6.呼吸不全の病態と管理

呼吸不全の概念と病態
呼吸不全:PaO2、PaCo2が異常であるため生体が正常な機能を営めない

診断:
①室内吸入時PaO2<60Torr
②Ⅰ型:PaCo2<45Torr、Ⅱ型:PaCo2≧45Torr

分類
①急性呼吸不全
a)急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome.ARDS)
b)呼吸中枢の急性障害や呼吸筋麻痺
ポリオ、ギランバレー症候群
c)自然気胸
ブラが破裂して急速な肺胞虚脱を生じる
d)急性肺血栓塞栓症
急激な呼吸困難、胸痛、発熱。下肢、骨盤内静脈血栓による塞栓が多い
e)ほかに肺炎などの重症呼吸器疾患

②慢性呼吸不全の急性増悪
慢性呼吸不全やそれに準じる気道感染をきっかけとして、急性に呼吸不全に陥る。COPD増悪が多い

③慢性呼吸不全
呼吸不全状態が少なくとも1ヶ月間は持続した場合に慢性呼吸不全とする。
※Ⅱ型呼吸不全の場合、pH異常に対して、腎臓によるHCO3-の再吸収増加による代償が1週間以内に完成する。そのため、呼吸性アシドーシスを示す。

COPD、肺結核後遺症(胸膜癒着、胸郭形成術後、人口気胸後)の順に多い

合併症
低酸素血症は全身の臓器障害を引き起こし、特に急性呼吸不全は多臓器障害を引き起こす。
①肺性心
酸素分圧低下により、肺小動脈攣縮が肺血管抵抗を増加。右室肥大が発生。予後を悪化させるリスク因子。早期の肺動脈圧上昇は、持続的な酸素吸入により改善あり。

②その他
低酸素症による、胃十二指腸潰瘍、腎障害、肝障害、電解質水代謝異常

基礎病態の鑑別とその管理
PaO2は年齢とともに低下
PaO2は吸入酸素分圧、肺胞換気量、肺胞レベルでの酸素交換能力(A-aDO2)で決まる。

PaO2=150-PaCo2/0.8-A-aDO2
つまり低酸素血症は
①PaCo2の増加(肺胞換気量低下)>45Torr
②A-aDO2の増加(肺胞レベルでの酸素ガス交換障害)>15Torr
③①②の合併

治療
①酸素療法
Ⅰ型呼吸不全
PaO2>60Torrまたは、SaO2>90%を最低レベルとして鼻カニューレやマスクで酸素吸入

Ⅱ型呼吸不全
鼻カニューレで低流量酸素吸入(0.5〜1L/分で開始、適宜増量)
co2ナルコーシスに注意しながらPaO2>60Torr、SaO2>90%を維持
②換気補助
自発換気が低下している場合、特にⅡ型呼吸不全で酸素吸入のみで改善が認められない場合、NPPVを用いる
③人工呼吸管理
酸素吸入やNPPVでも目標を維持できない場合、気管挿管下人工呼吸管理を行う。

呼吸不全の原因となる主な呼吸器疾患
①慢性閉塞性肺疾患
chronic obstructive pulmonary disease:COPD
概念と病態
・肺気腫および慢性気管支炎、およびその合併により閉塞性換気障害を示す疾患・現在は肺気腫、慢性気管支炎と区別せずCOPDと総称している
※完全には可逆性ではない気流制限
・煙草煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じる肺疾患、気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変が複合的に関与。
・病態として、肺胞の破壊と末梢気道炎症
・肺気腫は終末細気管支より末梢の肺構造が拡張性に破壊された状態。
・慢性気管支炎は2年以上にわたって、3ヶ月以上咳痰が続き、他疾患を除外できる状態
・最重要の外因は喫煙、罹患するのは喫煙者の15〜20%
・病態生理
気腫型と非気腫型に分かれる。
煙草の有害成分

肺胞マクロファージ、気道、肺胞の上皮細胞さらに好中球自身の活性化

ケモカインが遊離
※白血球を引き寄せ、活性化する低分子ポリペプチド

好中球が気道に集積、活性化

組織傷害性物質
※エラスターゼ、プロテアーゼ、オキシダントが遊離

気道障害、炎症、気道閉塞
※内因性の防御機構低下、遺伝的疾患が関与している

疫学:60歳以上、男女比3:1、本邦500万人以上

臨床症状と診断
症状:喫煙歴のある男性に徐々に進行する息切れ(始めは階段昇段、進行するとわずかな労作)、咳や痰、進行すると低酸素血症のためチアノーゼ、高二酸化炭素血症のため頭痛、意識障害

身体初見:息すぼめ呼吸、聴診で正常か呼気延長、時に喘鳴、肺性心になると浮腫、頸静脈怒張

呼吸機能検査:1秒率<70%、肺気腫では拡散能力が低下。1秒量は疾患の進行に応じて低下。%1秒量によって重症度分類(中等症以上では肺活量も減るので、患者の1秒量が同年代、同性健常者の何%に相当するかを%1秒量という)
全肺気量、残気量、機能的残気量、が増大し残気率が上昇。肺拡散能力DLco低下、静肺コンプライアンス上昇、気道抵抗、呼吸抵抗増加

動脈血ガス:進行するとPaO2低下、PaCo2増加、Ⅱ型呼吸不全に陥る

胸部単純X線:肺の過膨張(横隔膜平低化、胸郭前後径の増加、滴状心)、肺野の透過性亢進

胸部CT:肺気腫で気腫性病変(低吸収域)

増悪:COPDの経過中、ウイルス性気道感染症(風邪)をきっかけに急激に呼吸不全が悪化する。慢性安定期に比べて、PaO2低下、PaCo2の上昇を認める。肺性心も悪化し頸静脈怒張、浮腫

治療と管理
気管支拡張薬、抗コリン薬(チオトロピウム)、ステロイド吸入

②気管支喘息
概念
反復性の気道閉塞発作を繰り返す。自然または治療により軽減、消失する。可逆性気道閉塞
・喘鳴を伴う発作性呼吸困難
・非特異的な気道過敏性:さまざまな気道刺激(薬理学的刺激アセチルコリン、物理的刺激寒冷)により気道収縮が起こる
・アレルギー性気道炎症:太い気道から末梢気道まで気管支壁に好酸球やTリンパ球などの炎症性細胞が浸潤、気道上皮細胞の剥離脱落
・気道リモデリング:気管支壁の肥厚、呼吸機能低下や治療抵抗性増大
気道リモデリングの所見、杯細胞の増生、気道上皮下のコラーゲン沈着、気道平滑筋の肥大、増生

病態
アレルギー型と非アレルギー型に分けられる。

アレルギー型
アレルゲンと特異的IgE抗体の反応

IgE抗体に結合してる肥満細胞からヒスタミンなど遊離

気道収縮、過分泌、粘膜浮腫

発作

気道には好酸球、Tリンパ球を主体とした炎症(アレルギー性気道炎症)が持続的に存在。
気道過敏性と密接に関連
サイトカイン(インターロイキン)、ケモカイン(エオタキシン)などが細胞の持続的集積、活性化に関与

咳喘息(咳が主症状、気道閉塞発作示さず)
運動誘発性喘息(小児)
アスピリン喘息(アスピリンなど非ステロイド性抗炎症薬)

疫学
小児と成人(中高年)の2つのピーク
アレルギー型小児若年、非アレルギー中高年

診断
①喘鳴を伴う発作性呼吸困難、聴診上wheeze、rhonchi
②呼吸機能検査:スパイロメトリーで発作時に閉塞性障害、気道抵抗も呼吸抵抗も増加。肺気腫と異なり肺拡散能は正常
③気道可逆性試験:気管支拡張薬の吸入(サルブタモールなど)前後に1秒量を測定、12%以上かつ200ml以上の改善があると陽性
④ピークフローモニタリング:ピークフローの日内変動が15%以上あると喘息の可能性高い。
⑤気道過敏性試験:メサコリンなどの気管支収縮薬を段階的に濃度を上げて吸入し気道収縮反応から過敏性を判定。喘息発作を誘発する危険な検査なので安全際に注意。

治療管理
・治療ステップ1(軽症間欠型)
発作が週1回未満
吸入ステロイド薬低用量
・治療ステップ2(軽症持続型相当)
発作が週1回以上だが毎日ではない
吸入ステロイド薬低〜中用量
・治療ステップ3(中等症持続型相当)毎日のように発作があり時々日常生活が障害される
吸入ステロイド中〜高用量+(長時間作用性β2刺激薬、キサンチン製剤、ロイコトリエン受容体拮抗薬、長時間作用性抗コリン薬)のいずれか1つ
治療ステップ4(重症持続型相当)
毎日のように発作があり、ほぼ日常生活が障害される
吸入ステロイド薬高用量+(長時間作用性β2刺激薬、キサンチン製剤、ロイトコリエン受容体拮抗薬、長時間作用性抗コリン薬)のいずれか2つ以上※必要により抗IgE抗体や抗IL-5抗体、経口ステロイド薬、気管支熱形成術も考慮

