最高のラーメンを作るには
「最高のラーメンを作る」
紙が壁に貼られてある。(無駄に達筆)
他にもスープの材料リストやらその他メモなどが壁一面中に貼られている。
おいおい、やめてくれよ…。裕太の新居。
ラーメン作りの具材で荒らされている。今日は土曜日の朝だ。
学校がない誠一は早速朝からラーメン作りに勤しんでいた。
げんなりする裕太。
新しい納得するラーメンを作るため、誠一(と裕太)は毎日スープ麺の改良をするべきか毎日試行錯誤していた。誠一が修行していたラーメン屋の店長・龍郎にも協力してもらっている。平日の店終了後に、ラーメン作りについてアドバイスをもらっているが、土日は忙しく、さすがにずっと龍郎の店を借りるわけにはいかない、誠一の家でラーメンなんか作れない、ということで裕太の家で作ることになった。
引越し先の新居がラーメンくさい…勿論、ラーメンは嫌いではないが嫌気がさしてくる裕太。
「…なんかいい具材あった?」
「…微妙です…今日龍郎さんも夜手伝えるって言ってたので後で行きます」
深刻すぎる顔をしている誠一。
最高のラーメンを作ると言って、今でも十分美味しいラーメンだと何度言っても聞かない。
誠一は、一生懸命にラーメンについて話してくる。こいつの一生懸命さは嫌というほどわかった。そして、それが父ヤクザ組長・清志に認められたい、褒められたいのだということも…。バカだし、やっていることは意味不明だと思うが、超真面目、超頑固、だが礼儀正しく…、そして自分が納得するまでやる姿は、自分が、株FXのトレードにハマった頃、社長時にアプリ開発をしていた時を思い出させた。
俺もこんなにバカだったのかな…とも思う裕太。
村井にも手伝うと言ってしまった手前、また誠一ががむしゃらに頑張っている姿をみると、もっとこうした方がいい等裕太も積極的に意見を言うようになっていった。
自分は何をやっているんだろうとも思うが。
ーーー
夜。ラーメン屋・龍。
「もうちょっと油を足してもいいと思うけど」
龍郎がアドバイスする。龍郎と裕太もすっかり打ち解けた。ラーメン屋をやっているプロの龍郎にも意見をもらい、的確なアドバイスを実行していく。
「…もうこれでいいんじゃない?だいぶ当初から味も変わったし、俺は美味しいと思うけど」
裕太はげんなりした様子で言った。さらに最高のラーメンを作ると宣言してもう1ヶ月だ。最近はラーメンばっか食べてお腹もパンパンだ。
「…もっと、何もかも忘れるラーメンを作りたいんです…」
「豚骨の比率は落としたんだろ?」
頷く誠一。ラーメン屋・龍にも、干物、数々の野菜、果物等並んでいる。
「なんか理想のラーメンはあるのかよ?」
疲れた声で裕太が聞く。キリがない気がする。だが、誠一は頑としてラーメンの改良をやめることをしなかった。
「もっと酸味のある野菜かなんかを入れた方が良いんです…」
野菜かなんかってなんだよ、と突っ込みたくなる。
「酸味なあ…俺も知り合いの農家に聞いてみるよ、もう遅いから今日はおしまいにしよう」
龍郎がしめてくれて今日は終わった。
ーーー
今日は休みだ。今日ぐらいは毎日ラーメンのことばかり考えないで、他のことをしてくれ、用事があるからと誠一には伝えていた裕太。
実は、今日は母・明美の命日で、裕太は一人で墓参りに行くことにしていた。(祖母は認知症で記憶もボケており、墓参りどころではない)
墓前につくと、遠目から誰かが拝んでいる様子が見える。誰だよ…母さんのバーの知り合いか?黒いスーツをきており、シュッとした体格でスキがなさそうだ。その男・鮫島亮平(32)は、焼酎瓶に入った酒をドバドバと明美の墓にかけだした。
「あっ」
思わず驚いて声をあげた裕太。この男は誰なんだろう。
男がこちらを見たような気がした。思わず頭を下げる裕太。相手も下げてくる。ゆっくりと男が近づいてきた時、裕太はなぜか「ヤバい」と全身で感じ取った。
