9.吸入療法
吸入療法は正しい手技で吸入して初めて、効果が期待できる。
吸入療法の基礎
エアゾル粒子のサイズと沈着部位
・大きすぎると上気道へ、小さすぎると肺胞に沈着し呼気とともに外気へ排出されてしまう
・1〜5μm程度が望ましい
エアゾル粒子の沈着
・口から吸入したエアゾル粒子は、衝突、重力、拡散によって気道へ沈着する。
①衝突
・気道内の気流の方向は咽頭後壁や気管、気管分岐部などで旧げに変化する。
・吸入したエアゾル粒子は同部位に衝突し沈着する。
②重力による沈降
・末梢気道では吸入気の流速が低下するため、重力で付近の気道に沈着する。
③拡散
・気流が無い状態で粒子径が1μm以下の場合、ブラウン運動により起こる現象。呼吸細気管支から肺胞にかけて起こる。
・安静呼吸時に吸入した空気は呼吸細気管支まではガスの流れとして移動。そこから末梢は拡散により移動する。
エアゾル粒子沈着に及ぼす呼吸パターン
①吸入速度
・サイズだけじゃなく、患者自身の吸入速度も粒子の沈着に影響する。
・ジェットネブライザーやMDIの場合、0.5〜0.75L/s、DPIの場合、1〜2L/s
②一回吸気量と息止め時間
・MDIやDPIは一回吸気量が多いほど薬剤が多くなり、肺内沈着も増える
・1回吸気量は安静呼気位から最大吸気量位までで十分。
・息どめは5〜10秒程度が望ましい。息堪えが難しい患者でもなるべく長く息どめはしてもらう。
③気道径
・気管支喘息による気道攣縮や腫瘍による気道狭窄があると、中枢部に沈着し、末梢まで行き届かない。
エアゾル発生装置
ネブライザー
①ジェットネブライザー
・毛細管から吸い上げた液体を加圧器からの気流を吹き付けて、エアゾルを発生させる。
・肺内沈着率は約10%と低く、外気へ漏れ出てしまう。
・喘息発作に陥り、呼吸を同調させることが困難な患者や小児には都合が良い。
・救急現場ではジェットネブライザーが使用される。
・薬剤は水溶液でないと使えない、エアゾルが外部に漏れる、傾けて使用できない、大型な電源が必要。
②超音波ネブライザー
・粒子径1μm前後の微小エアゾル粒子を大量に発生させる。
・しかし、細気管支や肺胞にまで到達するため、肺胞でのガス交換障害を引き起こしたり、喘息発作中の患者に急性低酸素血症を引き起こし、気道攣縮、悪化させる。
・多くの吸入薬は超音波ネブライザーは使用推奨されていない。
③メッシュ式ネブライザー
・小型で患者が寝た状態でもできる。小児で使われる。
定量噴霧式吸入器(MDI)
高圧に充填されたガスが噴出され、気化する事でエアゾルを発生させる。フロンガスを使用し環境問題から現在全廃されている。
①混濁タイプのエアゾル吸入剤をつかったもの
・混濁状態で充填しフロンガスの気化と同時に薬物粒子がエアゾル化する。
・混濁液なので使用する前に吸入薬をよく振る必要がある。
②溶液タイプのエアゾル吸入剤をつかったもの
・エタノールを加え溶液状態で充填し、フロンガスの気化と同時にエアゾルを形成する。
・溶液タイプなので使用前に振る必要なし
ドライパウダー吸入器(DPI)
・最近発売の吸入薬はほとんど
・薬剤噴霧のために呼吸を同期させる必要がない。
・肺内沈着率は正しく使用したMDIと変わりない
・大きな粒子が口腔内に沈着するため、吸入後にうがい。
・MDIと違い吸入は速い速度
・自分で吸い込むため、人工呼吸器患者や乳幼児には不向き
①スピンヘラー
・吸入用カプセルを入れ、内部の針で穴を開け吸入する。
・吸入抗アレルギー薬
②ディスクヘラー