①生活指導
環境整備(アレルゲンを減らす、掃除、布団、絨毯の工夫)
禁煙
インフル予防接種、ストレス減らす

②特異的免疫療法
アレルギー性の場合低濃度のアレルゲンを定期的に投与。減感作を行う治療。繰り返しの注射、発作、アナフィラキシーの危険もあり、必ずしも普及していない

③薬物療法
長期管理薬またはコントローラー
発作治療薬またはリリーバー

コントローラー
①副腎皮質ステロイド薬
抗炎症作用、吸入ステロイドが基本。必要なら経口も。長時間作用性β2刺激薬との配合剤もあり

②β2選択的刺激薬
気管支拡張作用強い、長期治療に使われる。貼布剤もあり。単独使用は気道炎症を悪化させる。

③ロイコトリエン受容体拮抗薬
経口使用、気管支拡張作用、抗炎症作用あり。

④キサンチン製剤
経口使用、気管支拡張作用、抗炎症作用

⑤長時間作用性抗コリン薬
最近喘息にも保険適用

リリーバー
①β2選択的刺激薬
短時間作用性β2選択的刺激薬を吸入で用いる。作用時間が20〜30分と短く反復投与可能

②副腎皮質ステロイド薬
内服または点滴

③キサンチン薬
テオフィリン製剤が点滴投与。有効血中濃度と中毒濃度が近いため最近は推奨されない。特に小児は行わない。

コントロールの評価はスパイロメトリー、患者自身によるピークフローモニタリング

③呼吸器感染症(特に肺炎)
概念と分類
・上気道炎、喉頭炎、気管支炎、肺炎に分けられる
・最も重要なのは肺炎
①市中肺炎(CAP)
・社会生活を営んでいて発症した肺炎。
・細菌性が多い
・肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ菌(ブランハメラ菌)、黄色ブドウ球菌、マイコプラマイ(60歳以下ぇの割合多い)

②院内肺炎(HAP)
・入院後48時間以上経過して発症
・細菌性(肺炎桿菌、インフルエンザ菌、緑膿菌などのグラム陰性桿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)
・真菌(カンジダ、アスペルギス、クリプトコッカス、ニューモシスチス)
・ウイルス(サイトメガロなど)
・嚥下性肺炎、人工呼吸器関連肺炎、日和見感染での肺炎

③医療・介護関連肺炎(NHCAP)
・長期療養型病床もしくは介護施設に入所している
・90日以内に病院を退院した
・介護を必要とする高齢者、身障者
・通院にて継続的に血管内治療(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制薬等による治療)

いずれかを満たす集団で肺炎になった場合
・原因菌がCAPにおける肺炎球菌やインフルエンザ菌のみならずMRSAや緑膿菌に代表される耐性菌の可能性を持つグラム陰性菌であることが多い。

④日和見感染症
・免疫力が低下している人、現状では感染しない弱い菌

肺炎の重症度A-DROP
・age男性70歳以上、女性75歳以上
・dehydration BUN21mg/ml以上または脱水
・respiration SpO2 90%以下
・orientation 意識障害
・pressure 収縮期血圧90mmhg以下

当てはまる項目、0、1〜2、3、4〜5が軽症、中等症、重症、超重症に相当。
※収縮期血圧90以下があれば超重症

非定型肺炎
・マイコプラズマ、クラミジア肺炎が含まれる。咳のわりに痰が出ない。
・白血球増加が軽度、胸部単純X線で多発性の陰影などの特徴
・ペニシリン、セフェム系抗菌薬が効かない

肺化膿症
・肺組織が壊死に陥って空洞を形成するもの。好気性菌に加え嫌気性菌(口腔内菌)が原因

嚥下性肺炎
・脳血管障害、高齢者に多い、嫌気性菌が多い

人工呼吸器関連肺炎(VAP)

病態
菌の毒力、感染力の強い、弱いなど、宿主の免疫感染力、栄養状態、合併症に関連

臨床所見と診断
①症状:発熱などの全身症状、咳、膿性痰
②身体的所見:病変部にcoarse cracklesが聴取されること多いが聴診上正常な場合もある
③検査所見
・胸部単純X線で異常陰影
・白血球増加や核の左方移動(桿状核球など好中球のより分化度の若い者が増える)
・CRPの上昇
・原因菌の決定
①喀痰の塗沫、培養検査から菌を検出
②迅速検査:尿中抗原(肺炎球菌、レジオネラ菌)、血清特異的IgM抗体キット(マイコプラズマ)
③血清学的診断
マイコプラズマ、クラミジア
④遺伝子診断
結核菌、ニューモシスチス

治療
①抗微生物薬
肺炎と診断され次第治療を開始すべき、原因を同定し最も有効な抗微生物薬を使う
※培養、同定に時間かかるため、初期治療は上記の状況を考慮して薬を選ぶ(エンペリック治療)

市中肺炎→肺炎球菌を想定し、ペニシリン系薬物
非定型肺炎→マクロライド系、テトラサイクリン系薬物
院内肺炎→基礎疾患や病態に応じた治療薬の選択

②呼吸管理
・低酸素血症に応じて酸素療法
・合併症のない肺炎ではⅠ型呼吸不全
・COPDや結核後遺症などで慢性呼吸不全やそれに準じた状態では呼吸器感染症をきっかけにⅡ型呼吸不全が悪化する場合がある。
・重症肺炎ではNPPVや気管挿管下人工呼吸管理が行われることがある。
・気道分泌物が多く、排出困難な場合はNPPVは適応にならない。
・気管挿管下人工呼吸管理はVAPの危険因子

④肺結核症
概念と病態
・結核菌による呼吸器感染症
・感染経路は空気感染、飛沫感染

初感染病巣
結核菌が呼吸細気管支または肺胞領域に到達

肺胞マクロファージに貪食

全て殺菌できず、細胞内で増殖

肺内に滲出性病変

初期変化群(初感染病巣と合わせて)
マクロファージに貪食された一部の結核菌は肺内リンパ流

所属リンパ節に達する

滲出性病変を形成
※通常多くは自然治癒、石灰化病巣として胸部X線写真で認められる。この段階で感染が確立して、ツベルクリン反応は自然陽転する。

・初期変化群から、結核を発症するのはまれ。大量に曝露、免疫力低下で発症。一次結核、初感染結核
・検査にQFT、T-spot
・二次結核症
初感染が自然治癒し、結核免疫が成立すると、マクロファージより形成された肉芽腫のなかで殺菌、封入される。一部の菌は何十年も存在する。
・個体の免疫力が低下すると、菌が再び増殖して、結核を発症する。
・上葉の肺尖(S1)、後ろ(S2)、下葉後上部(S6)に好発

疫学
・かつては主要な死亡原因
・ストレプトマイシンなどの抗結核薬で死亡率低下
・1997年に新規結核患者増加、1999年7月26日に結核非常事態宣言。そのあと減少
・多剤耐性結核の蔓延、再興感染症として猛威をふるう可能性あり。
・7割は60歳以上、2016年に17,600人
・HIVは結核免疫に重要なT細胞を破壊する

臨床所見と診断
・湿性咳嗽(痰を含む)、微熱、寝汗、全身倦怠感、体重減少
・2週間以上咳が続く場合は胸部単純X線の必要あり
・胸部単純X線:上葉やS6の領域に浸潤性陰影、多発性結核性陰影。空洞形成は肺結核を疑う重要な所見。
・喀痰検査:一般抗微生物薬に反応しない肺陰影をみたら、必ず肺結核を疑う。喀痰喀出ができない場合、誘発喀痰、胃液で結核菌を検出する。出来るだけ、喀痰、胃液共に3日連続で行うことが推奨。塗沫検査と培養検査を必ず行う。

遺伝子診断法:核酸増幅法が行われている。

診断
塗沫検査が妖精でも診断は確定しない。培養検査で陽性で同定が行われれば診断は確定する。
実際は塗沫検査や遺伝子診断で陽性が出た時点で保健所に届け、治療を開始

治療
標準療法(a)全期間6ヶ月
・イソニアジド、リファンジピン、ピラジナミド、ストレプトマイシン、エンタブトールの4剤で2ヶ月、その後イソニアジド、リファンジピン、エンタブトールで4ヶ月

標準療法(b)全期間9ヶ月
・イソニアジド、リファンジピン、エタンブトール、ストレプトマイシンの3剤で6ヶ月、その後はイソニアジド、リファンジピン、エンタブトールで3ヶ月

基本は標準療法(a)、肝機能障害によりピラジナミドが使えない時に標準療法(b)を使用

呼吸管理:最近の肺結核症では呼吸不全はまれ。有効な薬剤がない時代に罹患した症例は、結核後遺症(胸膜癒着、胸郭形成術後、人工呼吸後)により、特に高齢者で慢性呼吸不全を示すことがあり、多くはⅡ型呼吸不全

