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Laboの男84

 Labの男84

一際目を惹く奇怪なデザインの校舎
少しずつ増築を繰り返しているようで
ねじれて先が尖った様な形の建造物
その横に屋根付き廊下が連なり体育館へと
つながっている。
万次郎が先の尖った建物の中に消えて
しばらくして
校舎からゾロゾロと生徒たちが流れてゆく。
それほど騒がしくなくお利口さんに
皆が整列、小声で談笑する者もいるが
ごく少数、ざわついて落ち着きがない
学生ならではの溢れるエナジーはおさえめ
比較的優秀な方だろう。
マント風のコートを羽織った学生たちが
体育館に入館してゆく夕暮れ時。

職員室の引き戸に手をかけ横にスライド
会釈してしっかりと扉を閉める。
第一印象が肝心
万次郎は高校生時代を思い出し
学生感覚をフルに活躍。
ちょうど手続きを終えて
職員室から出たところで右耳が小刻みに震えた。
まだ慣れてないのか首をすくめて
「あんっ」と吐息がもれる万次郎。
右耳に差し込まれたガジェットを
人差し指で押さえながら
 「はいはい、こちら万次郎、どうぞ」

「調子はどう?順調?」

 「抜かりなくっスムースです、どうぞ」

「基本的には
 こっちからの声は聴き流してくれていい。
 なんだったら反応しない方がいい。
 それっぽく【どうぞっ】とか返答しなくても
 小声でもこっちは拾えてるから大丈夫」

「それじゃターゲット
 王立院【おうりついん】蓮次郎を
 探索、発見、それからカレ特有の思考
 波長パターンを掴むんだ」

ニンゲンってのは大体考えてる事の9割以上が
同じことを繰り返しハンスウしている。
それで大抵のニンゲン様は自分が
2〜3番目位に賢いなんて思ってる。
 あのヒトの事が頭から離れない……
なんて言ってるけど繰り返し考えてるだけなんだ。
非常に自分勝手でバカなのが人類だ。
だから如実に個性がでる。
一般人なら波長パターンが読みやすい。

「見逃したときに捕捉しやすくなるから
 あとあとの尾行に効いてくる。
 これからは会うヒトそれぞれの思考
 特有の波長パターンを掴む
 クセをつけるように」

「それと、明智Laboでは魔法界隈は
 ルナ先生しか実際の内情を知らない。
 万次郎の1st内偵調査も兼ねてるから
 レポート楽しみにしてるよ」

生徒が集まりつつある体育館へと
人の流れに吸い寄せられるように入館。
体育館はいたってシンプルな作り。
この学園が立ち上がる以前からある建物を
そのまま流用している使い回しだろう。
入口から正面に向かって開けるパノラマ
それなりに歴史を感じられる壇場
ベルベット調の赤のたれ幕
ほこりをかぶった歴代校長の肖像画
舞台上に立っているのは
年齢不詳のじいさん
いかにも教頭なり校長だろう。
壇上の机にゆったりと手を置き
朝礼ならぬ夕方からの夕礼が始まった。

見事な球体
なだらかに光沢を帯びたツルツルヘッド
シンプルなグレースーツな出立ち
蝶ネクタイを隠し胸元にまで伸びた
白ヒゲを触りつつ
壇上からまわりを見渡す老人X
蓄えたヒゲはマジカルポイントが高い。
それともただの変わり者なのか
果たしてどうだろう?

「えっへん、ゴホンごほん、えぁ〜っ
 ごきげんよう、皆さん」

生徒全員 「ごきげんよう」
皆一斉に会釈をしている。

「寒さがだんだんと身に染みる季節に
 代わろうとしていますな」

さて皆さん、恋はしとるかね?
自分を想い、そして他者を想う
いいきっかけとなる。
近頃だと
なんでこんなに話題となるのか
○○パフォーマンスなんて耳にする。
コスパ?タイパ?小難しい言葉じゃ。
コストパフォーマンスだとか
タイムパフォーマンスであってる?

