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Laboの男55

 Labの男55

他の生命を捕食して命は成り立っている。
絶賛、霞目の身体と同居している
「貪欲なアギト」は
どうやら生肉が好物のようだ。
そういえば
食事を終えた後の霞目博士は一段と
若々しくなっている。
立ち姿に力がみなぎってるのがよく分かる。
人差し指を立てて
「ところで、松果体研究は進んでるのかい?」

 「博士に相談なんですが
  我がLaboの設備拡張のために
  先生の研究の欠片をちょっとだけ
  役立てていいかどうかと
  お伺いに来たんですよ」

おでこに手を当て霞目
「野口くん!そんな気を遣わなくていいよ、
 初めから困った時のために
 君に託したんだよ。アレはね。
 それに今度は君の研究成果を
 試そうと思ってるくらいだよ」

エメラルドグリーンに輝く目薬を目の前に
つまんで2人に見せる霞目。

  「そう簡単に触れてはいけない
   禁断の学問なんです。
   あれは博士の身体の一部と言ってもいい
   研究の歴史なんです」

 「はははっなんて事ない研究だよ、あんなの。
  好きにしてくれればいいよ野口くん
  もうすでに、この霞目 権三は実験体だ。
  オブジェクトとして見てくれていい。
  キミのプラスになるなら
  なにをしてくれてもかまわん。
  あとはどうなるかなんて研究者は
  やる前から考えるか!ってね」

   「………………………っ」

ぐっ、顔がしわくちゃになり
少し涙目になっている玄白に
驚きが隠せない「えっ!」2度見するマコ。
何を思ったのか急に
玄白の腕を抱きしめだすマコ。

  「先生の設備も研究がはかどるように
   増設できる様に手配しときますよ。
   霞目博士の研究ってだけで
   エビス薬品工業からの
   予算はビックリする位、簡単におります」

 「また一緒に研究できる日がくる事を
  楽しみにしているよ!野口く〜ん」

もうそんな日々は戻って来ないことを
分かっていてそんな口をきく博士の
優しさに涙がこぼれてしまう玄白。
なにも言わずさっきよりもギュッと
腕を強く抱きしめてしまっているマコ。

涙を少しぬぐって グスン
  「そうそう、博士はネット回線の使用は
   許可されてます?」

 「ネット見るくらいならいつでもできるよ。
  文章だとかデータのやり取りは
  検閲で引っかからなければ可能だよ。
  どこ宛にやり取りすればいいのかね?」

  「エビス薬品の明智Labo宛だったら
   いつでもOpenですよ。
   こっちの方も盗聴されてますけど」

 「お互い様だなっ野口くん」

あらためてマコちゃんの方に体を向き直す霞目

 「わざわざ牧村くんもありがとう。
  久しぶりの女性の色香に当てられて
  霞目の権三が
  目を覚ましそうになっちゃったよ」

  「博士も玄白と同じバカ学者でよかったわ。
   今度は女の子の日でない時にまた。
   聞きたいことがいっぱいありますから」



一方、明智ラボ

七三分のサイドを触りながら
 「上の階が模様替えされてるけど、なんなの?」

コッ コッ コッ
いつもの調子で颯爽と入ってくる明智。
 「んっ?」
目の前を首なしのスーツの男が横切っていく。
 「ちょいちょい!いまクビついてなかったよね?
  あれっ?なんでみんな冷静でいられるのよ?」
Headlessイワノフはウッディーが片づけてる
小物を運ぶのを手伝っている。
頭がないのは死んでいて動かないと
相場は決まっている。
髪を後ろで束ねた女性が
あたふたしている明智に声をかける。

