Laboの男77
Labの男77
チュンチュン チチチチ
静かに昇る朝日が雲をかき分け
陽光が街全体に降りそそぐ。
肌寒くなり日の出も遅くなってきている。
住宅街にポツンとあるナゾの鉄塔
この街のシンボルでありながら
なんの為にあるのかは分からない鉄塔
その横 3階建てハイツ
温かい光はベランダへと
壁面をじわじわと昇ってゆく。
舞い降りてきたスズメが2羽、尾っぽを上下に
小首をかしげチュンチュンとベランダから
ちょうどいい止まり木を見つけて
物干し竿に落ち着いて戯れている。
遠くから近づいてきたスズメの鳴き声が
寝床の万次郎の耳に入り瞳をひらく。
濃密な対話ヘクトパスカルの夜を終えて
意外と爽やかに目覚めた万次郎。
おだやかな話ではない内容よりも
自分の置かれた状況よりも
それでもワクワクが大きく上回る飲み会だった。
布団を折り畳んで端によせる。
当たり前のようにシャワーに入って
水しぶきと共に歯を磨き
出てくると身体を拭きながら
さらりと袖に手を通す白ワイシャツ。
新たなる経験は眼に見えない血肉となり
さらなるチャレンジを吸収還元し
新たな風となって手付かずの着想と
先入観を無視した表現の幅を拡張する。
とんでもない日々を過ごしているはずなのに
楽しいことが待っていると
朝、特有の機嫌の悪さもT字カミソリで
ヒゲと一緒に
根こそぎブッ飛んでいく。
鏡の前でネクタイを締めるのも慣れてきた。
ジャケットに手を通すと気が引き締まる。
くつ下を履きながらへ玄関
くつに足をほりこみ足をトントン
スーツ姿にスニーカーのアクティブStyle
鼻歌まじりに玄関を出ていく万次郎。
家からエビス薬品へは15分ほど
自然と玄白の話を回想してしまう。
酔いがまわってか
身振り手振りが大きくなっている玄白
万次郎には耳なれない
宇宙の話が特に印象的だった。
モフモフ頭がゆる〜くバウンドして上下する
気分上々ハイテンション
嬉しそうに話している玄白。
万次郎にまで伝わるバイブスは
こちらの気分まで盛り上げる勢いだ。
カウンターに片肘を立て頬に手をあて
含み笑いで玄白のLiveを眺める。
玄白は人差し指を立てて話を続ける
「LEGOみたいにツブが集まって
万物はできてるって言ってたよね?」
SpaceだとかGalaxyな話になるんだけど
スペースがあるって言うでしょ?
空きがあるだとか空間があるってことをさ。
素粒子の集まりってのは意外とスキマだらけ。
だから万次郎は信じられないだろうけど
壁へ向かって走っていってヒトが壁を通過するのも
可能なくらい隙間がある。理論上ね。
実際にとなると
とてつもない確率になるんだけど不可能ではない。
この話のポイントはスキマなんだけど。
そんな地球全てに関与している素粒子
【ツブ】が集まって塊になる。
塊が集まって一定の大きさまでに至ると
それには何かがつけ入れる隙間ができる。
そこに入り込める隙間があることで
モノによれば魂が宿る?憑依する?
魂なりエネルギーが定着する。
だからツブの集合体である
物体であっても何かが宿ってるんじゃないか?
もしくは、
ツブが一定量集まって初めて
ニンゲンが確認できるレベルの
生命体と感じとれるなんじゃないかと。
だから認識できないだけで
すでに素粒子の時点で
微弱ながらも宿ってると現段階では
玄白は思ってるんだよ。
物質によって素粒子の密度とは異なるんだけど
例えばヒトを大きな素粒子とすると
ヒト【ツブ】が沢山集まって
組織なり群衆となりそこには
別のモノが宿るんだと思うんだよね。
ヒトを駆り立てたり
ヒトに不安を与えたり
ヒトをなごませるような
何かしら行動させてしまうナニか。
組織だとある程度のルールが存在して
ある種、一丸となって動くものだから
ナニカが宿ってしまい人が
ヒトではなくなってしまう事も
あるとは思わないかい?
戦争なんかだと人殺しが肯定されたり
会社だったら成果のために他を蹴落としたり
組織という大きな振り子マシーンの一因となって
本来の自分ではない行動を可能とする。
組織のボスでさえコントロールの効かない
皆が大きな渦の中。
だから組織の一員になった時点で
翻弄されたり踊らされたり煽られたりと
大いなる外なる神の影響を受けてしまう。
「あれだよ
ボクはどちらかというと無神論者だから
とてつもないパワフルさを神って
言い回してるだけだからね」
「バッチシ分かりますよ!
