川縁
どうしてこんなに歩く少女になったのだろう
だれも歩いていないよ と父がおしえてくれた
だれも歩いていない 誰もあるいていないのに
わたしのかわいらしさ
わたしのかわいらしさは
ふわりと巻き上げられた砂埃の
妖精だけが知っている
七十歳も七歳も同じ眼球
脚がすごく頑丈だから
いつも歩いていて
毎朝あたらしく起動する物語についてはわすれてしまった
大人なので
日が落ちる前にすこし思い出した
朔太郎の夢を読んでいて
夢について詠い合った夢がかさなったこと
蜂蜜の壺に全身を埋めたような心地
白金のふとい液体が喉元から出てくる
だれも歩いていない
たぶん子供のころもあるいていなかった
あるいていたら
この生涯は夢みたいでしたなんていうことはなくて
人生はとても頑丈
心はとても頑丈