 近くの職員の顔を見て確認。
 縦にうんうんと
 頭を振る横並びの教職員たち。
 目くばせをしてヒゲをひと撫で

ムダに賢くなって
あと先考えないで行動したり
シャカリキ空回りだとか
豪快に沈没よろしく!なんて
素直に恋愛をしたがらないそうじゃな。
若いのに失敗をしたくないらしい。
消費しきれないほどの娯楽にエンタメコンテンツ。
別に独りでも充分楽しく生きれる。
消費しきれないコンテンツに限られた時間。
選んだコトに間違いがないように
調べる癖がついちまったからじゃろうな。

「失敗はキラメキ要素満載じゃ。
 経験値になるじゃろうし
 いい思い出になるからなぁ〜」

勘違いから始まる恋もあるはずで
ボタンのかけ違いが
個性を生み出すんだから
間違いも可愛らしいとは思えないだろうか?
初めから失敗のこと考えてどうする?
楽しめる事も半減しちまう。

「確証がないと不安に思う症候群が
 蔓延してるって事じゃな。
 無意識に排除しようとする対象が
 漠然とした不安になってるから
 無駄に範囲を広く
 フォローしなけりゃいけない事に
 なっちゃう訳だ」

その昔は、なぁ〜んもなかった訳じゃから、
いらぬ事を考えなくても良かった。
転ばぬ先の杖なんて言葉は無縁じゃった。
いくら現代人が賢くなったって言っても
踊らされてるんじゃ〜意味がない。
想像の範囲は拡張できても
必要のないところまできめ細やかに
不安まで広げて増やす必要はない。
結果、安定を求めて排除しなくていい
不安をあちこち掘り荒らかすのに
忙しくなって
あっという間に日が暮れて
ナニもできなくなってしまう。
世知辛い世の中になったもんじゃて。
それで、いざフタを開けてみたら
何も起こってなかったりする。

それでいいって思えるほど
トコトン自身の渇きに向き合ってないから
袋小路に追い込まれる訳じゃ。
ナニかの代わりじゃ〜長くもたん。
誰かさんが唱えた創造豊かな確証よりも
自分を讃えてやった方がまだ見返りがある。
もっと自分を信用してやれ。
知識でなんとかしようと思うんじゃない。
他人を納得させる必要なんて
はじめから無かったんじゃからな。
頭でなんとかできるのも知れている。

「目の前にあることを
 ひとつ1つ手をつけて
 しっかり真剣にやりゃ〜
 勝手にみとめられるもんじゃからな。
 役に立つかどうかなんてどうでもいい。
 不安に駆られて結果をすぐに出そうとするな。
 なんでもいいから
 腰をすえてやってやれ」

創造の領域をもっと楽しいことに使ってやれ
現代風に言えばなんでいうんだっけか?
ギガバイト?であってる?

 チラリ
横並びの教職員は頭をブンブン縦に振っている。

「GB容量か?
 脳の領域をしょうもないことに使うな。
 まぁ〜細かいことを言えば
 想像に限界は、ないんじゃけどな」
手をあげ挨拶をペコリ
壇上を降りるヒゲじいさん。

万次郎は腕を組み
ターゲットを探すのも忘れて感心している。
【ふ〜ん、なるほどねぇ〜
 ハートが大事
 想いが全てを制す!ってことでしょ。
 アプローチは違えど
 戦慄の来栖さんと言ってることは同じで
 どの分野にでも当てはまるんだよな】

見る人が見れば明らかに
現役学生とは似て非なる違和感
学生服コスプレの万次郎。
めちゃめちゃいい事言ってんじゃんと
思いつつも周りのリアクションは薄め
あれっ?と不思議に思う。
反応薄くない?と周りを見渡したついでに
ターゲットを捕捉。

【うーん?熱い言葉だったんだけどなぁ〜
 みんな響いてないの?
 学生の頃は朝礼の話なんて
 ちっとも聞いちゃ〜いなかったけどさ。
 もしかして魔法界では周知の事実
 当たり前のことなのかね?】

説教じみた朝礼スピーチというより
とても現代的アプローチだった。
万次郎には響きまくりだったが
ワクワク期待していた不思議ばなし
ミステリアスな専門用語いり乱れる
未知の叡智は無かった。
もしかしてマジカル感が少なかったのは
それほど純真無垢な魔法使いでいるのにも
現代社会の侵攻が進んでいるのか?
と勝手に解釈。
鋭い推測は冴えているが少しズレている点がある。
若者にしてみれば
説教のつもりで話していないことが
自慢話や説教に聞こえてしまう事は
よくある現象で
それなりに経験値のある万次郎には
若者の枠組みからとっくに
はみ出してしまっていることには
気づいていない。

