7.薬物療法

はじめに
・重症呼吸器疾患の治療、呼吸管理において患者の呼吸循環動態や代謝機能が投与される薬剤に依存
・薬剤の生理活性、作用機序、適応と臨床効果、投与方法、副作用に十分な知識と深い理解が必要

気管支拡張薬
・気道平滑筋を拡張させて気管支攣縮を改善させる薬剤の総称
・作用機序によってβ2刺激薬、テオフィリン、抗コリン薬の3種類に分けられる。
・気管支喘息、COPDなどの気道閉塞疾患の治療に使われる

①β2刺激薬
・気道平滑筋にあるβ2受容体を刺激、活性化し平滑筋細胞内のcyclic AMP濃度が上昇して平滑筋細胞が弛緩する

第1世代
・アドレナリン、イソプロテレノール
・α受容体にも作用し、β中選択制に乏しい、作用時間も短い。

第2世代
・サルブタモール
・β2受容体の選択制が強くなり、作用時間も4〜5時間と延長。
・病状のコントロールに3〜4回/日の投与が必要なためアドヒアランス(服薬遵守)が低下。

第3世代
・サルメテロール、ホルモテロール、インダカテロール、ビランテロール
・長時間の作用、1〜2回/日の投与

投与経路
・吸入、経口、経静脈、皮下、貼付
・吸入療法は高濃度で少量でも気道局所に作用、全身への薬剤移行量が少なく、心刺激作用、振戦、血糖上昇、低K血症などの副作用が少ない。
・加圧噴霧式定量吸入器(pMDI)やドライパウダー定量吸入器(DPI)が主
・吸入ができない場合ツブテロールの貼付剤を使用する。動悸、振戦、貼付部位の皮膚障害などの副作用あり
・長時間作用性吸入β2刺激薬(LABA)は、長時間作用性抗コリン薬とともに気管支喘息、COPDの第一選択薬とされている。
・気管支喘息ではステップ1で短時間作用性吸入β2刺激薬(SABA)、ステップ2でLABAの使用が推奨されている。
・β2刺激薬の単独吸入による喘息死のリスク増加が懸念されるため、SABA、LABAともに吸入ステロイド薬の併用が必須。
・併用服薬により、単独で服薬するより効果あり、コンプライアンスもよい。
・β2刺激薬の連用により、気道のβ2受容体の減少を吸入ステロイド薬が抑制
・吸入ステロイド薬(ICS)とLABAの配合剤が臨床に導入されている。

②抗コリン薬
・副交感神経の神経伝達物質はアセチルコリン
・ムスカリン受容体にAchが結合して気管支平滑筋の収縮が惹起
・M2受容体は副交感神経末端、M3受容体は気道平滑筋細胞に存在。
・抗コリン薬はムスカリン受容体と結合してAchの結合による気道平滑筋の収縮を阻害する。
・短時間作用性抗コリン薬(SAMA)、主にM2受容体に親和性あり。臭化イソプラトーロピウム、臭化オキシトロピウム
・長時間抗コリン薬(LAMA)、M3受容体と親和性あり。COPD患者の1秒量の改善、自覚症状の改善、急性増悪の抑制など効果あり。臭化チオトロピウム、臭化グリコピロニウム、ウメクリニジウム臭化物、アクリジニウム臭化物
・気管支喘息でのLAMAの位置付けは治療ステップ2以上の長期管理薬として推奨
・副作用に口腔内刺激、乾燥、味覚障害、吸入時の反射性咳嗽が多い。排尿症状、頻脈、眼圧亢進は少ない。
・閉塞隅角緑内障には禁忌
・まれに気道収縮を惹起するため吸入後の呼吸苦に注意。

③テオフィリン
・気管支拡張作用のあるキサンチン誘導体。
・徐放剤、急性の気管支攣縮に対しては注射薬のアミノフィリンが使用。
・アデノシン受容体拮抗作用や Caイオンの細胞内流入抑制作用などの作用機序が考えられている。
・近年抗炎症作用があると報告されている。
・気道平滑筋の弛緩作用の他に、横隔膜収縮力増強、中枢神経興奮作用、強心利尿作用がある。慢性呼吸不全の呼吸筋疲労、中枢性睡眠時無呼吸症候群、うっ血性心不全などの病態改善有用。
・吸入ステロイド薬と併用すると抗炎症作用により、気道炎症の緩和が期待される。
・主に肝臓で代謝されるが、血中濃度が上昇しやすいため悪心、嘔吐、動悸、頻脈、不整脈、痙攣、意識障害などの副作用あり。血中濃度は5〜15μg/mLとされている。

