4.血液ガスの解釈

血液ガスとは
・血液ガスのPO2が100Torrという状態は、100TorrのO2を含むガスと平衡している状態と等価。この時の気相の分圧は液相分圧と等しい。

O2およびCO2の血液での存在形式
①O2
・血液中に存在しているO2の含量の内訳はほとんどがヘモグロビンと結合し、溶存しているのがわずかである。
・酸素解離曲線はPCO2、pH、温度によって変化。
・Hb 1gに1.34mlの酸素と結合。成人ではHb15g、15×1.34=約20ml/dl
② CO2(ほとんどがHCO3-)
・ CO2がヘモグロビンと結合しているものはわずか
・ CO2分圧と含量の関係はヘマトクリット、ヘモグロビンおよび血漿蛋白の血液緩衝能などに影響される。
・ヘモグロビンはSO2が低いほど緩衝能が強くなる。

O2と CO2との連携、解離曲線の形の違いとガス交換への影響

・ 解離曲線はO2と CO2では、 CO2の方が含量が多く、勾配が急峻。
・この違いにより、肺病変の進行で血液酸素化が障害されても二酸化炭素の排出が障害されにくい理由である。
・もし肺胞の半分が虚脱したとして、酸素吸入させて、健常肺胞の酸素分圧をいくらあげてもそこを通過するHbの酸素飽和度は解離曲線の右側のようにプラトーに達し100%以上にはならないので酸素含量を増やすことはできない。
・ CO2の場合、健常肺胞の換気を増やせば二酸化炭素の排出を増やすことができる。
・二酸化炭素の排出は虚脱した肺胞の影響を受けにくい。

血液ガスとガス交換障害

・血液ガスは多くの情報を持っている。
・動脈血なら肺の状態
・静脈血なら採血した部位より上流に位置する組織、臓器の状態。
・混合静脈血は全身の組織、臓器の平均的な状態

・肺内ガス交換障害を惹起する原因は2つに大別
・換気血流比の不均等と拡散障害
・換気血流比の不均等には、右左シャント、死腔が含まれる。

・右左シャント:気道閉塞により、肺胞換気がゼロとなり、肺動脈血が酸素化されず、 CO2も排出されないため肺静脈に流入する。

・死腔:肺血栓塞栓症など、血流が遮断されると肺胞気は肺血流と接触せず死腔と定義される。生体への O2摂取もなく、 CO2排泄もない。

・拡散障害:あるガス交換単位の肺胞気と終末肺毛細血管との間である指標ガスに関する分圧が平衡に達していない状態
・原因として、肺胞膜面積の低下、肺胞膜の肥厚、肺毛細血管血液量の低下
・拡散障害は特殊な病態であり、病的肺でも拡散障害に起因するガス交換障害が生じることはまれである。

・肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)は臨床的に肺の酸素化能障害の程度を表す。換気血流比不均等、拡散障害の全体を反映する。
・肺内ガス交換障害が存在しないならば、PaO2とPAO2の差はゼロになる。
・肺内ガス交換障害では、PaO2はPAO2に達せず、差が増大する。
・PAO2=150-PaCO2/0.8
・A-aDO2=PAO2-PaO2
・A-aDO2は吸入酸素濃度が20〜40%までの間は急峻に変化、PaCo2にも影響される。
・換気血流比の低い領域(真のシャント、低換気血流比)の発現を示す。
・死腔、死腔様効果によるガス交換障害に対する感受性は低い。
・各臓器、各組織に供給されるO2のうち、約1/4が消費される。肺でのガス交換障害により、PaO2が低下し酸素解離曲線を介してSaO2が低下する。その結果、各臓器、各組織への酸素供給が減少するが安静時には酸素供給に十分余裕があるため、酸素消費量に著明な変化はない。

低酸素血症の原因

・肺内ガス交換障害によって低酸素血症が惹起される。
・全ての肺内ガス交換障害が有意な低酸素血症を起こすわけではなく(死腔)、肺内ガス交換障害がなくても低酸素血症を引き起こす(肺胞低換気)

①肺胞低換気
・肺胞換気量=分時換気量-死腔換気量
・分時換気量が低下すると、肺胞換気量も低下する。
・肺胞低換気が発生すると各組織、臓器で発生した CO2の排泄効率が落ち、 CO2が動脈血に混合してしまう。PaCo2の増加。
・PaCo2と肺胞換気量の積は一定、反比例の関係にある。
・PaCo2が上昇すれば、PAO2も低下、PaO2も低下、同時に生体内への酸素取り込みも減少。
・つまり肺胞低換気は肺内ガス交換障害がなくとも低酸素血症をきたす。
・肺胞低換気はPaCo2>45Torr

