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Laboの男86
Labの男86
女性が愛おしいヒトを理解しようとするのと
Systemなどの法則を理解しようとするのは
全く原理が違う。
大切なヒトとの距離を縮めるために
相手を研究するのが女性。
だから対象者は1人で
その対象から外れると
途端に興味が無くなる。
それが衝動的に行われるのが恋愛。
男性目線であれば
コトワリを理解するには純粋な興味からもあるが
他との違いを見せつけ特別な存在であると
認められたい願望などが
動機であったりする。
役立つ情報を駆使すれば有利にコトを運べる
となる。モテる努力がコレに相当する。
そうじゃない、理解は研究に属する。
多方面に網の目を張り巡らし
興味のままに掘り進める行為は
何かの役に立たなくてもいい行為となる。
自分に落とし込む
興味の対象を掘ってしまうクセ
と言ったほうがいいかもしれない。
自分と同じ様に皆が考えるとは限らない。
その間違いがボタンのかけ違いが
オモシロみを生み出す事もあったり
誤解がヒトに発見を与えたりもする。
ヒトとの違いの溝を浮き彫りとする事は
納得の近道でもある。
万次郎は何に対しても誰に対しても
同じく、扱いは変わらない。
なので誤解も生みだすだろうし
何を考えているか分からない風にも見える。
わかりやすく特別、
スペシャルあつかいはしない。
世の中を敵味方で生きている
ヒトにしてみれば判断をつけにくいが
基準を押さえ理解されれば
無害であることが信用に繋がる。
自覚しているのが
前もって全てを合理的に
事を運ぼうとしているタイミングは
決まって調子が悪い時だ。
周りを見る余裕が無い場合が多い。
自身ではいい目安になっていると思っている。
もちろん現在
絶賛余裕が無い状態がつづいている。
しかしながら
【ボヘミこと凛子ちゃんがいい子で良かった】
と心底思う万次郎だった。
「え?また何か言った?」
「凛子ちゃんがカワイコちゃんで良かった」
「もぉ〜何なのよそれぇ〜」
優雅にコーヒーを楽しんで
今回ばかりは
万次郎の監督役だとタカを括ってたのだが
エージェント明智 小五郎は
現在、思わぬ横槍に苦戦中。
喫茶店の座席には大の大人が4人座っている。
先ほど朝礼ならぬ夕礼の挨拶を終えたばかり
教職員の席にお邪魔している明智。
学校の偉いさんであろう
長いヒゲを蓄えた老紳士。
声をかけたのは彼だ。
明智をお茶に誘ったのには訳がある。
魔法使いは距離が近づくと
相手の考えが読みやすくなる。
明智はそれを想定して
感情の波風を立てないよう心がけている。
お上品に尋問は続いている。
ヒゲのファンキー爺
「キミは探偵なの?一体ぜんたいナニ者?」
製薬会社のエージェントは魔法界隈では
印象がどうか?は分からない。
わざわざややこしくする必要はないから
探偵のテイで行こうか。
魔法学校には何の負い目もない。
不審がられるのならいっそのこと
話してやろうと明智は
「とある調査対象がいましてね」
明智は素直に王立院 蓮治郎の名前をだす。
「あぁ、我が校に多大な献金をしてくれている
王立院家のご子息ね。
ねじ曲がる前に学園に来て欲しかった
卑屈な学生じゃな。
かれこれ3回は留年しとるの」
「彼の調査なんですよ」
「はぁ〜色々とあるんじゃな。問題は
彼というよりは家庭環境なんじゃろ?」
「そっちじゃ無いんです、
父親から盗みをはたらいたみたいでね」
「ほぉ、それで素行調査かね?」
「まぁそんなところですな」
ヒゲじじの横に座る明智の
向かい側に学校関係者男女2人がしっかりと
明智の顔色をうかがっているのが分かる。
「そんな顔で睨むな、まだ怪しいヤツか
分からんじゃろ?」
職員であろう2人は取り繕うように
コーヒーを飲んだ。
ヒゲを撫でなで
「さっきの話聞いてた?」 「えっ、ええ」
「大魔導師大会が控えてるから
若干ピリピリしとるんじゃよ。
大魔会【だいまかい】には大御所がくるから
よからぬ輩も現れるかもしれん」
「何ですか?そのダイマカイ?って」
「4〜5校が集まって
合同の運動会みたいなのを
毎年開催してて
大魔導師のグランドマスター
ハマムラ順九郎師匠が来るんだ」
「あの漢方製薬の創業者ですか?
