なぜ選ぶのは女性なのか?
いくつかの例外はあるものの、動物たちの世界では、配偶者選択 mate choiceにおいてはメスがオスを選びます。このため、進化論の狭義の「自然選択」・「適者生存」にはおよそ関係のないであろう、無駄な飾り ornamentがオスにばかり派手にあったり、メスをめぐってオス同士が張り合ったり、オスはいろいろ大変なのです。(実は、メスにおいてメス同士が張り合うことはないかというと、本当はそうでもありません。多くの場合はオスほどではないのですが、メスにはメスのたたかいがあります。ただ、オスほどではないのです。)
人間もそうです。選ぶのはメス。必死に競争して選んでもらうのはオス。いったいどうしてこうなっているのか?
生物学・進化心理学の世界では「親投資 parental investment」という用語があります。これは、将来子どもをつくって親となるオスやメスが、自分の身体の維持・向上よりも、子作り・子育てに自分の持っている時間やエネルギーを割り当てることを指します。ちょっと考えればすぐにわかるように、ここには圧倒的な性差があります。多くの場合、親投資はメスの方がオスよりも圧倒的に大きいのです。これは人間においてもその通りです。だいたい、身体の構造からして、女性の身体はほとんど生殖のためにあるようなつくりになっています。生まれた時から身体の中には一生にわたって使う卵がありますし、思春期以降は毎月のようにそれを排卵していきます。排卵した卵がいつなんどき受精して子宮の中に着床しても良いように、毎月毎月子宮内膜の準備をしています。皮下には多くの脂肪をたくわえて妊娠に備え、汗腺の一部が変化して大きな乳房があって授乳・育児に備えています。そのうえ、妊娠したら1年弱もの長期間にわたって妊娠が続きますし、出産後も長期間の授乳・育児が続きます。男性に比べて、圧倒的にものすごい「親投資」なのです。
少なくとも「親投資」についていえば、男女平等などあり得ません。この圧倒的な不平等を少しでも埋め合わせるために男性ができることと言えば、せいぜい、いっぱい稼いで経済的な支援をすることくらいでしょう。(このため、生物学的・進化心理学的に言えば、男性が女性と子どものために働いて稼いでくるのは当たり前なのです。世の中には「俺が稼いでやっているんだ」という男性がいると言いますが、自分が何を棚にあげているかわかっていないのでしょう。)
「親投資」にかけるものの大きさが、男性とは比較にならないくらい、女性は大きい。
だからこそ、配偶者選択を女性はより真剣にやるわけです。というか、配偶者選択を真剣にやれないような女性の遺伝子は、長い進化の歴史の中で、とっくに淘汰されてきたのでしょう。
※ここで「配偶者選択」という言葉の「配偶者」は、非常に広義の配偶者 mateのことであり、ステディな夫婦や恋人のことだけを意味しません。一夜限りの相手も含まれてきます。それも含めて、どのような相手を性的に選ぶのか?のことです。
参考書
Clutton-Brock TH, Huchard E. 2013 Social competition and selection in males and females. Phil Trans R Soc B 368: 20130074. http://dx.doi.org/10.1098/rstb.2013.0074