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Laboの男85

 Labの男85

エビス薬品工業最下層
地下8階にエレベーターが到着。
中から危険な香りのする男が登場。
サイドか綺麗に刈り上がった
ゼロ10分けの黒髪
目に鮮やかなオリーブ色の
丈感がバッチシのアーミーコート
オーバーサイズのグレーパンツに
屈強なブーツ
栗木 銀時、現わる。
少し照れながら手を上げて挨拶

「おう、明智から聞いたんだけど
 玄白?なんか金のなる話があるって
 おう、マコちゃん!元気してるぅ?」

手をコチョこちよ「チャオ」マコ

「兄者曰く、相当なブツを売って欲しいって?
 おう、ルナ先生っ何してるの
 こんなところで?」

 「アタシも明智Laboメンバーになったのよ」

「エビス薬品の上層部所属だったのにぃ?
 こんな僻地に追いやられて
 なんか悪さでもしたの?」

 「上層部の方針よ。
  クリスタルマンを少数で
  囲うつもりみたいよ。
  散々研究してた玄白とマコの手を離れて
  今は最上階8階に隔離されてるのよ」

「もう用無し扱いはひどいね〜ルナ先生ぇ」

 「分かってくれるぅ。ホントに酷い会社よ。
  銀ちゃんところに雇ってもらおうかなぁ」

「いやいゃ
 きな臭いことも多いキワドイ仕事よ。
 仕事は回してあげてもいいけど」

 「やるやる!また紹介してよ」

「あいも変わらず正直というか
 内なる野望を感じるねぇ。
 そんなヒトは信用できるからね」

やはり女好きだこのヒトは、
ないがしろにされてる玄白は
この状況を眺めている。

何かに気がついたマコ
 「銀ちゃん?そういえば
  ここまでどうやって入って来たのよ?」

懐に手を入れて真っ黒なカードを取り出す
得意げな銀時
「ああ、このブラックカードで一発よ。
 このカードは
 一時的にシステムダウンさせるんだよ。
 時間にして1〜2秒
 システムを強制終了させるんだ。プラス
 そのシステムエラーそのものの記録も
 丸ごと強制消去する」

「ナニも無かったことにするんだよ」

 「すごいね銀ちゃん!
  痕跡さえも残さないのね。
  それ、ちょうだ〜い」

「軽いノリで言うねぇ、ダメだよ。
 自転車盗めるカギぐらいに思ってない?
 システムダウンさせるってことは
 そのわずか2秒の間に
 ねじ込む事ができたら
 テロとか簡単にできちゃうからね」

 「だから欲しいってるのよ。
  それじゃ〜反重力システムと
  交換ってのは?」

「思いもよらない角度だねぇ。
 反重力装置はカネになるよ。
 何でそんな事
 一塊の言語学者が知ってるのさ?」

 「ダイレクトに重力場を無効化するのでは
  無いんだけど、地球上では有効なシステム。
  もちろん企業秘密よ。
  それとも私とデートってのはどう?」

「う〜ん、反重力装置より
 そっちの方がいいなぁ〜」

 「じゃ〜カードちょうだいよ」

「ちょっと雑だなぁ〜
 帰りにもカードいるじゃんよ。
 今、手持ちはコレ1個しかないんだ。
 わかった。次の機会にならいいよ。
 中々の高度技術の結晶なのよコレ」

 「やったぁ〜」 
銀時の手を握って小躍りしている

  「マコ、やったじゃない!
   今度アタシにも貸してよね」

「ちょっとダメよ、ダメだめ。
 こういうガジェットは
 技術は流出が怖いのよ。
 1人だけにしてよ」

  「えぇ〜っ、けちんぼ〜。
   それじゃ〜アタシもデートするよ?」

「うれしいねぇ、ルナ先生。
 分かった!それじゃ〜
 あくまで2人だけで使うなら、
 それがギリギリのラインよ。
 2人だけだかんね!」

もう玄白の相談事は
ふっ飛んじゃってるほどの女好き。
玄白にしてみれば、
じゃじゃ馬と魔女のどこがいいのか
クレイジーホースを乗りこなすのは
一筋縄ではいかないのも一興、
銀時の趣味なのか?
世の中にはモノ好きもいたもんだ。