  「あいかわらず遅い出勤ねダンディー。
   これからは明智Labo預かりになります。
   鳴海 ルナです。
   今後ともどうぞよろしくね」

 「うちのラボ預かりって
  あれっルナ先生、なんかしでかしたの?」

  「アタシの成り上がり人生計画は途絶えたわ。
   上層部からもう、お払い箱なの。
   可哀想でしょ。だから優しくしてね」

 「あらまぁ、それじゃ〜もう我々は
  監視対象じゃ〜無くなったのね」

  「あらっ、明智も勘づいてたのね。
   それなら話が早いわ」

 「この際だからルナちゃん言っておくけど
  もう隠し事は、もうナシだからね。
  もうとやかくは言わないからさ〜。
  でっ、状況はどんな感じなの?」

Headlessを指さして
 「もちろん、コノ首なしの事もね」

ふと横にいる万次郎に気がついた明智

 「おおぉ〜帰って来たかぁ!どうだったっ!
  修行キツかっただろ?ハンパなかったろ?」

  「明智さん聞いてくださいよ それが………

現状況から修行の日々からルナ先生の
属していた上層部の動向、来栖の猛烈しごき教室
ひと通り聞いた明智。

 「なるほどねぇ〜
  イワノフヘッドのおかげで
  クリスタル大明神とアクセスがシームレスで
  直接できる様になったのね。
  これからは限られた人物だけの権限にして
  最上階の8階に囲ったわけだ。
  いよいよ我がラボも腰を据えないと
  無くなっちゃうよね」

 「よりによって、変わり果てた姿になって
  イワノフに逢えるとは、参ったねぇ〜。
  カルマを感じちゃうよっまったく」

 「あれ?玄白は?今日は休み?」

  「あぁマコちゃんと出かけるって言ってたわ。
   たしか恩師に会いに行くって」

 「そっか。保管保全財団の方へ行ったのね」

  「なんですかその、
   ホカンなんとか財団って?」

  「恩師ってあのヤバい財団関係者なの!」

 「どっちかっていうと監禁されてる側だけどね。
  玄白の不死の師匠さぁ」

  「ん?聞き間違いかしら?不死って言った?」

  「なんなんスか!パンパイアとかですか?」

 「それは実験アクシデントからで………



朝から晩まで研究の日々
街ではこんなに人が行き交っているのかと
タクシーを下車、国道沿いの歩道を
2人は何気ない会話を交わしながら歩いている。
樹海を後にしてその辺の
閑古鳥が鳴く定食屋で昼ごはんを済ませ
街中をぶらついてる玄白とマコ。
 「ちょっと気分転換に服、見ていい?」

  「今日は時間があるからど〜ぞ」

 「それじゃ〜さ
  せっかくだから似合ってるかどうか
  チェックしてよ」

  「っても、ボクがなに言ったって
   欲しい服買うんでしょ?」

 「野暮よねぇ〜。女目線の服は
  オトコ受けが悪いのよ。
  だから参考にはなるんだから
  しばらくは付き合ってもらうからね」

2時間後
荷物を持たされてる玄白に
「そろそろお茶にしない?ちょっと休憩しようよ」
  カラン コロン カラーン
喫茶店でコーヒーを飲む2人

 「霞目博士は
  仕事に関してズバ抜けてデキる人なんだけど
  他には無頓着なんだ」

  「学者っては大体そんなものじゃないの?」

 「博士は昔から研究のために自分のことも
  そっちのけにする。
  本人も無意識だからタチが悪いんだ。
  だから【貪欲な口】が生まれたんだ」

 「今でこそ、ボクが散々言ってきた瞑想も
  するようにはなったけど
  置いてけぼりにされた博士の感情は
  行きどころを失って蓄積してく。
  細胞の暴走【貪欲な口】は
  もう1人の霞目 権三なんだ。
  それだけ自身と向き合ってこなかった
  からなんだよ」

  「誰にでもその可能性はあるって事ね」
口を尖らせて身震いするマコ
  「で、博士に何かお伺いを立ててたけど
   どぉするつもりなの?」

ポケットから取り出した
円筒のカプセルを机の上に置く。

ちょうどフイルムケースサイズ。

 「これを売りさばこうかと思ってるんだけどね」

  「なんなのこれ?」

 「博士の不老不死の細胞さ」
カプセルを指でツンツン

  「ナニ持って来ちゃってるのよ!バカなの!」

 「界隈では有名だった博士の研究
  知る人ぞ知るお金になる木。
  関係者なら喉から手が出るほどのシロモノさ。
  いい値段で買ってもらえるはずなんだよ。
  情報屋の金さんにでもお願いしようかなって
  思ってるんだけど」

