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文字下手人生を愛す

私のコンプレックスは字がきれいじゃないこと。

バランスが悪くて流麗じゃない。
のたくたした文字の羅列。
なぜか先走って適当に書いてしまう。

履歴書とか、装わなきゃならない文字は全集中する。だからまぁまぁうまいっぽく書ける。

でもちょっとリラックスするともうだめ。

昔、中学美術講師をしてた時、黒板に絵やら文字やらをいっぱい書いて授業した。
休み時間に生徒指導の先生が見回りに来て、
そのままになっている黒板をみて、
「オイッ!コレかいたのだれや!消せ!」

ハ、ハイ〜私ですぅ、、、
休み時間のこどもの落書きと思われた〜〜!

あぁ、恥ずかしぃっっ!!!!

それなのに、なぜか字が上手いと思われる。文字がうまそにみえる顔なんかもしれない。

ご祝儀なんかの文字を頼まれちゃうことがある。
「ほんとーに苦手で下手なんです〜!」
と言っても、
「またまたぁー」と、信じてもらえない。
で、書いたら、「あっっ」
・・みたいな・・・

そんな私に勇気をくれたあの日の出来事を記します。

京都で学生をしていたころの話。

後輩が古着売りバイトをしていた。が、
都合が悪い日があるとのこと。
代打バイトを頼まれた。

北野天満宮の天神さん(毎月25日開催のノミの市みたいなもの)での出店だ。

境内からあふれんばかりに実際あふれて路地にも古道具や食べ物屋台が並ぶ。
大きな木の並ぶ境内の一角にその店はあった。

簡営テントのほねぐみいっぱいに古着をつるす。
ジーンズや革ジャンをはじめ、ワンピースやシャツは70年代くらいの雰囲気。
ちょっとサイケデリックな色合いが特徴だ。

その日はとても暑かった。
当日不摂生学生で体力がなかった私は、
立ちっぱなしの接客にフラフラで気分が悪くなってしまった。
木陰で休ませてもらったりあまり役にたたなかった。

なんとか持ち直して夕方になり、片付けをてつだっていた。
境内の通り道に、よれっとした派手な帽子にパンタロンパンツの、せむしの小柄なヒッピーおじさんが通りかかった。
店長は、「あ、〇〇さんだ。」と知り合いの様子。

それからバイト代の入った封筒を手渡してくれた。

休憩したりしてロクに働いてないのに1日ぶんもらえない、と遠慮したが、そんな時もあるよ、また手伝って。と、店長は1日分のお給料をくれた。

その時、〇〇さんがお店に立ち寄った。
店長はあいさつして話し始めた。

ちょうどその時、私はバイト代を受け取ったサインを帳簿に求められ、書いていた。

その時、〇〇さんが「ちょっとみせて」と、私の文字を覗き込んだ。

手にとって私のサインをまじまじとみた。

「あなたはとってもいい字をかくねぇ〜」

私をじっとみて語りかけてきた。
おじいさんだけど、目は馬とかラクダの目みたいに優しくキラリとしていた。

意外な言葉に驚いた私は
「え?え?私めっちゃ字書くの苦手でヘタクソなんですけど・・」
しどろもどろに答えた。

「いーや、すごーくいい字だ」

じっくり私のサインを眺めて帳簿を返し、ゆっくりと去っていった。

店長が、「〇〇さんはね、ヒッピー界ではとっても有名なレジェンドなんだよ」
と教えてくれた。

〇〇さん、誰だったのだろう。今でもわからない。

今でも私は自分の書き文字が不恰好だ。と、思う。

だけど、それと一緒に「あなたはとってもいい字を書くね」というあの言葉も思い出す。

この不恰好な文字は、いい字なのかもしれない。
この字が「イイ」世界もある。の、だな。
いいかも。

言われてみれば緊張感のないユルユルなリラックスしすぎの文字だ。
装ってない素の書き文字。

自分の字をちょっと好きになった。

その年、父宛の年賀状に大人なのに私みたいな、のたくたなこどもみたいな書き文字の人をみつけた。

私は
「あ、私みたいなイイ字。」

と、思っていた。



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