肺胞低換気を来す疾患
①呼吸中枢の抑制
脳幹部障害、オンディーヌの呪い、原発性肺胞低換気、中枢型睡眠時無呼吸、甲状腺機能低下、呼吸抑制剤
②中枢科学受容体の抑制
代謝性アルカローシス
③脊髄伝導路の障害
脊椎、脊髄損傷、脊髄炎
④脊髄前角細胞の障害
ALS、ポリオ
⑤末梢神経炎
ギランバレー症候群、ジフテリア、ポルフィリン脳症
⑥神経筋接合部の障害
重症筋無力症、パラチオン中毒
⑦呼吸筋障害
進行性筋ジストロフィー、筋萎縮性ジストロフィー、膠原病、呼吸筋疲労

肺胞過換気を来す疾患
・代謝性アシドーシス
・急性低酸素血症
・中脳障害
・中枢神経性過換気
・甲状腺機能亢進症
・肝性昏睡
・妊娠
・発熱
・呼吸中枢刺激剤の投与
・肺内伸展受容体の刺激
・肺血栓塞栓症、肺線維症、肺水腫、喘息
・特発性過換気症候群

②シャント
・何らかの肺疾患によって、気道が閉塞されると、シャント血は酸素化されていない肺動脈血と同じで、肺静脈に流入するとPaO2は低下して低酸素血症を生じる。
・シャント率が増加すると、吸入酸素濃度を増やしても低酸素血症は改善しない。
・肺疾患に起因するシャントは肺内に形成されるので、肺内シャントと呼ばれる。
・気道完全閉塞、肺胞完全虚脱、肺水腫による肺胞腔充満、肺動静脈奇形、肝硬変に伴う肝肺症候群を原因とする。
・肝肺症候群は、特殊な肺内シャントで、肺毛細血管のplasma layerの拡大による拡散障害と肺微小循環の低酸素、アンギオテンシンなどの血管収縮物質に対する反応性の低下によってもたらされる。
・健常人でも2%程シャントが存在する。肺内シャントではなく、冠静脈から左心室に流入するテベシアン静脈など、肺外の要因のため肺外シャントと呼ぶ。
・病的な肺外シャントとしては、心房中隔欠損、心室中隔欠損、卵円孔開存などがある。
・肺内肺外を問わずシャントの存在によってA-aDO2の増大を伴う低酸素血症が発現

③換気血流比不均等
・換気血流比不均等のみの場合は、シャントの場合と違って、高濃度O2の吸入によりPaO2の上昇を認める。
・肺胞に至る気道は開通しているので、時間をかけて高濃度O2を吸入すれば、肺胞酸素濃度は上昇するため。

④死腔
・肺血流が不完全に遮断されると死腔様効果。
・ガス交換を営む肺胞領域で形成された病的死腔を肺胞死腔と呼称する。
・正常肺にも解剖学的死腔(気管から終末細気管支まで)がある。
・肺胞死腔を直接評価できないので、肺胞死腔と解剖学的死腔を合わせた生理学的死腔の一回換気量の比を使って評価する。
・生理学的死腔率=(PACO2-PECO2)/PACO2 ※PECO2は平均呼気CO2分圧
・肺胞死腔の形成はA-aDO2の開大を招く肺内ガス交換障害の一つ
・この領域の肺胞気は肺毛細血管とは接触しないため、PaO2の値には影響しない
・肺胞死腔は低酸素血症の直接的な原因ではない。
・しかし、実際に低酸素血症は生じる、なぜか?
・肺血栓塞栓症により、肺血流は他の部位にシフトする。その結果シフトした先の換気血流比が変化(この場合血流が多くなりシャント様効果)し、低酸素血症を起こす。
・肺胞死腔の増加により、一時的に肺胞低換気をもたらしPaCo2は上昇する。
・しかし、PaCo2の上昇は呼吸中枢を刺激して、換気量を増加させるので重篤な病気でない限りCO2蓄積が永続することはない。

⑤拡散障害
・肺胞表面積はテニスコートほど、厚さは1μm
・肺胞気と肺毛細血管は広くて薄い膜を介して接触する。
・病的肺で拡散障害が発生するのは、肺胞膜面積が著しく減少あるいは肥厚した場合である。
・肺線維症を中心としたびまん性間質性肺炎、肺水腫、肝肺症候群
・拡散障害を起こすもう一つの要因は肺毛細血管血液量の低下。肺微小循環障害をきたす種々の病態。
・拡散障害による低酸素血症は、労作、運動などで心拍出量が増えて、肺毛細血管血液量が大きく増加した時に著明になる。
・拡散制限の評価には、CO、NOが使われる。
・A-aDO2とDLcoによる病態診断
DLco:肺拡散能力
Va:肺胞気量