  「なんでわざわざ私の前に出すのよ〜!
   怖すぎるのよ。勝手にフタが開いたりしたら
   どぉするのよぉ〜!もぉ〜モジャ公!」

空手チョップを手でかわす玄白

 「プラスチックに覆われると静かになるんだよ。
  なんでだろうね?生命体じゃない
  人工物だからかねぇ?」

  「全然そっちの方面は研究してなかったよね」

 「あんまり気が進まなくてね
  以前からいくつかはもう、もらってるんだ
  博士の欠片はね。
  ほとんど霞目博士の研究で
  大体のところは完成してるんだよ。
  不老不死の研究は,いいところまで来てる。
  もう目と鼻の先、位までね。
  ちょっと取り扱いに問題あるんだけどね」

  「寿命の話ならお金になりそうよね」

 「キマイラ細胞のオリジナルを持ってるのは
  さすがにボクだけだろうね。
  だって、関係者全員
  霞目博士が食べちゃったからね。
  以降は監禁されてるから。
  で、博士はその細胞のアポトーシスを
  研究してるんだけど
  細胞自体の死
  もしくは機能停止を画策してる」

  「なんで今更そんなに熱心になってるわけ?
   だって博士との交流も
   5年は続いてたわけよねぇ。
   そんなそぶりも無かったじゃない?」

 「博士は研究をボクに引き継いで欲しい
  みたいなんだけど、
  不死にはあんまり興味なくてね。
  儲かるのはもちろんこっちの方だってのは
  分かってるんだけどね。霞目博士の場合は
  研究が結果不死にシフトしていかざるを得ない
  状況になっちゃったからね」

 「ボクの感覚的には不老の方は特に
  必要がないと思ってるんだ。
  近いところだと
  歯が白いだとか美しいだとかは実際は
  どうでもいいことでしょ?
  生きていく上では役に立つかもしれないけど
  けっして、生命としての本質ではないからね」

 「それだったらマコちゃんが思う
  幸せになってやる感の方が遥かに
  本質的だよね」

  「え〜っ、私だって美しくなりたいわ〜」

 「もう十分美しいじゃないのさ」

  「うふっ、まぁそれはそうだけどさぁ〜」

 「その割には、美しさに翻弄される男なんて
  興味ないでしょ!ボインなんぞで
  あたふた、ブレる男なんてさ〜」

  「それはそうよね。
   もっと私の中身を見てほしいわね」

 「またその中味ってのがくせ者で
  心を見てくれたかどうだかは
  確認のしようが無い、感想なだけ
  あくまでも、自己完結の域を出ないんだなぁ。
  関係性の良好さには関与しないんだよ
  美しさなんてさ。
  あやふやな定義の事を
  話しだすと長くなるから置いといて
  実は誰かのためじゃなくて
  自覚ある無いに関わらず
  それはただのエゴなんだよね」

 「一人称視点の一方方向の『だろうな』
  仮説で信憑性がないモノ。
  ハナから要らないモノなんだよ。
  不老もそうだし、不死だってそう、
  不死身だったら何かをするにも
  達成する可能性が上がるなんて
  勝手に思っているだけなんだよ〜。
  ファンタジーなんだよ、ただの幻想」

 「それと
  幸せになれるかは関係ないんだよそんなの。
  って思ってたから
  興味が全く持てなかったんだ」

  「じゃ〜キッカケは、なんなのよ?」

 「う〜ん、自分でも分かんないんだけど
  万次郎の登場は確実に関係してるかな。
  間違いなく彼が来てからだよ
  動き出したのは」

 「本格的に博士の研究の方面もしつつ
  ボクの覚醒方面の研究にはバジェットは
  降りないだろうからなぁ。
  結果がすぐに出ないからさ」

 「クリスタルマンはウッディーいるから
  研究は続けれるでしょ、
  不死の件にも軽く被るんだけど
  Headlessイワノフの存在の研究も
  繋がってくるでしょ?
  ほらやっぱりお金がいるじゃな〜い」

  「珍しいわね、
   鼻息あらく興奮してるじゃない。
   玄白の言う通り
   確かに面白くなって来たわね」

笑いながら話すいつもの玄白に
ホッとするマコちゃんだった。

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