従ってしまう感を
GODって言い回しなんでしょ?」
「おぅ話が早いね」
集団的無意識につき動かされると例えても
何かに憑依されると例えても
カタチとしては
大きなエネルギーに影響を受けている。
宇宙的視野で見てみると砂ツブほどのヒト。
ツブが集まって膨大なエネルギーを
乗せれるほど集まってしまうと
その隙間に何かが宿ってしまう。
個人ではコントロールの全く効かない
しまいには大きな生き物へと変貌する。
結局、箱庭の中のヒトが
何を提供できるのか?ってなる。
いざ組織が
巨大な生命体となってしまえば
その場にいるだけで
エネルギーを吸い取られ生け贄となる。
捧げているつもりはなくてもね。
枠組み内でオマエはナニができるのか?
問われるのはあくまでどこかに
所属したらの話なんだけどね。
「いやが応にもヒトは
どこかしらかに所属しているでしょ?
友だち 家族 ネット
交通ルールだったり資本主義
それぞれの独自のルールに
従ってる時点でそうでしょ?」
影響を受けない個体は存在しない。
「それは多次元に多面的に重なって。
中にはそれに疑問を抱いて
この違和感は何なのかを
確かめずにはいられないタイプいるでしょ?
万次郎だったりこの玄白もそうだろうし
明智Laboの面々は多方面に素直で
みんなそうじゃない?」
自分なりに納得しようとする。
あくまで我々は解釈者なのだ。
それらを踏まえてインナースペースの話
火だねの電気信号がインパルス
筋肉が収縮しアクション
動作となるんだけど
実のところ自分が何をしているのかは
動作途中で脳は理解する。
「何かをするぞ」って
意識発信で行動しているのではなく
動いてる自分に追いついて後から
【私は何かをした】と解釈している。ようは
辻褄を合わせる様に理由づけを後でしている。
先にすべてが動いていて
今までしてきた行動が
そうなるって事がしっかりと決まっていて
数珠つなぎにストーリーに仕立てて
それを自分がやったと後から解釈する。
元々脳は自分の判断力を超えて
自身の脳を欺くようにデザインされている。
その脳がだまされないように気をつけても
そりゃ〜ムダな話だよね。
だって脳が脳をってことだから
もうすでに騙されている発進なんだからね。
脳という小宇宙は
自身の記憶すら改ざんして
その痕跡さえ残さないくらいに高性能だ。
「どこまで行っても意識の主体は
この世界にはなさそうだと想うんだけど
万次郎はどう思う?」
中指で黒縁メガネを上げて視線を万次郎にやる。
ふくみ笑いなのは万次郎が興味がある話なのが
ありありと伝わってくるからで
感情の波風が立たない平静状態なら
思考の波は読みにくい。
平常心の百戦錬磨な達人になればなる程
思考は読みにくくなるわけだから
玄白にしてみれば兎にも角にも
一生懸命な万次郎は
健気でカワイイらしく思えてしまう。
あれコレ考えてる万次郎の思考を受信しながら
順序立てて再び話し始める玄白。
この世界を映画のように
観ているところに本体があり
先に動いてしまっている
もしくは遠隔操作されている
なんて考えられないかい?
観測者である主体が
自分がナニかをしたと認識している。
今の自分を形成するに至るには
様々な縁があり
影響を与えたり受けたりと
それぞれはコントロールできないはずだ。
どこかでこの世界という映画を観ている
だれかさんの私がいる。
動作から脳が理解するのに掛かるタイムラグは
0.38秒
ちょうど勘違いするくらいの間で
私がしたんだと錯覚を起こすには
絶妙のタイムラグなんだそうだ。
意識発進で行動していると思わせるには
それより早くても遅くても
この世界が映画である事がバレる。
0.38秒の時間が担保されている。
意思決定の前に0.38秒で
世界はもう決定していて
研究はさらに進んでいて
未来予測が可能の域に達してきているそうだ。
この場合は個体の話だけど
個体は小宇宙だから大宇宙にも繋がるよね。
その分野とは異なるが
過去であったり未来が混在する
同軸線上に存在できることが分かりかけている。
一般的に思われている意識または
自我とはおそらくは受動意識。
そしてそれを観測する者
状況でいうなら
実験者であり、かつ実験体である。
「この観測者を見つけようとしているのが玄白
探究者であり観測者の
意味をこめて解体新書おじさん
キミ、万次郎が
杉田 玄白と名付けてくれたんだよ。
本当に万次郎はもってるよ」
さて、
宇宙は小さなタマの集まり。素粒子の集まりに
誰かがきっかけのブレイクショットを放った。
それが一般的に知られているビッグバンだよね。
ブレイクショットが放たれた瞬間から
どこにそのタマが動き
どこへ向かうかは決まっている。
小宇宙である人体は素粒子の集合体であり
ブレイクショット以降この宇宙は何処へゆくか?
素粒子のゆく末は決まっている。
厳密にいえば大まかにね。
ラプラスの悪魔っての知ってる万次郎?
データさえ揃っていれば計算で
未来も予測できるだろう!って発想。
この定理にのっとると玄白が万次郎に
この話をすることも決まっている!
なんてねぇ。
でもそれも18世紀の昔話だから
運命は決まっていて変えられない!
