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Laboの男37

 Labの男37

翌日、温泉街を後に
帰りに小比類巻のマンションに
立ち寄ってみるも
建物はナゾの火事で全焼していた。

 「やっぱ、そういうものなんだな。
  何か思い出のモノでも……
  逆にスッキリしてよかったかもなっ」

自身に言い聞かせつつタバコに火をつけ
火事場に背を向け去ってゆく。

エビス薬品工業のデータバンクにアクセス。
小比類巻 アンの素性を発見
細工される前のデータには
5年ほど前に死亡している
全くの別人女性の存在が明らかとなった。
かりそめの設定だけで何も分からずじまいだ。

明智は腕組みをして
「と、まぁ〜マグリットは
  明智的に、少々こたえるんだよね」

玄白
 「そんなドラマみたいなことあるんだね。
  結局、彼女の本心は判らず闇の中だ」

マコ
  「ナニ言っちゃってるのよ玄白!
   助かるかもしれないのに
   自らその身を犠牲にして
   手を放したんでしょ?
   真実の愛のカタチに
   決まってるでしょ!バカっ!」

唇を片方だけ上げて明智
「だったらいいんだけどね。
 それなりのエージェントなら
 偽装死もありうるからね。
 もしかしたら生きてるかもしれない。
 あの当時だったから死んだものだと
 思ってたけどさ」

玄白
 「イワノフはどうなったの?」

明智
「自白剤バンバン打たれてロシア情報
 散々引き出されて始末されたのかねぇ?」

マコ
  「どこかのLaboで実験されてたんじゃ
   なかったかしら?」

珍しく食いつく玄白
 「そうなの?でもマコちゃん顔とか
  イワノフ知らないでしょ?」

マコ
  「研究者側だと外国人はよくいるけど
   被験者でだと少ないでしょ?
   だから
   目立ってたからよく覚えてるよのよ」

 「あんまり聞かないじゃない?
  イワノフって呼ばれてて印象的だったのよね。
  クビが極端に太くて
  頭が埋まってる感じのオジサン
  筋肉質でハゲた怒り肩のヒトでしょ?」

明智
「そうそう、それ本人だと思うよ。
 そうなると末恐ろしい組織だねぇ〜
 わが社は、
 骨の髄まで吸いつくされて
 利用されちゃうんだよ。我々もね」

明智 玄白 マコ「…………………………」

 ハードボイルドな劇画タッチの顔×3

玄白
 「それじゃ〜上のフロアー行こうか。
  とは言えみんな、自身のまっすぐな願望
  信念に覚悟を決めてるんでしょ?
  みんなカタチは違えど何処に行っても
  生きていけるタイプだろうからね。
  何にも心配してないくせに〜」

明智
「そうだな、どうせみんな死んじゃうんだから
 それまでは足掻いてやるさ」

マコ
  「それまでに恋人できるかなぁ〜?」

明智 玄白2人顔を見合わせ

 「できるっ出来るっ×2」

ノールックでエレベーターへ向かう。

  「ちょっとぉ〜だいぶ扱いが
   雑になってきてない?」

2人を追いかけるマコ


 カッコーン
湯煙が漂うあったか空間。
石造りの湯船のふちに片肘を立てて
頬杖をついて
ため息の万次郎 「たぁハァ〜〜っ」

来栖
 「この施設には大浴場があるんだよ。
  お湯入れてやるから入ってこいよ」

体をすっぽり包み込むお湯
少しぬるいくらいの温度が五臓六腑にしみわたり
身体が節々が喜んでいる。
以前までの自分を振り返ってみる万次郎

試行錯誤の自作自演の日々
人生を謳歌するには感情は彩りを与えてくれる。
が、それ以上それ以下でもない。
自身のペースってのは大切だが
思うように事が運ばないのが大半で
それがデフォルトなのだ。
自身にフォーカスを合わすと
クオリティーが上がり
完成度はあがれど広がりは絶たれる。
密度が上がれど余白が生まれず
広大なハーモニーがどんどん目減りしていく。
漏電しない煮詰まらない思考防止に
呼吸法が有効で
そのエネルギーを 今 ここ 現在に
集中するトレーニング。
いかに自身の思い込みに感情が左右され
ありもしないことを心配していたのかに
驚かされる。
人間としての本質部分であり
無意識に行なっている。
一口に自分らしさ
なんて言ってしまいがちだが
そんなモノは存在しない。
あくまで過去の自分の行いを参照した結果
それが自分らしさだ
なんて勝手に思ってはいるが
果たしてそれはほんとうなのか?
時代と共に生きるニンゲンが
変化しない訳が無い。
感情 想いはほっておけば流されていく。
跡形もなく。
センサーの針が触れて
ゼロにまた戻っていくだけで
あるのは実際忘れたくない理由があるだけだ。
そしてその想いにエネルギーを
注ぎ込んで大切だと思いたいだけである。
それまで費やしたエネルギーを
無駄にしたくない
ただそれだけで
そこにはそれ以外何もない。

