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Laboの男33

 Labの男33

橘【明智】は個人の欲望が肯定された
個性の時代に育てられた。
個性を磨き前世代から引き継ぎ
多角的に勝ち取ることを肯定されている世界観。
勝ち取れない、
もしくは良い結果が伴わなかった、
それは能力が足りなかったと扱われる。
それは勝者と敗者が生まれる事は仕方ないと
扱われる象徴的な世代だ。
勝利に全面的な信頼をおく者が多く
逆に努力は、裏切らないと信じてやまないのが
前世代から引き継がれている。
この勝ち取るという行為は願望である
所有したい現れで
何の根拠もない手に入れた先には
幸せが待っている儚い幻想に踊らされた
消費社会の資本主義mindが下地にある。
消費の先には幸せがあると吹き込まれた世代。
現世代のシェアーという言葉がそれほど
メジャーではなかった頃の発想である。
個性が肯定され多様化が進むとコミュニティーの
衰退が始まり分断が生まれる。
新しい思想が生まれ同じ思いを持った者が増え
文化が繁栄する。
しばらくすると一般化、ひと通りいきわたると
ムーブメントは下降へと鎮火傾向をたどる。
そこからまた新たな思想が生まれる。
繁栄から衰退へ
世代ギャップが生まれ繰り返される。
時代に育まれた個性であることなんて
つゆ知らず‥‥‥


小比類巻 アン にしてみれば

教え込まれた社会しか知らない
まだまだ底の浅いニヒルな伊達男。

実際の世の中を全く知らない橘が
可愛くて仕方がなかっただろうと想像できる。
設定と思惑で塗り固められた世界ではなく
教え込まれた
信用が大前提のフェアーな世界に
住んでいたはずだった。
なんとかしてあげたい、なんて思われていたのは
むしろ橘の方だったと身をつまされる
マイッチingエピソード。
玄白こと野口を見い出したのは間違いなく
橘だが野口は飲み込みが早く
すでに世の中を達観していた
彼にとっては世界がどうであろうと
たやすいビターな事実。
野口には響かないであろう
やりきれない気持ちは、どうしたらいい?
漠然と世の中、そんなのでいいのかと
どこぞの物語の主人公じみた安い正論
小比類巻に付き合ってもらっていたなんて
思い出すだけで赤面してしまう。
マコのエピソードトークは
思いもよらない記憶を呼び覚ます。
記憶は時を超え
橘から明智に苦笑いをプレゼントする。
痛いところを突かれた表情の七三分け
話を聞き進めていくと、どうしようもなく
気恥ずかしくなってくる。
少し頭をかたむけ屈託のない笑顔から
まるで他人事じゃないなと苦笑いに変わる。


胸に手をあてがって熱を帯びたマコ
「………って彼は去っていったのよ」
  「あの時のタバコの香りは忘れられないわ」

すまし顔の玄白
「彼のどこが良かったのか?全然わかんないよ?
 だって、素性も明かさないし、なんだったら
 名前も怪しいわけでしょ?」

マイッチingマコ
 「若気のいたりよね。
  乙女心の琴線に触れちゃったからね。
  恋の極楽超特急列車は
  走り出すと止まらないのよ。
  各駅停車じゃガマンが効かないのよね。
  あとは信じたく無いモノは
  停車駅じゃ無い駅にブン投げるのよ。
  脳内恋愛物質
  またの名を脳内麻薬のなせる技よね」

明智
  「恋の暴走列車を止めるのは
   クレイジーホースを乗りこなすほどの漢。
   沈黙のポニーテールダンディー
   スティーブン・セガールだけだよね?」

明智 玄白「だっはっははは×2」

全然聞いてない記憶の彼方にいるマコ
 「あんなに私のことを理解してもらえたのも
  彼だけだって思わせるくらい
  アタシの脳内映像はキラキラだったモノ!」

たとえ、脳内麻薬のなせる技であっても
マコが体験した事は、紛れもない事実
決して自作自演なんて言っちゃ〜ダメ。

明智
  「分かるよマコちゃんっ その気持ちっ!
   明智にもそんな事あったからね。
   歯止めが効かないっていうけど
   ホントそうだと思うよ」

マコの両肩をガッシリと掴み
しんみりとウンウン頷く

 「初めて通じ合ったかもしれない!」

マコは手をクロスして明智の手に手を重ねる。

玄白【なんだコレ?ちんぷんかんぷんだ?】
明智にも似たような
恋愛体験があったのは察しがつくが
なんで舞台演劇風になってるんだ?