こいつ、ヤバいやつだ。原因不明の鳥肌が立つ。
オールバックの綺麗にセットされた髪に、薄い塩顔だが、目つきがイカツイ。目が小さく、鼻が整っており、背も高い。韓国歌手に似ている…。
ドンと裕太と鮫島はぶつかった。
「スンマセン」
鮫島は少し関西訛りで裕太に謝り、足早に去っていった。
「何なんだよ…」
裕太は、仕方なしに明美の墓の前に来て掃除を始める。
お線香がさしてあり、さらに明美の好物だった饅頭やさきほどの開けた焼酎瓶が無造作に置かれている。さっきの男がおいたのだろうか。
きらりと光るものを見つけた。
「…?」
よくみると、大きなダイヤのピアスだった。裕太は愕然とした。
―――
「裕太、ピアス無くなっちゃた…知らない?」
明美が酔っ払って帰ってきた日。お気に入りのダイヤのピアスを無くしたと喚いていたのを思い出す。
なんであの男が持ってんだよ…あいつ、もしかして。
振り返るが鮫島の姿はそこにはない。
さーっと血の気がひく裕太。
あいつが、犯人だ。明美を殺したやつなのだ。裕太はそう感じ取った。
明美がラブホテルで死んだ時、協力者のヤクザは木村組というのは分かっていたが、誰かは不明だった。明美からも覚醒剤の反応は出たし、思いっきり首を絞められた跡があった。おそらく、一緒に覚醒剤をやっていた男の暴力の事故で死んでしまったと言われているが、防犯カメラはなぜか壊れており、犯人の証拠は男の後ろ姿しか写っていなく、その他の足跡などは全くなかったのだ。
裕太は体が震えていた。
あいつだ、あいつに違いない… 怒りの気持ちが込み上げてきた。
―――
裕太は、ぼんやりと誠一がスープ鍋をかき回すのを見ていた。
俺は…ヤクザの跡取りの息子を手伝っている。あの男の顔が浮かんでくる。警察に話すべきか。だが、証拠はダイヤのピアスだけ。あいつが犯人だって言えるわけがない。だがあいつは絶対ヤクザだ。
裕太の勘がそう言っている。
冷静になれ…。
誠一を使って、あの男について聞いてみようか。…自分は何を考えているんだ。相手はヤクザだぞ?復讐?そんなことより刑事と話した方が良いかもしれない…。だけど、先に聞くだけなら俺でも…
「浅井さん、どうしたんですか。具合悪いんですか」
「あ、ああ…ごめん。今回は何を入れたの?」
「生姜を…」
「…(美味しいのかそれは?という表情)」
誠一は、あ!と思い出したように言う。
「龍郎さんが、この野菜はどうだ?って準備してくれてるみたいで、今日また龍に行きましょう」
頷く裕太。聞くのは後でにしようと思う。
ーーー
ラーメン屋・龍。
平日の閉店間際の時間で人は少ないはずだ。
だがあかりがついていなく真っ暗である。どうしたと思う裕太と誠一。
「おかしいな…龍郎さん、今日は店やるって行ってたけど」
裏から入りましょうと二人はスペアキーを玄関マットの下から取り、入った。
「…龍郎さん?いるの?」
誠一が元気な声で呼びかけるが、返事がない。真っ暗なので電気をつける裕太。
「!!!」
驚く二人。包丁で刺されたようで床に倒れたように寝ている龍郎の姿がそこにはあった。そばには血がべっとりついた包丁が転がっている。
「龍郎さん?!龍郎さん!」
パニックになる誠一。血の気が引く裕太。
「血が止まらないよ!…浅井さん!」
ハッと我に帰る裕太。救急車を急いで呼ぶ。
「なんか服とかで血止めて」
二人であわてて手当するが、龍郎の意識はない。
「龍郎さん!龍郎さんってば!」
半泣きになる誠一。
「う…あ…」
「龍郎さん!生きてるの?」
朦朧と話しだす龍郎。
「何?何?」
「ル…」
何かを言えるわけでもなく、龍郎は力が抜けたように目を閉じた。
死んだのだ。裕太も誠一にも分かったことだった。誠一は泣きじゃくる。
なぜ、いきなり…こんなことが…、誰によって殺されたんだ…
裕太は昼あった男を思い出した。ヤクザだ。泣きじゃくる裕太。
龍郎を殺したのもヤクザなのだ。