⑤びまん性肺疾患
概念
胸部単純X線で、びまん性に肺病変を示す疾患の総称。悪性腫瘍との鑑別を念頭に置く。

原因不明:特発性間質性肺炎、膠原病肺病変

原因あるもの:過敏性肺炎、サルコイドーシス、薬剤性肺炎、放射性肺炎、塵肺症など

診断
①詳細な病歴聴取:
住居→夏型過敏性肺炎
職業→塵肺、農夫肺
喫煙歴→特発性間質性肺炎
ペット→鵜飼病
薬剤使用歴→薬剤性肺炎
②胸部単純X線と胸部CT
それぞれの疾患に特徴的な所見
③呼吸機能検査
拘束性換気障害、肺拡散能の低下も多い。
④気管支鏡検査
経気管支肺生検(TBLB):気管支鏡下に末梢の肺組織を採取する

気管支肺胞洗浄(BAL):気管支鏡下に生理食塩液を肺末梢に注入し、その回収液(BALF)中の細胞数や細胞の種類、さらに液性因子を測定

⑤外科的肺生検:胸腔鏡下肺手術(VATS)による肺生検

共通の治療方針
①原因が明らか→除去、中止(過敏性、薬剤性肺炎)
②薬物療法:根本治療でないので、適応を選ぶ
抗繊維化薬や副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬(シクロホスファミド、アザチオプリン、シクロスポリン)疾患や活動性に応じて用いられる
③呼吸管理:多くはⅠ型呼吸不全を示すので、酸素吸入。重症例ではレスピレータ管理

各疾患のサマリー
・特発性間質性肺炎(IIP)
原因不明の肺のびまん性炎症と線維化をきたす疾患
・病型は7つに分類
最も多い、通常型間質性肺炎(UIP)、特発性肺線維症(IPF)
慢性進行性で予後も悪い、発症5年生存率40%、男性、喫煙者に多い、経過中肺癌合併あり。(10〜15%)、上気道炎をきっかけとする急性増悪が起きると急速に呼吸不全が悪化、予後不良(致死率80%)
・聴診でfine crackles(ベルクロラ音)、バチ指多い
・胸部単純X線、胸部CT:肺野縮小、蜂巣肺が典型的
その他の病型でびまん性すりガラス陰影、網状陰影、線状陰影
・呼吸機能検査:拘束性換気障害、肺拡散能低下
・血液、生化学的検査:CRP、LDHの上昇
間質性肺炎マーカー(KL-6、surfactant protein-A(SP-A)、SP-D)が上昇
・急性型で予後の悪いもの、治療への反応良く予後の良い病型もあり、病理学的に診断するのが望ましい。

治療
副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬(シクロホスファミド、アザチオプリン、シクロスポリン)が疾患や活動性に応じて用いられる。
IPFは明確に予後を改善する薬はない。
現在はピルフェニドン、ニンテダニブが経年的な肺機能の低下を抑制するとして保険認可
急性増悪にステロイドパルスも行われるが確立したものはない。

・膠原病肺病変
・関節リウマチ、全身性硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎などで間質性肺炎などの肺病変が認められる
・一人の患者に複数病変
・種類により治療、予後が異なる。
・肺病変(間質性肺炎)先行型の膠原病あり、IIPとの鑑別が重要
・臨床検査所見:肺所見はIIPに類似
・治療:原疾患治療が優先、副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬(シクロホスファミド、アザチオプリン、シクロスポリン)が使用

・過敏性肺炎
・アレルゲンを繰り返し吸入し発症する肉芽腫性アレルギー性肺疾患
・夏型過敏性肺炎(夏に多く、住居に発生するカビ、トリコスポロン属がアレルゲン)が多く7割
・他に農夫肺(干し草の放線菌)、鵜飼病(インコ、オーム、ハトなどの排泄物)
・胸部単純X線、胸部CT:びまん性小粒状陰影、すりガラス陰影
・呼吸機能検査:IIPと同様

・血液、生化学検査:IIPと同様

・気管支鏡検査:TBLBで肉芽腫性と間質の炎症、BALでリンパ球、とくにリンパ球が増加する。

診断:上記所見に加え、特定のアレルゲンに対する沈降抗体(IgG、IgA抗体)の証明、環境誘発試験、特定のアレルゲン吸入で症状再現

治療:
①入院、いずれの過敏性肺炎も環境から離れれば改善する。
②副腎皮質ステロイド、入院隔離でも改善が不十分なときに投与する。

薬剤性肺炎
・薬剤にやって起こる肺障害
・抗菌薬によるアレルギー機序、抗癌剤による非アレルギー機序がある
・起因としてインターフェロン、漢方薬、メトトレキサート、新規抗癌剤(ゲフィチニブ)が注目
・治療経過中に新たな陰影を見たら、まず疑うこと
・治療は疑ったら薬剤中止が原則、改善なければ副腎皮質ステロイド

サルコイドーシス
・原因不明の肉芽腫性全身性疾患、肺は最も頻度の高い病変部位
・若い年齢に多い
・胸部単純X線、胸部CT:両側肺門部のリンパ節腫大とさまざまな肺野陰影
・自然に改善する
・副腎皮質ステロイドに好反応

⑥急性呼吸促迫症候群(ARDS)
概念
・肺以外に原因疾患が存在、胸部単純X線写真上のびまん性浸潤影、低酸素血症、左心不全がないこと
・治療が困難で予後が悪い(死亡率40%)
・新しい診断基準
①臨床的や傷害、呼吸器症状の発現もしくは増悪から1週間以内
②両側性の陰影で、胸水や無気肺、結節としては説明できない
③呼吸不全が心不全や輸液過剰としては説明できない、危険因子がないときは心エコーなどの客観的方法で静水圧性肺水腫を除外する
④PEEPが5cmH2O以上で
軽症:200Torr<PaO2/FiO2≦300Torr
※NPPVを使用して、一回換気量低下の改善
中等症:100Torr<PaO2/FiO2≦200Torr
重症:PaO2/FiO2≦100Torr

病態
・なんらかの外因(敗血症、外傷、熱傷、その他)により引き起こされた全身のサイトカイン、メディエーター過剰産生とそれに基づく肺毛細血管内皮損傷、透過性亢進により引き起こされる肺水腫(透過性更新性肺水腫)
・SIRS
全身の侵襲に対する過剰な生体反応が起こっている状態、診断基準のうち2つ以上あれば診断
①体温:>38℃または<36℃
②脈拍:>90/min
③頻呼吸:>20/min
④白血球数:>12000または<4000または幼若好中球>10%

⑦肺癌
概念と疫学
・肺に発生する癌(原発性肺癌)と他臓器に発生した癌の肺への転移(転移性肺癌)、
・40歳以上、男女比3〜4:1
・肺癌死亡率は年々増加、男性癌死因の1位、年間約7万人死亡
・腺癌が日本でも外国でも増加、女性で50%以上

病態
・タバコとの関連が発癌因子として重要、肺癌のハイリスク因子としてBrinkman Indexが挙げられる。
・他リスク因子として、職業性曝露(アスベスト)、放射線、大気汚染物質
・外因による遺伝子傷害と内因性因子のバランスにより、癌遺伝子や癌抑制遺伝子の変異が起こり、さまざまな段階を経て臨床的な肺癌が完成すると推定

発見、診断
①発見動機:自覚症状(咳、血痰、息切れ)、集団検診
②注意すべき症候
・局所進展:気道閉塞による喘鳴、胸膜炎による胸痛、半回神経麻痺による嗄声、食道への浸潤による嚥下障害、上大静脈への浸潤による上大静脈症候群(顔面、頸部、上半身浮腫)
・転移巣の症状:骨転移による痛み、脳転移による麻痺、頭痛、意識障害
・遠隔転移:転移でない全身症状
肥大性骨関節症、ホルモン産生腫瘍
③診断法
・肺癌の確定:胸部単純X線→胸部CT→喀痰細胞診→気管支鏡(直視下、単純X線透視下で擦過、キュレット、生検)あるいは胸腔鏡下生検→びょうりしんだん
・病期の決定:国際的なTMN分類
T(tumor)原発巣の大きさ、周囲臓器との関係
N(lymphnode)リンパ節の転移の有無
M(metastasis)遠隔転移の有無
stageⅠA〜ⅣBに分類される
stageⅠA、ⅠB:肺内に限局
ⅡA、ⅡB:肺門まで
ⅢA、ⅢB、ⅢC:縦隔、周囲臓器まで
ⅣA、ⅣB:遠隔転移あり
・小細胞癌の場合:limited disease同側胸郭内
extensive diseaseそれ以上の分類が重要

肺癌の組織学的分類
肺癌の病理学的診断は治療法が異なるので重要。特に小細胞癌か否か
①非小細胞癌(NSCLC)可能なら外科手術
・扁平上皮癌20〜30%
特徴:重喫煙者、肺門型が多い、男性。リンパ節が腫大しても転移とは限らない、治癒切除例は予後が良い。放射線療法に比較的感受性あり。
・腺癌50%
特徴:女性、増加傾向、90%は末梢型、胸部単純X線で発見。癌性胸膜炎、遠隔転移が多い。治癒切除でも再発少ない。
・大細胞癌予後不良、化学療法にも反応ないものが多い
②小細胞癌(SCLC)
全体の20%、進行早く予後不良(無治療で平均8週)。化学療法と放射線療法が主体。治療反応性は非小細胞癌よりよいが、予後不良。胸部単純X線上、中心型(肺門や縦隔リンパ節腫大)、手術不可