玄白
「ふたりとも交渉成立で良かったね。
 いやはやバイタリティーに溢れてて
 たくましいを通り越して
 恐るべし生命体だな、もう存在自体がね」

そう言ってテーブルにみんなの分の
コーヒーを置く。
手を叩いて玄白
「はい、みんなコーヒー入ったよ」

ルナ先生は奥から茶菓子を持ってきた。
 「銀ちゃん、クッキー食べる?」 

一同みんな席に座ったところで
玄白は、やっと本題を話し出した。

「くれぐれも他言してほしくないんだけど
 銀さんって霞目博士って知ってる?」

 「IPS細胞の礎を作った人のこと?」

「さすが銀さん知ってるんだね。
 それじゃ〜話が早いや。
 霞目博士はボクの師匠なんだけど
 博士から託されたモノを
 売りさばいて欲しいんだ」

 「託されたモノ?
  だって博士は失踪したって言われてたり
  何だったらどこぞの組織に消されただとか
  実験の失敗を苦に自殺しただの
  色んなウワサは聞くけど
  消息不明だって?」

「博士、今も生きてるよ。すこぶる元気」

 「ん?そもそも彼が世の話題となったのが
  かれこれ50年ほど前でしょ?
  単純計算で100歳はいってるはず?
  何で死んでないの?」

「それがエビデンスなのよ。
 博士、キマイラ細胞を完成させてるのよ」

 「あの!何にでも変われる細胞をか!
  俗にいう若返り細胞を!」

目の前のテーブルに
黒いフィルムケースを置く玄白

「そう、コレがキマイラ細胞なんだよ。」

 コン 銀時の目の前に差し出す。

 「うそだろっ?もしそれが本当なら
  とんでもない大金持ちになれるぞっ!」

マコ「もう!何でここに出しちゃうワケ
   コーヒーが不味くなっちゃくでしょ?」

マコだけは監禁された霞目博士を知っている。
生肉をむさぼり喰うキマイラ細胞の恐ろしさを

ルナ「とんでもない生命波動を感じるわ。
   サイズ感と合ってないわね。
   波長は巨大生物級だわ」

頭をモシャモシャして黒縁メガネを上げる玄白

「だって銀さんに
 本当かどうかを確かめるのに
 ゲンブツを見てもらわないとね」

 「たしかにな。しっかし
  話しには聞いたことあるが
  不老不死の細胞が存在するなんてよぉ」

「銀さんも
 この凄まじい生命力はホンモノだって
 わかるでしょ?」

 「さすがにこのサイズで
  この密度のスケールの
  生命波長は感じたことねぇな。
  かぁ〜実在したのかよ!
  おぅ、玄白よぉ〜コレはカネになるゼ」

「ただ問題があってね、霞目博士が生きてるのも
 実験の失敗があってこそで、
 このキマイラ細胞は独立した意思がある。
 今のところ制御は出来てないんだ。
 厳密にいえば
 霞目博士はコノ細胞に生かされてる」

「あと、このキマイラ細胞は貪欲でね、
 近づく生物を片っ端から喰い尽くす。
 それで今は15人喰っちゃってる。
 そのおかげで博士の容姿は30代にまで
 若返っているよ」

 「でも、どうやって隔離できてるんだよ?
  とんでもなく凶暴なんだろ?」

「そこは保管保全財団が厳重に取り締まってるね。
 あと、現在わかってる事で
 プラスチック素材で囲うとおとなしくなる。
 まだ、なんでなのかまでは判明してないけどね」

 「またヤバイ財団のお抱えなんだなぁ。
  あそこだったら機密が漏れないわな」

「でもこんなに安定してないオブジェクトって
 売れるの?まだ人類が扱えてない状態だけど?」

 「商売に忌まわしき惨劇なんて
  バックグラウンドは関係ねぇ。
  そのモノが良ければ客は
  いくらでもその条件をのむだろう。
  で、早速なんだけど取り分はどうする?」