鎮咳および去痰薬
①鎮咳薬
・咳嗽は生体防御の役割があるため安易に制御するのはよくない。
・咳嗽反射
機械的受容体(喉頭〜気管分岐部)誤嚥
化学的受容体(気管支〜細気管支)有害物質の吸入
伸展受容体(細気管支〜肺胞)気道炎症、冷気吸入
・上記の刺激を求心性インパルス(舌咽、上喉頭、迷走、横隔神経)が延髄に伝え、遠心性インパルス(迷走、下咽頭、横隔膜神経)が伝え咳嗽が発生。

適応
・急性気管支炎、マイコプラズマ肺炎などの乾性咳嗽
・胸膜炎、自然気胸での疼痛も伴う咳嗽
・気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、慢性気管支炎など喀痰排出量の多い疾患では鎮咳により気道分泌物が貯留するため、抗菌薬、去痰薬が重要。

分類
・中枢性と末梢性に分類
・中枢性は麻薬性と非麻薬性に分類
①麻薬性鎮咳薬、鎮咳作用強く、肋骨骨折、胸膜炎、自然気胸で適応。非麻薬性が無効の場合に使用。副作用に便秘、喀痰粘稠度の増加、眠気、めまい、食欲不振
②非麻薬性鎮咳薬
1.鎮咳作用、2.鎮咳作用と去痰作用、3.鎮咳作用と呼吸刺激作用
・鎮咳作用と去痰作用(肺炎、慢性気管支炎、気管支拡張症)
・鎮咳作用と呼吸刺激作用(かぜ、肺がん、肺結核、間質性肺炎などの乾性咳嗽)
・副作用に、めまい、眠気、嘔気、食欲不振

③末梢性
気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫、びまん性汎細気管支炎などに適応
・気管支拡張薬と去痰薬に分類
・気管支喘息には中枢性は無効

②去痰薬
末梢性鎮咳薬の1つ
・気道粘液は気道の恒常性、肺の防御に重要
・増加すると閉塞性気流障害の原因になる
・効果、喀痰排出の促進、ムチン性状の変化による粘稠度低下、ムチン分泌低下、肺サーファクタント分泌促進

副腎皮質ステロイド
・グルココルチコイド、下垂体前葉から分泌されるACTHにより調節される。
・炎症、免疫、遺伝子発現と蛋白合成を調節し病態制御を行なっている。
・効果 抗炎症作用と免疫抑制作用。
・疾患によりエビデンスの有無があるため治療効果かの判定、投与に注意。
・長期投与から薬剤中止した際の離脱現象、反跳現象に注意。
・気管支喘息には劇的な改善効果あり。
・LABAとの配合剤も多い
・COPDではLABA、LAMAとの併用使用が推奨
・気管支喘息増悪例では、全身投与が推奨
・間質性肺炎、ARDSにも全身投与する。

・副作用、多岐にわたる。
・易感染性が重要となる。
・長期間服用中の日和見感染
・吸入ステロイド薬では局所的副作用が重要。予防策として、吸入デバイスの変更、うがいの励行等が重要。
・過敏症、気管支喘息発作誘発作用あり。特にアスピリン喘息患者に対するコハク酸エステル化製剤の使用は注意。

抗アレルギー薬
①ロイコトリエン受容体拮抗薬、それ以外の4つの抗アレルギー薬に大別
・ロイコトリエン受容体拮抗薬は治療ステップ1〜4の長期間管理の基本治療薬、それ以外の抗アレルギー薬は治療ステップの1〜4の長期管理の追加治療薬
・ロイコトリエンはヒスタミンより強い気管支収縮作用あり。
・ロイコトリエンを受容体に結合するのを抑制。
・効果発言時間が短いため、投与数時間で症状の改善あり。
・吸入ステロイド薬との併用で吸入ステロイドやβ2刺激薬の投与量減量効果あり。

