見出し画像

11/11

朝起きてパンを焼いていたら、
「今日なんの日か知ってる?」
と父に問われた。
幼い頃からあまり父と過ごす時間がなく、微妙に話し方がわからない私は、パンを見つめたまま
「結婚記念日」
と答えた。
その様子がとても嬉しそうで、顔が綻んでいて、母のこと結構好きなんじゃん、と思うなどした。

「あ、覚えてるんだ!」
「…ポッキーの日」
「それも正解」
「今日何かするの?」
「ご飯食べに行くよ、実は今日で30周年。イオもまだ生きてない30年!」
「そりゃそうだよ、…結婚って、いいものですか」
「あはは、何突然!」

そんなやりとりをしながら私は、夫婦って、家族って、よくわからないなぁと思う。

この親は、私たちがいなかったら、夫婦だけの生活をしていたら、どんな暮らし方をしていたんだろう、とか
この親は、兄が健常児だったら、けっこういい家族を築いていたんじゃないだろうか、とか
なんだか昔の方がよく笑う家族だったような気がするな、とか
考えてもしょうがないようなとりとめもないことが浮かんでは消えていく。

ぶつかることも多い親で、そりゃあずっと一緒にいるわけだからぶつからない親なんていないと思うけど、きっとぶつかる要素が多い家族ではあって。
でも根底にある愛を感じる瞬間は多々あって、子どもがいながらもふたりだけの空気を感じるときは、とても微笑ましい。なんて子どもが言うことじゃないか。

もしかしたらこれで最後になるかもしれない実家暮らしの残り数ヶ月を過ごしている今、
就職や結婚ということばがちらつく中で将来のことを漠然と考えている今、
家族は大事にしなきゃなと思いながらも、素直になれない私が大嫌い。

「いってくるよ」
と階段の下から声をかける父に、
「いってらっしゃい」
と自分の部屋でメイクをしながら答える私。
嫌な娘だなぁと思いながらも、今更どうしたらいいのかなんてわからない。

「早く家でたい」が口癖の私が本当に家を出たら、外で家庭をもったら、私は、親は、何を思うんだろうか。結婚式では手紙を読みながら泣くんだろうか。
そもそも私は本当に結婚するんだろうか。子どもを産むんだろうか。

「結婚って、いいものですか」に対する返答は、笑いながらの「それは人によりますね」だった。無難な答えを返してきたな、と思いながらも、まぁこれからふたりで食事に行くんだからそうか、と思う。嫌な質問をしたな私。

きちんとした格好をして、おめかしをして出ていく父と母を見ながら、私のこころはあたたかい空気でつつまれていた。

結婚記念日、子ども抜きで、楽しんでね。
また、あした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?