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【徹底解説!】スマホアプリの収益シミュレーション【サンプルExcel付き】

こんにちは。ゆうです。
現在Amazonシアトル本社でモバイルゲームのプロダクトマネージャーをしています。
※ちなみにこの記事の内容は全て個人の見解であり、所属する組織・部門等を代表するものではありません。

さて、僕の日々の仕事の中で、アプリの収益予測をすることがよくあります。

「アプリをリリースしてから何ヶ月で何人ぐらいのユーザーさんが集まっていて、どれくらいの売上が見込めるかな?」

「それを実現するためにはいつどのくらいの規模の広告を打てばいいのかな?」

みたいなことを考えるわけです。


で、そのやり方って、どの会社・組織・チームでもだいたい同じような感じだと思うんですが、ネットをざっと見渡したところ、あまりちゃんと説明している記事が見当たらなかったので、自分の備忘録を兼ねてちょっと書いておこうと思います。
#マニアック過ぎてあまり需要が無いからという説もありますぴえん 😢

前半では収益予測の基本的な考え方や用語等を説明して、後半ではExcelでの具体的な収益予測の仕方を、Excelのサンプルファイルを交えて説明します。
#ちなみに 、けっこういろんなExcelのテクニックを使っているので、ファイルを眺めているだけでも勉強になるんじゃないかと思います

後半部分は有料になっていますが、前半だけ読んでもけっこう参考になると思うので、新人プロダクトマネージャーさんや、これからプロダクトマネージャーを目指している人たちは是非読んでいってください😊


アプリの売上の基本式

1日の売上 = DAU × ARPDAU

いきなり横文字が出てきましたがまだ帰らないでくださいね😇
ちゃんと説明していきます。

「DAU」とは「Daily Active Users」の略で、ある1日のうちにそのアプリを利用したユーザー数のことです。
#ちなみに日本では 「ディーエーユー」、海外では「ダウ」と発音されることが多いです。

Active(利用した)の定義はアプリによってまちまちで、そのアプリを起動してログインしただけで「利用した」とみなすこともあれば、何らかのアクション(ゲームであれば1回以上バトルをした、とか)をもって「利用した」とみなすこともあります。
個人的には、ログインをもって「利用した」とみなすことが多いです。

で、もう1つの「ARPDAU」「Average Revenue Per Daily Active Users」の略で、前述のDAUあたりの平均売上のことです。
#ちなみに日本では 「エーアールピーディーエーユー」、海外では「アープダウ」と発音されることが多いです。
DAUが100人で売上が1,000円だったら、ARPDAUは10円になります。簡単ですね😇

この2つをかけ合わせれば1日の売上になります。まあ、当たり前ですよね。
当たり前だけど大事なので、売上の基本式を再掲しておきます。

1日の売上 = DAU × ARPDAU


DAUの予測

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日々の売上を予測するには、日々のDAU(アクティブユーザー数)を予測する必要があります。


ここで、新しく「継続率」という概念を導入します。
継続率とは、新しくアプリを使い始めたユーザー(新規ユーザー)が、使い始めた日からちょうどN日後にそのアプリを利用する割合です。
例えば、1月1日に100人の新規ユーザーがいたとして、そのうちの30人が3日後の1月4日にアプリを使ったとしたら、3日後継続率は30%となります。
#ちなみに英語だと3D-RR(3 Day Retention Rate)とか書いたりします。

N日後の継続ユーザー数は、新規ユーザー数とN日後継続率を使って以下のように表せます。

N日後継続ユーザー数 = 新規ユーザー数 × N日後継続率

#ちなみに 、新規ユーザー数のことをNUU(Newly Unique Users)と書いたりもします。

さて、勘の良い方ならうすうすお気づきかもしれませんが、ある日のDAU(アクティブユーザー数)は、継続ユーザー数を足し合わせることで求められますよね。
例えば、下の表のように、1月4日のDAUは、
✅1月1日の3日後継続ユーザー数
✅1月2日の2日後継続ユーザー数
✅1月3日の1日後継続ユーザー数
✅1月4日の新規ユーザー数
を足し合わせることで求められます(このアプリは1月1日にローンチしたと仮定)。

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これをかっこよくシグマを使って数式で書くと

DAU = ΣN日後継続ユーザー数 (N = 0, 1, 2, ...)

