飲み会皆勤賞だった元編集者が、修道院で暮らしてみた━━ちょっとだけ神様を近くに感じる日々について
「大河原さん、出家するの?」
私のロンドンでの滞在先は修道院です。出発前、このことを友達や会社の先輩に話すと、もれなく全員から心配されていました。確かに修道院での毎日は、女だらけの共同生活で、まるで女子校状態。普通に生活はできるけど、夜の闇の中に佇むイエス・キリスト像と目が合うとトラウマレベルでドキッとします。
今回は、特定の信仰を持たない23歳・大学院生の「修道院暮らし」を紹介します。
23歳・元編集者、修道院で暮らしています
そもそも修道院とは、キリスト教の修道士または修道女(シスター)が神に祈りを捧げながら共同生活を営む施設、団体のことです。ヨーロッパには、シスターたちが寮を運営し、世界中から集まった若い女性に安全な居住空間を提供する施設が多くあります。私もその一つに入居して、今は多国籍な70人の女の子とシスターと一緒に生活しています。
設備は、キッチン、シャワールーム、トイレが共用で、1〜3人で過ごす個室が用意されています。私は3人部屋で、モロッコ出身で同じ大学に通うフーダ、スペイン人でアートと歴史を研究するイネスがルームメイトです。
修道院にはシスターたちが祈るためのチャペルも併設されており、朝や週末のお祈りとミサへは階段を降りるだけで参加できる、少し特別な空間。
時々シスターやボランティアが主催するイベントもあり、参加すると他の寮生と仲良くなれます。仲良くなりすぎて、食事時の共用キッチンは各国の言葉が機関銃のように飛び交う、ガールズトークの戦場と化します。基本は英語で話すので、多様な英語を聞いて会話力を鍛えたい人にもおすすめです。
最初は修道院に対して「厳格な」イメージを持ち合わせていましたが、規律正しい生活を送るシスターたちも、おしゃべりや甘いものは大好き。パーティや映画の会には、一番大きなポテトチップスの袋を持って現れるので、笑ってしまいました。
日本にいた頃は、職場の飲み会に欠かさず参加し、朝まで続くカラオケ大会にもしっかり残っていた私。今はそこまで無茶なことはしないけれど、無理に真面目に振る舞っているわけでもなく、異国で安全に過ごすためのバランスを自然と教えてもらっている感じがします。
なんで、私が修道院暮らし? 修道院を選んだワケ
とにかく大学のキャンパスから近く、家賃が安い物件を探していました。
キャンパスがあるロンドン中心部は家賃が非常に高く、専用のキッチンや水回りのついた一人暮らし向けの物件は、日本で住んでいたマンションの5倍ほどのお金を出さなくては住めません。とはいえ、研究で帰りが遅くなる可能性も考えると、家は絶対に近い方がいい。そんな中、大都会ロンドンで予算内の家賃、しかもキャンパスまで徒歩10分という神立地だったのが、今の滞在先である修道院でした。
また、同世代の女の子たちと共同生活を送れることも魅力的でした。高校の3年間を女子校で楽しく過ごした私にとって、最初に浮かんだイメージは修学旅行直前のワクワクとした気持ちです。あのはしゃいでいた時間が大人になった今もう一度戻ってくるなんてと、修道院に飛び込むことを決めました。
修道院の一日━━映画『天使にラブ・ソングを…』の世界へ
ここで、私の平日ルーティーンを紹介します。課題に追われていない日は、こんな感じです。
私の一日は、「朝のお祈り」から始まります。みんなで声をそろえて「アーメン」って言うのが楽しくて参加するようになったのですが、朝が弱い私が毎日祈り続けられているのは、チャペルが寮に併設されているおかげです。シスターたちが唱えるリズミカルな英語のフレーズは歌のようでもあって、『天使にラブ・ソングを…』の映画みたいだなぁと、寝ぼけた頭で考えています。