「う〜んとねぇ、銀さんとキレイに山分け
 ってのはどう?キリがいいでしょ?」

眉間にしわを寄せ渋い顔をする銀時
 「少なく見積もっても、このあいだ
  ニュースでやってた癒着事件あったろ?
  オリンピックの談合事件の罰則金
  その倍以上は吹っかけれるゼ」

 「どこぞの独裁国家が二つ返事で
  買ってくれるぜ。
  権力者はナゾに不老不死を欲しがるの
  なんなのかね?」

「それくらい危険な橋
 渡ってもらうんだから、いいんじゃない」

 「そうとうな金額になるはずだ。
  まぁ〜それも
  おいおい話を詰めたらいいとして、
  マコちゃんにルナ先生
  デートの約束は必ずよ!」

マコ「お安いご用よ」
ルナ「どこ飲みに連れてってくれるのよ?」
玄白「まぁ〜たくましい御三方だこと」

数億単位の話をしてもこの4人にしてみれば
なんて事ないのであった。
話がなんとなくまとまったところで
木人ウッディーと首なしイワノフ
小木人マックとガイバーが
日向ぼっこから帰ってきた。
頭のサイドを撫でながら振り返って
二度見する銀時
「えっ?ウッディー増えてんじゃん!
 子どもできたの?相変わらずイワノフは
 生きてんのなんでだ?」
世界の神秘に触れる銀時だが
全く動じないのであった。


われ先にと子ども達が
無邪気に走り回るのどかな公園風景
ハトが群れをなして何かをついばんでいる。
全身黒ずくめの男がベンチに独り座っている。
やけに透けるような白い肌に長髪
黒スーツに黒のワイシャツに黒ネクタイ
ドラマで登場したら死神役だろうと
思うくらいの黒。
尾行を初めて1週間
ここまで動きがないのは初めてだ。
ナナシは困惑している。
ここまで世捨て人の様に自由に生きている
ターゲットに出会った事がない。
この間まったく誰とも接触がないのだ。
公園のベンチに座って特に何にもしない
稗田 清十郎
まるで誰も彼の存在には気がついてないように
ヒトが行き交い、そのわりには
なぜか彼の隣には誰も座ろうともしない。
ここまで怪しいのだからパトロール中の
警官に職務質問でもされるだろうと
タカを括ってたのだが、何度も通り過ぎて
見向きもしないスルーだ。
こう手がかりがないと
稗田は存在するのかと疑問に思えてくる。

少し空気が変わったように思うナナシ。
何人かが小走りで稗田の前を
走り去ってくのが見える。
小さな子どもを抱えた母親や学生たち。
ナニかから逃げているようだ。
ナナシは走り去る逆方向に目を向ける。
キラリと光る出刃庖丁を片手に年齢は40代半ば
憤慨している男はふらふらと歩いている。
公園の人たちはクモの子を散らしたように
居なくなった。
依然、稗田には動きがない。
アゴに手を当てニヤリと観察を続ける
ナナシは無意識に笑っているのには
気がついていない。
「いよいよ、いかほどのものか
 彼を見定めることができる
 絶好のタイミングだ」
出刃庖丁片手に憤慨する男の歩みが止まった。
優雅にベンチで座っている黒ずくめの男を前に
立ち尽くしている。
口火を切ったのは稗田
不思議そうな表情
透けるように白い肌に
一本切れ目を入れたような
発色の悪い唇が開いた。
「キミは〜私のことが見えるのかね?
 そうかぁ、君ィ異常者なんだね」

 「なんだオメェ?」

「キミがまともなのかを求めてはいないよ。
 私の発言を理解できるのかを
 確かめてるんだよ。
 トチ狂った輩は一方方向で
 聴く耳を持たないバカが多いからね」

 「刺されたいのか?」

「まともな奴の行動は限られてる。
 枠内に収まるからだ。
 絶えずヒトの目を意識している。
 その点キミは素直だよ。
 まともな者はシステムを疑わないからね」

 「酔ってるのか?」

「異常なのは自分じゃないのかと
 疑いを自分に向けるのが関の山だよ。
 まったく、面白くもなんともない。
 その点キミの行動は評価に値する」

 「さっきから何が言いたいんだオマエ?」

「フフッ、そんなお前にしたのは誰のせい?
 さしずめ社会のせい?
 で煮詰まった顔してるのかね?」

 「バカにしてんのかお前?」

「私のことが見えるんだったら
 まずは、合格だよ。
 社会の逸脱者だったり
 独自の目線を持った者だったり
 でないと、
 私のことが見えないはずなんだよ。
 選ばれた者だって言っているのだよ」

