っていた。
最後まで苦戦したのはギターで「daydream」発売まで使用していた暫定オケと「daydream」収録の完成版ではギターが結構違う。リミットの前日ぐらいまで死にそうになりながらエンジニア兼ギタリストの平田君と本間で考えていた。
この曲にはイントロにシームレスに繋がる「Before the Curtain Rises」という専用SEが存在し、この専用SEは非常に長いイントロのような役割を果たしている。
歌詞
この曲の歌詞は本当に辛かった…。
2周年記念の4th ONEMAN「The Curtain Rises」開催1ヵ月前ぐらいまでずっと悩んで書いてて、「歌詞書けないからちょっと遅れる」って言って現場入り遅れたりスタッフのみんなに迷惑かけてしまった。メンバーへの歌詞共有も遅れて申し訳ない気持ち。
本間の作詞はざっくりとテーマを決めたら、その後は音やメロディの印象から感覚的に言葉を引き出していく(うまく言えない…)感じで作る。今回も同じように書こうと思ったら強い言葉しか出て来なくて本当に困った。「主人公ってこんなキャラだっけ?こんなに強かった?たくましかった?」と思うと筆が全然進まない。今まで自分のことだけで必死だった主人公がまるで誰かを引っ張っていくような圧倒的な力強さを持ったような。かすみ草の花束をの書き直しなのでそこそこ前向きにするつもりだったけど、、それでもこんなに強くないでしょ?と…。
最初はこれじゃダメだと思って何度も没にして悩んでいたのだけど、丁度2年目の大詰めでメンバーたちの今までのことを思い返したら、本当にみんな強くなったなぁと思って。。そう考えると、今ならこれぐらい強くてもみんな嘘っぽくなく歌いこなしてくれるんじゃないかと曲に引っ張られるままに今までで一番強い主人公の歌詞を書いた。メンバーと「デビュー曲がこれだったら絶対嘘だよね」と話した。2年やってきたからこその歌だと思う。
「魔法のような夕景の先で」:magic hour
「宵に浮かぶ孤独を越え」:thirdShoes.
「起きたままで見る夢のような」:daydream
と今まで乗り越えてきたものを書いている。
1番の"夕暮れ染まっていく寒空の帰り道"は「ハートビート」のラストシーンのイメージで、「2つの影」は「笑いあって息をしていた」2人のこと。
「高架下」は「僕たちは息をする」の高架橋下のイメージ。
2番は夜編の話。「星降る夜、君とダンスを」のテイストをちょっと入れてたり、夜編やってた頃のグループ内部の心境を書いたつもり。
この曲の最初に出てきたフレーズは「才能なんかなくたってここに立って歌うよ」で、この部分個人的に凄く気に入ってる。主人公がずっと抱えていた「特別じゃない」という劣等感や他者への憧れに対する決定的な答えのつもりで書いた。"特別じゃない私"である主人公は特別を目指すことではなく、特別じゃない私を許すことにした。でもそれは諦めるという意味ではなくて、自分が特別な人間かどうかなんてもうどうでもいいと思えたということ。この曲で2年生編が終わり、3年生編に繋がっていくのだが実質ここで主人公の人間的成長はひとまず終わっていて、3年生編は残された時間をどう過ごすかということに焦点が置かれている。
タイトルの「The Curtain Rises」(幕が上がるの意味)は曲名をワンマンに引用したのではなくて、ワンマンタイトルから曲名に引用している。今までのタイトルと比べるとちょっと聞きなれない英語というのに抵抗があって、「The Curtain Rises」はしばらく仮題としてつけていた。もう一つのタイトル案は開幕のベルを意味する「アクトコール」。
ご存知の通り結局「The Curtain Rises」のタイトルでいくことにした訳だけど、あの日のライブでメンバーたちはやっとステージで表現する人間(=アーティスト)になったような気がして、そういう意味でもこれで良かったかなと今は思っている。メンバーにとって1年生編が「バラバラだった6人がやっと揃って同じ方向を見るまでの話」だったとするなら2年生編は「本当の意味で表現者として自分の意志でステージに立てるようになるまでの話」だったんじゃなかろうか。そして3年目の幕が上がる訳です。
雑記
・「心で歌う」ようになる為には声量が必要だと判断して、2018年の秋頃肺活量を鍛えるトレーニング機器を全員に配布し鍛えてもらった。こんなに変わるのかと驚くぐらい声が出るようになった。
・thirdShoes.から一貫して振りを担当して下さったYUKO先生の(ひとまず)最後の担当曲。曲の意図を汲み取って歌が大事なところでは歌に集中できるようにしてくれたり、最後6人が堂々と並んで立つ形を考えてくれたり、この曲にぴったりの振りを付けてくれました。YUKO先生大好きです。
・この曲はうまく歌えるかどうかではなくて、心で歌えるかどうかが大事。
・最後6人で息切れしながら堂々と立って立ってるところ最高の良い。