ASANOKA(あさのか)の芽吹き # 描写遊び
電気ケトルのスイッチを入れると、静かなざわめきが次第に大きくなり、ブクブクと騒がしい音を立て始めた。
あと少しでお湯が沸く。
今日頂くのは熊本の深蒸し茶「ASANOKA(あさのか)」だ。
袋を開けると芳ばしい牧草のような香りが鼻に抜けた。
よく晴れた日に、干し草の山に飛び込んで、青空を見上げている自分のイメージが浮かぶ。
あたたかい干し草の芳ばしい香りに包まれて、凝り固まった頭と体がほぐれていく。
白い急須にザッと茶葉を入れると深い緑が底に広がった。
細かくちぎれた茶葉と、よれた長い茶葉が、堅く、身を寄せ合っている。
深蒸し茶は、刈り取った直後の茶葉をじっくり蒸した後、乾燥させて作られるそうだ。温暖な土地で大きく育った茶葉を柔らかくし、苦みや渋みを抑えるための製法らしい。
熊本の陽射しをたっぷり浴びて大きく成長した茶葉。
刈り取り後の蒸し工程で、蒸気をたっぷり浴びて、ふやけて柔らかくなった茶葉。
乾燥工程で、ちぎれたりよれたりながら、堅く、深緑になっていった茶葉。
そんな茶葉の変化を想像してみる。
パチン。
お湯が沸いた。
少し冷ましたお湯を静かに急須に注ぐと、小さな茶葉が水面近くまで浮かんでは沈み、楽しそうに踊り始めた。
小さな茶葉のダンスが終わると、長めの茶葉の出番だ。
長めの茶葉がゆっくりと膨らんで葉を広げ、新芽のような緑を取り戻し始める。
製茶の工程を逆戻りして、再び芽吹こうとしているかのようだった。