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復刻版「貴族の巣ごもり」 清八の「女性対男性」その1、その2

イントロダクション

 私は、1979年5月から1982年3月まで、当時の浜松市内の月刊タウン誌「あっ!ぷる」の編集を手伝ったり、「我楽苦多通信」というコラムを担当しておりました。83年の何月頃だったのか忘れましたが、84年から新しい月刊タウン誌が発行されるという情報が入ってきました。それが、「遠州地方ではじめての若い女性のためのクリエイティブ・メディア誕生!」というキャッチコピーでした。HPもSNSも無かった時代でも、さすがにこれは恥ずかしかったですね。
 月刊「サムスィング」創刊号の発行は、84年4月1日でした。

月刊「サムスィング」創刊号の裏表紙


当時の編集長から私に連絡があり、お会いしたところ、月一回のコラム原稿を依頼されたのです。創刊号を渡されて、編集方針の説明があり、1600字で女性又はカップル向けの内容を、との事でした。これまで書いたことのなかった内容なので、しばらく時間をいただきました。その頃の愛読書の一冊に丸谷才一さんの「女性対男性 会話のおしゃれ読本」(文春文庫)がありました。裏表紙に「男の女の粋で洒落た会話の教則本。天下一品のエスプリ香る会話のサンプルをご覧下さい」と書いてありました。73年10月頃から人前で素人落語を演じるようになった私には、この文庫本も大切なテキストでした。

丸谷才一著「女性対男性」文春文庫


そこで、この文体模写をしてみようと、考えたのが「貴族の巣ごもり 清八の女性対男性」です。当然ですが、1980年代の会話です。

貴族の巣ごもり 清八の「女性対男性」その1

 酎ハイから「天国の駅」の話になりました。
「酎ハイって、飲んでみたいんだけど‥」
 と女友達が言ったのです。
「うん、たまにはいいね」
 と返事をすると、
「よく飲むの‥」
 と聞いてきました。
「お金が無い時はね」
 言ってしまってから、カッコつけていることに気がついたのです。
「ふ~ん、安いわけ」
「そう、何しろベースは焼酎だからね」
 こんな会話をしながら、あるスナックに入ったのです。
「えーと、レモンにする、それともライム‥」
「何?それ‥」
「レモンで割るか、それともライムにするかってこと」
「どっちがおいしいの?」
「それは好みだけど、レモンの方が口当たりはいいんじゃない」
「じゃ、レモンにして」
「酎ハイ、レモンで二つ!」
 やがて運ばれてきたので、まずは乾杯です。彼女が少し飲むのを待って、
「どう?、どんな感じ‥」
 と聞いたのです。
「さっぱりして飲みやすいわネ。これだったら、もう一杯おかわりしようかナ」
「とんでもない。リキュールってのは飲みやすいんだけど、結構アルコールは強いんだよ」
 と、一応は牽制をしておきました。
「ところで、テレビのCMって、お酒が多いわね」
 彼女が言ったのは、その通りで、ゴールデンタイムでは十本のうち一本は、お酒のCMなんだそうです。何気なく見ていても多く感じるんですから、注意していれば、なおさらです。
「メーカーによっても違うけど、ロックやニューミュージックをBGMにしたり、ファッショナブルになっていると思わない?」
「きっと、女性向きにつくっているんじゃないのかな。売上げを伸ばすためには、女性の存在は大きいから‥」
「そうかもしれないわ。ねぇ、タコハイのCMがあるでしょ」
「あぁ、田中裕子の‥」
「CMとしては、なかなかおもしろいわね」
 先日、読んだ週刊誌の記事が頭に浮かんだので、話を続けることにしました。
「そのCMだけど、視聴者からクレームがついたんだって‥」
「どうして?」
「ほら、『おしん』っていうと、勤勉、実直、辛抱といったイメージがつくられてしまったんだけど、タコハイのCMって何か軽薄な感じがしてみえるから、いやなんじゃないかな?」
「でも、そうするとタレントって大変ネ。自分でそういうイメージにして下さいって頼んだわけでもないのに‥」
「ほら、『天国の門』って、今、上映しているでしょ」
「えぇ、吉永小百合の‥」
「今までの役柄からみと、180度の転換だって言われてるけど、俳優をライフワークとしている以上、その時期だったと思うね。だけど、裸は見せなかったんだから、イメージダウンにもならないし、うまくつくっているんじゃない」
「そうね、最近は誰でもすぐ脱いでしまうから、希少価値かもしれないわネ」
 ここまで話してきて、あることに気づいたのです。
「ところ~で、その映画だけど、いつ、誰と言ったの‥」
「まぁまぁ、酎ハイのおかわりだったよね」
(1984年7月1日発行「サムスィング No.4」掲載)