明智
 「ホント手痛い目にあったからね。
  惚れた者の負けなんだよね結局」

肩をポンポンと、たたいて手を離す
 「ある意味マコちゃんは真実が分からなくて
  正解だったかもしれないよ。
  掘ったところで
  ろくでもない事実しか出てこないだろうし。
  その恋愛があって
  今のマコちゃんがあるだろうからね。
  なぜなら今もいい思い出でしょ?」

「明智の元カノも離れていったの?」

 「いいや
  離れては、いったのはいったけど
  崖から落ちて死んだよ」

「うそっ?またっ適当なこと言って!」

おもむろに、かがみ灰皿でタバコをもみ消すと
静かに明智は語り始めた。

 「マコちゃんは、彼がすでにいる状態から
  入社したでしょ?」

胡坐のキラキラ叡智クリスタルマンを指さして

 「後ろに、ほらっクリスタルマンいるじゃない。
  来栖さんが彼を連れて来たんだけど
  彼があそこに安置されるには
  一筋縄ではいかない騒動があったんだ」

 「クリスタルマン強奪戦って事件があって
  ロシアともめたんだよね。
  当時ロシアは
  クリスタルマンを保有できておらず
  ツリーマン数体とロックマン1体。
  クリスタルマンが1番データ圧縮濃度が高くて
  価値があるとされている。
  ツリーマンってのが樹木化した
  亜種みたいな感じね。
  ロックマンってのが
  クリスタルを精製しないタイプ」

 「国家として喉から手が出るほど
  クリスタルマンが欲しいあまり
  日本にまで工作員を動員
  それを来栖さんが返り討ちにしたって事ね」

政権を維持していくには「目と耳」となる
秘密情報機関が必要不可欠だと言われるんだけど
有名なのがカーゲーベーこと
旧ソ連時代に大活躍した
KGB【国家保安委員会】だね。
今日では
FSB【連邦保安庁】SVR【対外諜報庁】の
2つの機関によって継承されている。
あいつはヤバイよ、プーチンさん。
プーチンは筋金入りの諜報部員。
KGBに16年間勤務しFSB長官も勤めている。
ロシアの方では日本みたいな薬理部門とか
我々のような独立した機関がなくて
直接国家が動かしてるんだけど
薬理部門であっても諜報部門、軍事部門であっても
実質の長官はプーチンだろうけどね。
アメリカと日本は、あからさまに
製薬会社が幅をきたせている。
特に日本は製薬会社の力が
一極集中してるんだけど
アメリカだとFBIだとかCIAだ軍だとか
古参の組織があるから
ちょっとややこしい事になってる。
そんなのと来栖さん
やり合って打ち負かしてるんだから
バケモノだよね彼女。
愛国心で命を賭しちゃう発想の奴らとよ。
まぁ〜それくらいクリスタルマンって
世界情勢を動かすほどの兵器なのよね。

ロシアは、1度失敗した
日本にあるクリスタルマン奪還を
諦めてはいなかった。
その強奪戦から関わっていた
女スパイが明智の元カノなのよね。
一応、社内恋愛なんだけどね〜。
 ふぅ〜 瞳を閉じて
ため息と共にむかし話が始まった。

コードネームが明智 小五郎ではなかった頃
当時、橘はまだ覚醒して間もない。
完全に小比類巻のことも信用していたし
思考を受信するほど達者ではなかった。
ドライな世界に生きていたアンは、
若さ真っ向勝負の橘に戸惑っていた。
本当の自分を知ってもらいたい気持ちで
胸が痛かった。それもそはず
ロシアの諜報部員であり他製薬会社の
二重スパイでもあった小比類巻。
オンナを使って
橘を懐柔し彼を意のままに操ろうとしたが
あまりにも情熱的にまっすぐに女性扱いされ
任務と本心の板挟みとなる。
演技のはずが、
彼を育てたい気持ちに嘘が付けなく
なってしまっていた。
推し活の根本は母性本能の漏電。
応援したいって気持ちと母性本能は表裏一体
明智は無自覚に小比類巻の母性本能を刺激する。

 「来栖さん曰く自然と女性を味方にできるのは
  エージェントとして大事な能力だって
  言うんだけど、迷惑な話さ」


毎日の修行場所、廃工場に訪れる橘
来栖は、少し勘づいていた。
それとなしに橘の肥やしになるだろうと
泳がしてはいたが、一向に気付く気配がないため
しびれを切らして直接聞くことにした。

