10.酸素療法

呼吸不全と低酸素血症の病態生理
・健常人では酸素需要より酸素供給が上回っている
・呼吸不全の多くの原因は酸素運搬量の低下である。
・酸素運搬量=動脈血酸素含量×心拍出量
・心拍出量低下では心不全
・CaO2(動脈血酸素含量)は溶存酸素とHb結合酸素の総和
・CaO2=1.34×Hb×SaO2/100+0.003×PaO2
・1gのHb に1.34mlの酸素が結合
・酸素Hb結合率がSaO2
・PaO2 1Torrに対して0.003ml溶解する
・CaO2の低下はHb SaO2 PaO2に依存する
・低酸素症の影響を受けやすいのは脳と心臓
・脱酸素Hb 5g/dlでチアノーゼが出現
・PaO2 30Torr以下で生命維持困難
・酸素療法の絶対的適応はPaO2 30Torr以下
・相対的適応はPaO2 60Torr以下
・慢性呼吸不全例では、低酸素状態の耐容性があることから在宅酸素療法の適応はPaO2 55Torr未満

低酸素血症の原因

・酸素療法は維持療法であるため呼吸不全の病態診断が重要
・PaO2の規定因子はFiO2 大気圧 PaCO2 A-aD O2となる。1気圧室内吸入下ではFiO2と大気圧は一定。
・主にPaCO2 とA-aDO2により決まる。
・PaCO2の上昇によるⅡ型呼吸不全
換気不全
・A-aDO2の増大によるⅠ型呼吸不全
低酸素性呼吸不全
・A-aDO2増大の原因は
シャント、換気血流比不均等、拡散障害
※拡散障害は高度でなければ低酸素血症の原因として重要ではない
・酸素療法によってFiO2が上昇し、PAO2が上昇し結果的にPaO2も増加する。
・シャントが高度であればPAO2 が上昇してもPaO2は改善しない。

酸素療法の目標とモニター

目標:低酸素症の改善
・組織の低酸素症が的確に診断できればいいが、実際は難しい。各組織が消費した酸素の結果として混合静脈血酸素分圧を応用。
・混合静脈血酸素分圧も測定は容易でない。PaO2によって間接的に評価
・低酸素性呼吸不全では、混合静脈血酸素分圧(PvO2)≦35Torr
・PaO2≧60TorrでPvO2≧35Torrを保つ。
・よってPaO2≧60〜80Torrを目標に酸素療法を行う。
・Ⅱ型呼吸不全では、PaO2≧50TorrでPvO2≧35Torrが保たれる。
・非侵襲的でリアルタイムに測定できるパルスオキシメーターが運用。
・パルスオキシメーターの測定に関する要因

要因:
・異常ヘモグロビン血症、一酸化炭素、メトヘモグロビン
・色素
・室内光
・体動
・循環不全
・不整脈
・静脈血の拍動

対策:
・脈波、血圧、心電図波形との同期

合併症:
・プローブの発熱による熱傷
・光線による日焼け
・圧迫による圧損傷
・MRSAなどによる感染媒体

その他の酸素療法の適応基準

①組織への低酸素症
・組織の低酸素症はPaO2が正常でも出現する

②在宅酸素療法(HOT)
・COPD患者の予後規定因子として、近年夜間の睡眠時肺胞低換気、無呼吸による低酸素症を原因とした、肺血管攣縮、基礎疾患による肺血管床の減少、二次性赤血球増多による肺高血圧症から肺性心などがある。
・酸素吸入により予後改善が得られる。
・HOTの適応基準と効果

適応:
①酸素吸入以外の治療が行われており、1ヶ月以上の観察期間を経る
・PaO2 55Torrに満たない
・PaO2 55〜60Torrでも、明らかな肺性心、肺高血圧症、睡眠中あるいは運動時に長期間の低酸素血症
②肺高血圧症、チアノーゼ型先天性心疾患
③慢性心不全
NYHA Ⅲ以上、チェーンストークス呼吸 AMI 20以上

効果:
・肺高血圧症の改善
・二次性多血症の改善
・運動能力の向上
・精神神経症状の改善
・死亡率低下
・入院期間および入院回数の減少
・家庭復帰

酸素投与の方法

・低流量システムと高流量システムがある

低流量システム:酸素供給が酸素供給装置から部分的に行われる。慢性呼吸不全で、 CO2蓄積を伴う場合。簡単、楽だがFiO2を決定できない。
・オキシマスクは低流量システムとして呼気が抜けやすく、 CO2再呼吸しにくい、顔面に直接器具が接触しない

高流量システム:酸素供給が酸素供給装置より全て行われる。低酸素性呼吸不全で行われる
・ベンチュリーマスクは大きな気流量(24〜40%)、 CO2再呼吸もない
・ナーザルハイフローなど

酸素療法時の注意

副作用:酸素中毒、 CO2ナルコーシス、吸収性無気肺
・酸素中毒は吸入酸素濃度が60%以上で出現しやすい
・高度であればARDSと類似所見
・止むを得ない高濃度酸素投与は極力短時間にする
・酸素投与による高酸素血症は、全身性の血管抵抗上昇、血圧上昇、心拍出量減少、冠動脈、脳、腎血流量の減少をもたらす。
・ CO2ナルコーシスを起こさないように、吸入酸素濃度が低濃度で一定に維持される方法としてベンチュリーが最適
・無気肺の出現は、酸素投与により肺内窒素が洗い出され、酸素の吸収によって生じる。
・供給される酸素は乾燥しているため、十分な加湿が必要

高気圧酸素療法(HBO)

目的:
①動脈血酸素分圧増加
②動脈血中溶解酸素量増加
③ガス洗い出し効果
④体内ガス圧縮
⑤酸素毒性の応用

HBOの救急適応病態、疾患
・急性虚血性眼疾患
・突発性難聴
・脊髄障害
・低酸素性脳機能障害
・脳塞栓
・急性末梢血管障害
・減圧症、空気塞栓症
・腸閉塞
・一酸化炭素中毒
・ガス壊疽

・1人用の1種装置と多人数用の2種装置がある

副作用:
①スクイズと厚外傷
・耳管閉塞による中耳スクイズ、鼓膜損傷
・副鼻腔閉塞による前額部激痛
・減圧時呼吸停止による肺内ガス膨張、気胸
②酸素中毒
口唇のぴくつき、めまい、手足の震え、痙攣、意識障害

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