他の先生達の話はそっちのけで
思い出した様に魔法界の調査開始。
ついでにどんな学園なのか目安となる
学生たちをチェックする。
私服を着ている者
毎日の服装に便利な
以前通っていた学校の制服を着ている者
この学園から支給されている制服の者
学生服率は7〜8割。服装に関しては
なんだかんだいってマント風コートを
大半の者が着ている。
ルナ先生の話だと
このフード付きマントを着ているのは
魔女だってことらしい。
服飾専門学校の割には
モード系の出立ちの
攻めた学生さんは1割ほど。
少数派なのでなおのこと目立つぐらい。
万次郎は右耳のイヤモニ
IEMを指で押さえながらまわりをキョロキョロ。
そうこうしているうちに朝礼ならぬ夕礼が終了。
ゾロゾロと校舎へと生徒たちは流れる。

一方その頃
明智は近接した喫茶店で待機している。
琥珀色したコーヒーを口にふくみ
優雅に足を組んで外の景色を眺めている。
単純に万次郎の感情にゆらぎがあれば
何かがあったと思っていいだろう。
波長が溢れちゃう納得したい系男子の
万次郎は思考がだだ漏れだから分かりやすい。
波長を捉えられてさえいれば、もしくは
お互いにオープンマインドであれば
ある程度距離があっても異変に気づける。
テレパシーとまではいかないが
よほど距離が離れていない限り
2人には強い繋がりができている。
それでも覚醒して
まだ駆け出しの部類となる明智and万次郎。
なので近代科学の力を借りて
イヤモニを使わないと変化には気づけても
テレパシーで対話までは至っていない。
明智の耳には盗聴器でもあるイヤモニで
万次郎周辺の音も届いている。

上を見て指さし確認、万次郎
 「えっ〜っと1-B組ってたよね」

一応設定はあって
交換留学生でだと突然の編入も可能だとの事。
どの学園であれ魔法界は世界にオープンで
行き来はよくある事らしい。
それだけでも目立ってしまうと
内心ドキドキの万次郎。
ヒューマンdeモード学園では入学に
年齢制限はないものの高校卒業後
18歳辺りが大半を占める。
それでなくてもクラスでは年上となる万次郎。
なるべく浮かない様に細心の注意をはらって
あまり変なことはツッコまれないように
日系3世の日本人でいこうと思っている。
早速、先生に
クラスのみんなの前で挨拶を促される。

 「モヘンジョダロ校から来ました。
  はじぃ〜めまして、ジョン 万次郎と
  言いまぁ〜す。よろしくどうぞ」

モニタリング中のコーヒーカップ片手に
吹き出す明智 ぶっ
 「なんなんだ?モヘンジョダロ校って?
  もうちょっといいのあったろ、はははっ
  そういゃ〜ちょっと訛ってなかったか」

当の本人は
クラスには面白みのカケラもない
紹介をしたつもり。
そつない挨拶もそこそこに授業が始まる。

壇上に残った
万次郎の少し年上くらいの
マジカルでもなんでもない
一見ごく普通の先生。

「ジョンは、その席について。
 なかなか日本語も上手だね。
 文化も風習も向こうとは違うだろうから
 みんなも色々と教えてやってくれ。
 それじゃ〜講義始めるぞ」

みんなに背を向け黒板を使い講義を始めた。

 カッカッカッ カッカカカカッ

5世紀後半から6世紀初め カッカッ
ブリトン人の君主とされ カッ
アーサー王時代から伝承された話などの
書物や巻物や絵画はたくさんある。
そのほとんどが
民間伝承や創作によるものと扱われている。
アーサー王が実在したかについては
現代社会の枠内で
あ〜でもない、こ〜でもないと
歴史家が議論を飽きもせず続けている。
アーサー王子の史実性を証明する記述は
「カンブリア年代記」に代表される
書物が多数あり断片的に残されている。
したためられている書には
そのアーサー王朝に至るまで
 「世界は5回、絶滅している」
と書かれてある。