肺癌治療
・手術療法:標準術式、病巣を含む葉切除とリンパ節隔清
・化学療法:組織型、遺伝子変更の有無や年齢、全身症状などから分子標的薬、抗がん薬、免疫チェックポイント阻害薬が選択

副作用対策:骨髄抑制(G-CSF)、消化器症状(強力な制吐剤の予定使用)、
放射線療法:stageⅠ〜Ⅱだが、手術不能例、stageⅢB、重篤な局所浸潤(脊髄、神経、上大静脈、大血管)、遠隔転移で生命を左右する。(脳転移)、疼痛対策(骨転移)で用いられる

病期からみた治療選択
NSCLC
stageⅠ、Ⅱ:一般には手術
stageⅢA:場合によって手術、化学療法+放射線療法
stageⅢB、C、Ⅳ:化学療法+放射線療法

SCLC
limited disease:化学療法+放射線療法
extensive disease:化学療法

呼吸管理、全身管理:進行肺癌では、癌性胸膜炎や腫瘍の圧迫などにより呼吸不全になることが多い。治癒不能なため、対症的な治療を行う。胸水の穿刺排液、胸膜癒着術、放射線療法などが姑息的に行われる。また骨転移などに対して疼痛ケアを行う。

予後
肺癌の治療成績は病期によって異なる。
Ⅰ期、83.8%
Ⅱ期、50.1%
Ⅲ期、22.4%
Ⅳ期、4.8%
小細胞癌では限局型で放射線療法と化学療法の合併療法で3年生存率30%、進展型で化学療法3年生存率10%

⑧気胸
概念と分類
胸腔内に空気が流入し、肺が虚脱
・自然気胸
原発性:基礎疾患なく起こる、ブレブ、ブラなどののう胞の破裂
続発性:基礎疾患により起こる
基礎疾患:COPD、気管支喘息発作、間質性肺疾患、結核、肺癌、月経随伴性気胸、肺リンパ脈管筋腫症、ランゲルハンス組織球症、マルファン症候群、肺吸虫症で合併

外傷性、医原性気胸

疫学
原発性:20台、男女比4〜11:1
続発性:60歳台
再発しやすい30〜50%

臨床所見
症状:突然の胸痛、息切れ、呼吸困難、
身体所見:気胸の程度、緊張性気胸か、随伴性か、原疾患の有無、軽症なら胸痛、軽度の労作時息切れ、重症なら呼吸困難、チアノーゼ、患側の呼吸音減弱、打診上鼓音
特発性自然気胸は痩せ型の人に多い

診断:胸部単純X線

治療方針:初回は原則的内科治療、再発は外科的療法

・内科的治療
軽度:安静
中等度:穿刺脱気、チューブ挿入水封、陰圧持続排気
重度:チューブ挿入水封、陰圧持続排気
緊張性気胸:直ちに穿刺脱気
脱気治療の合併症:再膨張性肺水腫
気胸に対して脱気療法開始数時間後で発症。肺水腫であり、罹患側まれに両側。酸素療法、利尿薬、副腎皮質ステロイドで軽快、時に人工呼吸管理を要する。予防策として、確立したものはない。なるべく水封から始め吸引圧は陰圧とする。
再発防止策:胸膜癒着術、膨張後テトラサイクリン、OK-432などの癒着剤注入
再発率20〜30%

外科的治療:
適応:再発例、持続例、両側気胸、血気胸、社会的適応(ダイバー)
原因であるブラ、ブレブの切除、縫縮術
術後再発率0〜4%

⑨急性肺血栓塞栓症
概念と病態
・遊離した静脈血栓が右房室を通過し肺動脈を閉塞する。
・下肢や骨盤腔の深部静脈血栓が主な原因
・肺血栓塞栓症の危険因子
長期臥床、長時間の安静座位、骨盤下腹部術後、骨盤大腿骨骨折、妊娠産褥、経口避妊薬、心疾患、肥満、悪性腫瘍
先天性:アンチトロンビンⅢ欠損症、プロテインC欠損症

我が国では生活様式の欧米化により増加傾向

臨床所見
症状
①突発する胸痛(特に胸膜痛)、呼吸困難、約半数に咳嗽、1/3以上に血痰、半数以上に発熱
②重症で血圧低下、ショック、失神、チアノーゼ
③理学所見としては多呼吸、頻脈、Ⅱ音肺動脈成分(Ⅱp)の亢進、ラ音ときに喘息様喘鳴
④下肢深部静脈血栓を示唆する所見(下肢腫脹)、homan徴候

検査所見
①白血球増多は多い、15000/㎥はまれ、血液像変化少ない
②生化学、血液凝固:3徴trias(LDH上昇、ビリルビン上昇、GOT正常)は少ない、FDP、D-dimerの増加が重要
③心電図:急性右心負荷の所見、右側胸部誘導のT波の陰性化、およびSTの変化、肺性P、clock wise rotation、不完全右脚ブロック、右軸偏位
④胸部単純X線:肺炎様陰影(胸膜直下の楔状陰影)、横隔膜の挙上、肺動脈拡大、右心拡大、局所的血管影の減少、無気肺、帯状、線状影、胸水
⑤動脈血ガス分析
重症度に応じてPaO2の低下(Ⅰ型呼吸不全)PaCo2は正常か低下しアルカローシスに傾く

診断的検査
①心臓超音波検査:右心室の拡張像
②胸部CT:肺動脈血栓による欠損像
③99m Tc肺血流シンチ:スクリーニング的に行われる感度は高いが特異性は低い、片側肺あるいは肺葉単位の欠損像は肺塞栓の可能性高い
④肺動脈造影:最近少ない
⑤下肢静脈造影:下肢や骨盤腔の深部静脈血栓が証明されれば肺塞栓の間接的な有力な証拠。超音波ドプラー、インピーダンスフレボグラフィーなど非侵襲的な方法

治療
①抗凝固療法
急性期はヘパリン、その後ワルファリンへ変更
②血栓溶解療法
ショック、急性心不全を伴う時ウロキナーゼや組織プラスミノーゲンアクチベータを投与。
③呼吸管理:低酸素血症に対して酸素療法を行う、呼吸循環系の維持管理を行う
④再発防止、予防策:下大静脈フィルターの留置
⑤手術後の肺血栓塞栓症の予防:ガイドラインに従って予防

⑩睡眠時無呼吸症候群
診断概念
無呼吸:気流が10秒以上停止
低呼吸:呼吸振幅がベースライの50%以下
1時間当たりの低呼吸と無呼吸の頻度(AHI)が5回以上は病的
臨床的には上気道の閉塞による閉塞性無呼吸、低呼吸症候群が多い

診断は日中の傾眠、睡眠中の窒息感、喘ぎ呼吸、頻回の覚醒、熟睡感欠如、日中倦怠感、集中力低下、のうち2つ以上を認め、終夜モニターで、AHI5回以上
軽症:5〜15、中等症:15〜30、重症30回以上

治療
生活指導:減量、側臥位での睡眠など舌根沈下を防ぐ、アルコールや睡眠剤の禁止
口腔内装置の装着:軽症から中等症の症例では呼吸の改善を期待することができる
手術:気道閉塞の原因として扁桃腺腫大があれば手術
NPPVが最も確実、鼻マスクを介してCPAPを行う、呼吸ごとに異なる気道の閉塞状態を推測して圧を調整するauto-CPAPが普及

主な呼吸不全に対する呼吸管理
ARDSの治療
・発症に至る原因、病態が必ず存在
・全身管理のもとに原因疾患を取り除く
・人工呼吸管理は、肺に負担をなるべくかけないように必要最低限のガス交換を維持する
・ARDSは敗血症に伴う多臓器不全の一症候として現れること多い

人工呼吸管理
①気道確保
・肺コンプライアンスが低下、硬くなった肺を呼吸筋で拡張しようとすると疲弊する
・患者の協力あり、ARDSが軽症、原病変の改善も比較的速やかに見込める場合はNPPVの使用も適用
・PEEPを付加することにより、肺コンプライアンスが改善すれば、呼吸仕事量軽減、自発呼吸でもガス交換を保てるようになる
・早期治癒が期待できない場合、気管挿管、人工呼吸施行
・第1選択は経口挿管、長期になる場合気管切開
※かつては経鼻挿管が行われたが、鼻出血、副鼻腔感染のリスク、チューブが細く気道管理に不利なことから行われなくなった

②酸素化の確保
吸入酸素濃度の設定
・初期治療における高濃度酸素投与により酸素化の改善あり
・実際には高濃度にしただけでは、肺水腫、肺出血、無気肺、繊維化などARDSに似た病理学的変化が生じる
・吸収性無気肺:閉塞しやすい末梢気道領域の肺胞から、肺毛細血管へ酸素が吸収されていくことにより生じる
・循環動態を見ながら、PEEP増加、酸素濃度を徐々に下げる
・吸入酸素濃度は50〜60%以下を目標

