インターネット・アンダーグラウンド
noteで"はじめてのインターネット体験について書いてみて"というお題を見かけて懐かしい気持ちになったのでちょっと書いてみる。
僕は小学生の頃ゲームに夢中だった。ゲーム情報雑誌の「ファミ通」をコンビニで立ち読みしたり、新聞の折り込みにゲーム屋さんのチラシが入っていたら欲しいものがないかとじっくりと見ていた。運動も得意じゃなかったから外に出ないでゲームばっかりしていて、その流れでコンピューター部という部活にも入った。コンピューター部と言っても、プログラムを書ける訳がないのでただ「ぷよぷよ」や「潜水艦ゲーム(正式名称わからない)」を時間いっぱいやるだけの部活だった。テレビではWindows95の発売が大きな話題になっていた。
中学1年生の時に両親がIBMのAptivaというデスクトップパソコンを買ってくれた。リビングの隅1畳ぐらいのスペースにパソコンデスクを設置して、パソコンはそこに鎮座していた。家族共用だったけど誰も使えないから実質僕専用で、今考えるととんでもなく高価な買い物だったと思う。贅沢な子供だ。
買って数ヶ月たった頃、インターネットを契約してもらえた。今はパソコンもスマホも常にインターネットに繋がった状態で使えるけれど、当時は電話と同じように1分○円という感じで時間単位で料金がかかっていた。だから無駄使いもできないので、インターネットを使う時は「接続ボタン」を押して使って、使い終わったら切断するみたいな使い方になる。
当時インターネット上には今と違って個人が作った「ホームページ」が沢山あって、それぞれ自分の趣味を延々と語ったり、謎の自己紹介が掲載されていたりカオスだった。黄色、紫色、緑色みたいな様々な濃い色で塗り上げられたデザイン、「あなたは○○人目の来訪者です」とホームページに訪れた人数を表示するアクセスカウンター、ホームページ来訪者同士でコミュニケーションをとるBBS(掲示板)。今の感性でいうならどれも全て美しくない。
検索エンジンも今ほど充実していないので似たような内容を扱うホームページやネットで仲良くなった人同士をリンクしあう「相互リンク」という文化が盛んだった。そのリンクを飛び回ってインターネットのいろんなホームページをみることをネットサーフィンと呼んで楽しんでいた。
まだその頃インターネットは限られた一部のオタクたちが楽しむような世界で、現実世界とは完全に隔離された別世界だった。ある意味、最先端の世界であったし、アンダーグラウンドでダーティーで混沌とした非常にスリリングな場所だった。
本間家で使っているプロバイダーがOCNだったのもあり、ブラウザを立ち上げて最初に表示されるページは律儀にもOCNにしていた。
ある日僕はそこで「あ・らトーク」というOCNが運営するチャットサービスを見つけた。3Dアバターを操作しながら同じ部屋にいる人とチャットで会話をするというだけの内容で、今ではいくらでもあるようなものだった。
好奇心で入ってみると中にはリアルタイムで僕に話しかけてくるアバターたちが5〜6人ほどいた。学校が終わった後だから18時ぐらいだった気がする。「こん〜」「はじめまして」のように声を突然かけられて、焦って返事をしようと思ってもキーボードが思うように打てない。「konnichiha」とか「nihongo utenai」とかでてしまうし、僕が一言文字を打つ間に次の話題に移ってしまったりする。やっとの思いで自己紹介をする。僕が13歳だと言うと、「若い!」「すごい!」と可愛がってくれた。
初めてチャットに入った時のドキドキ感は多分一生忘れられないと思う。全く知らない人たちと話す緊張感と、子供の僕にしては大人なことをしている満足感と、そしてなんだかちょっとだけ悪いことをしているような高揚感で僕の心の中はいっぱいになった。
僕はこのチャットで話すことに夢中になって、ほぼ毎日通っていた。顔も名前も知らない人たちと今日学校であったことや最近の出来事を話したり、パソコンの難しいことを教えてもらったりとにかく楽しかった。みんなと会話したいからキーボードも早くなって、いつの間にかブラインドタッチもできるようになった。インターネットのやりすぎで一度だけ料金請求が酷いことになってしまい、母に猛烈に怒られたこともあった。学校にあまり友達のいない僕にとって「あ・らトーク」ができる1畳程度のパソコンデスクは秘密基地みたいなものに思えた。
その後、1人ずつ来なくなる人がでてきた。そして僕もどういう経緯でそうなったかは覚えていないけれど、いつの間にか同じように「あ・らトーク」に行かなくなった。最後まで名前も知らなかったあの人たちは今どうしているんだろうか。
ふと思い立って調べてみると「あ・らトーク」は2001年の秋頃になくなったらしい。今となっては当時の画像1枚すら出てこない。
今のインターネットは昔よりもオープンでクリーンで誰でも入ってこれる世界になった。現実世界とも完全に繋がっている。
僕は東京で生まれ育ったから田舎という概念がないのだけど、当時のインターネットを思い出すと自分の生まれ故郷が再開発で立派になってしまったとしたらこんな気持ちになるのかなと、ちょっとセンチメンタルな気持ちになったりする。