 「小比類巻っているだろ?
  何か気になることはないか?」

「彼女の事ですか?別にないですけど
 仕事じゃない時はヘンなんですよね。
 ナニかあるんですか?」

来栖
 【コイツはやばいな。脱力の大切さは教えたが
  それどころじゃねぇメロメロじゃねぇか。
  思考が緩んじまってる。どおしたものか?
  組織としてはスパイをこちら側に寝返らして
  ポジションはそのまま二重スパイとして
  他製薬会社の情報を引き出してもらう
  ってのもあるが……
  橘が痛い目に遭うのも経験かっ】

 【今のところ小比類巻に目立った動きはない。
  我が社に入って3年か。しっかり信用を得て
  動き出すならこれからだな】

その時点でロシアの繋がりまでは
分かっていなかった来栖。
企業スパイだけなら小物中の小物
よくある話で
来栖にしてみれば泳がせても大した問題ではなく
橘に始末させるのも勉強だ
程度に思っていた。

来栖は両手でガッシリと肩を掴み念を送った。

 「橘、夢々忘れるなよ。
  お前はもうエージェントなんだからな。
  わたしが教えた、どんな状態、状況であれ
  違和感を感じるんだぞ。
  ナニか引っかかった時は大体、理由がある。
  お前はもう後戻りもできないんだからな」

静かに手を離し、少し口を尖らせて来栖
 「それじゃ〜基本の組み手からだ。いいか!」

片手で拝むように
来栖は手のひらを開いて軽く腕を曲げたまま
右手を前に
同じく橘も右手を前に
来栖の手とクロスする様に構える。 

バッ バババッ

橘には、足りない渇いた欲望があった。
満たされないギラギラとねちっこい欲望が。
なにがなんでも手に入れようとする
沸々と、うごめくヘビの塊が。
組み手を進めてゆくとそのヘビは動き出し
ねちっこく来栖の顔を狙ってくる。
難なくかわす来栖だが時折り、数十回に一度
よく練られたヘビが束になって一点集中
瞬間的に熱く、問答無用に頭めがけて
狙ってくる時がある。
来栖は、このムキ出しの欲望のヘビ達が
拳に乗っかった瞬間がたまらなく好きだ。
ねじ曲がった殺意とは違う、
イビツで愚鈍なほどの野生味。
その感覚の研ぎ澄まされた熱いヘビが
常時、繰り出せるまでは
しごいてやろうと思っている。
上品に常に振る舞う橘の時折見せる熱いヘビが
来栖は、たまらなく好きだ。
 「って!あぶねぇ!耳をかすったぞ!
  いいじゃねぇ〜か」

 「今のはいいぞっ!その感覚忘れるなよ!」

 「よく無心で放たれるパンチの方がっ
  だとか、打った感覚がないパンチの方が
  効くなんて言われるが
  戦場ではちがうんだな!
  それじゃ〜ココロをへし折るまでは至らない」

 「無心で打ちつつ
  そこにオマエの想いを乗っけて打ちぬく。
  ちがう違う!考えるんじゃない!」

 「考えない様に考えてるじゃねぇ〜か!
  打ち消すんじゃないっ開放するんだよっ」

 「空っぽにしてからのその先を教えてるからな。
  全てに通ずるからな。オマエの生き様が
  そのまま出るからな」

 「泥臭くて結構、欲望も含めて自分だ!
  やらしさも肯定してやれ!自らな」

そんな日々を半年間、
さすがに逞ましくなったよ。
来栖さん、その時は暇だったんだな。
それで小比類巻に慰めてもらったよ。
ほんと楽しかったな修行の日々も恋愛も。
今思い返してみるとよ。
当時は、なんで毎日なんだよって思ってたけど
やっぱり
来栖さんは、ハートがあったかいんだよ。
この明智が独り生きていけるレベルまで
鍛えてくれたからね。
それ以上に修行は、ベリーhardモードだから
もう勘弁だけどね。
どこを向いているか分からない遠い眼
爽やかな笑顔やけに白く歯が光ってみえる明智。

のめり込むように話に耳をかたむける2人。

玄白
 【びっくりするくらい人間ドラマしてたのね。
  当時はまだマコちゃん居なかっただろうから
  朝から晩まで
  クリスタルマンの研究漬けだったな。
  そんなに恋愛ってヒトを成長させる
  モノなのかね?ちょっと発見だね】

あまり自ら自分を語らない明智 小五郎に
新鮮味を感じる玄白andマコ
話の展開に興味深々だ。

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