でもあの会社?
創業150周年って言ってませんでした?」
「そうよ、御歳オーバー150歳よ。
本人も100歳くらいからもう何歳か
分からんって言ってたからね。
推定200歳ぐらい?はいってるな」
「確か、大改革の日本
ちょんまげが取れた頃の人だから」
「それにしても、キミぃ驚かないね」
どうも万次郎が来てからはいつもの様に
スムースにコトが運ばない。
より以前よりも込み入った一般的な案件からは
かけ離れたディープな世界観に突入している事に
なってきたからだと身をもって体感している。
ファンキーじいのシワがより一層深くなり
どこまで知っているのか見定めようと
まっすぐと明智を見つめている。
さて、どうする明智。
静まり返った夕方、
オレンジが隅々までいき渡ろうとしている
公園に不審者が2人
行き場のない怒りが鎮火し
しでかしたことの重大さを噛み締め
その場を離れられずにいる
憤慨した男と
腹には包丁が刺さったままの
やけに色白の男。
憤怒がどこかへ行ってしまい
勢いのない男、
出刃庖丁がない状態では不憫で
弱々しく感じる。
対峙する2人から約200mはあろう
木の陰から観測する者がいる。
紺色のスーツに身を包むエージェント
ナナシは2人の動向を観察している。
黒ずくめの長身ロン毛
稗田 清十郎は語りだす。
「ハイflyingディスクと
ロウflyingディスクってのは
聞いたことないだろうな?」
ヒトは小宇宙を宿す彷徨う惑星
固有の引力を持つ。
引力は個体の思想の結果を引き寄せる。
センサーとなるのは感情
その波動のバイブレーションが
ことを引き寄せる。
「オマエが私を引き寄せた。
お前のハイflyingディスクが
ドライブさせた結果だ」
精神性を表す
ポジティブとネガティヴ
写真でいう白黒だ。
エネルギーそのものは同じだが方向性が違う。
「オマエを突き動かす
肉体をドライブさせているのが
ハイflyingディスクってのと
ロウflyingディスクだ。
周波数、波長のエンジンをそう呼んでいる。
ポジティブmindとネガティヴmindと
同じことだ」
とてもシンプルにヒトは望むものをとりこみ
恐怖を含めて望むものを引き寄せている
自作自演であるといっている。
始まりは17秒
同じことを考えているだけで引き寄せる
重力は発動してしまう。
個人の思想は強烈な磁石となり
68秒で思想は信念となり電磁力が
マグネティックフィールドを形成
同じ波長の現実を引き寄せる。
だから不幸という概念はなく
受け止め方であり
自身の考え方の反映結果だ。
「オマエは私を引き寄せた。
それは大した確率だ。
宝くじを当てるよりもむずかしいだろう」
「最近、流行りの無差別殺人。
オマエがその場限りで発散したところ
とどのつまり着地点は刑務所止まりだ。
大体っ怒りをぶつける方向が
ハナから見当違いだ」
「そこで提案だ。
私が申告しない限り事件は
発生してないこととなる。
はははっ、同じバクチ打つなら
ワクワクする方に賭けてみないか?
同じ一線を越えるんだったら
もっと大きく出てみないか?」
色白の肌に
やけに中が真っ黒な口が大きく開く。
「国家を転覆させてみるなんてどうだ?」
長い腕を横に振りかざし
「私はキミの怒りをぶつけるべき方向を
示すことができる。
キミに生きた心地のする環境を
提供することもできる」
稗田の腹にどっしりと刺さったままの
包丁の持ち手の部分がひとりでに動き出し
吐き捨てるように地面に落ちた。
カランカラ〜ン
稗田は穴の空いたシャツをめくり男に見せる
そこには刺さった痕跡もなく
ただ色白の肌があるだけ。
表情の概念を越えた引き上がった唇
哀しみとも喜びとも
通常ルートで到達できない
到底、笑顔とは呼べる代物では無い。
「今、目の前を楽しめないのは
何かを成し遂げてないからじゃないんだ。
型にハマるよう教え込まれた
デタラメに気付いてないだけなんだよ。
自分の中の異常事態に目を向けて
向き合っているか?