PEEPの設定
・PEEPを加えればどの疾患も機能的残気量の増加、全身への酸素供給が改善するわけではない
・定められた見解はないが、ARDS Network プロトコールではSpO2(88〜95)、PaO2(55〜80)の値になるよう調整
・循環動態やガス交換の評価を行う、肺の圧容量曲線から求める方法もある

③ARDSに対する肺保護戦略
・人工呼吸に伴う肺傷害について
正常肺に対して20〜30ml/kg以上の1回換気量で陽圧換気を継続するとventilator induced lung injury:VILIを起こす
・ARDSのような病的肺で陽圧換気によって助長される肺傷害はventilator associated lung injury(VALI)

volutrauma:過剰な一回換気量による肺胞過伸展
barotrauma:気道内圧による肺胞過伸展
atelectrauma:人工呼吸のサイクルの中で虚脱肺胞が広がったり潰れたりを繰り返すことにより、末梢気道にずり応力が働いて傷害をきたす
biotrauma:過伸展やずり応力などの機械的ストレスによって末梢気道細胞から放出される種々のサイトカインによって引き起こされる炎症反応

肺保護戦略の概念
・基本は低1回換気量と適正なPEEPであるが、駆動圧(プラトー圧-PEEP)を上げないように注意すること
①低一回換気量
・かつては高一回換気量を行ってきたが、ARDSでは正常な肺の過膨張を起こしてしまう
・Amatoらは、保護換気戦略:PEEPを静肺圧容量曲線から求め、低一回換気量(6ml/kg)と組み合わせる
・従来の高一回換気量より死亡率低い、人工呼吸依存期間も短縮、臓器障害軽減、設定換気量は予測体重を用いて設定する
※男性50+2.3[(身長/2.54)-60]
女性45.5+2.3[(身長/2.54)-60]

・現在では、肺傷害の悪化を防止するため、プラトー圧は30cm higH2O以内、一回換気量を予測体重1kgあたり6〜8ml、アシドーシスは極力正常レベル
・駆動圧(プラトー圧ーPEEP)は15cmH2O以内
・これらの気道内圧や換気量に収めれば、換気様式はvolume control ventilationでもpressure control ventilationでも良い

②低一回換気量を適用する際の注意
a.高二酸化炭素血症の容認
・低一回換気量を適用する場合、高二酸化炭素血症が炎症反応を増強したり、肺傷害を助長したりすることはない
・しかし、PaCo2の急激な上昇は、呼吸性アシドーシス、心拍数の増加、血圧や頭蓋内圧上昇、心拍出量増加、右心負荷上昇、などの生理的影響をもたらす。
・鎮痛薬、筋弛緩薬の必要あり
・筋弛緩薬は48時間程度を上限に用いれば、圧損傷を減らし予後を改善する
・呼吸性アシドーシスは腎臓にて時間をかけて代謝性に代償する必要があるため、低一回換気量への誘導はpHの急激な低下をきたさない範囲で時間をかけて緩徐に行う必要がある。腎不全や代謝性アシドーシス、重篤な心疾患、頭蓋内圧亢進では避ける
・低一回換気量に対して呼吸回数を増やして、呼吸性アシドーシスを代償する場合は、呼吸回数は35回程度を上限にする。呼吸回数を増やすと呼気時間短縮、呼息が十分に行われず内因性PEEPを発生する。

b.無気肺の防止、圧量曲線をもとにしたPEEPの設定
・典型的なARDSにおける圧量曲線は、2点の屈曲点を持つS字状曲線を呈する。
・完全に虚脱した肺胞を開くには相当な気道内圧が必要。
・下屈曲点:初めは気道内圧の上昇に見合った肺容量の増加は見られない。加圧によって多くの虚脱肺胞が再開通を遂げるポイント
・上屈曲点:いったん開通した肺胞は気道内圧の上昇とともに肺容量は増加、コンプライアンス改善、しかし多くの肺胞が伸展してしまうと圧力の上昇に見合った肺容量の増加は見込めない、再び勾配は低下する。
・ARDSの呼吸管理では、上屈曲点を上回らないように気道内圧を制御して過伸展を避ける(2cmH2O程度高い)ことと、下屈曲点を上回るようにPEEPを設定してより多くの肺胞の虚脱を防ぐことが重要。
・圧量曲線の測定が困難な場合や屈曲点を見出せない場合、ガイドライン、プロトコールに従ってPEEPを設定する。
・単に肺の虚脱を防ぐために高いPEEPをかけるのは危険。SpO2だけでなく、循環動態、コンプライアンスなどの変化に注意しながら効果判定行う。
・そのほかのPEEPの設定として、リクルートメント手技を行ってからPEEPを段階的に下げていく方法もある。

c.リクルートメント手技
・低一回換気量における無気肺の防止として、PEEPに加えて適宜リクルートメント手技を行うことも症例によって有効。気管吸引後やPEEP設定時はリクルートメント手技の意義高い
①30〜40cmH2O前後の一定のCPAPを適用
②上限圧を40cmH2OとしたPCVを行いながらPEEPを段階的に20cmH2Oに高める方法
③駆動圧20cmH2OのPCVを行いながらPEEPを段階的に20cmH2Oに高める
・注意点は、健常領域の過膨張を起こし得る。
・過膨張は血圧や心拍出量の減少を招き、一過性に酸素化能が低下することもある。自発呼吸は無い方が好ましい。脱水状態では加圧時に血圧低下をきたしやすい、必要なら輸液負荷にて対応する。この場合、一定の高いCPAPをかけるより、PCVからゆっくりとPEEPをあげる方が良い。
・リクルートメント手技は効果が一時的
・ARDS発症初期の方が効果的
・ARDSの場合、40cmH2O程度の圧では拡張しない肺胞もある。

d.体位変換
・褥瘡防止、換気血流比改善や気道内分泌物ドレナージの上でも有用
・ARDSにおける酸素化能障害のメカニズムの一つとして換気血流比不均等があげられる。病変に左右差がある場合は、病変の著明な側を上にした側臥位をとると換気血流比が改善する。
・ARDSは肺野がびまん性に傷害を受けているタイプ、背側肺に無気肺主体の病変が偏在するタイプに分かれる。
・背側肺に無気肺主体の病変が偏在するタイプ
ガス交換に関与しない血流増加するため、腹臥位では健常肺に血流が分布するため、換気血流比の改善が期待。腹臥位では背側肺に溜まった気道分泌物のドレナージ効果が期待でき、肺胞のリクルートメントが促進されガス交換も改善
・重症ARDSにおいて、できるだけ早期に長めに腹臥位を実施しすると、予後改善すると報告
・体位変換時は熟練したスタッフがチューブ、カテーテル閉塞、抜去、圧迫による目や皮膚の損傷などを考慮。

④その他の肺保護戦略
APRV:十分に肺を拡張させた状態で自発呼吸を維持するが、不足する換気量は間欠的に気道内圧を開放して、呼気を促進することで補う
・調節換気と比較した場合のAPRVの利点
換気分布をより均等に保てる
換気血流比を改善する
循環抑制が少ない
筋弛緩薬を使用せず、鎮静薬の使用量も軽減
人工呼吸器との不同調が少ない

HFOV:高い肺気量レベルで高頻度の振動を与える。平均気道内圧を高めることで、機能的残気量を維持する
・新生児の呼吸促迫症候群、横隔膜ヘルニア、成人ARDSに適応
・ポイントは、リクルートメント手技により、肺胞を拡張させてから、HFOVに移行すること。平均気道内圧は従来の陽圧換気施行時のプラトー圧を5cmH2O上回る圧あるいは30cmH2O程度に設定する。
・高い胸腔内圧による弊害も考えられる。予後の改善率、院内死亡率悪いという報告あり

敗血症に起因するARDS
①輸液管理
・ARDSの原因として敗血症多く、予後は極めて悪い。治療は国際ガイドライン参考
・発症初期の循環不全に対して、早期目標指向治療に基づき、輸液療法やカテコラミン、輸血等の処置を行いながら、血圧、心拍出量、前進への酸素供給の確保を優先
・モニターは観血的動脈圧、中心静脈圧、中心静脈酸素飽和度、乳酸値を参考
・ARDSによる肺浮腫は主として肺毛細血管透過性亢進が関わっているので水分管理も重要となる。早期目標指向治療後に循環系が安定したら、過剰な水分貯留にならないように中心静脈圧を指標に輸液制限、利尿薬の使用を開始
・敗血症由来のARDSでは、控えめな輸液管理により人工呼吸期間、ICU滞在日数が短縮される。
・肺動脈カテーテルは不整脈などの合併症を招く、心機能評価が必要な場合を除いて用いない

②薬物療法
・有効な薬物はない
・敗血症性ショックによる循環虚脱からの離脱にヒドロコルチゾンが有効な場合がある。
・副腎機能不全に陥ることあるので、同程度の副腎皮質ステロイドを投与することある。
・副作用のステロイドミオパチーは筋弛緩薬併用時に起きやすく、ウィーニングに支障をきたす。