過去の生物についての学問
地質学の1つ古生物学では
地質にはしっかりと
大量絶滅の痕跡が刻まれているという。
種の絶滅は常に起きている。
ヒトの寿命、人類尺では
イメージし難いかも知れないが
地球の歴史が始まって以来
誕生した生物の99%が絶滅している。
生命の歴史とは
あぶくが現れては、はじけ飛んで
生まれては絶滅しての繰り返し。

振り返り教師は再び下に手を伸ばし
今時、珍しいチョークで黒板に足早に
 カッ カカカカカッ カッカッ

4億4300万年前 オルドビス紀
86%の海洋生物が地球上から姿を消した。
3億6000万年前 デボン紀
生物の75%が絶滅した。
2億5000万年前 ペルム紀
史上最大級、生物の96%が消えた。
2億100万年前 三畳紀
生物の80%が姿を消した。
6500万年前 白亜紀
恐竜やアンモナイトなど生命の76%が死滅。
1万年前 氷河期
メガファウナ巨大動物の絶滅など。
大量絶滅の原因については
火山の噴火や隕石の衝突
気候変動などの天災と考察されている。
恐竜が消えた大量絶滅の原因として
最も可能性が高いのは巨大隕石の衝突
が有力とされている。

というのが
常識に縛られた現代人的発想の限界だ。
動物が絶滅していると謳っているが
地質には刻まれていない
人類らしき文明を持った者達も
5回絶滅している。
いちからを繰り返しては絶滅し
人類らしき者たちは
生命の長として生き物達の牽引に
もうすでに5回も失敗していて
現在6回目に突入している。
それでも
今までに比べると順調な方らしい。

歴史の話はこれくらいにして
太古の人々は言葉じゃない
コミュニケーション方法を持っていた。
それこそ個人という概念が
現代ほどなかった頃
文明人とされる現代人には
想像もつかないほど
何も持たない。所有しない。
手に入れようとしない。
世にあるすべてが誰のモノでもない
自然と共に暮らしていた。
利他を体現したような文化を継承し
ひっそりと暮らしているのが魔法界である。
最近流行りの異世界に転生しなくても
我々と同次元枠で存在している。

言葉を介さないコミュニケーション原理は
テレパシーが我々のイメージに近いだろうか。
魔法界では【龍脈】を利用して会話をする。
【龍脈】とは
自然の生気の流れのことを指す。
風水の気の概念
これはアジア派生した言い回しで
魔法と根本は変わらない。
古くは山脈から自然の生気の流れ
山を龍に例えて龍脈と呼んだ。
連なる山々が竜の背中になぞられたり
昔から龍と河川が繋がり深いのも
自然に流れができる川は龍脈でもあるからだ。
そういったものが気を運び
その気が溜まる場所を龍穴と呼ぶ。
鍼灸師がハリを用いて経絡【気の流れ】を活性化
健康促進で活躍させることのできる
ツボと同じだ。
自然界の縮尺を変えれば
人体ででも同じことがいえる。
龍脈が走る場所はそもそもパワーのある場所で
自然に人が集まり栄える。
いわゆる高級住宅地には
龍脈が走っているとみて間違いない。

基本的にテレパシーの概念は
言葉抜きのコミュニケーション。
その人となりがむき出しとなる。
邪【ヨコシマ】なことを考えていれば
もちろん、それごと伝わってまう。
この文化が盛んな魔法界では
善良な人々で溢れているから
可能な文化でもある。
わざわざ対社会用の発言を用意しなくても
後ろめたくない人たちには必要がない。
龍脈や龍穴 自然の恵みを使って対話。
【パワースポット】をフリーWi-Fi的
オープンチャット形式で対話が可能なのも
なぜなら魔法界には疑いがないから。
もちろん、学園には龍脈がバンバン流れている。
学園にはいるだけでみんな元気にならない?