目の前に集中できてるのか?
だけなんだよ!」
「宇宙は全て可能なのだから」
棒立ちの稗田の言ってることが
理解できたかそうでないかは関係なく
憤慨していた男は受け入れたのか
いつのまにか
稗田の長い腕に抱き締められている。
ナナシ
「異常だな。飲み込まれちまった」
ことの一部始終を観察していたナナシ
危険人物は説得され
一見、丸め込まれたように思える。
それでもナナシは違和感を覚える。
憤慨していた男の匂いが変わっている事に。
怒りは独特の香りを醸し出す。
自身の存在を焼くような身を焦がす
油臭さ、焦燥感が無くなっているのを。
そうそう自身の匂いは
変わることはない。
一方
ジャコウの香り以外は何にもしない稗田。
ナナシは改めて
稗田 清十郎という男に恐ろしさを感じた。
カリスマというのは自分を駆立てる
自身に酔っている特有の匂いがある。
そもそも
ヒトを扇動するような輩にかぎって
意識をころがす、走らせる、後戻りさせない、
いい香りをさせ、フィルターを介さず
脳に直接働きかける鼻粘膜を刺激する。
勘違いさせる
まるで探し求めていた
居場所のような懐かしい香り。
影響を受けないはずがないほどの
魔力を匂いは携えている。
それが稗田 清十郎にはまったく無いのだ。
ナナシは困惑している。
こんなケースに遭遇したことがない。
何の成果も得れなかった1週間の尾行
やっと尻尾を掴めたと思えば
まだまだ得体が知れない、もどかしさも手伝って
今やジャコウの香りは
ナナシの心ざらつかせる象徴となっていた。
ついでに意外とおしゃべりなのも鼻につく。
珍しくガムを続けざまに噛みしめる。
感情をしまい込むように
焦らされてる感覚を押さえ込むように
「はぁ〜、なんなんだ」
珍しく声が出て漏れてしまっている。
【結局……
動きはあったものの収穫は無しに等しい。
なんだかなぁ〜まったく、計り知れない。
何かが起こる前に取り押さえればいいのに
未然に防ぎたいというよりは
まるでナニかが起こって欲しい
としか思えない泳がしっぷりだ。
それを観測したい上層部の意図を感じる】
任務としては報告できる
仕事を終わらせる叛逆因子を
みせてくれよ。
収穫は稗田 清十郎はヒトを操る
催眠術的な能力者なのは確認がとれた。
言葉に耳を貸した時点でOUTなのか?
言葉と瞳で睨みをきかしたきっかけなのか?
発動きっかけは分からないが
兎に角、言葉を耳に入れなければ
発動しなさそうだな。
引き続き監視にもどるナナシ。
包丁を手渡された男は家に帰れと送り出され
気おくれしたまま男はトボトボと消えていった。
何事もなかったかのように
稗田は独りベンチに座っている。
しばらくして慌ただしく
遅れて駆けつけた警官たちは
ベンチに座る稗田をよそに
キョロキョロ不審者を探している。
ナナシも怪しまれないよう気配を消す。
「なにしてるんだ?」
「うおぅ、ビックリした!」
振り返ると稗田とは違う存在感
警官とは違う堅苦しくない
たくましい背中の黒スーツ
黒髪を後ろにほり投げ不機嫌な唇は笑っている
「そんなに驚くなよ。なんだ尾行中なのか?」
「よかったぁ〜!焦りましたよ来栖さん
脅かさないでくださいよ。
1週間なんの動きもない尾行だったんで
肝が冷えましたよ」
安堵の表情のナナシに来栖は
「相変わらずお前はまともな顔してんな。
とてもエージェントとは思えない
恐ろしいほどアットホームな表情を
振り撒くんじゃないよ」
竹を割ったようなセリフに
ナナシは元気をもらった。
来栖が漂わす雰囲気
ナナシの鼻腔を刺激するあたたかい香り
彼女の生きた証「におい」
とんでもない境地にまで昇華したであろう
精神力、技術、経験値はヒトを遠ざけたり
するものだが彼女はヒトを惹き寄せる。
女性ならではの柔らかさ
独特のニンゲン臭さが香ばしい。
稗田が放つ
虚無のジャコウとは全く質が違う香り。
「かぁ〜、家庭ってのはそんなに
表情を腑抜けにするかねぇ?