 「おかしなこと言ってんじゃんよ。
  誰でもよかったんだよ、相手してくれるの、
  まずは包丁でブッ刺してやるよ。
  それでぇ〜おしゃべりも止まるだろ?」

「あとは、キミの勇気だけだね。
 逸脱する度胸の話だよ」

稗田は立ち上がり両手を広げ微笑む
「さぁ、どうぞ」
生気がない割にはギラギラした瞳
立ち上がると2m近くある身長
恐ろしく長い腕にキャシャな胴体に長い脚
見上げると同時に臆した憤慨おじさん。

稗田は十字架のように長い腕をさらに広げて
「さぁ、包丁をしっかり握って
 一線を超えてみなさい。
 それくらい他愛もないでしょ?」
憤慨する男を焚きつける。
 「野朗っ!だぁらぁ」
体ごとぶつかるように憤慨する男は
懐に包丁を固定して体当たり。
ものの見事に ゴス 木の持ち手が
腹に刺さっているのが
ナナシからでも目視できる。
刃渡りは30cmは、あっただろうか
しっかりと根元まで刺さっている。
稗田はニヤリ 「いぃ〜よ、そうこなくちゃ〜」

「もう私に歯向かう威勢のイイのは
 ここ何年もいなくなったからねぇ〜。
 さて、君は世界をひっくり返したく
 ないかね?」


机を2つくっつけて向かい合う
学生服の男女
積極的な女子校生
「ジョン 万次郎って本名なの?
それもとミドルネームのクリスチャン?」

 「本名だよ」 「ふ〜ん、そうなんだ」

「まっすぐな感じがするわ」

「ボヘミアンって変な名前でしょ?
 いい〜?この事は秘密よ」
そう言ってウインクをして口に人差し指

「本当はブラックウィドゥ家の
 末娘なんだけど
 名前の意味が嫌だったのよね」

「ブラックウィドゥってクモの種類で
 日本語名はクロゴケ蜘蛛のことを指すのよ。
 もうひとつの理由は
 世界的には
 こっちの意味合いの方が強いかな。
 黒い未亡人の異名を持つ
 女テロ組織の名前になっちゃうのよね。
 それが嫌だから
 ボヘミアンって名乗ってる」

「伝統的な価値観や
 社会的な規範にとらわれず
 自由で個性的な生き方をする
 人々のことをボヘミアンって言うの。
 そのような人々の持つ
 独特のファッションや芸術的センスも
 指したりもするわ」

「少し古い言葉なんだけどアタシ
 気に入っちゃって、
 友だちはみんなボヘミとかリンって
 呼んでるわ」

【これまた、屈託のない面白い子だ。
 お嬢さんならではの天然な所もあるな。
 魔法界隈は素直なヒトが
 ほんとに多いんだろうな】

学園にはしっかりとレイラインが通っている。
意図的に建造物が配置され
龍脈の効果を増幅させるよう建造されている。
個人の能力にバフをかけ
能力の効果を大幅に向上させる。
魔法の精度が上がるという事だ。
初心者に自信をつけさせる目的もある。

そうこうしているうちに
講師が声を発し両手を広げて
 「それじゃ始め!」 パン 手をたたいた
テレパシーの対面訓練が始まった。

こわばった万次郎の表情を見て
ボヘミアン 凛子が肩をポンポン触れ

「カタイわよ、リラ〜ックス!
 ほらほらっ、構えない」

万次郎の両手をなんの躊躇もなく
しっかりと握りしめ
「はい、吸ってぇ〜 はいっゆっくり吐いてぇ」

万次郎は大胆に握られた
ボヘミの手の温かみよりも
手を通して身体の中に潜入してくる
彼女の手の感覚に驚いている。
無条件に五感を刺激するタッチ
入ってくる手が落ち着くよう
万次郎を内側から操作されている感じ。
なんだったら心地いいくらいの感覚だ。
びっくりした表情から
ボヘミアン 凛子をまっすぐ見る万次郎

