見出し画像

個人ZINE『本を拾う』制作日誌 #00

今回はちょっと戻って0回です。

「本を拾う」ってどんなこと?


について、改めて書きとめておきたいと思います。



個人ZINE『本を拾う』はこんな本にします


毎日はそんなにドラマチックではないです。めったに楽しいことは起こらないものだと思います。
なにかが欠けているような感覚を抱き続けて日々を送る。そんなありふれた日常でも、「なんか気が楽になるときってあるなぁ」という、ちょっとしたことに気づきました。

それは「読書」です。

レイモンド・カーヴァーの短編「ささやかだけれど、役に立つこと」を何十回も読み返しているんです。不思議です。この作品が収録されている『レイモンド・カーヴァー傑作選』の単行本や文庫本が、少なくとも3冊発見されています(もっと多いかも)。

これは、誕生日を迎えた息子を不慮の事故で失った夫婦と、無慈悲にも「バースデイケーキを取りに来い」と何度も電話するパン屋の店主とのやりとりを描いた物語です。

カーヴァーは人によって合う/合わないがあると思いますが、間違いなく最高傑作に挙がる作品だと思います。

ラストの店主の淡々とした独白を経て、悲しみ疲れた夫婦が、なんとか温かいパンを口にし、朝を迎える……。

カーヴァーの小説に通底するのですが、この物語も例にもれず、お世辞にも「いい人」は登場しません。

悲劇があり、理不尽が不意に訪れます。それはたしかに不幸なのだけれど、それでも、パンを食べる。この「ちょっとしたこと」の描き方が自分には刺さるんです。そんなに深くはないけれど、ほんのちょっとだけ、救われるんです。この情景しか描写していないのになぜか登場人物たちの「こころ」の動きが感じられました。人として「大切ななにか」が極めて自然に入り込んで、ちょっとだけ気分が軽くなり、なんとも心地良くするので、つい、何度も読み返してしまう。

「物語」が、こぼれ落ちた自分の「こころ」を拾っている。
拾うことで、他のだれかの「こころ」に響いて、共鳴するかもしれない。なにか楽しそうな予感がする。


そう思い始めたのが、そもそもの原点です。

ただ、本をどんな状況で、どんな気持ちで、拾うかによっても印象はグッと変わります。たとえば、しんどい状況で、しんどい本を読むとどうなるのだろう。そんなときも傍らに本があれば、少しは楽になるかもしれないです。

界隈には、有象無象の「本」が無限にあります。読み放題ですね。ただ、自分の興味だけで本を選書していくと、視点や切り口が次第に単調になることもしばしば。たとえば、河原を散策して、足元の石ころを何気に拾ってみる。すべすべしていたり、ごつごつしていたり、キラキラしているもの、本当に個性に満ち溢れています。

偶然手にした石ころは、本も同じなんじゃないかなとつくづく思います。偶然だとしても、それに手を触れてみるところまで気持ちが動いています。無自覚ですけれど。いったいこれは何だ? と、理解不能なのになぜか気になってしまった。そんな経験、一度ぐらいはあるのではないでしょうか。

インターネットサイトで本を探すときは、ある程度の「目的」や「意図」があって検索していることが多いです。実際に書店や古書店、ブックカフェなどで、「現に存在している生身の本」との予期せぬ出逢いは、人生、得をしたなぁーって気分を味わえます。それで、他の人の選書が気になってきたらもう止まらない。個人の人生の物語が差し込まれているように「書棚の人生」みたいなものが垣間見えてもっと知りたくなります。この「本を拾う」プロジェクト(個人ZINEである『本を拾う』制作プロジェクトのことです)は、偶然の出逢いで興味を持ち、わき道にそれてまた本を漁ったり、音楽や映画にも派生していくことを期待しています。いろいろあった方が、人生はたぶん、ですけれど7000倍は面白く変えることだってできますから。

本の持つ力を信じる。これほど自分に寄り添ってアドバイスをくれたり、喜怒哀楽を引き出したり、幸福な気分を身近にくれるアイテムとして「特別な一品」であることは案外少ないと思っています。これから、みんなが取りこぼした本、気づかなかった本にできるだけ、自分自身も触れていくつもりです。共通体験性を大切にし、この本を手にとって良かった、と思う、気持ちのこもった本を通じたテーマトークエッセイ本として、読者の皆さんの片隅に居場所を作っていただければ幸いです。

つまり、「本を拾う」ことは、

何が起こるか分からないけれども、ワクワクする。
長く読み続けてほしいし、手にとってもらうだけでもOK。


このコンセプトで、個人同人文芸雑誌『本を拾う』は誕生しました。

みなさんにとって、何度も読み返したい、というものになっていれば、なによりです。


フリーペーパーとして誕生した『本を拾う』0が、
装いも新たに『本を拾う』RE:0(創刊準備0号 リマスター版)として、
一斉(?)販売を開始しました!


『本を拾う』RE:0(創刊準備0号 リマスター版)



https://note.com/shobundojinshi/

https://www.shobundojinshi.com/product/-re-0-/149?cp=true&sa=false&sbp=false&q=true

いいなと思ったら応援しよう!