②メディエーター遊離軟骨遊離抑制剤
・クロモグリク酸ナトリウムは喘息患者で吸入薬が用いられる。

③ヒスタミンH1拮抗薬
・遊離されたヒスタミンは毛細血管拡張や気道平滑筋収縮作用あり。
・効果発現に4〜6週の投与期間が必要。喘息患者では2週間程度で効果出ることあり。
・第1世代の抗ヒスタミン薬は血液脳関門を通過するため、眠気や集中力低下など中枢神経抑制効果が見られるが、第2世代では通過しにくいため、中枢神経症状は少ない。

④トロンボキサンチンA2ブロッカー
・気道平滑筋収縮作用、血管収縮作用、血管透過性亢進、気道分泌物亢進作用
・合成阻害剤と受容体拮抗剤がある。
・副作用に肝機能障害があり、血小板凝集抑制薬との併用に注意。

⑤Th2サイトカイン阻害薬
・喘息ではトシル酸スプラタストは吸入ステロイド薬の減量に伴う症状増悪を抑制。

生物学的製剤
①亢IgE抗体製剤
・オマリズマブ、重症持続型の気管支喘息患者(治療ステップ4)が、治療対象となる。
・投与量は個人の血清中総IgE濃度と体重より設定して、2〜4週間隔で皮下に投与する。
・効果、重症持続型喘息患者の増悪予防や症状スコアの改善、ステロイド薬の減量効果あり。
・副作用として、注射部位の腫脹、疼痛、アナフィラキシー用症状もある。

②亢IL-5抗体製剤
・メポリズマブ、生体内のサイトカインIL-5と結合し気道の好酸球炎症を抑制する喘息治療薬
・経口ステロイドが必要な重症気管支喘息(治療ステップ4)に適応。
・4wごとの100mg皮下投与で、喘息増悪の抑制、症状改善、経口ステロイド減量効果、QOL改善効果が期待される。
・副作用は、頭痛、咽頭痛、注射部位の腫脹、疼痛、アナフィラキシーショック。

③抗IL-5受容体抗体製剤
・ベンラリズマブ、サイトカインIL-5が受容体に結合することを阻害する。
・好酸球性気道炎症を抑制、末梢好酸球が増加している重症気管支喘息が適応となる。
・1回30mgを8週間隔で皮下投与する。

抗微生物薬
・感染症を惹起する病原微生物は細菌、真菌、ウイルス、寄生虫、など多種
・感染症治療の原則は、原因となる病原微生物を検出、同定しその病原微生物に対する感受性を有する薬剤を選択する。
・使用する薬剤の作用機序や体内動態、副作用を理解すること。
・抗微生物薬として、抗細菌薬、抗結核薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬などに大別される。
・薬物動態/抗菌作用から、抗菌薬の殺菌作用は濃度依存性と時間依存性に大別。
・濃度依存性、高い薬物濃度で効果を上げるため一回投与量を多くする。
・時間依存性、投与回数を増やして血中濃度を一定に保ち効果を維持する。

抗微生物薬の選択
・患者の評価(年齢、性別、症状など)から、起因微生物を推定、経験的治療を行い、各種検査から標的治療に移行する。
・上気道、下気道、肺胞、胸膜など発生部位により起因微生物が分かれる。
・患者の社会的環境、既往歴、生活歴から起因微生物の推定をする。
・市中肺炎(CAP)、院内肺炎(HAP)、医療介護関連肺炎(NHCAP)、日和見感染など
・薬剤耐性菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、MRSA)など、新規薬剤の開発だけでなく、抗微生物薬の乱用を避け、感染を広げないことが必要。