 「ちょいちょい、ありがたいんだけど
  勝手に中に入ってこないでよ。
  コレどういうことになってるの」

「万次郎は初心者だから手ほどきしているのよ」

テレパシーは中のヒト【霊体】同士が
手を触れあうことから始まるの。
霊体って言葉で伝わる?半透明のヤツよ。
一度霊体同士で触れ合うことができたら
あとはその個体の感覚を覚えてるのなら
以降は簡単に繋がることができるわ。

 「ああ、分かるよ。
  凛子のあったかさ
  中の感触であったり
  ちょっとエッチな感覚だ」

「いやだぁ〜っ
 なんでそんな言い方するのよ?
 初対面なんでしょ?全くぅ〜
 誰とでもこんなこと
 したりしないんだからねぇ!」

 「それは光栄だねぇ」

「信用できそうなヒトだけよ!
 マンジーは、考えがダダ漏れだから
 ヨコシマな事考えてないの丸わかりだもの
 安全DTボーイな感じだからねぇ」

 「ナニそのDTってさ?」

「童貞ボーイってことよ」

 「バカ言っちゃ〜いけない。
  僕はまっさらじゃ無いからね!」

「でもテレパシーに関してはDTなんだから
 さぁ、恥ずかしがらずに
 貴方の中身も曝け出してちょうだい」

まだ手を握ったままのボヘミを見て
照れてきた万次郎
分からないながらも懸命に中身の半透明を
出そうと奮闘する。

個人単位の瞑想をキープしつつ
龍脈というエネルギーの流れに乗って
相手にアプローチ
言語を使ってというよりは
目の前の相手に繋がるだけで
いいそうだ。
互いに繋がっている感覚を養う
従来の意思疎通ではないやりとりの
慣れが講義の目的である。
ポイントは感情的になればなるほど
繋がる規模は縮小、意識が外からの情報を
汲みとりにくくなる。
遮断するのではなくセカイと一体化
目の前の環境と
世界とオープンワイドに繋がる
意識の開花を目的としている。
ボヘミ曰く、素直になるだけだそうだ。
恐怖心は自身の意識をも萎縮させる。
コツは自分のことなのにまるで
他人事のように扱うのが
近道だそうだ。

「ダメよ。そんなところ触っちゃ。もう〜
 なにしてもOKってわけでもないんだからね」

訳も分からずトライしている万次郎
少しボヘミが自分に好意を抱いてる事が
感じとれた。
そのことをダメって言ってるんだな。
要領を少し掴みかけている。
急に万次郎の肉体が脱力した。

「もう、肉体を抜けたらダメじゃないの!
 やり過ぎよ」

そう言ってボヘミの半透明の手が万次郎を
肉体に押し込む。

 「加減が分からないんだ
  そのままどっかに逝っちゃいそうだよ」

「万次郎は気が散漫なのよ。アタシだけに
 フォーカスしてよね」

少し告白されたのかと思った万次郎

「ちょっとぉ〜
 そんなとこ触っちゃじゃ〜ダメだって
 言ってるのにもぉ〜」

とは言いつつまんざらではなさそうなボヘミ。
ちなみにこの会話は周りには聞こえてはいない。
どうやら、眼に見えない意識の層があるそうだ。
それぞれ個性あふれた層を形成していて
何層にも重なり玉ねぎのようになっている。
その中心には本人も知らない
意識のコアがあるそうだ。
人間界での
ヒトの気持ちに土足で踏み込んではいけない
みたいなモノだろうか?
その階層はヒトによってまちまち
少し慣れるとその層が分かるようになり
入り込み過ぎないようにするのが
作法らしいが万次郎はそれどころじゃない。
ボヘミの踏み込んじゃいけないところにまで
いっちゃう。
それでも親切に丁寧に教えてくれる
ボヘミの心情は、なんだか放っておけない
万次郎の母性本能のくすぐりに
やられているのかもしれない。

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