ってな訳ではない。微妙な誤差があるわけだ。
量子力学では不確定性原理という
どう足掻いても避けられない原理がある。
素粒子の状態は100%定まることはない。
絶えず動いていて互いに影響し合っている。
決定論と量子論
量子論では全ては確率だって話になる。
完全無欠の決定的な解答が出るんじゃなく
おそらくこうなるんじゃないかなぁ?
ニアピンの話。
ただ、確率になるんだけれどそれには
観測者が必要となる。
そもそもニンゲンの意識がなければ
宇宙も成り立たなくなり
観測者がいるから宇宙も存在する。
プラトンの頃から言われてた投影論。
さっき言ってた映画を観させられてるってこと。
身近なたとえなら
映画マトリックスの世界観だね。
何でもありで言っちゃえば虚構であり幻想だ。
この宇宙には恐ろしい数の素粒子があるんだけれど
137億年前はひとつだった。
特異点ってのがあって
この宇宙すべてのエネルギー、質量が
たったひとつの点だった。
陽子と中性子さえ結合状態の1つしかなかった。
1つとは観る者がいない状態
認識する者 認識される者
それを俯瞰する者で【認識】が証明される。
宇宙はその3つで成り立っている。
私という点とワタシという点で
それを私であると言うところにも
わたしが必要となる。
自覚には他者が必要でそれを証明するには
その2点に観測者が必要となる。
【私とワタシとわたし】
まず他者と自分がいないと自分は成立できなく
私はワタシであることを証明するには
私がワタシでない必要がある。
私がワタシを俯瞰するわたし【もう1人のわたし】
私はわたしであると言った時点でもう
私は自分では無いのだ。
自身が自分であるには
私はワタシで無い必要がある。
点から始まって2点となって線となり
平面の2次元。
2次元の世界の住人を認識するには
3次元視点で観測しなければ確認がとれない。
なぜこの3次元の私を認識できているのかは
より高次元のところに主体があるから
居ないとコレを私と認識できないはずだよね。
全てが自分であり元々が1つであったのだから
他者も自分、大いなるひとつだった。
今のところ玄白が思うに
その高次元視点にまで
到達しないと解らないんだけど
自分であり究極のところ自分で無い。
やったことが返ってきたりだとか
他者は自分の身鏡で
合わせ鏡でヒトは生きているって
言ってるのは仏教だったかな?
自作自演の全部みんな自分。
昔からオカルト界隈では
よく言われてることがあって
肉体と精神と魂
これで我々は成立しているってね。
はじめの方はピンと来なかったんだよね。
精神と魂って重複してないかな?って
思ってたんだよね。
でも
人間界では器が必要で
魂が宿らないと生きれない
精神ってのが認識者とすると
途端にガテンがいったんだよね。
精神ってのが意識とすると人間界での観測者で
魂ってのが生命を動かすんだけど
別の次元に繋がっていて
肉体を突き動かすからこっちが真の観測者で
俯瞰者
映画を観てるヒト
厳密には魂と精神はハッキリとした線引きが
あやふやでこれからの研究で
魂と精神と肉体は定義上
入れ替わるかもしれないけど……
要は
まだ意識と精神と心の判別すら
定まってはいないからね。
エビス薬品工業に着くまでに回想していたが
今考え直しても難解だけどしっくりくる。
明らかに思考の回転数が以前よりも増して
上がってきているのが分かる。
それもそのはずエビス薬品までまだ半分も
たどり着いていないからだ。
我ながらここまで深く考えてるのに
周りが見えていない訳でもなく
シャキシャキと歩みを進め
同時並行におこなえている。
自身の変化に驚きよりも楽しみが増えていく。
以前から思っていた
ことばにならない感覚を説明してもらえた、
自身のアイデンティティーが見当たらなかった
ような感覚の
ヒントをもらえた気がする。
漠然としたイメージ
この現世が3次元だとすると
同じ場所にいても5次元くらいから
レディオコントロール
自身がみずから乗りこんでいるのに
遠隔からも高性能ラジコンを操作してる
そんな想定で落ち着いた。
ほんの2週間前までは
少し憂鬱に駆け上がっていた大学前の丘
上り坂に差しかかろうと
ふと季節替わりの風が前を通り抜けたと同時に
黒いものをが胸元に当たった。
触れてみると15cmはあろうか黒い羽
「うおぅ、ちょっと羽にしては大き過ぎるし
黒色ってなんだか縁起が悪そうじゃない」
つまんだ指でもて遊ぶように
黒い羽をクルクルさせながら
そういえば近頃、羽根をよく見かけるなぁ。
たまたま見上げたヘイの端に引っかかってたり
それは地面に落ちていたりと
よくあることのはずなんだけど……
記憶の片隅から消えないのは
そのすべての羽根が黒いからだ。
だから引っかかる。
別次元からのメッセージじゃないかと
かんぐってしまう。
スーツの袖からチラチラ見える
一見すると最新鋭の腕時計
エビス薬品工業、実験体の証が手首に。
キラキラと光るスマート手錠を横目に
前途多難なのはハナから分かっている
胸のときめきを道標にやってやるさと
エージェント ジョン 万次郎は思うのであった。
「ハハッ、この胸のトキメキのためなら
死んだっていいさ」