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Laboの男75

 Labの男75

明智がジェイソン楠木報告書を仕上げてる頃
Laboでは万次郎がジェイソン楠木
尾行の苦労話をひと通り終えたところ。
万次郎の悪戦苦闘部分は喜んで
聞いてくれてたみたいだが
いざ本題のジェイソン楠木の能力の話となると
意外に興奮してくれなかった玄白に
万次郎は肩すかしをくらう。
再現性なんて言葉の意味も初めて知った。

玄白
「あれっ?明智はどこかに出向いてる?
 報告に来るかなって思ってたんだけど」

万次郎
 「どうも栗木ブラザーズと会うみたいですよ。
  今回の一件で聞きたいことがあるみたいで」

「ふ〜ん、そうなんだ」

玄白は目線をツリーマンにやる。
何やらピンときた玄白
 能力 耳識【にしき】が囁いている。
 エビス薬品上層部のツールと化した
 頭単体となってしまったイワノフ
 生体コンピューター【生首コンピュータ】
 イワノフヘッドがクリスタルマンとアクセス
 現在、実験を開始していること。
 ツリーマンことウッディー宇都宮は
 ルナと同様にすでに
 ジェイソン楠木の能力の事を知っていたこと。
玄白はメガネを中指で上げなおし
手招きしているウッディーの横へと歩いていった。

地上8階で
クリスタルマンに動きがあったことを
傍受したウッディーは盗聴を開始
リズミカルに木の指を駆使してキーボードを叩く。
玄白に話しながら2人パソコン画面を見ている。

地下8階〜地上8階からなるエビス薬品工業ビル
最上階に安置された人類の叡智の結晶
クリスタルマン
そのサイドにちょこんと置かれた
恐ろしい姿の生首の標本。
円柱の水槽の中に閉じ込められた
生きたイワノフヘッドが
クリスタルマンとの対話のカギとなっている。
Way beyondの目論み
上層部の飽くなき探究心の果て
人道的道徳などなんのその
鉄の意志と言われ讃えられた
イワノフは今もなお悍ましい姿となっても
地上8階で頭だけがエビス薬品に貢献している。
離ればなれとなったイワノフbodyは処分はされず
現在、明智Labo預かりとなっている。
地下8階で
首なしの鉄の意志
胴体部分のイワノフはそっぽを向いて
静かに突っ立っている。
なぜか首なし状態でも生きていて
頭とは別にナゼか意思を持っている。

覚醒度合が以前よりもUPした万次郎は
玄白とウッディーの会話が聞こえなくても
少しは察しがつくようになった。
何を話しているかまでは受信できないが
何となしに感じとれる。
ウッディーの口数の多さからして
イワノフbodyはウッディーを介して
会話に参加しているようだ。
ウッディーとイワノフの波長はナゾに穏やかで
人間の波とは少々異なるので分かりやすい。
最上階8階では
膨大な情報蓄積を誇るクリスタルマンから
叡智を引き出そうと
イワノフヘッドを使って実験最中。
クリスタルマンとの対話
クリスタルセッションを盗聴受信しつつ
ウッディーは
視覚的にも分かりやすいように
内容をパソコンに書記入力
同時中継で玄白との対話。
クリスタルマンの盗聴
ウッディー本人の意見
イワノフ(体)の意見も含めて玄白を交え
ちょっとした聖徳太子よろしくの
3次元中継をサラリとやってのけている。
もう話しかけられそうにない。

そういえば肝心の
手紙の事を忘れていた。
万次郎は玄白の方向へ向けた頭を
残った歴戦の明智Labo女性クルーへ向け
2人に声をかける。

「また
 女性陣の知恵を貸してもらえませんか?
 ナゾの手紙がまた届いたんですよ。
 ちょっとピッチが早すぎやしません?
 もうボクにはトリッキー過ぎて
 解読は無理です。なので今日は
 参考資料を持ってきました」

かれこれ3通目の元カノからの手紙
握りしめた手をブンブン左右に振る万次郎

マコ
「ちょっと〜ぉ!尾行の話よりも
 そっちの方を早くよこしなさいよ。
 どんなオンナか?
 直接拝見できるのは楽しみだわ」

ルナ
 「うっそ、持ってきたの?それはいいの?
  恥ずかしくないの?えっ?プライベートよ?
  楽しみは楽しみだけど全くおかしな子だわ」

万次郎から手渡された直筆のエアメール。
スマホでのやり取りが可能なこの時代に
わざわざ、したためられた国際郵便。
何かあるに違いない。
まじまじと熟読するマコandルナ。
何かしら念が入ってるに違いないと期待が高まる。
それは要らぬお世話のゴシップの楽しみ方であり
登場人物が身近であればある程
大興奮のエンターテイメント。
ひとつの手紙をルナ&マコ
顔を寄せ合い便せんを2人で握りしめ
気になる内容を読み進めている。

