飴色に煙る / 夜とパプリカ
縁側には神様が居た。斜陽を透かしてひかる白髪が、晩秋のつめたい夕風に揺られていた。「間宮か」色素の薄い瞳で流れるような一瞥をくれて、口角を上げる。彼のまなざしは琥珀のようだ。相も変わらず仏頂面の私を、密葬される遺体のように、その飴色の中に捕らえて離さない。呪われているな、と胸のなかだけで呟いた。或いは、彼は神様なのだから。それは祝福と云うのかもしれない。どちらでも大差ない。
「吸うんですか」
左手に支えられた煙管をさしてそう問うた。浮かべる表情によって少年のようにも成人のようにも老翁のようにも幼女のようにもみえるこのひとは、然し神様であるから人間で云うところの「成年」は疾うに越えているのだろう。それなのに何故だか、神様に嗜好品など酷く不釣り合いに思えた。それはある種の信仰なのかもしれない。神様にくちさびしさなど、存在しないでほしかった。
「いいだろう」
「はあ、そうですね」
「この、火皿にな。ターメリックと、クミンと、コリアンダーと、唐辛子、あとガラムマサラが入っている」
「カレーじゃないですか」
「そう、カレーだ」そうか、カレーか。予定調和が過ぎて不覚にも笑ってしまった。神様は不思議そうに首を傾げる。
苦笑とともに信仰は、夕暮れの中に融けてかたちも見えなくなった。けれど確かに、そこに存在するのである。カレーに融けた芋のようだと神様は云うのだろう。情緒のないあなたのことだ。
2018/11/14