万次郎は思い出した。
ルナ先生が疲れ果て嫌気がさしたところだ。
万次郎が想像するに
独りよがりな妄想できないのは
つらいなぁ〜と感じる。
よからぬ事を想像するのは楽しいが
実行するかは別の話で
魔法界はそんなことすら想像しない
善良無垢な人々が暮らしているんだと
思うだけで、ちょっと毒っけが
恋しくなるんじゃないかと
違う想像する。
そう考えると万次郎のマインドには
人でなし指数成分が含まれていて
そのろくでなし部分もあって欲しいと
願っているのに気がつく。
ルナ先生の気持ちが少し理解できた気がした。

「それじゃ〜みんなで実技練習だ」

向かい合わせに机をくっつけて
お互いに、瞳を閉じ言葉ではない
コミュニケーションをとる授業。

「視覚的情報が邪魔ならマントを着て
 フードを被ってもいいぞ。
 魔法使いがフードを被るのも
 【コンセントレイト】高度な集中
 魔法を詠唱するのにフォーカスを絞るのに
 集中しやすくするためだからな。
 あんまり他を茶化したりするんじゃないぞ。
 大事なのは集中だ」

机をくっ付けて向かい合わせになる動作の途中
顔を見て目をぱちくり、
 「あれっ?前に会ったことない?
  見覚えのあるんだけどなぁ?
  気のせいかなぁ。まぁいいか。
  私、ボヘミアン 凛子っ」

すぐさま握手を求めてきた。とても積極的だ。

「この学園に来たのは今日が初めてだけど」

なんとか取りつくろう万次郎
【ボヘミアンってなんだよ!
 吹き出しちまいそうなキーワードに
 笑いを隠すのにドギマギしちゃったよ。
 なんだその名前?まったく参ったな。
 ボヘミアン 凛子がイケるんなら
 ジョン 万次郎でも
 違和感なくいけそうだな】

気を取り直してる間にも次の会話

 「モヘンジョダロ校からの交換留学生なら
  あっちはブードゥー系なのかな?
  大いなる精霊系でしょ?
  グレイトスピリッツだとかの?
  精霊カワイイから好きなのよ」

【待てっ!全くの知識ゼロだ、えぇ〜っと】

「サンドマンだとかゴーレム使ったり
 死体を操ったりとかだねぇ」

【あっぶねぇ、持てるファンタジー知識
 総動員してこれくらいだ。どうだ?通るか?】

 「思ってた通りね。物質を操るのが得意な
  秘術系なんだね。またアタシにも教えてよ」

遅れて手を出す万次郎
しっかりとボヘミアン 凛子の手を握り返し
「ジョン、ぼくは ジョン 万次郎だ。
 よろしく 凛子ちゃん」

 「やけにオリエンタルな名前ね。
  1回で覚えちゃういい名前ね、よろしく。
  ところでなんて呼んだら良いかしら?
  ジョン?マンジー?どっちがいい?」

「う〜ん、どっちかっていうと
 万次郎が、いいかなぁ」

 「そっか、マンジーなんて良いと思うんだけど
  どうもそっちは恥ずかしいみたいね」

「うぉぅ!ぼくの思考読んだの?」

 「なに言ってるのよ?あからさまに
  恥ずかしそうな表情したからよ」

「ははははっそんなに表情出てた?」


一方、隣接するさえない喫茶店
明智「んっ?」 なにか感じたのか
窓の景色から振り向きざまに目線が入り口に。
 カラン コロン カラ〜ン

「だからこそさぁ
 ヤバダバーーァドゥーーーッ!
 オーキドォーキィ
 ってな具合で
 心地良いリズムを採り入れる。
 動物としてのリズムにたち戻り刻む
 ビートを自身の中に採り入れる。
 そういうことなんだよ。みんな分かる?」

聞き覚えのある声?どうやら
朝礼ならぬ夕礼の挨拶をしていた張本人。
貫禄をたくわえたあの長いヒゲは
マジカル学校の者に違いない。
ロングひげ爺さん以外は比較的一般的な
紳士と淑女の3人連れ。

明智が推測するに夕礼の挨拶は
だいぶ抑え目に話をしていたみたいだ。
話してる内容は比較的理解できるし
覚醒者ならではの心意気を話しているのと
大差はないが、いかんせん
じいさんの話とは思えない
ファンキーbeatなフレーズだ。
面白くなって明智は万次郎を他所に
彼らの会話を聴き入っている。

着席した3人、明智の丁度斜め背後にあたる。
紳士帽子を脱いでツルピカ頭をひと撫で
ファンキーひげ爺は矢継ぎ早やに話し出す。

「人畜無害な爺さんを演じるのは疲れるのよ。
 一般的な話をするのは毎週疲れる。
 話すネタがジリ貧になってくでしょ?
 ラジオパーソナリティとか帯番組のひとって
 コレを毎日する訳でしょ?すごいネェ!
 無理やりエピソードとか創りに行かないと
 話が枯渇していく一方よね。
 敬意を表するよね?
 リスペクトって言うの?マジリスよぉ」

