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是枝裕和監督作品「そして父になる」

映画を見た後に、小説を読みたくなる作品。

私が(観て良かった。)と思える作品の基準はそこにある様に思います。
映像で感じ取れなかった登場人物の心理や境遇などを小説(原作でもノベライズでも、どちらでもOK)で確認したい。そう思わせてくれる作品は私にとって「観て良かった作品」となります。

映画の制作者の皆さんが、これをどう捉えるのかは分かりません。
何だってぇ?俺の映画では読み取れなかったってかぁ?
なんて捉える方もいらっしゃるかも知れません。
それは半分、当たっています。

小説と映画。

それぞれに伝えきれない事、逆に伝わり過ぎてしまう事、そのあたりの過不足を認識して、理解して、少しでも制作者さんの意図に近づきたい、そんな気持ちがあります。
ひとことで言えば「答え合わせ」ですね。

だから私にとって、映画を見て100%満足してしまえる作品というのは、それだけでその作品とバイバイしなければならないので、満足はしていながらも、私の心には逆に「くすぶり」に似た感覚が生じてしまうのです。
満足と不足が入り混じった、なんとも言えない感覚に襲われます。

欲張りなのでしょうか。未練たらしいというのでしょうか。


今回は、そんな私に一切の燻りを与えない、「観て良かった作品」を多数生み出してくれる監督のひとり、是枝裕和(これえだ ひろかず)さんの作品を紹介させて頂きます。

是枝さんの作品には「家族」をテーマにしたものが多く、玄関をガラッと開けたその内側を描く映像には、人間生活の生生しさが強烈に表現されています。
人間の横顔を、至近距離から撮る監督。そんな印象を持っています。

元々、ドキュメンタリー出身だったそうでして、この事を知った時には非常に合点がいきました。どうりで視点が深い訳です。

それでは、作品の紹介に参りましょう。
今回は、「そして父になる」(2013年)です。

ある、二組の家族を描いた作品です。

主演は父親役の福山雅治さん。妻役は尾野真千子さんです。
もうひとつの家族を、リリー・フランキーさんと真木よう子さんが演じておられます。

二組の家族にはそれぞれ6歳になる息子がおりますが、どちらの親子にも血の繋がりがありません。その理由は「出生時の取り違え」です。

この二組の家族はライフステージが全く異なります。
福山さんは一流企業勤務のエリート建築家。
リリー・フランキーさん一家は町の小さな電気屋さんです。

病院からの知らせによって取り違えの事実を知ることになり、互いの家族が会い、そして福山さんがある提案を行うのですが…

私の胸に深く刺さったのは、「エリート」である福山さんに対してリリー・フランキーさんが言い放ったセリフです。

「負けたことのない奴は本当に人の気持ちが分からないんだな」

実に強烈でした。

そもそも、人の気持ちなんてものは「分かりようがないもの」だと思うのですが、分かろうと努力する事はできますし、その様にあるべきだろうとも思います。(結果的に分かるかどうかは別にして。)
その為に必要なのは「相手を知る事」であり、知る為に必要なのはやはり「対話」なのかなと思います。

このセリフには「あんたは、その努力をしないどころか、その概念すら持っていないじゃないか。」という、そんな気持ちが込められているような気がしました。
私は、実は福山さんはその概念を持っており、駆け引きの手段としてあの提案を敢えて使ったのかも、とも考えました。
交渉の際、わざと突拍子もない要求をして、その瞬間の相手の反応を見る様に。

父というより、交渉人といった方がしっくり来る、そんな福山さんに変化が見え始めます。

すべての登場人物の、すべての表情に注目の作品です。ぜひご覧になってみてくださいね。

次回は「万引き家族」を紹介させていただきます。2018年にカンヌ国際映画祭の最高賞、パルム・ドール賞を獲得した作品です。

それでは、また次回。
お読みいただき、ありがとうございました。

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