![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/170538119/rectangle_large_type_2_27da4f57f0aef69692aa60efbc2737d5.png?width=1200)
キリンの首はなぜ長くなったのか?
中学校だったか高校だったかの生物学・進化論でほとんど必ず出てくる動物・キリンです。キリンの祖先は首の短い、オカピみたいな動物だったといいます。それが進化の過程で、なぜあそこまで首が長くなったのか?
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/170443110/picture_pc_06e8bb74a54b9ff219dbcba312a2a378.png?width=1200)
中学だか高校だかの生物学の教科書にあったのは、
(1)キリンの祖先はもともとオカピのような、首の短い動物だった。
(2)その中に、たまたま(遺伝子的に)首の少し長い子どもが生まれた。
(3)首の少し長い子どもは、首が長いことによって高いところにある木の葉っぱを食べることができたり、遠くを見通せることで索敵能力が優れていたりして、結果的に生存競争上有利だった。(他の子よりも少し高い確率で生き残ることができた。)
(4)生き残った少し首が長い子が大人になって子どもをつくると、その子も首の長い遺伝子を引き継いでいるので、首が長く、その結果として、やはり生存競争上有利であった。しかも、首が長い子どもたちの中でも特に首が長い子は、さらに生存競争上有利であり、より高い確率で生き残り、次の世代に遺伝子を残した。
(5)こんなことが何世代も繰り返されている間に、オカピみたいな動物は、少しずつ首が長くなっていき、最後にはキリンになった。
…というような説明でした。いかにも嘘くさいです。
こんな嘘くさい説明をいまだに信じている人はいないだろうと思って、最新の道具、AIを使ってネットに聞いてみました。すると、こんな答えです。
進化の過程
(1)キリンの祖先は森の中で生活しており、首も長くありませんでした。
(2)草原で生活するようになると、他の動物と同様に足が長くなり、体が大きくなる必要がありました。
(3)首が長いキリンは生存競争に優位になり、子孫を多く残すことができた。
(4)これを繰り返してついにいまの首の長いキリンだけになった。
…おんなじじゃん。私たちが何十年も前に学校で聞いたのと同じ説明です。ダーウィンの進化論の「自然選択 natural selection」説のうち、狭義の自然選択説です。
この説明のどこがオカシイのか? いろいろオカシイのですが、主な点をまとめると以下のようになります。
(1)オカピのような動物からいきなりキリンのような動物が生まれるわけもないので、「たまたま、遺伝子的に首が長い子が生まれた」と言っても、その首の長さの違いはそれほどでもなかっただろう。そのわずかな首の長さの違いによって、生存確率がそこまで変わるとは考えにくい。
(2)たとえ、少しばかり首が長い子が生存競争上有利であったとしても、その子が大人になって子どもを作るときに、首の短い相手を配偶者にしてしまったら、その子どもの首の長さは遺伝子的にリセットされてしまい、次の世代まで首が長いことは保証されないだろう。これが保証されるのは、首の長い子の配偶者選択が「首が長い子が好き」という条件付きである場合だけだろう。
では、昔の中学・高校で教える、そして今のAIがそうだという進化論の説(狭義の自然選択)が違っているとしたら、進化の過程の中で、いったいどういうメカニズムで、キリンの首は長くなっていったのか?
もう答えは言ってしまっています。首の長い子が大人になって子どもを作るとき、その次の世代まで首が長くなるためには、配偶者選択の条件として「首が長い子が好き」が必要なのです。つまり、ダーウィンの進化論の中でも割と人気のない「性選択 sexual selection」です。
なぜキリンの首が長くなったのか? それはキリンという動物(というか、このあとキリンに進化していくオカピのような動物)の中に、配偶者選択において「首が長い子が好き」という性質を遺伝子的に備えたものができたからです。結果的に、この遺伝子プールの中では、首が長い方がモテたのです。「首が長い子が好き」というオカピのような動物は、首の長い相手を好んで配偶者にします。すると、その子どもは「首が長い」という性質を遺伝子的に引き継ぎ、なおかつ「首が長い子が好き」という性質も遺伝子的に引き継ぎます。結果として、この子も配偶者選択においては、首の長い子を選ぶようになり、結果としてできる次世代は、もっと首が長くなります。首が長ければ長いほどモテるのです。子孫をいっぱい増やせます。そうこうしているうちに、今のキリンのようになってしまった…というわけです。
ほんとかよ、と言いたくもなっているかもしれません。
実は、キリンにつながる草食動物たちのほとんどは、配偶者にするメスを巡ってオス同士が張り合います。この時によくやるのが、頭と頭を(あるいは、頭部にある角と角を)ガチーンとぶつける張り合い方です。これをやるには、首の骨が相当に強くないと怪我をします。当然、首の骨が太く丈夫になるように進化していくわけです。(なにしろ、強力にガチーンとやれるオスがモテるのですから、それこそここに性選択が働くわけです。)
首の骨が太くなれば、長くしていくこともできます。実際、キリンの場合は配偶者となるメスを巡っての争いのときに頭と頭をガチンコするのではなく、太くて長い首と首をぶつけ合うことでオス同士が張り合うことが知られています。ここでもまた、首が太くて長いほどメスにモテることになるわけです。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/170453414/picture_pc_c43fdba4b747aee669cf601eba79bf4c.png?width=1200)
結論です。キリンの首はなぜ長くなったのか?
太くて長い方がモテたから、でしょう。
参考書
Wang et al., Sexual selection promotes giraffoid head-neck evolution and ecological
adaptation. Science 376, 1067 (2022)