特異性疾患
・抗結核薬、結核菌と非結核性抗酸薬の治療に使用

①肺結核症
・INH(イソニアジド)、RFP(リファンピジン)、PZA(ピラジナミド)、EB(エサンブトール)
それぞれ、5、10、25、15mg/kgを2ヶ月使用、その後INH、RFPをさらに4ヶ月使用
80歳以上の高齢者はINH、RFP、EBで9ヶ月経過観察。
・80以上では肝機能障害に注意
・INHの末梢神経炎、EBの球後視神経炎による視力障害の予防にビタミンB1、B6の補充が必要
・RFP、PZAの肝障害には2週間ごとの血液検査が必要。
・近年、多剤耐性肺結核の増加が問題。
・抗生物質のINH、RFPなどの薬剤耐性をもつ
・これらに加え、フルオロノキシンと注射用二次薬(カプレオマイシン、アミカシン、カナマイシン)の少なとも1つに耐性を持つ結核菌を超多剤性結核菌、広範囲薬剤耐性結核菌として今後の研究課題としている。

②非結核性抗酸菌症
・土や水などの環境に存在する菌、人から人への感染はない。
・150種類以上ある菌の中で80%はMAC
・MACは抗結核薬の多くに耐性をもつため治療は難化、長期化する。
・治療はマクロライド系抗生物質のCAM、EB、RFPの多剤併用で各々600〜800、500〜700、300〜600mg/日で初期治療を開始。
・気管支拡張、空洞に血痰を伴うなど外科的治療も考慮される。

抗真菌薬
・主な呼吸器真菌症に肺アスペルギルス症、肺クリプトコッカス症、ニューモシスチス肺炎に使用

①肺アスペルギルス症
・ポリエンマクロライド系とアゾール系薬が有効。
・キャンデイン系のミカファンギンは優れた効力を有する。(クリプトコッカスやトリコスポロンには無効)

②肺クリプトコッカス症
・HIVとの関連あり
・ポリエンマクロライド系、アゾール系薬のフルコナゾール、イトラゾールを用いる。

③ニューモシスチス肺炎
・HIV感染症、進行癌、化学療法後など細胞性免疫が低下した患者の代表的な日和見感染
・ST配合剤の内服、点滴静注、ペンタジミンの点滴静注、吸入が行われる。ST配合剤不耐容例にはユビキノン結合阻害作用をもつナフトキノン誘導体のアトバコンが使用

抗ウイルス薬
①抗インフルエンザ薬
・発症48時間以内に投与することで罹患期間の短縮、症状改善が期待できる
・A.B型に有効なノイラミニダーゼ阻害薬が用いられる。
・一部(ペラミビル以外)は予防薬としても利用
・アマンタジン、A型のみ、耐性化進む
・RNAポリメラーゼ阻害薬のファビピラビルは新型あるいは再興型インフルエンザに限定
・副作用に、小児では幻覚、異常行動

②サイトメガロウイルス肺炎
・ヘルペスウイルス科
・不顕性感染状態から、免疫不全状態の時に感染。
・ガンシクロビルの点滴静注
・抗CMV高力価乾燥ペプシン処理ヒト免疫グロブリンを使用
・維持療法ではガンシクロビルの内服
・骨髄抑制、精子形成障害をきたすため、新生児、妊婦への投与は禁忌

特発性肺線維症(IPF)治療薬
抗線維化薬
・IPFは原因不明の慢性進行性の予後不良疾患
・今までは有効な治療はなく、対症療法のみ
・現在はピルフェニドン、ニンテダニブなど使用可
・ピルフェニドンの作用機序は、線維芽細胞増殖抑制作用
・ニンテダニブ、血管内皮増殖因子(VEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)の3つのサイトカインの受容体シグナルを細胞内でブロックするトリプルチロシンキナーゼ阻害剤
・これらの薬は軽症から中等症のIPFで適応
・%FVC50〜80%、%DLco35%未満
・ピルフェニドン、初回投与600mg/日、2w間隔で増量し1200mg/日が維持量となる、1800まで増量可
・ニンテダニブは200〜300mg/日を投与
・ピルフェニドンの副作用
光毒性や消化器症状は薬物の血中濃度に依存、投与量の減量や投与時間に注意。光毒性は衣服やスキンケアによる光防御
消化器症状や肝機能障害に対してはゲフィチニブによる消化器症状対策が必要
・ニンテダニブの副作用
重度の下痢、消化器症状、肝機能障害、間質性肺炎、血栓塞栓症




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