・填隙剤に乳糖が加えられ、1枚のディスクに4または8枚のブリスターがある。
・吸入ステロイドやLABAがある
③タビュヘラー
・乳糖など填隙剤が加えられていないため、1回の吸入量は少ない。
・吸入ステロイド薬やLABAとの配合剤
④ディスカス
・タビュヘラーと同様に1本の吸入回数が多い
(28〜60回)
・吸入ステロイド薬やLABA
吸入指導
・吸入指導は重要で不適切な方法で吸入すると症状改善が見込めない。
・MDIで24〜81%、DPIで4〜68%
①定量噴霧式吸入器(MDI)
・懸濁タイプの肺内沈着率はは10〜30%
・溶液タイプは30〜40%
・残りは口腔内に沈着するためうがいを行う
・オープンマウス法
吸入器のキャップを外し、容器をよく降り混和する。
ボンベの底が上になるように持つ
口を開け顎を少し上に向ける
容器を直立にさせ、唇から3〜4cm離す
安静呼気位あるいは少し呼出したところで吸入直前に噴霧
周囲の空気と一緒にゆっくり最後まで吸い込む
深く吸い込んだ状態で10秒ほど息を止める
ゆっくり息を吐く
次の吸入をする場合、1分以上開ける
うがいをする
・よくある誤操作
息を吐き切ってから素早く吸い込む
吸入口を唇でしっかり加えて吸い込む
噴霧と同時に急いで早く吸入する
キャップの蓋を外さないで吸入する
容器を正しい向きとは逆にして吸入する
指導してもできない人はスペーサーを使用。使用回数を過ぎたものはガスしか出ないので破棄させる。
懸濁タイプ、溶液タイプともに使用時の混乱を避けるためよく振るように指導する。
②ドライパウダー吸入器(DPI)
・使用方法
薬剤を装着
息を吐き吸入口を加える
吸入口から早く、大きく最後まで吸い込む
ゆっくりと吐き出す
最後にうがいをする
・自発呼吸のできない患者、人工呼吸器装着患者には使用できない
・吸気流量の少ない患者は正しく吸入できない
・喘息発作中は正しく吸入できない
・DPIの使用中は嗄声が出現することがある
③ソフトミスト吸入器(SMI)
・霧状噴霧吸入器、ガスを使わずバネの力で薬剤を霧状に噴霧する吸入器、チオトロピウム臭化物水和物製剤やこの薬剤とオルダテロールの配合剤などで使われている。
・吸入はクローズドマウス法
透明ケースを「カチッ」と音がするまで180°回転させる
キャップを開け、息を十分に吐き出してから吸入口をしっかり口にくわえる。
噴霧ボタンを押すと同時に2秒以上かけてゆっくり吸入する。
そのまま口を閉じ、10秒を目安にそのまま息をこらえる
同じ操作をもう一度行う(1回2吸入)
吸入後うがい
初回は下に向けて4回空打ちする
うがいの重要性
・吸入薬による副作用軽減が目的
・副腎皮質ステロイド:口腔内カンジダ、嗄声
・β2刺激薬:頻脈、動悸、四肢の震え
・抗コリン薬:尿閉、眼圧上昇
・吸入量、回数が多い場合は、うがいを徹底させる。
吸入補助具(スペーサー)
・MDIは吸入の際、噴射と吸入を同期させる必要があること、口腔内への不要な薬剤沈着があることからスペーサー使用が推奨
・正しく使用すればスペーサーを使わなくても肺内沈着率は変わりないが、口腔内沈着には大きな差がある。
・懸濁タイプは大きなスペーサー、溶液タイプは小さなスペーサー
・プラスチック製スペーサーは静電気が発生し、エアゾル粒子が内面に吸着する。
・スペーサーはこすったり、薬液噴射後長時間開けないこと、洗剤で洗い乾燥させる(吹いたりしない)などが大切
・静電気発生防止機能がついたスペーサーもあり
・5μm以上大きな粒子はスペーサーの内壁に吸着するため、口腔カンジダなどを防止できる。