011.風に舞うアルカリ性の水蒸気
まだ少し低い位置にある太陽が眩しくて
ハンドルを握る手を切り替えてその先から影を作るように手の甲を向ける。
-- 掌が日光浴してるみたいだね。--
助手席にもし君が乗っていたらそんなことを言いそうだなと思って
視線を落としてみる。
開いた窓から舞い込んでくる初夏の風が心地よくて
車を寄せてスマホを取り出す。
風を運んでくる美しい海。
ここでは海は行き先だけでなく、その道中ですらあって
身近なものだよ。ワクワクするんだ。
言いたくて、願っても何度まばたきをしてみても やっぱりそこに君はいないから
届けたいと残した画はどんどんこの中に溜まっていくよ。
笑えちゃうでしょう?
「いつか一緒に見られたらいいね。」
航空券が安くなる程
いつかの口約束の初夏が近づく程
「行かれない」のではなくて「行かない」のだろうと。
ゆっくりだけれど、ちゃんとその波は遠のいていって
その分、砂地が安定感を増すように、硬さが蓄積されていく。
「いつか、一緒に見られたらいいね。」
何度も打っては、何度も消した。
「いつか、一緒に
届かない15秒が 今日もまた溜まっていく。
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