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桜の季節
桜の木の下出会ったあの子が
僕の初恋でした
「大変だったろうお疲れ様」
『はい、まあ...』
「相続問題もひと段落ついたところだし私は明日の朝にはおいとまするとしよう」
『はい』
「...
不幸な死だったが心配することはない全てたまたまなんだ」
2年前両親が他界した
突然の死だった
これから僕の住むことになった家は
両親が他界したあと兄が受け継いだ家だった
兄は先月
他界した
両親が他界した日と同じ日に
死因は両親と同じで突然の心肺停止
いや
兄が日に日に弱っているのを感じてはいた
だけど兄はずっと笑顔だった
翌朝
手伝ってくれていた叔父が帰って行った
これからはひとりでこの広すぎる家に住むのか
なかなか寂しい
僕は子供の頃はこの場所で育ったはずが
ここの記憶なんてすっかり抜け落ちてて
でも自分の部屋がきっと子供の頃から何も変わっていない様子を見て胸がキシリとなった
少し探検でもしよう
なにか思い出すことがあるかもしれない
ここは昔お偉い様が集まる様な館で
それを改造したらしくあまりにも広い
...今日1日で探検できるかどうか
廊下を歩いていてふと
見覚えのあるドアを見つけた
他のとは違う凝った模様がほられていて
美しい
僕はそのドアを開けた
そこは中庭でまだ冬だというのに桜が咲いていた
記憶にはあるのに箪笥にしまってあるのに
目の前の景色は見入ってしまうほど美しいのに
なにか足りない
鍵がないから開けられない
桜の木に触れると
少し、あたたかい
そのとき誰かが笑っている様な気がした
あれから僕は中庭で過ごすことが多くなった
桜の近くは冬のはずなのに
あったかい
桜の木の下で家内にあった本を読んでいると栞が挟んであった
桜の花びらの挟まった栞
それには僕の名前と「さくら」という名前がつたない子供の字で書いてあった
誰の名前なのだろうか
口に出してみるとなんだか懐かしくて
でも突然吹いた風で栞は飛ばされてしまった
もう春すらすぎて夏だと言うのに桜はまだ咲いている
桜の木の下はどの季節になってもずっと心地よい
最近は体の動きが少々重くなったが
桜の木の下では軽くなる
本当に不思議な木だ
ずっとみていたい
ただなにか物足りなさがあった
両親の後に兄が他界したあと
周りからは呪いの館扱いだ
そんな噂が出ても仕方がないが少しは思うところがある
そんな僕の静かな寂しさを感じとったのか
桜が優しく僕を慰めてくれた気がした
ここに引越してから1年が経過した
最近は手の力が入りずらくて物をよく落とす様になった
でもやっぱり桜の木の下では調子が良くて
あたたかい
ただ最近はここに来ると誰かが泣いているような気がした
『泣かないで僕がいるよ』
僕がこういうといつもあたたかい風が吹く
大丈夫僕がいるよ
もう体が限界だということに気づいていた
思うように動かない
中庭に行くことすら難しくなってもうなかなか行けていない
窓から見える桜の木はとても綺麗で
涙が出る
あれ
こんなに泣き虫だっけ
そんなとき小さくコロンと
オルゴールの音が鳴った
ベットの下?
僕はどうにかして確認すると
箱があった
中にはオルゴールと
「ずっといっしょ」
の文字と一緒に女の子と男の子の絵がある
そして手紙状に折りたたまれた2枚の紙
...思い出した
僕は必死に無理やり体を動かした
中庭に向かってがむしゃらに体を動かした
ふたつの手紙を持って
扉を開ける
女の子がいた
『さくらちゃん』
僕は思わず泣いてしまった
「泣かないで私がいるよ」
彼女はにっこりと笑った
「思い出しちゃったんだね」
『忘れたって思い出すよ...!』
「ゆうちゃんはすごいなあ
そう言ってくれて嬉しいよでも忘れてて欲しかった」
ゆうちゃんのこと大好きだから
『あのね、こんなことしなくていいんだよ』
「どうして
桜綺麗でしょ」
『さくらちゃんいないと意味ないよ』
「そっか...えへへそっか」
『そうだよさくらちゃ』
そこで僕は意識を手放した
次目を覚ましたときには目の前は白い天井で
自分が病院にいると理解するのに時間はかからなかった
僕を見つけて助けてくれた人いわく小さな女の子に呼ばれてついたら僕が倒れていたらしい
僕はそのあと順調に体調が回復した
家に帰ったとき桜の木には花どころか葉っぱもなくって
あの子もいない
僕はベットの下にあった願い事箱に入っていた
「ゆうちゃんのおねがいがかないますように」
「ずっとあのおはながみられますように」
と書かれた手紙
を手にして桜の木の下で眠りについた
『さくらちゃん!』
私はある日ゆうちゃんと遊んでいた
ゆうちゃんは近所の大きな屋敷に住む男の子で
『うっうう...』
「ゆうちゃん大丈夫私がいるよ任せて」
泣き虫な男の子
この時はゆうちゃんの帽子が木に引っかかって取れなくなっちゃって
「ほら!取れたよ!」
私が取ってあげたんだ
でも
「きゃっ」
『さくらちゃん!!』
私は足を滑らせて...
あれからずっとゆうちゃんは泣かなくなった
自分を責めてた
そんなゆうちゃんを慰めたくても私には触れることも出来ない
声をかけることも出来ない
それなら
私のことを忘れて欲しい
桜は人の命で咲く
私は誰かの命で咲く桜
だから彼の願いを叶えるために
私の願いはゆうちゃんの願いだから