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一途な彼女-ひとみさんのはなし-

ひとみさんは看護を学ぶ大学三年生である。
俯瞰して周りを見ながら、自分の出来ることをやろうとする真面目で優しい人間である。

そして、非常に一途であり、たぶん頑固である。

たべるばと出会ったのは、高校三年生の1月。
進路も決まり、空いた時間で何かしたいとボランティア先を探しているうちにたべるばを見つけたそうだ。
たべるばのスタッフたちは「初めてのボランティア活動がたべるば」という人も多く、これまで福島の子どもキャンプや南三陸でのボランティア活動など、様々なボランティアを経験してきたひとみさんにぜひ聞きたいことがあった。

-色んな活動の中からたべるばを選んで、続けてくれている理由ってなにかな?
-子どもキャンプとか、単発のボランティアはしていたけれど継続してできるボランティア先を探していた時に高校一年生の時の担任の先生が「いつか子ども食堂をやりたい」って言っていたのを思い出して。ネットで検索してHPをみたのがきっかけです。
たべるばは自分の状況や体調によって出来ることをやればいい。
それこそ、活動に参加したりしなかったりも含めて、「それで良いよ」という雰囲気がすごく居心地が良いです。
-たべるばではどんな立ち位置で活動しているの?
-ん~、主につーちゃん(女将の娘、二歳)の子守りです(笑)

ひとみさんはちょっと視線をそらし、照れ笑いをしながらそう言った。
いや、照れている場合ではない。このNOTEを読んでくれている子持ちの方々、ご唱和ください
「子守!まじ!大事!」
しかも、周りを見ることが出来て看護の基礎知識があり、穏やかな若い女性である。
ご唱和ください 
「金なら払う、いますぐ来てくれ」
子ども同伴での仕事の難しさは、週末に子連れで買い出しにいく+αのしんどさがある。
来客に対応していようが容赦なく発せられる
「ママー!トイレ―!」
電卓を奪い、机に乗り上げて物を落とし、なぜかその場で一番「今使いたいもの」を的確に奪って逃げる悪魔、その名は我が子
うちの娘(四歳)なんかzoom大好きでzoomの気配を感じると突撃してくる。
そして、知らん人の顔が並ぶ画面を指さし、満足げに手を振る
いや、これあなたのファンミじゃないから。ママのお仕事だから。
コロナ禍において全国津々浦々今この瞬間も開催されているであろう「仕事中のママVS絶対に遊んで欲しい子ども」の任義なき戦い。
それに終止符を打てるのは唯一「子守様」だけである。
ましてや子ども食堂の女将といえば、見学者対応や保護者対応、利用者である子どもたちにも目を配りつつ、スタッフへの指示も出さなくてはならない。
眼や手がいくつあっても足りない。
そんな時、2歳の我が子を信頼してお願いできる相手が居たらどれだけありがたいか…
なんとなく自信無さげに「自分の役割は子守」というひとみさんに上記の想いをわりに長尺で喚きちらしたわたしのこと、責められる人がいるならば今すぐ目の前に出てきて欲しい。

-子どもを見ていてくれる人の存在は貴重だし有り難い!
-子ども食堂のボランティアは参加者の子どもと直接関わることが大切だと思っていたから自分の存在意義に悩むこともあって…でも、それをこの間女将に相談したら、子守をすることで役に立っている、間接的に子どもたちに関われていると言って貰えて気が楽になりました。

かようにひとみさんは優しくて穏やかなである。
同時に非常に冷静な目で周りや自分のことを見ている。
例えば、一部の子どもたちから仲間としていまいち認められていない感じがすること、あるいは、自分の限界を感じて進路決定時から少しだけその矛先をずらしたこと。
常に「自分と相手の間の空気」を読み、その上で出来ることを探し、動いていく俯瞰力と自分自身に対する冷静な見極め力この二つはひとみさんの大きな武器だと言っていいだろう。

ひとみさんの武器はもう一つある。
それは、彼女のブレない「一途さ」である。
彼女には「看護師になる」というブレない夢がある。
ゆえに、高校では福祉科にすすみ予備知識の習得に励んだ。
そして進路決定時には、看護の中でも特に自分が目指したい部分に強い大学を選び、きっちりと合格。その後のコロナ禍で授業がリモートメインになってしまい、
①    技術系の練習が全然できない
②    質問やグループワークが非効率
③    対面講義なら学べたことが学べない
というかなり過酷な状況でも、めげることなく勉強を続け夢に向かってひた走る。
その志の強さに、家政学部とフランス文学部と国際教養学部という訳のわからないラインナップで大学受験に挑んだわたしとしては尊敬しかありません。

果たして、彼女の冷静さと穏やかさと芯のある一途さはどこから来たのか?

-自分がそういう人間だということについては、今まで無自覚だったから、なんとも…
ただ、「家族に恵まれている」という自覚はあります。
小学生の頃から、興味があることは何でもやらせてもらえたし、数日かかる泊りがけのボランティアでも「いってらっしゃい」という感じで何も言われません。
2個上の姉はボランティアに興味は無いけれど、否定はせずに理解してくれています。
とはいえ、自分が恵まれていることに気づいたのは最近ですけれど。

たべるばとして子どもたちに関わる中で、時に悔しいくらいに「家族」「家庭」の影響力を感じることがある。
産まれてきた場所が「そこ」であっただけで、ある命はまっすぐと育ち、別の命は闘うことを強いられる。そして、時には命が絶えていく。
子ども食堂としてのわたしたちに何か出来ることはあるのか?
わたしたちがやっていることは、ただ傷口に絆創膏を貼っているだけで、傷をつくらせないことも、傷を治すこともできないのかもしれない。
わたしたちは現状、出来てしまった傷を広げないように、擦らないように、絆創膏を貼って一刻も早く傷が癒えることを、ただ待つことくらいしかできない。
でも、それくらいしか出来ないとしても、絆創膏を貼ることができるのであればとにかく一途に貼っていく、貼ることを全うする。そうやって時間稼ぎをすることだって、きっと十分に必要なことなのだ。
ひとみさんが好きだというSKY-HIのアイリスライトは
「君がただ「幸せ」って言う一秒が作れたら
 それだけでいつも僕は僕になれる
その泣き顔が笑顔に変わるのなら
それだけがきっと僕の…」
という歌詞で始まる。
子ども食堂も、というか、我々たべるばも同じなのだ
子どもたちが「美味しい」「楽しい」と思える一秒を作り、その一秒一秒を重ねていくこと。みんなで笑い合う時間と経験を一秒でも多く積み上げていくことにただひたむきに一途であることがたべるばの今の存在意義かもしれない。

そうそう、大事なことを忘れてた!
-たべるばで自分の誕生会をするとしたら、何が食べたい?
彼女はすごくすごく悩み、なんでも良いのだけどなぁと言いながら答えを絞りだしてくれた
-果物が好きだから、好きなだけ美味しい果物が食べたい!かな?

一途な彼女は意外にも、「その他」のところがふわんとしている様子であった。


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たべるばNOTE by 丁稚のハニー
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