③吸入療法
ARDSにおける酸素化能の障害機序であるシャントや換気血流比不均等に対して、血管拡張物質を吸入させることで換気血流比改善、肺高血圧症を軽減しようとする
・主に一酸化窒素ガスが用いられる
・血管拡張薬の静脈内投与は、低酸素で収縮している肺血管を拡張させ、シャント増加してしまう。
・NOガスを経気道的に投与すると、換気良好な肺に到達、その領域の血管拡張、血流増加により換気血流比改善、肺高血圧の改善
・NO吸入は新生児肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全、心臓手術後の肺高血圧のみ保険適用

④ECMO
・P/F比100未満の重症ARDS、肺に高い気道内圧をかけられず換気が保てないARDSでかつ病変が可逆的な場合に適応
・ガス交換の確保と肺への負荷軽減を目的に使用することある。
・通常の人工呼吸では、達成が困難な血液の酸素化と二酸化炭素の除去に適応あり
・VV-ECMOとVV-ECMOの2種類

・VV-ECMO:心機能に問題がない場合に適用
下大静脈から脱血し、膜型肺を介してガス交換を行った血液をポンプで上大静脈より送血するもの
・二酸化炭素を正常に保つだけであれば理論的に心拍出量の1/10程度で良い
・ECMOはCOPD急性増悪や喘息重積状態の二酸化炭素除去を目的に応用される

・VA-ECMO:循環虚脱症例で使用
大腿静脈から脱血、大腿動脈から送血、心拍出の補助を行う

・抗凝固薬を使用し出血や血栓による合併も多く管理が難しい

ARDSの治療戦略
全例
・低一回換気量
軽症
・NPPV
・低め〜中等度のPEEP

中等症
・低め〜中等度のPEEP
・高めのPEEP
・(筋弛緩薬、腹臥位、APRV)

重症
・高めのPEEP
・筋弛緩薬
・腹臥位
・APRV
・HFOV
・ECMO

COPD
呼吸困難の客観的な評価法
mMRC質問票
グレード0激しい運動
グレード1早足、緩やかな登り
グレード2息切れで歩くの遅い、または立ち止まる
グレード3100m、数分歩くと
グレード4家から出られない、衣服の着替えで息切れ

QOLの評価:CAT

病期分類(%FEV1)
Ⅰ期:80%以上
Ⅱ期:50〜80%未満
Ⅲ期:30〜50%未満
Ⅳ期:30%未満

・重症度はFEV1、運動耐容能、身体活動性、息切れ、増悪(重症度、頻度)
・COPDの管理目標
Ⅰ.現状の改善
①症状、QOLの改善
②運動耐容能と身体活動性の向上、維持
Ⅱ.将来のリスク軽減
③増悪の予防
④全身併存症、肺合併症の予防診断治療

①安定期の管理
薬物療法
・LAMA、LABAの吸入が用いられる
長時間作用性吸入薬により、労作時の息切れ、QOL改善、運動耐容能や身体活動性の向上、維持に有効、増悪予防効果
・導入はLAMAまたはLABAの単剤使用、症状改善見られない、気流閉塞の進行、増悪繰り返す場合、併用使用。労作に伴う突発的な息切れに対してはSABA吸入。
※抗コリン薬は閉塞隅角緑内障には禁忌
効果を得るには正しい吸入が必要
薬剤師による吸入指導、医療者による吸入手技の確認が必要。

非薬物療法
・喫煙曝露の回避、禁煙指導、ワクチン接種、身体活動性の維持、軽症から行うべきである。
・喫煙曝露の回避により、咳嗽や喀痰症状が軽減するだけでなくCOPD進行抑制が得られる
・COPD増悪は予後悪化因子、感染予防が大事
・インフルエンザと肺炎球菌のワクチン接種が有効、死亡率50%低下、肺炎発症率優位に低下
・COPD進行に伴いPaO2低下が認められる場合、酸素療法を考慮する。
・酸素療法の適用
①安定期PaO2 55Torr以下
②SpO2 88%以下
③50<PaO2≦60Torrでも睡眠時、運動時に低酸素血症が増悪
④肺高血圧を認める(PaO2の値に関係なく)

長期酸素療法として在宅酸素療法(HOT)
・PaO2≦55Torr、56〜60Torrで肺性心、右心不全、多血症を有するCOPD患者に対して一日15時間以上のHOT使用で生命予後を改善する。
・長期酸素療法の効果は、労作時呼吸困難改善、運動能力の向上、入院回数の減少、QOLの向上の有効性
・COPDの進行に伴い、呼吸困難、起床時の頭痛、過度の眠気、肺性心、高二酸化炭素血症、夜間低換気、増悪を繰り返す症例には換気補助療法が行われる。
・換気補助療法の導入時には、薬物療法、呼吸リハ、栄養療法などの治療が最大限に行われている必要がある。
・NPPVを第1選択とする。
・導入基準
1.あるいは2.の症状あり、3のいずれかを満たす場合

1.呼吸困難、起床時頭痛、頭重感、過度の眠気などの自覚症状
2.体重増加、頸静脈怒張、下肢浮腫などの肺性心徴候
3.
・PaCo2≧55Tor
・PaCo2<55Torr、夜間低換気による低酸素血症を認める、酸素処方流量下SpO2 90%未満が5分以上継続あるいは10%以上を占める、OSAS合併、nasalCPAPのみでは夜間無呼吸自覚症状が改善しない例
・安定期PaCo2<55Torrであるが、高二酸化炭素血症を伴う増悪入院を繰り返す

・最大限の非外科的治療を行っているのに、呼吸困難で日常生活に大きな障害となっている場合、外科的治療を検討。上葉優位に気腫性病変が偏在し、運動能力の低下した患者に肺容量減量手術(LVRS)を行う。

②急性期の管理
①増悪の定義
・息切れの増加、咳や痰の増加、胸部不快感、違和感の出現あるいは増強を認め、安定期治療からの変更が必要となる状態。
・他疾患(心不全、気胸、肺血栓塞栓症)の先行の場合を除く
・症状の出現は急激のみならず緩徐に進行する場合もある。

②増悪の原因
・呼吸器感染症と大気汚染が多い。30%の症例で原因特定ができない。

細菌感染
・インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリス、肺炎球菌が多い。重症例で緑膿菌多い。

ウイルス感染
・インフルエンザ、パラインフルエンザ、アデノウイルス、ライノウイルスが多い。
・その他マイコプラズマ、クラミドフィラ
・インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの投与により増悪を減らせる

大気汚染
・オゾン、窒素酸化物、浮遊粒子状物質

③増悪の診断、重症度判定、入院適応
・増悪の診断は定義に基づく
・重症度判定は、病歴、徴候、身体所見などから判断

病歴
・安定期に比して悪化した症状の強さ、期間
・安定期の気流閉塞の程度
・年間の増悪回数の既往歴
・肺合併症や全身併存症
・現在の治療内容
・人工呼吸器の使用歴

徴候、身体所見
・チアノーゼ
・呼吸補助筋の使用や奇異性呼吸
・右心不全徴候や血行動態の不安定などの心不全徴候
・意識レベルの低下などの精神状態の徴候

・臨床検査
パルスオキシメトリー、血ガス分析、胸部単純X線、心電図、血液検査など必要

・入院の適否はガイドラインに従って行う
入院
・呼吸困難、頻呼吸、低酸素血症悪化、錯乱、傾眠
・急性呼吸不全
・チアノーゼ、浮腫
・初期治療に反応しない
・右左心不全、肺塞栓症、肺炎、気胸、
・不十分な在宅サポート
・高齢者
・安定期病期がⅢ期

ICU
・重症呼吸困難
・不安定な精神症状
・酸素投与、NPPVにより低酸素血症が改善しないかつ呼吸性アシドーシス
・IPPVが必要
・血行動態が不安定、昇圧薬必要

④治療、管理
・薬物療法
抗菌薬
膿性痰、白血球数増加、CRP高値
外来でニューキノロン系経口薬
入院でペニシリン系、ベータラクタマーゼ阻害薬、第3.4世代のセフェム系、カルバペネム系、ニューキノロン系点滴静注

気管支拡張薬
SABAが第1選択
定量噴霧式吸入器(MDI)、吸入補助具(スペーサー)考慮
ジェットネブライザー
効果が不十分な時は30〜60分ごとに繰り返す。心循環系への副作用に注意

副腎皮質ステロイド
高度の気流閉塞や入院を要する増悪時における短期間の全身投与は増悪時の呼吸機能や低酸素血症をより早く改善
回復までの期間短縮、早期再発リスク低下、治療失敗頻度現象、入院期間短縮
プレドニゾロン換算で30〜40mg/日経口あるいは静注5〜7日間投与。外来治療でも推奨