明智【素の話が面白いじゃない。
   そのままで話した方が若者ウケ
   間違いないんだけどな。
   そこは立場だとかがあるのかね?】

そこからは、まじめな話にシフトする。

文化とはヒトが育んで自然と根づいたもの。
ヒトと人の交流、やりとりから始まり
異文化からの国単位のやりとり。
貿易の流れで言えば
土地ごとの特産品がありその資材を増やし
公益で売り飛ばし資金を得る。
独自の発展を遂げたその土地特有のモノは
他文化圏には重宝され
その得た資金で必要備品を
新たに買い揃え次へと繋げる。
田畑を開墾し耕してゆくだけではなく
ところ変われば品変わり同じモノが
貴重なモノとなったりもする。
自然の産物から奪ってきて
売ってもいいわけだ。
野生動物を狩り尽くしても
鉱石を採掘しまくっても
森林を伐採しまくっても
問題は無かった。
コミュニティが大きいかそうでないかの違いで
ひと昔前までは
後は野となれ山となれと大雑把なもので
訳がわかっていなければ大味でどんぶり勘定
おおらかでも許された。
そもそも国という枠組みも
ヒトが勝手にもうけたモノだ。
ヒトのやりとりの根本は
昔からさほど変わっちゃいない。
棲家を増やし人口を増やして国力を上げる。
ヒトを増やしてから開墾するだとか
田畑の充実は国力だとかあるけれど
土地には連作障害ってのがある。
同じ土地では同じ農作物を作ってはゆけない。
なぜにコメがすばらしいと言われるのかは
連作障害がない。
麦だとか水田じゃない穀物は
毎年同じ作物を作り続けると
連作すれば土はみるみる痩せてしまう。
だから違う作物も植える。
同じように作ったとしても他作物では
次の年には収穫が普通に半減したりする。
なので二毛作だとかで凌がねばならない。
その文化圏の主食となる作物は
収穫しやすいからかと勘違いしがちだが
ムギとコメの収穫量は段違い。
比較的コメは安定して収穫が見込める。
必要な土地の面積で考えると
いかに日本の国土量で
米が国力となったのかが
コメの収穫量だったのかと頷ける。
広大なイメージのヨーロッパ大陸だが
対面積あたりの収穫量は、それほどではない。
それにコメが根づく土地が
ヨーロッパに無いのは水質が違うからだ。
だから肉食であり、わかりやすく奪い合う
殺し合わないと生きてはゆけない。
本当のバイキングstyleとなる。
だからそういう文化形態となる。
土地が育むヒトと文化
今はむかしのヨーロッパ感覚では
人口が増えるとちょっと隣攻めに行こうか
ってな具合になる文化。
聞こえは野蛮ぽく思えるが
食が安定しなければ力ずくで
ってのが共通言語となるのだろう。
とはいえ
農耕主力の優秀な温和な群れであったとしても
その内部で優劣が発生するもので
間引かれたり賢い者にかすめ取られたり
殺されたりもする。
分かりやすいかそうでないかの違いで
似たり寄ったりだろう。
日本が不思議にヘンなのは
米のおかげじゃない?

明智は聞き耳を立てたまま思う。
【やっぱり先生なんだな。言ってることは
 至ってまともなんだけど興味深いな。
 尾を引く面白さだ】 コーヒーをひと口。
そうこうしているうちに話は
文化から日本へと流れてく。