となります。
で、

N日後継続ユーザー数 = N日前の新規ユーザー数 × N日後継続率

だったので、この2つの式を合わせると

DAU = ΣN日前の新規ユーザー数 × N日後継続率 (N = 0, 1, 2, ...)

となります。
かっこつけるためにシグマとか使って書いてますが、やってることは足し算とかけ算だけです!😇

あとは、新規ユーザー数とN日後継続率が予測できればDAUが予測できますね!


新規ユーザー数の予測

まずは新規ユーザー数の予測から。
アプリの新規ユーザーは、大きく広告経由とオーガニックに分けられます。

新規ユーザー数 = 広告経由の新規ユーザー数 + オーガニックユーザー数

オーガニックとは、広告経由ではなく直接アプリストアでそのアプリを検索してインストールしたユーザーのことです。
ユーザー数がある程度の規模になってくると、広告を打たなくても口コミ等で新規ユーザーが入ってきますが(バイラルと言います)、初期にはやはり広告に頼らざるを得ません。

広告経由の新規ユーザー数は、

広告経由の新規ユーザー数 = 広告費 ÷ CPI

と書けます。
ここで、「CPI」「Cost Per Install」の略で、新規ユーザーを1人獲得するために必要な広告費のことです。
CPIが100円のとき、広告に1万円かければ100人の新規ユーザーを獲得できます。簡単ですね😇
広告にいくらかけるかを決めれば、広告経由で何人の新規ユーザーを獲得できるかが決まります

CPIは、そのアプリのジャンルや広告を打つ国によってある程度目安があるので、アプリを出す前に収益予測をする際にはその目安の値を使います。
アプリを出して実際に広告を打ち始めてからは、実際にかかった広告費に基づいて算出した値を使います。


一方で、オーガニックの新規ユーザー数の予測には色々な考え方がありますが、オーガニックユーザーの数は広告経由ユーザの数と相関があるらしいので、アプリを実際に出すまでは広告経由ユーザー数のX%として算出してしまうことが多いです。

オーガニックユーザー数 = 広告経由の新規ユーザー数 × X%

例えばXが150%だと、広告経由の新規ユーザー数1人あたり1.5人のオーガニックユーザーが入ってくることになります。

このようにして求められた広告経由の新規ユーザー数とオーガニックユーザー数を足し合わせることで新規ユーザー数が求められます。


N日後継続率の予測

継続率は、アプリを出す前はAppAnnie等のデータをもとに
「だいたいこれくらいかな?」
という値を使います。
ただし、AppAnnieで入手できるデータは1日後・7日後・30日後の継続率だけで、2日後や3日後の継続率データは提供されませんし、ましてや将来の(例えば半年後の)継続率なんてとてもありません。

ここでは、入手可能な継続率データ(AppAnnieのデータを使うなら1日後、7日後、30日後継続率)から、継続率の近似曲線を求めます。
ちょっと難しい言葉が出てきましたが、要するに
「これらの点をつなげると、だいたいこんな曲線になるかな〜?」
という線を引きます。

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が、何も人間がテキトーに引くわけではなく、ちゃんと科学的に最もそれらしい線を引くようにしますよ!😉

継続率は、下図のように0%に向かって収束していく曲線を描きます。

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このような曲線の近似としては、「べき乗近似」「指数近似」がよく使われます。

べき乗近似とは、一連のデータを

y = a * x ^ b

という数式で表される曲線に当てはめて近似する手法で、指数近似は

y = a * exp (b * x)

という数式に当てはめて近似します。
何やら色々と数式が出てきて泣きそうになっている人もいるかもですが、面倒な計算は全部Excel先生がやってくれるので安心してください。

下図は、1日後/7日後/30日後の継続率が50% / 25% / 10%の点(青色の四角)に、べき乗近似(オレンジ色の線)と指数近似(緑色の線)を当てはめてみたものです。
また、灰色の線は、べき乗近似と指数近似の値の平均を取っています。

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グラフを見て分かるように、使用する曲線によって結果がけっこう異なってきます。べき乗近似だと長期継続率が比較的高めに出る傾向があり、指数近似だとかなり急速に0%に収束する傾向があります。
完璧な近似というのはあり得ないので、実績値に最も近い、最も確からしい曲線を選びます。

さあ、これで新規ユーザー数の予測値も、N日後継続率の予測値も求められました。
これで、下記の式(再掲)を使って、DAUの予測値が得られます。

DAU = ΣN日前の新規ユーザー数 × N日後継続率 (N = 0, 1, 2, ...)

