Web3とロイヤリティ:新たなユースケースの可能性を探る(スターバックス編)
前回の記事(こちら)では、ここ最近Web3の活用ケースとして注目されているロイヤリティプログラムの概要をざっくりとご紹介しました。
本日以降の記事では、その活用を実際に進めている各社、スターバックスやナイキなどがどのような取り組みをしているのかを紹介したいと思います。第1弾として、本日はスターバックスの手がける”Starbucks Odyssey”を取り上げます!
Starbucks Odysseyとは?
2022年、Web3に本格参入するための検証およびWeb3を利用したユーザー体験の強化を目的に発表されたスターバックスの独自プログラムの名称です。
同社CEO(当時)のハワード・シュルツ氏はこの取り組みについて以下のようにコメントしています。
また、同氏は、単に顧客向けの取り組みだけでなく
ということも語っており、より幅広いステークホルダーを対象にしていることが伺えます。
ちなみにディズニー社は自社の主催するアクセラレータープログラムにおいて、採択企業の1つにPolygonを選び、そのPoCとして、同社の顧客ではなく、従業員向けのプログラムを構築していることを発表しています。(公式リリース)
また、Odysseyの構築にあたっては、以前スターバックスでモバイルアプリやモバイルオーダーを推進したAdam Brotman氏がスペシャルアドバイザーとして就任しています。同氏は、Forum3というWeb3×ロイヤリティプログラムをテーマにしたスタートアップを立ち上げており、スターバックスはその顧客として掲載されています。
徐々に明らかとなるプログラムの内容
Odysseyは、2022年12月8日に、地域や対象者を限定した形でリリースされました。本記事の執筆時点でも、一般公開ではなく、事前にwaiting listに登録した方に順次案内が届いている段階のようです。
余談ですが、私自身は1月に案内が来たものの、地域的な制限なのかサインアップできませんでした・・・。一方で、Twitterを見ていると日本のユーザーでも3月に入ってから案内が来ている方が多いようで、私の知人なども実際にアクセスできるようになっています。
さて、現時点でOdysseyで提供されているコンテンツは以下の3つです
Journeys(ジャーニー)
Stamps(スタンプ)
Market(マーケット)
コンテンツの説明がだいぶ長くなってしまいましたが、最後にポイントとリワードについてご紹介したいと思います。
このOdysseyでは、レベル1〜レベル3まで、3段階のレベルが設定されています。そして、このレベルに応じて提供されるリワードが異なってくると言われています。
レベルはどのように決まるのでしょうか?
それはジャーニーの中にあるアクティビティをクリアすることで獲得できる「ポイント」の獲得数です。このポイント数に応じてリワードの内容が決まります。
現在、レベル1は1,000〜2,999ポイント、レベル2は3,000〜5,999ポイント、レベル3は6,000ポイントという区分になっています。各ジャーニーの最大獲得ポイントは500なので、今時点では500 × 5ジャーニー = 2,500ポイントが最大です。
毎月1つ程度のジャーニーがリリースされるとちょうど6,000ポイントになるので、毎月全てのジャーニーを達成すると最高レベルが獲得できるという難易度設計となっていそうです。
リワードの具体的な中身はどうなっているのでしょうか。これまで同社が発表してきた中には、「バーチャルでのエスプレッソマティーニづくり講座への招待」や、「アーティストとのコラボレーションコンテンツへのアクセス」、さらには「コーヒー農場への旅行」といったものが挙げられています。これらが、上記のレベルなどに応じて提供される模様です。(スタバファンからしたら、コーヒー農場への旅行はなかなか夢があるのではないでしょうか)
------以下、2023/04/20追記-------
最初のベネフィットが発表されました。上記の通り、バーチャルコーヒークラスに始まり、コーヒーの木の命名、30日間無料といった特典が提供されています
------以上-------
OdysseyにおけるWeb3的な要素
これまででご理解いただけているかもしれませんが、このOdysseyにおいては、Web3の文脈で言われるような「分散化」などの要素は現状特に打ち出されていません。いわゆるWeb3的な要素としては、スタンプと呼ぶ「NFT」の活用が該当するでしょうか。
そのNFTのユーティリティは、現時点では、ジャーニーをクリアした証、また、マーケットプレイスで取引ができるといったものですが、これらがスターバックスの顧客のどういったインセンティブを提供したのか、行動変化を促したのか、また、この先どういった進化をさせていくのかは個人的に気になるところです。
余談ですが、Odysseyはスターバックスのアカウントを用いてログインする設計になっているため、これまでの同社のリワードプログラムなどのデータと横断して分析しているはずです。彼らが想定していたような顧客(ミレニアル世代などスタバのコアファン)が動いたのか、それともNFT目当ての新規顧客が多いのか、どうなっているでしょうか。
ロイヤリティプログラムとしての革新性は?
従来のロイヤリティプログラムとの最大の違いは、これまでのプログラムの多くは「たくさん買えば、その分、将来の割引が得られる(一杯無料など)」という購入に対するディスカウントでしたが、Odysseyは、購入を起点とした割引ではなく、「スターバックスへの理解を深める行為に対して、金銭だけでないより深い体験や経験を提供する(その結果、同社への愛を深める)」ことにチャレンジしているように見えます。
もちろんこれも、同社が初めてチャレンジするものではなく、過去様々な企業が取り組んできたものだとは思います。(あくまで印象ですが、その企業やブランドへの理解を深めてもらいたいという提供側の意思が強く、顧客からするとそこに魅力・価値を感じない、というものが多く、失敗していくことが多い気がします)
その点では、今回も、個人的には「トリビアクイズをやりたいか・・?」と言われると疑問符はつくところではありますが、まだ立ち上げてから4ヶ月程度であり、同社のコミュニティ拡大や、デジタル上でのサードプレイス構築に向けて、NFTを活用したインセンティブ設計など、新しい実験にチャレンジしてくるのではないかと、今後の展開に期待したいと思います。