我ながらinside headレポートは
良い仕上がりだ。
ふと入り口に目をやると
何やら人影が動いたように見えた。
 んっ? ガラガラガラーッ
目を見開き豆鉄砲を喰らったハト顔の万次郎
湯煙の中、真っ裸の来栖登場。

  「うそでしょ!何で入ってくるんですか!」

「いゃ、女湯に
 また、お湯入れるのも勿体無いだろう?」

  「もぉ〜そういう事じゃないんですって」

身体には歴戦のキズがこれでもかと
刻まれている。
ちょうど局所が顔のまん前にある状態で
突っ立っている勇ましい来栖

 「意外と細かいなぁ〜ジョンは」

何事も無かったように湯船に入る。

 「いいセンいってるゼ修行。なかなか器用で
  カンもいい方じゃないか?」

「何にもないように普通に話してますけど
 どうかしてますよメイデンさんっ」

 「何でだよっ!オマエ兄妹とかいなかったのか?
  まさかっまた興奮してるのか?」

万次郎の局所を握ってくる来栖

 「また、硬くなってるじゃないか!」

「違いますよ!それは疲れマラってやつです。
 勝手になるヤツですよ。もぉ〜」

 「それは私には、分からん事情だな。
  まぁ〜お前は特に考えが漏れてるから
  よこしまな事を考えてないのは
  よく分かるからな」

少しイタズラをしたくなってきた万次郎
なんのためらいもなく来栖の胸を揉む。

 「こんなに筋肉がすごいのに
  胸はやらかいんですね」

虚を突かれた来栖
  「この野郎っ無心で触りやがって
   なんだと思ってるんだ
   もみもみするんじゃねぇ〜」

と、局所と胸の揉み合いをする2人。

 「オマエは不思議なヤツだ。
  色々と思い出すよ。
  戦場での楽しかった事とかをな」

「メイデンさん
 なんで名前を呼ばれるのが嫌なんですか?
 ずっと気になってたんですよ」

  「おおっそれか。それはな………

名前はファーストネームで呼ばれる事が
ほとんどなんだけどな。
テロ組織から抜けて外人部隊時代の話だ。
苗字の来栖
ってところに皆んなが引っかかるんだ。
京子だとインパクトが薄いらしく
苗字の来栖ってイントネーションが
クルス→cross→cruz→十字となる。
cross GOD's eye  
垂直に立った柱と横棒からなる
木の構造物の意味になり
 ポルトガル語では
クルス cruz → 十字 十字架 十字架像となる。

部隊の仲間内でご加護があるだなんて
あやかってクルスの方を好んで呼ばれたんだ。
何故か、転じてクルスと行動を共にすると
死なないだとか言われ出して
 「死なない女 クルス」
なんて言われるようになった。
根も葉もない事に
当時はみんなの士気が上がれば程度に
思っていたんだが
あるミッションで仲間が大勢死んだんだ。
こちらにはご加護があるんだなんて
叫びながら特攻していくヤツだとか
クルスに続けぇーってのがな。
それ以降
自分の苗字 来栖ってのを
ちょっと呪ってるんだ。
いい思い出とイヤなことがないまぜに
思い出しちまうからな。

万次郎
 「その身体中のキズ
  ボクは、来栖さんが何を見てきたかは
  知りません。でも分かるんです」

 「もう十分背負いましたよ来栖さん
  それ以上は無意味ですよ。
  だからこれからはもっと
  来栖って名前 祝福してやって下さいよ!
  もう十分償いましたってっ」

胸をもみもみ万次郎

   「…………!」

  「この野郎!生意気なこと言いやがって
   これじゃ〜思い出が胸モミモミに
   上書きされちまうだろうが〜っ」

万次郎をヘッドロックしつつ
  「お前には師匠って概念がないのか!
   このヤロウっ!」

湯船の下でブクブク顔をあげようと
手をバタバタ必死の万次郎

少し肩の荷が降りたような表情
不機嫌な唇が微笑んでる来栖

 「来栖さんは ブクブク ぶはぁ〜っ
  これからもずっと
  僕の心の師匠ですよ!ず〜〜っとです」

柔らかい瞳の来栖
  「お前は私の間合いを狂わす。なんて奴だ。
   いいだろう ジョン 万次郎。
   この来栖 京子の全てを叩き込んでやる!
   覚悟するんだな。はははっ」

湯船でじゃれる2人 
バカヤロゥ年の功てのはどう足掻いても
そうそう埋まるもんじゃねぇ〜んだ
だっはっはは体術はウソをつかねえ
オラっこのままバックドロップだ!
なんの!バックドロップ返しだっ!

以降、アイアン来栖メイデン京子は
来栖って名前に反応しなくなっていた。

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