あとは、ARPDAU(アクティブユーザーあたりの平均売上)が分かれば下記の売上の式(再掲)とかけ合わせて売上が求まりますよ!😊

1日の売上 = DAU × ARPDAU


ARPDAUの予測

実は、ARPDAU(アクティブユーザーあたりの平均売上)は、これまたAppAnnieで似たようなアプリを探して、その平均値をベタ打ちしてしまうことが多いです。
もちろん、やろうと思えば
「長期間継続利用しているユーザーほど多く課金してくれるはずだ!」
みたいなファクターを組み込むこともできますが、モデルを複雑にし過ぎると
「こんな場合はどうなるかな?」
みたいなシミュレーションがしづらくなるので、ここはあえてシンプルにしています。
まあ、これは唯一の正解があるわけでも無いので、実際の状況に応じて色々と試してみてください。


総売上と純売上

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売上には、「総売上」「純売上」というものがあります。
#ちなみに英語ではそれぞれGross RevenueNet Revenueと言います。
「総売上」は見ての通り、売上の総額で、そこから売上値引、割戻、返品などを差し引いたものが「純売上高」となります。

アプリの場合は、各アプリストアの手数料(AppStoreもGoogle Play Storeも基本は30%だけど、最近AppStoreは割引を発表しましたね)を引いたものが純売上高となります。

実際に手元に入ってくる収入は、純売上高となるため、LTVやROASなど、収益性の判断にはこちらを使うことが多いです。


LTVとROAS

「LTV」「Life Time Value」の略で、ユーザー1人が利用開始から終了(離脱)までに生み出す収益の平均を指します。
「Life Time」と言いつつ、実際に使うときには30日間LTV(30D-LTV)や60日間LTV(60D-LTV)など、期間を指定して使うことが多いです。
それぞれ、ユーザーがアプリをインストールしてから30日以内もしくは60日以内に平均いくらの利益を生み出すかを意味します。

N日間のLTVは、

N日間LTV = ΣARPDAU(Net) × K日後継続率 (K = 0, 1, 2, ..., N-1)

で求めることができます。
(LTVの計算には、GrossではなくNet売上を使います。また、継続率と異なり、LTVは初日を0ではなく1日とカウントするので、N日後ではなくN-1日後の継続率まで使用することに注意。)

「ROAS」「Return On Advertising Spend」の略で広告費用の回収率を表す指標です。
こちらもLTV同様、30D-ROASのように期間を区切って使用します。
式としては

N日間ROAS = N日間LTV ÷ CPI

となります。
「新規ユーザー数の予測」の章で説明したように、アプリのユーザー獲得は基本的に広告を使います。
なので、もし1人のユーザーを獲得するために200円かかったのに、ユーザー1人あたりから150円しか得られなければ、赤字になってしまうわけです😢

逆に、ROASが100%を超えるのであれば、ユーザーを獲得すればするほど利益が増えていく、打ち出の小槌状態になります(とはいえそれが永遠に続くわけではなく、どこかで頭打ちしてしまいますが)。
なので、プロダクトマネージャー(や、マーケティング担当者)はROASに常に目を光らせ、ROASが低い広告チャネルは即座に切り替えていきます。

何日間でROAS100%を目指すかはそのアプリによります。
「このアプリは長期間の継続はあまり望めないから、90日間以内にROAS100%を目指そう」
とかですね。


Excelを使って実装してみよう!

ここからは、上で構築したモデルを、Excelを使ってどのように実装するのか見ていきます。
まずは下のサンプルファイルをダウンロードしてください。

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