・酸素療法
目的:組織の酸素化改善、維持
目標:低酸素状態の是正、PaO2≧60Torr、SpO2≧90%。co2ナルコーシスに注意
モニタリング:動脈血液ガス分析
高二酸化炭素血症と呼吸性アシドーシスを呈している場合換気補助療法を検討、パルスオキシメーターではモニターできない。
呼吸、循環、意識を注意深く観察、co2ナルコーシスになっていないか確認。

実際:原則的にFiO2を一定にできるベンチュリーマスクなどのハイフローシステムを用いる。低濃度(24〜28%)から開始、徐々に最適なFiO2に設定
ハイフローシステムが利用できない場合、鼻カニューレなどのローフローシステムを用いる。換気量によってFiO2は変化するので流量の調節には慎重になる。0.5〜1.0L/分から始め、PaO2、PaCo2の値を見ながら0.5ずつ上げていく。
HFNCは高いFiO2を安定して投与可能。

・換気補助療法
増悪時、空気捉え込み現象増大、内因性PEEP増大、換気不均等悪化、肺過膨張進行がおこる。結果、吸気負荷増大、吸気予備量低下、呼吸筋疲労により酸素化不全とともに換気不全を呈する。
目的:内因性PEEPを低下させ、換気補助を行い酸素化不全および換気不全を改善させる

適応:十分な薬物療法、酸素療法を行っても呼吸状態が改善しない場合、具体的には高二酸化炭素血症かつ呼吸性アシドーシス、呼吸補助筋の使用、呼吸仕事量増加を示唆する重度の呼吸困難、酸素療法で改善しない持続性の低酸素血症
第1選択はNPPV

NPPV:増悪に対する成功率は80〜85%
頻呼吸や呼吸困難の改善、動脈血ガス所見の改善、入院期間の短縮や気管挿管率の低下、死亡率の改善効果

IPPV:COPDでは人工呼吸からの離脱が困難になることがある、安定期の状態、増悪原因およびその可逆性、人工呼吸による救命の可能性と救命後の長期予後などを判断し患者、家族と相談して決定する。

NPPV適応
・呼吸性アシドーシスかつ高二酸化炭素血症
・呼吸補助筋の使用(シーソー呼吸、肋間筋陥没、呼吸筋疲労、呼吸仕事量増加)
・酸素療法で改善しない持続性の低酸素血症

IPPV適応
・NPPVが忍容できない、失敗
・呼吸停止、心停止
・意識レベル低下、鎮静剤によるコントロール困難な不穏
・大量の誤嚥、持続する嘔吐
・気道分泌物を持続的に除去不能
・血行動態が不安定、輸液と血管作動薬に反応不良
・重度不整脈
・NPPVが忍容できず、生命に関わる低酸素血症

③気管支喘息
・問診から病歴把握
・治療の副作用チェック
・病態、進行度に応じた治療方針を選択
・中等度以上では入院を考慮
・低酸素血症さえ防げれば予後良好

軽発作
・SABA吸入の反復投与、不整脈に注意

中等度発作
・入院を考慮しながら治療
・SABA吸入から全身ステロイド
・アドレナリン皮下投与も考慮
・酸素投与

重症発作
・入院、ICU管理
・SABA吸入、アドレナリン皮下投与、副腎皮質ステロイド、テオフィリン点滴投与
・酸素投与でも、低換気による高二酸化炭素血症が進行する場合気管挿管を考慮

①発作の程度の把握
・first look
意識障害、失禁あればバイタルチェック、ABC(抗菌薬、気管支拡張薬、ステロイド)を行う。低酸素血症に注意

・second look
喘息の発作強度
横になっていられる:小発作:外来治療
座位になっている:中発作:外来or入院
座位かつチアノーゼ、意識障害:大発作:即入院

・病態の把握
喘息の病歴
何歳から、アレルギー、非アレルギー型
使用薬剤、副作用歴、受診入院回数、コントロール状況、増悪のきっかけ

合併疾患と治療
心疾患、高血圧、糖尿病

身体所見
バイタルサインのチェック、視診、打診、聴診

検査所見の注意点
低酸素血症の有無、呼吸機能検査(普段のピークフローと比較)、呼吸器感染が疑われる時は採血検査、胸部エックス線撮影

②治療と管理
・小発作
SABA吸入、自宅にてMDIを用いて一回2吸入を20分ごとに発作が軽快するまで行う。3回繰り返しても無効なら受診。

・中発作
入院を考慮、SABA吸入をネブライザーで1〜2回。全身ステロイド投与、副腎皮質ステロイド点滴静注
ハイドロコーチゾン、メチルプレドニゾロンなど
コハク酸化合物はアスピリン喘息を悪化させるため避ける
ネーザルカニューレから酸素吸入、低酸素血症を防止
アドレナリンの皮下投与:中等度症状でSABAに反応が出ないケースで適応。心刺激症状に注意し、モニター下にて行う。副腎皮質ステロイドの効果が出るまでのつなぎ的な効果を期待

・大発作
ICU管理、低酸素血症を防ぐこと
高二酸化炭素血症は容認、pH7.2未満では気管挿管、レスピレータになる
SABAの吸入、アドレナリン皮下投与、副腎皮質ステロイド追加投与、テオフィリン点滴
切り札は全身性ステロイド、それまでは呼吸管理しっかり。

テオフィリン投与の注意点
・病歴、テオフィリン使用の把握
・喫煙はクリアランスあげる
・心疾患、肝疾患、併用薬剤はクリアランス下げる
・頭痛、悪心、嘔吐、頻脈、不整脈などの中毒症状に注意

人工呼吸を考慮
・自発呼吸で大発作治療により改善しない場合、原則として気管挿管下人工呼吸管理とする。
NPPVは一般病院や病棟では、すすめない。専門施設、ICUで熟練した人がいる場合
欠点は気道確保が不確実、呼吸停止、低下時に粘液栓などで急激に気道閉塞が起こった時に換気保障ができない。

気管挿管と人工呼吸の設定
・緊急医薬品はすぐ使用できるように、血圧、心電図、SpO2モニタリング
・なるべく多数の医療スタッフ
・意識障害、呼吸抑制状態がほとんどなので、鎮静薬、筋弛緩薬、アトロピンも不要
・経口挿管
・挿管手技そのものが病状を悪化することあるので、手間取ったり気道刺激がないよう熟練したスタッフが、行う。
・人工呼吸の設定
①換気モード
1回換気量5〜8ml/kgと少なめ、吸気:呼気、1:3以上呼気時間長め、最大気道内圧50cmH2O未満
②吸入酸素濃度
1.0で開始し、SpO2 95%を維持できるように段階的に濃度を落とす
③高二酸化炭素血症は容認、pH7.2未満に注意
④PEEP
喘息発作では気道閉塞しているため気道抵抗大きく、呼気終末にも気道内圧は陽圧になる(内因性PEEP)この状態からPEEPはかけない
⑤PSVは患者がつらくない限り設定して良い
⑥鎮静:患者の呼吸努力が強すぎたり、ファイティングする場合は、ミダゾラムで鎮静。自発呼吸が適度に残る程度まで。筋弛緩薬は使わない。
⑦気道分泌物の吸引
気道内処置が気道閉塞を起こす危険があることを意識しながら適宜行う。気管支鏡による吸引は熟練者が必要と認めた時のみ
・ウィーニングの時期と方法
副腎皮質ステロイドの効果が現れてくると急速に換気状態が改善する。ほとんど速やかに離脱、抜管可能。FiO2が40%以下となり、自発換気が増加すれば、SIMVの回数を漸減するか、Tピースによる自発呼吸のトライアルでウィーニング開始。1〜3日以内に完了

・以上の治療薬にも反応しない時は、吸入麻酔療法を麻酔科と相談

揮発性の麻酔薬(イソフルラン、セボフルラン)気管支平滑筋時間作用を利用
※保険適用外、長期副作用、医療スタッフへの健康影響、など問題あり

③治療効果の評価
・小発作
SABA吸入の反復投与により、症状消失し、1時間経過観察して無症状が続けば帰宅可能。ピークフローの改善を確認できればよい。

・中発作
小発作と同様
※1本目で十分な改善なければ即入院

・大発作
発作症状、身体所見に加えて、SpO2、ピークフローを参考に治療薬を減量する。予測値、パーソナルベストの80%以上を目安

副腎皮質ステロイド薬は2〜5日持続の後、1〜2日ごとに半減、通常10日程度で終了

テオフィリン内服可能になりしだい徐放錠に切り替える。
SABA吸入は通常自然と不要になる
副腎皮質ステロイド減量と同時に吸入ステロイド薬を再開、開始する。

胸部外傷とその管理

・鈍的、鋭的胸部外傷
・80%は鈍的外傷
・病院前心肺停止例を除く外傷死の40%は防ぎ得た死であった
・救急隊の病院前救護JPTEC
・医師の外傷初期治療JATEC

①初期診療
・胸部外傷は高エネルギー多発外傷として受傷
・事故概要は救急隊から詳細に聴取
・交通外傷であれば、事故概要、車の損傷程度、車外に放り出されたか、シートベルトの着用の有無
・胸部エックス線写真は必要だが。FASTにて、胸腔、縦隔をを検査。出血や気体に関する感度、精度高い。