ジャパンは独特である。
独自の文化形態の発展が他国とは
少々異なる。
しかしながら良いとされる文化が広まり
世界規模で一般化
ある程度広まってしまうと衰退が始まり
その頃には均一化が進む。
木が成熟して実り枯れてゆく様に
ムーブメントにも限界がくる。
独自の文化が発展、衰退し
独自の美徳感覚も薄まり
価値観も変貌してゆく。
ジャパンの観光化が進めば
なおのこと拍車がかかるだろう。
大多数に支持を受ける
スタンダードとは流動的で水モノだ。
データは絶えず更新され情報すら流れてゆく。
そして変化はゆるくうっすらと進行する為
掴むことも認識することも難しい。
一躍注目を受け文化の認識が広がってゆけば
エキゾチックジャパンは薄れてゆく。
それは
ミステリアスな男 ジェームスボンドや
難攻不落な女 峰不二子は
存在しないのと同じく
ミステリアスな全貌が明らかに
なってゆくしかナイからだ。
いくら深く美しきマジカルexoticアジア
であっても時代の流れには逆らえない。
どんどん小さくなってゆく世界。
グローバル化とは人 モノ 金 情報が
国や地域を超えて世界規模で結びつき
世界の一体化が進むことを表す。
スマートフォンがそれに拍車をかけ
独自の文化が変化してゆき単一化
どの国へ行っても美しさやモラルや価値観
良し悪しはべつにして
それら定義の同一化が進む。
グローバリゼーション グローバライゼーション
 【globalization】
社会的あるいは経済的な関連が
旧来の国家や地域などの境界を越えて
地球規模に拡大し
さまざまな変化を引き起こす現象を指す。
グローバル化 世界の一体化 地球規模化
地球一体化とも言う。
否が応にも集約され、
どの国も似たり寄ったりに
なっていくだろうってこと。
正しい 間違いだとか
合理的かそうでないだとか
他を批判するような事がなければ
独自の文化も容認されたりするんだろうが
中々そうはいかないだろう。
個別が集まって大衆。
大前提に
個々の腹の落とし所
腑に落ちるところまでとなると
おいそれとはいかない。
受け入れるには
受け手の器の大きさが許しに繋がるワケで
一足飛びにはいかないからだ。
しかしながら
影響を受けないヒトは存在しない。
多様化なんて簡単に口にせど
その割には間違いたくない失敗したくない
損をしたくないヒトが多いように思える。
個人の許容範囲の拡大がネックなのだから
おおらかな朗らかなニンゲンは
増えているとは思えない。
島国で同種族が多い
ヒトの振り見て我が振り直す
海に囲まれた島国、村意識が高い国民性
グローバリズムが逡巡【しゅんじゅん】
侵食されて原型がなくなってもおかしくない。
ものの300年ぽっちで日本には
ちょんまげを結えた人が居なくなったんだから。

結論をすぐに出そうとするのはお勧めしない。
調べればすぐに
それなりの答えが出る
便利な世の中にはなったかもしれないが
底の浅い情報ばかりに溺れてしまうのがオチだ。
腑に落ちるまでは間違いなく時間がかかるもので
自身の都合で待てない事に
気がついた方がいい。
古いやり方は放っておいても崩壊してゆき
また古い考えもまた壊れてゆく。
最先端であっても
今の考え方は考え方でいずれ朽ちてゆく。
それはそれは壮大スペクタクルな話。
考えが変わるだけでなく
行動すら変わってしまう。
変わってしまえば
変革は良い面に目がいく様になって
その時に感じられた感覚は忘れ去られる。
あらゆる物事が変わってゆく。

ヒゲを撫でなで
「それはそうと、大魔道士大会が近づいてるけど
 今大会は3校?4校?合同でしょ」

「え?5校合同なの!
 コレまた大変になりそうだなぁ」

「今年も尊師は来るの?
 ハマムラ 順九郎 御大は。
 あの人は来たらダメだってもくるだろっ?
 若手育成には熱心だからねえ。
 もう、大魔会【だいまかい】の季節なんだね」

目をつぶってヒゲを撫でなで
じいさんは体をひねって背後をむく。

「そこのスーツのダンディー
 そうそう、キミだよ。
 君はあれかね?マジシャンかい?
 それとも一般市民?」

ゲッ!ナンデ?な顔をなんとか取り繕い
仕方なしに背後に顔を向ける明智
少しハニカンでニヤリと苦笑い。
 「はっははっ
  通りすがりのただの一般市民です」

「キミぃ〜面白いね。ちょっと一緒に
 お茶でもしようじゃないか」

とてつもなくほりが深い表情に見えるヒゲ爺
仕方なく重い腰を上げ
明智は「参ったねぇ」と
ひと言テーブルに置き去りにして
革靴を1歩いっぽと踏みしめて
ファンキーひげ爺さんに近づくのだった。

いやいゃ
今回は楽できると思ってたのになぁ〜っ
こりゃ〜尋問されるなぁ。
おだやかでは済まなさそうだ、参ったねぇ。

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