貴族の巣ごもり 清八の「女性対男性」その2

 避暑からブルーベリーの話になりました。
「清八さん、今年の夏のご予定は‥」
 と、女友達が聞いてきたのです。
「もちろん、いつもの所です」
 と、答えると、
「あぁ、去年案内してもらったところ‥」
 ‥なんて、わかってくれたのです。
 ここ三年連続で、信州戸隠高原へ避暑に行っているのです。もっとも、避暑といっても自炊のキャンプ生活なのですが、浜松とは10から15度も温度差があるのです。
「確かに素敵な所だけど、遠すぎるのネ」
 そうなのです。何しろ長野県の北端に位置していて、車で7~8時間はかかるでしょうか。ということは、往復で丸二日を費やしてしまうのです。
「でも、そのお陰で観光客は少ないし、俗化されていないから、静かでしょう」
「そうね、静かすぎるくらい。去年っていえば、お蕎麦を一度しか食べられなかったから、残念だったわ」
 彼女は、お蕎麦が大好きなのです。
「戸隠の蕎麦っていえば、なかなかの味ですからね」
「ほら、浜松に『大久保の茶屋』っていうお蕎麦屋さんがあるでしょう。確か、戸隠蕎麦を食べさせてくれるんじゃなかったかしら」
「くわしくは知らないけど、戸隠高原の入口に『大久保の茶屋』ってあるから、暖簾分けで出ているのかもしれませんね。確か、年に一度か二度は、戸隠から取り寄せるって話は聞いたことがあるけど‥」
「と、いうことは、その時に行けば、本物の戸隠蕎麦が食べられるわけネ」
 と、誘いをかけてきたのです。
「そうはうまくいかないんじゃないですか。第一、水が違うし、信州とは空気そのものが違っているから‥」
「やっぱり、戸隠まで行かなければ無理ってことネ」
「何でもないことかもしれないけど、そうしたことが一番のぜいたくなんでしょうね」
「そうネ、お金と暇が無かったらできないことだし‥」
「そうすると、僕みたいな独身発展途上者は、何もできないじゃないですか‥」
「またまた、よく言うじゃない」
「とにかく、代わりに食べてきてあげますから‥」
「どうぞ、ご勝手に!」
 彼女を少しごきげん斜めにしてしまったようです。少し話題を変えることにしました。
「ところで、この間の『ブルーベリーのお一人様』、どうでした?」
「あぁ、五月の連休の時のお土産ネ。変わってたけど、おいしかったわ。アレは何なのかしら?ジャムでもないし、ペーストでもないし‥」
「ブルーベリーの実を潰して、食べやすくした‥‥そんな感じでしたね」
「この間も感じたんだけど、信州のお土産屋さんって、ブルーベリーしか置いていないんじゃないの?」
 これは、彼女の指摘どおりなのです。
 とにかく、ブルーベリー・ジャムから始まって‥、キャンディ、パイ、モナカ、ピューレ、アイスクリーム、ケーキ、ティー、クッキー、それから何と、ようかんまであるのです。それが、シーズンごとに増えているのです。
「アンノン族をあてにして、つくっているんだろうけど、何とかしてもらいたいですね」
「ところ~で、もちろん今回も例のお店に行くんでしょう?」
 どうやら、また、お土産を買ってくることになりそうです。
(1984年8月1日発行「サムスィング No.5」掲載)



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