②致死的胸部外傷

気道閉塞をきたす外傷
・鈍的または鋭的に発生する気道閉塞は、頸部の血腫、咽頭損傷、頸部気管損傷が原因
・気道閉塞により、陥没呼吸、吸気時の甲高い呼吸音、呼吸困難、チアノーゼが出現
・喉頭損傷では、声門を中心に急速に広がる血腫や浮腫により、急激な呼吸困難を引き起こす。気管挿管が困難になるため、輪状甲状膜切開による気道確保が行われる。
・頸部気管損傷で急速に進展する頸部皮下気腫と呼吸困難をきたすため、気管チューブを損傷部の遠位に進めてカフを膨らませ、換気の維持と皮下気腫の拡大を防止する。
・盲目的挿管は損傷部を拡大させる恐れあり、気管支ファイバーを用いるのが無難。

気道内大量出血
・大量の気道内出血では、二腔気管支チューブによる分離肺換気を行うが、二腔気管支チューブがなければ、健側主気管支に気管チューブを誘導しての片肺換気にて酸素化を図る。

フレイルチェスト
・1本の肋骨が2箇所以上で骨折したものが3本以上連続したもの
・奇異な胸郭運動を呈する
・フレイルチェストでは、胸壁の一部が骨連続性を失うため、呼気と吸気が同調しなくなり、骨折部が吸気時に陥没、呼気時に膨隆する奇異呼吸、胸壁動揺が発生。
・しばしば肺挫傷を伴い、しかも強い疼痛により浅い呼吸となる。
・肺コンプライアンスの低下、換気量の減少、気管分泌物の喀出困難、機能的残気量の減少、肺内シャントの増加、強い呼吸障害、低酸素血症をきたす。
・フレイルチェストは胸腔内陰圧にて、発生するため陽圧呼吸にて消失
・視診にて診断できるが、明確でないときは触診にて胸壁の浮動を感知。
・治療には気管挿管下の陽圧呼吸による保存療法と肋骨骨折に対する観血的固定術がある。
・側胸部から背部の骨折では保存療法
・前胸部のみ、前胸部から側胸部の骨折では固定法
・早期固定は体位変換が早期から可能となり、疼痛も軽減されるため、肺合併症の防止につながる。
・保存療法では呼吸抑制、無気肺、肺感染症などの防止として、十分な除痛、鎮静、感染対策が必要

開放性気胸
・鋭的損傷では、胸腔内への空気の流入により、開放性気胸が発生。
・肺虚脱、低換気、低酸素血症をきたす。
・呼吸のたびに空気が流入するため、創部から流入音聴取
・胸腔ドレナージを素早く行い、その後に開放創を閉鎖
・開放性気胸では、肺損傷していることが多い。処置を逆に行うと、緊張性気胸を起こす。

緊張性気胸
・胸腔内が大量の気体で満たされる。
・患側肺の高度な虚脱、胸腔内圧の著明な上昇、縦隔や健側肺の圧排、横隔膜下方偏位、下大静脈の屈曲、著明な呼吸困難、循環障害
・鈍的、鋭的に発生し、きわめて緊張性の高い病態。ショックを呈する
・損傷部が一方向弁を呈する時、気胸にドレナージを行わず陽圧換気を行った場合生じる
・損傷部が一方向弁をを呈すると、吸気時に胸腔内に流入した空気が呼気時に排出されなくなり、緊張性気胸が発生。
・診断は、患側胸壁の膨隆、肋間拡大、呼吸音減弱、消失、鼓音、頸静脈怒張、頻脈、チアノーゼ、血圧低下、不穏などの所見とFASTにて行う。
・胸部エックス線後に診断となると、治療の遅れとなる。
・まず胸腔穿刺にて脱気、その後に胸腔ドレナージ

大量血胸
・循環動態が不安定で、急速にショックに陥る血胸
・心、血管、肺損傷で発生、1,000ml以上の急速な出血
・早期に出血性ショックに陥り、呼吸障害、循環不全となる。
・FASTにて素早く診断、輸血、輸液にて蘇生を開始、直ちに胸腔ドレナージを、行う。
・手術適応
①ドレナージ直後の1,000ml以上の出血
②ドレナージ開始1時間後も500ml以上の出血持続
③毎時200ml以上の出血が3時間以上持続
④大量急速輸血にても血圧が安定しない時

急性心タンポナーデ
・心嚢内に急激に血液が貯留するとこにより、心拡張の抑制、心拍出量の減少、低血圧、ショックを呈する病態
・外傷では貯留血液60〜100ml程度で心タンポナーデを呈する。
・前胸部の強打、鋭的外傷、頸静脈怒張、突然の低血圧あるいはPEA(pulseless electrical activity)を呈すれば心タンポナーデを疑う。
・特徴(少ない)
beckの3徴(血圧低下、頸静脈怒張、心音減弱)
吸気時の収縮期血圧が呼気時より10mmhg以上低下する奇脈
中心静脈圧が上昇しているにもかかわらず、脈圧が30mmhg以上低下
・確定診断はFASTや胸部X線
・心嚢穿刺にて脱血、血圧戻るが、再び低下する例では心嚢ドレナージ、心膜開窓術、緊急開胸術必要

③緊急処置
胸腔穿刺
・患側の第二肋間、鎖骨中線で行い、18Gより太い静脈内留置針を第二肋間肋骨線上縁に刺入、内筒を留置。1本で不十分なときは、同部位外側あるいは第三肋間鎖骨中線より追加穿刺。
その後胸腔ドレナージを行う。

胸腔ドレナージ
・目的は胸壁損傷や肺損傷による出血、空気漏れに起因する循環動態への影響を排除すること。
・体位は、軽度側臥位から仰臥位で可能であれば患側上肢を挙上し肋間の開大を図る
・設置部位は第五肋間中腋窩線とし、肺尖部まで挿入し固定。
・胸腔ドレーンのサイズは20〜28frが使用
・血胸が疑われる場合は太めのチューブが有効
・胸腔ドレーンの挿入に際して、胸腔内状況や横隔膜破裂による腹腔内臓器の胸腔脱出の可能性もあるため盲目的な穿刺は避け、3〜4cmの皮膚切開で用手的に胸腔内を確認して行うのが安全。
・超緊急では、穿刺、吸引が必要であるがいづれにしても超音波の確認は基本
・胸腔ドレーンは水封式ドレナージセットに接続し、-10〜15cmH2Oの陰圧持続吸引で管理、空気漏れの状況あるいは出血量の推移などを観察して以後の治療方針を決定する。

心嚢穿刺
・剣状突起と左肋骨弓の交点より1横指下。
・16Gもしくは18Gのテフロン針を用いて、左肩を目標として、35〜45度の角度で穿刺
・注意深く針を進めると針先が心嚢を貫く抵抗を感じ、その後、血液が吸引される。
・4〜6cmで針先は心嚢に達する。
・針先が心筋に触れると不整脈が発生

一般的胸部外傷
・気胸
多くは肋骨骨折を合併、気胸の原因は肋骨骨折端による肺損傷、急激な胸腔内圧上昇、肺振盪、変位などによって発生。

・血胸
肋骨骨折端、肋間動静脈、内胸動静脈、肺実質損傷、心大血管損傷などによって発生

・症状は胸痛、呼吸困難、呼吸数増加、血圧低下、ショック
・聴診にて左右差を認めるときは、血胸、気胸、血気胸を疑う。
・皮下気腫を認めれば、気胸と判断し躊躇することなく胸腔ドレナージを施行
・初期評価はまずFAST、胸部X線、CT検査
・胸部X線臥位での気胸は肺虚脱、胸郭周辺の無血管陰影を特徴とする
・貯留気体が少ないときは中下肺野、心、横隔膜近傍の部分的透過性亢進、肋骨横隔膜角の鋭化てして認められる。
・血胸は肺野の透過性低下を特徴とする。
・出血が200〜300ml以上でなければ所見として描出されない。
・造影CTはいかなる気胸、血胸も診断しうるため、最も優れた検査法。

肺挫傷
・胸部への鈍的外力によって発生、外力による肺実質損傷、気管支内圧や肺胞内圧の急激な上昇による肺胞断裂、肺胞や肺間質の毛細血管断裂および浮腫をきたす。
・時間経過とともに、肺うっ血、出血、浮腫が増大、局所肺血管抵抗の増強、局所血流の減少、機能的残気量の減少、肺コンプライアンスの低下、シャント率の増大、換気血流比不均等分布の増大
・入院時の血液ガスが正常であったとしても注意がいる。
・症状は呼吸困難、胸痛、血痰、呼吸音減弱、湿性ラ音
・胸部X線、CTで肺実質内のすりガラス様あるいは雲状陰影、点在、点状、斑状陰影を特徴とする。
・受傷当初、胸部X線で異常所見を認めなかったとしても、数時間後に再度画像検査する。
・治療は酸素投与下の保存療法を原則として、必要に応じて人工呼吸管理





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