そんなに良いものなのかね?」
「そりゃ〜そうですよ。家族のために
働いてるんですからね。
それがなけりゃ〜仕事しませんよ」
「アレだぜ、それって
仕事の奴隷になってるって
言ってるのと変わらないんだからな。
ポリシーだとかないのか?
男なんだからさぁ〜
オトコには自分の世界がある的な
気概を表情に宿してくれよ〜頼むから」
「そりゃ〜中には
もともと牙のないオトコもいるんですよ」
「そういうもんかねぇ?」
「そもそも
生命のデフォルトはオンナなんです。
後天的にホルモンの働きかけで
オスに変化するんですから
元をただせば
メスでもなんとかなるってことでしょ?
その場限り感あふれる男らしさなんて
異質の要らないものなんだから
そこの部分はあんまり同意できませんよ」
「だからオトコであることをあがなえ!
ってるんだよ。まったく
環境と調和するんじゃねぇ」
「あくまで、合わせてるんじゃなくて
擬態です!ギタイ!」
「オトコである存在を主張しろよ」
「その方が都合がいいだけです」
少しピンと来たナナシ
「それに来栖さんがオトコに
無意識のうちに憧れを
乗っけてるんじゃ〜ないんですかね?」
身をつまされる来栖
「おおおぅ、なかなか的を得てるんじゃないか。
組織に縛られてるこの身を解放したい
願望の現れかもしれんな」
「しかしだ、、キミは家族を拠り所にしていると
謳っている割には家族を
信頼していないだろう?ふっふっふふ。
不滅なモノも無いのも知っているし
ある意味ニンゲンの愚かさも知っている様だ。
キミが信用できない自分に
家族に業務代行させているだけだろっ?
それの方がエグくないか?
全くアットホームな表情させてるわりに
誰も信用しない匂いフェチめ!
キミの方が人でなしじゃないかぁ?」
「さすが来栖さんですね。
自分が1番信用ならないから
仕事だけはちゃんとしたいんですよ。
ちゃんと見抜いてるんですね?
適当に生きてるフリして」
上層部からのミッションに
不満を感じているのを察して
「ああ、そうか
まぁ〜適当に監視してたらいいよ。
何かハプニングがあったらの
報告要員なんだから。
本宮町の大型区画整理計画が
アイツでおじゃんになったからな。
しばらくは動きは無いと思う」
「おお、怒れるパープル流出暴動事件ですか?」
「他製薬会社の秘密計画は仕切り直しだ。
明智にも探ってもらってたんだけどな。
ところで、明智はオマエのことを
ナナシって呼んでるけど
それはコードネームなのか?」
「あれじゃないですか?
彼ボクの名前、知りませんから
そう呼んでるんじゃないかなぁ」
「ん?明智とは友だちなんじゃないのか?」
「まだ、飲みにも行ったこともないんですよ。
ボクは家庭があるから
カレなりに気を使ってくれてるのかも。
明智くんはジェントルマンですからね」
「そうか、明智が一方的に信用してる
って事だ。ナナシでいいか?
キミはヒトを信用しなさそうだからな」
「いやいゃ明智は信用してますよ、ボク。
カレは唯一の同僚ですからね。それに
この裏業界に入った
キッカケの男ですからね。
もちろん、来栖さんもそうです。
強いて言うなら戦友ですかねぇ」
「しばらくは面白くない、尾行に張り込みに
なるだろうが、まぁガマンしてくれ。
そろそろタバコが吸いてぇ。
ちょっとこの辺でいいトコないか?」
ベンチに座ったまま
稗田 清十郎には全く動きがなく
夕焼けを遠い目で眺めるだけだ。