DLcoは肺胞膜因子と肺毛細管血液因子に影響を受ける。(20〜30%と70〜80%)

血液ガスの正常範囲

PaO2:80Torr以上
PaCo2:40±5Torr
pH:7.40±0.05
PvO2:40Torr
PvCO2:45Torr
A-aDO2:20Torr以下

PaO2/FiO2:(80:0.2)400Torr以上
※室内吸入気300未満はPaO2 60Torr未満


・海抜高いところでは気圧が低くなる。PaO2を保つために、PaCo2は低くなる。
・換気が増えて、ヘモグロビン濃度も増える。

酸塩基調節

・代謝によって生じる固定酸(乳酸やケト酸)は水素イオンを放出し、血中や組織にある重炭酸イオンと結合し、炭酸になる。炭酸は肺で炭酸脱水素酵素によって二酸化炭素と水になって、肺で排出される。

酸塩基平衡障害の種類と指標
①呼吸性(肺胞換気の異常、PaCo2の異常)
呼吸性アシドーシス(肺胞低換気、PaCo2上昇)
呼吸性アルカロージス(肺胞過換気、PaCo2低下)

②代謝性(肺胞換気以外の原因)
代謝性アシドーシス(固定酸増加)
代謝性アルカローシス(固定酸低下)

指標:
・呼吸性はPaCo2を評価
・代謝性は、HCO3-、BB、BE、AGを評価

・HCO3-、呼吸性、代謝性どちらでも変化する。BBが使われる。
・BB:血液HCO3-に加え、H+と結合していない蛋白の総量を示す。正常44〜49meq/L
・正常BBとの差を塩基過剰(BE)と定義
・BEはPaCo2 40Torrで平衡させた患者血液のpHを7.40に戻すために必要な酸あるいは塩基の量として実測可能。正常は±2meq/L
・BEが増加していれば代謝性アルカローシス、BEが減少していれば代謝性アシドーシス
・pH、PaCo2、PaO2、ヘモグロビンがわかればBE測定できる。
・BEが万能ではなく、AGも使用される。
・AG:血液の主要陽イオンと陰イオンの差
・AG=(Na+ + K+)-(Cl- + HCO3-)
・固定酸の増加により、HCO3-を低下させ、pHを保とうとする。つまり、AGは増大する。
・ベッドサイドで測定可能
・正常は10〜12meq/L、16を超えると代謝性アシドーシス

代謝性アシドーシスをきたす疾患
①腎不全(糸球体腎炎、腎尿細管障害)
利尿剤使用による:代謝性アルカローシスの合併
腎尿細管性アシドーシス:AGが正常の高Cl-性代謝性アシドーシス
②糖尿病
ケトン性(呼吸性代償によるクスマウル呼吸)、非ケトン性
③副腎不全
アジソン病
④下痢
NaHCO3-の喪失
⑤肝硬変
乳酸アシドーシスと呼吸性アルカローシス
NH3による呼吸中枢刺激
⑥急性膵炎
乳酸アシドーシス
⑦その他の乳酸アシドーシスをきたす疾患
※末梢循環不全、白血病、悪性リンパ腫、敗血症、急性アルコール中毒、サリチル酸中毒、熱性痙攣

代謝性アルカローシスをきたす疾患
①鉱質コルチコイドの過剰
K+喪失による代謝性アルカローシス
②嘔吐
H+ K+ Cl-の喪失(胃酸が抜ける)
③電解質異常
利尿剤使用(K+喪失)
K+ Na+欠乏(細胞外アルカローシス、細胞内アシドーシス)
Cl-欠乏(HCO3-の再吸収増加)

酸塩基平衡障害に対する代償
・代謝性代償は安定した状態になるまでに数日を要する。
・代謝性アシドーシスに対する呼吸性代償は発生数時間後に発現する
・代謝性アルカローシスでは換気抑制により CO2蓄積させるが、換気抑制は生命維持の立場から危険。発現度合いは弱い。
・特にK+ 欠乏による代謝性アルカローシスでは呼吸代償が発現しにくい。
・低K+ 血性では細胞外K+ 濃度を維持するために、細胞内から流出し代わりにH+が細胞内へと取り込まれる。そのため、細胞外はアルカローシス、細胞内はアシドーシスになる。

技術的なこと
・採血後、時間経過や氷水で保存したりすると血液ガスの値は変化してしまう。


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