おしゃべり好きのシスターの話から、キリスト教行事にも詳しくなってきました。「ミサと祈りの違い」「ロザリオとは」など、初めて触れる文化ばかりです。寮のあちこちに飾られた聖母マリアの絵画やイエス・キリストの彫刻は目が合うと怖いので、「見守ってくれているのだ」と自分に言い聞かせて、私は夜のトイレに行きます。
ロンドンにできた私のもう一つの家━━修道院暮らしのメリット
キリスト教文化がすぐそばに
シスターを通して、日常的にキリスト教の文化に触れられるのはこの生活の醍醐味です。修道院に来るまではキリスト教とは無縁の生活を送っていましたし、今も特定の信仰は持ち合わせていません。ただ、神様とともに生きることを選んだシスターたちの生き様を聞く中で、国の超えて、言葉や習慣が異なる修道会に身を投じるなど、その献身ぶりは仰天エピソードの連続です。シスターやキリスト教信仰を持つ寮生との交流から、ヨーロッパらしい文化や風習を肌で楽しんでいます。
学校以外に安心できるコミュニティがある
異国で、ゼロから自分の居場所を作っていくこと。修道院の寮という居場所で親しい友達ができたことは、大きな安心感につながっていると思います。気にかけてくれる仲間がいるだけで、こんなにも体感温度が上がるとは......!
イギリスの大学院は仕事や家庭を持つ学生も多く、彼らは授業が終わるとすぐに帰宅してしまうので、能動的に動かないと深い関係を築くのが難しいと感じました。でも、寮生は帰る場所が同じだからこそ、夜も語り合えます!!
修道院暮らしのデメリットとは?
門限がある
平日は23時、週末は24時の門限があります。親元を離れた若い寮生たちの安全を考慮してのルールです。もうオールの飲み会には行けません。アーメン
(むしろメリットな気がする......)
世界史や宗教用語のキャッチアップがないと楽しめないかも
シスターの話や宗教行事をより深く楽しみたい人には、世界史や宗教の基本的な用語を英語で学ぶことをおすすめします! 私はそういった教養が欠如しているので、ありがたいお話の最中に内容が把握できなくなって、悟りを開くことも……。
文化の異なる寮生とのギャップ
共用のキッチンや部屋の使い方など、文化の違う寮生と認識を合わせる過程は苦労が多いです。起床や就寝の時間も異なるので、相部屋ではアイマスクと耳栓がマストアイテムになっています。
この前はルームメイトが寝ていたため、部屋の外でパックを顔に貼り付けながらドライヤーを使ったら、他の寮生に爆笑されました。
編集者になりたいから、「人類史上最大のベストセラー」と向き合う━━修道院でやりたいこと
これから、「人類史上最大のベストセラー」ともいわれる聖書を読んでみたいです。毎朝のお祈りで聖書をペラペラしている私を見て、シスターが1対1の読み合わせを提案してくれました。週に一度、少しずつ聖書の世界を深めます。
さらに、仲の良いハウスメイトたちと開く「映画を見る会」にも積極的に参加したいです。映画のタイトルは順番に出し合っていて、世界の10〜20代の女の子が普段どんなエンタメに触れているのか、胸を踊らせながら楽しんでいます。特に10代の感性は気になるところ。この前は、最年少の18歳が推薦した『高慢と偏見』を観ました。渋い......!!!
最後に━━神様を少しだけ近くに感じる日々
「インド出身」「10代でスペインの修道会に入会」「71歳の今はロンドンの修道院で若い女の子たちの面倒を見るのが生きがい」
あるシスターに「Where are you from?」と尋ねると、こんな風に返ってきました。修道院に来て最も印象的だったのが、多くの時間を神様に捧げ、まっすぐに祈る、そんな生き方に出会えたことです。国境や言語の壁を飛び越えて、神様とともに生きる人生。私も、そんな人たちに囲まれた生活の中で、神様の存在を少しだけ近くに感じられるような気がしています。
最後に、朝のお祈りで何度も唱えられる「栄唱」の言葉でお別れしましょう。