性別関係なく他の人はどうなんだろうかと
気になるモノなのだが
特に女性の場合悲しいかな
世間の物差し印象に引っ張られて生きている。
動物としてのカンで下地に
はみ出し者となることを恐れている。
他女性の動向には非常に興味があり
今後の行動の参考、自身の答え合わせもする。
誰にでも当てはまることではあるが
女性では特徴的なムーブである。
その場限りで行動しても許されていた
野郎どもと大きく違うところでもある。

彼女達からすれば本人からの流出情報なのだが
読めどくらせど一向に期待していたシゲキが
淀んだ情念が足りない。
何だったら爽やかな文体だ。
ドロドロ劇を期待していたようだが
びっくりするほどいたってシンプルな内容。
以前聞いてた話では
混乱していた印象があった元カノだったのに
今回の手紙はいたってまともで少し残念そう。

焦げた香りがするほどの焦燥感は余裕を奪い
危機感は錯覚を生み、周囲を敵に変貌させる。
孤独感が「たられば思考」プチ後悔を繰り返し
自身に過剰な負荷をかける。
無自覚に情報を遮断し
自身の器からあふれないようにするのは
不安を増やさない為。
無意識で世界と繋がっていない自身を
信用すらしてあげれない
オープンではない状態では気は休まらない。
気力も余裕もないのに集中しようとすると
敵味方関係なく全てが邪魔者となりかねない
自発的オフラインな
恐ろしい世界観で生きることになる。
さてはて
世界は未知の恐ろしいモノであふれているのか
それとも
未知のモノで余白ある発見であふれているのかは
そんなもの受け手次第に決まってるじゃん?

マコ
「彼女やっと開き直れたんじゃない?」

あらゆることが受け手次第
これを恋愛観に当てがってみる。
するとどうだろうか?
万次郎に合わせて生きていた彼女は
自分らしさも忘れて
万次郎に相応しい女性像を演じるのに疲れ果て
独り心の旅に出て行ったわけ。
虚構に振り回されて彼女自身の
気持ちを置き去りにした主軸がズレた状態。
旅から吸収する全く違う環境から文化から人から
万次郎という物差しから解放されたはずよね。
いつのまにか彼女のコンプレックスの象徴にまで
膨れ上がった万次郎のはずなのに
なんなの?この手紙?それにこのエピソード?
もう完全に過去の事として友だちの万次郎に
思い出話をしてるだけ
にしてはステキ過ぎるのよね、、、
まだキラキラがちりばめられてるものね。
なんだったら
人生の素敵な格言が書いてあるわ。
余計なお世話とも取れる人生観がね。
心配しないで、これは悪意があるワケじゃなくて
素直にステキな言葉をあなたに贈りたかった
だけだろうど。
 「しっかし
  どれだけ彼女にとって
  いい思い出なのよアンタ?
  相当信用されてるだろうし
  それに彼女、もう塞ぎ込んではなさそう。
  環境に感化されて以前よりかは
  世界にオープンになってるわよね」

 「考えるよりも生きることをメインに
  一歩進めた感じがするわよね?
  一皮むけた感じ!あらっ?
  何かロマンスでもあったんじゃ無いの?
  胸が踊るトキメキ展開からの……

何ともいえない表情の万次郎
「もう、それ以上は大丈夫ですよマコさん!
 そっそんなこと
 あるか無いかは分かんないじゃないですか!
 だって彼女っ

髪をかき上げて
人差し指を万次郎に向けるマコ

 「なにナニ?万次郎?ナッハッハハハ
  妬いてるの?カワイらしいわね」

腕を組み替え、頬に手を当てルナ

  「いいじゃんねぇ〜。何したってさ。
   ついに自由を手にした感じで、
   無茶苦茶しちゃえばいいのよね〜
   人生1度っきりって言うじゃない?
   もうどうにかなっちゃったら
   いいじゃないのね?」

 「そうよね。悪いことしない事には
  悪いかどうかなんて分かりゃ〜しないのよ」

   もうアタシ、汚れちゃった…

 「こんなセリフ聞いたことない?
  なに言ってるのよ、初めから汚れるもなにも
  キレイでいられるなんて思うなかれだ!
  けがれて初めてまっすぐになれるんだかんね!
  災いも汚れもすべて
  飲み込んで初めて女になるんだよ。
  大体さぁ〜キレイな状態が
  プレーンだなんて誰が言ったのよ。
  おこがましくて、おごってんじゃないわよ。
  頭が高いって〜の」

