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ソーソン陽オデールのけったいな人生

おれは底抜けにピュアな奴。物心ついた頃からおれはビックになるんやと思ってた。自分はいずれビックになるもんなんやと本気で心から思っていた。何の根拠もないのにガチでそう思ってた。プロサッカー選手になるんや→高校でサッカー辞める、おれの音楽で世界を股にかけるんや→大学でバンド辞める、ダウンタウン超えるような芸人なるんや→NSC卒業と同時に吉本辞める。形は分からないが、とにかくビックになるもんやと思っていたのでだんだんと大学くらいから焦りだしている自分がいた。「あれ、おれこのままでビックになれんのか」みんなが就職活動をして内定を決めていっている中、「これならいけるわ」という半端な気持ちでNSCに入学した。なぜかいつも根拠のない自信だけはあった。その方法は違えどおれは絶対ビックになるもんなんやと思っていたから。根っからのロマンチストというか単なるアホなのか分らんが、とにかく自分でもよくわからん。分かってたら苦労せえへん。とにかくビックになりたいと思っていたおれは吉本を辞めてから無一文ヒッチハイクで上京して居候しながらTVに出るために毎日渋谷でインタビューを受けて回っていた。どんな形でもTVに出たらええとおもって伸び呆けた天パのアフロとアロハシャツというルックスで毎日徘徊してた。それが功を奏したのかブラマヨ相談部という番組に出演させてもらえることになった。街中にいる迷える素人を捕まえてブラマヨの二人がお悩み相談をしてくれるという番組だ。念願叶って「これを皮切りにおれもようやくビックなれるわ」という気持ちでわくわくしながら向かったスタジオ収録。その帰り道は虚無感。何も感じなかった。自分の力の無さに心底絶望して逆に何も感じなかった。「とりあえずビックになりたいハーフイケメン」というよくわからん肩書に加えてアフロにアロハシャツで登場したおれに対してブラマヨの二人はすでに若干引いてた。当たり前のようにTVで見てきたブラマヨの二人が目の前にいるという事実に気おされてしまったおれは「今まで何してきたん」とか「何ができんの」とか聞かれても特に見せ場も作れずにいた。話は「何で吉本を辞めたか」という話題になった。おれはあらかじめプロデューサーと打ち合わせをしていた通り、「いや~吉本でビックになれてもブラマヨさんどまりなんで」と返した。小杉さんは返す刀で「なんやおまえ、なにしにきてん」とおもろい感じでツッコミを入れた。場の雰囲気は面白い感じに仕上がっていたが、おれの胸に刺さった刀は抜けないままやった。「おまえなにしにきてん」という言葉が胸の中で堂々巡りになっていた。何か武器があるわけでもない、TVに出れても何の見せ場も作れやしない、ただアフロにアロハシャツの奇抜な外国人風の関西人。そんな自分に恥ずかしくなってその場でアフロを刈り上げ、アロハシャツをビリビリに破いて帰りたくなった。渋谷の雑踏を抜けて居候先の幼馴染の家に着く頃にはおれのココロのアフロヘアーは全て抜け落ちていた。そこでようやく気付いた。「武器がない」今まで沸いていた根拠のない自信は消えていた。正確にいうとビックになれるもんやというかビックになってどうなるんやという疑問がついて回った。何かの縁があって仮に誰もが知ってるような番組に出れたとして武器が無い状態のおれに何ができるんやと。むしろ怖くなった。何もできないと分かっててTVに出される。公開処刑。レベル1でラスボスのいるダンジョンに放り込まれるような怖さ。この怖さを理解した途端に今ここでこの経験を得られたことに心底感謝した。ドンキでバリカンを買って居候先の風呂場でアフロを全て刈った。アフロにアロハシャツは本当は武器が無いことをどこかで悟っていた自分を隠すための薄いなけなしの防具だったのかもしれない。めっためたに砕かれた防具を脱ぎ捨てて、大阪に戻って武器を身に着けようと決心した。ようやくそこで気が付いた。ビックになるには武器が必要やと。23歳のときやった。

To Be Continued

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