熱くなっているマコとは
対照的にたたみ掛けるルナ

  「究極のところオンナにしてみれば
   自分が忘れるのはいいけど
   忘れ去られるのが怖いわけ。
   それは誰にでも当てはまるんだけど
   特に女の場合は嫌われない様に
   行動するのが最大の防御なのよね」

かぶせるようにマイッチingマコ

 「環境に適応して丁寧に生きようとすれば
  それじゃ〜後先考えずにアクションできない。
  行動に移せないし
  隊列を乱しかねない行動は群れでは
  抹消される対象となるんだから。
  彼女は初めて矛盾は感じつつも
  自分で行動したワケよね。
  すごく勇気のいる事だし
  不安だったんだろうな。
  だからどんな行動をしたとしても
  私は彼女を応援したくなっちゃうな」

 「だって今まで健気に
  お利口さんに生きてきた訳よね。
  そう思うと理解はできるんだけど
  それにしても
  ずいぶんと時間がかかったわね。
  もう外国に来てしばらくなるのにね」

 「でもアタシこんなに話してるけど
  全然間違ってるかもしれないよ。
  勝手に感情移入してるから
  なんの確証もないからね」

 「1つ言えるのは万次郎は彼女に
  諸刃の思い出をあげちゃったって事よね。
  ナニをどう上手くしようとも
  結果はどうなるかは分かんないから
  彼女の心に万次郎が棲みついて
  彼女が触れずに生きてきた所に
  衝撃を与えちゃったんだから
  仕方ないよね」

 「あくまで当事者以外
  みんなの目に触れることの出来る状況は
  食い散らかした残骸しか残らないから
  実験結果と違って関係性の証明は
  どう足掻いたって推測の域からは出れない。
  真実なんて誰も分からないものよ。
  憶測をさも真実の様に語るから
  わからないことが怖いから
  知ったかぶりして
  わからないことを
  うやむやにしてるだけなのよ」

 「みんなの分かることなんて
  たった箱庭サイズくらいで
  その箱庭である事実と些細なことが
  分かるくらいで手いっぱい。
  常識なんてさらに上澄み部分だけよ。
  100%の意思でもって
  正直な気持ちでなんて
  始めから行動しちゃ〜いないんだから。
  みんな辻褄合わせが上手になっただけで
  嘘つきなのに自覚がないだけよ」

実際、わかることの方が異常なのよね。

 「まぁ〜言語学的に見るとね」

急に真顔のルナ
 「自分のことよりも
  大切なヒトを想う気持ちって
  ステキだなんて昔は思ったものだけど
  それってちょっとウソが混じってるのよね、
  理想っていうか、身を削ってだとか、
  何か不自然なのよ。
  初めの頃、万次郎の話を聞いていた時には
  しゃらくさい若気の別れ話だなんて
  思って聞いてたけど
  読んだ後では全く違うわね。
  彼女が第1歩を選んで次へと歩もうとしている
  選択した意思を感じるわね」

万次郎
  「で、彼女はボクに何を伝えようと
   してるんですか?もうさっぱりです?」

マコ
「ありがとう、ってことね。
 私、貴方のおかげでこんなにも変われたし
 今は以前よりも元気よってさ」

  「それだけ?」 「そっ、それだけよ」

  「別に自己完結してるならそれじゃ〜
   手紙よこさなくてもいいじゃないですか?」

「だから大切な貴方に
 ぜひ聞いて欲しかったのよ」

  「でも関係性は変わらずでしょ?」

「そう、友だちのつもりなのかどうか?でも
 そこまで本人も分かってないんじゃないかな?
 まだ当時の貴方に未練あるだろうし
 これまで散々、万次郎のペースに合わせて
 もらってたんだから
 付き合ってあげなさいよ〜。
 彼女の可愛らしいワガママにね」

ますます頭から煙が出てきそうになる
万次郎なのだった。
ただ煙が出るまでにいたらないのは
少しは理解できそうには
なってきているが納得まではいってない。

マコとルナは
何とも表現しようのない表情の万次郎を指さし
 「だっははははっ なっ何?その表情?」
2人は両サイドから肩を叩いて慰めている。
 「まぁ〜この文体なら期待しない方が
  むずかしいわねぇ」

男としての何ともカッコのつかない
信用を得ている万次郎。

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